ワンドロ:眼鏡「好意が数値になるメガネ」
昼休みの休憩でトイレから帰ってきた守沢は、なぜかメガネを掛けていた。開口一番おかしなことを口走るが、おかしなとこはいつものことだった。
「俺は女の子たちから好かれていればいいから」
「バカじゃないの?そんな胡散臭いのどこで拾ってきたの」
「拾ってはいないぞ。先ほど逆先がくれたんだ」
拾っていなかったとしても胡散臭さに変わりはない。訝しげに見ていると、守沢はおもむろにメガネを掛け始める。
「瀬名も羽風も数値が0だな」
「男なんてゲロゲロ〜」
「馬鹿なことしてないで、はやく席座ったら?」
守沢がひとしきり教室内を回ったところでチャイムが鳴った。
「あら、なぁに?泉ちゃんメガネなんて掛けていたかしら?」
そいつはなぜか俺の鞄の中に潜んでいた。あのあと教室の後ろの棚に放置されていたはずなのに。
「撮影でもらってきたの?」
鳴上は面白いものを見つけたと手に取り、それを掛けようとした。
「待っ、借りてるやつだから、なるくん。返して。」
偽物だと分かっていても、なんとなく嫌だった。
「んもう、そんなに大切ならちゃんとケースにでも入れておきなさいよ。無造作にいれておいたら壊しちゃうわよ」
そう言って、メガネをそっと手渡してくれた。鳴上は少し不服そうに早足になる。
ポツポツと街灯が点き始めた。綺麗な夕陽が暗闇に呑まれる少し前。
先を歩く鳴上にオレンジの夕陽が当たってキラキラと輝いていた。
つい出来心だった。別に数値が見たかったとかそういうのじゃない。
「ったく、こんなの信じるなんてバカじゃないのぉ…」
メガネに映る数値は0だった。くしゃりと前髪を掻き上げる。
「あれ、そろそろ返してくれないかナ」
「おっとすまない、教室に置いてきてしまったみたいだ!明日返そう」
「あれは万人に効くわけじゃナイんだよ。恋人同士の二人じゃないと数値0から動かなイ」
「よくわからないが、わかったぞ!」
「ということで守沢センパイ、あそこでショックを受けてそうな人からメガネを取り返してきてほしいナ」
「興味なさそうなふりして瀬名が持って帰っていたのか!ちょっと待っててくれ」
「さて、瀬名センパイは本物のこれを渡したらどんな顔をするのかナ」