この街はバケモノを飼っている。
人の血を啜り、享楽を貪り、踊る人間たちを眺めて嗤う、おぞましいバケモノを。
命が惜しくば、決してこの街の『夜』に足を踏み入れないことだ。
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「暗殺計画ゥ?」
蒸かし終わった肉まんを蒸籠からそれぞれの皿へと移動させていたドラルクは、ロナルドが唐突に口にした物騒な単語に盛大に顔をしかめた。肉まんを掴んでいた鉄製のトングをカチカチ鳴らしながら首を傾げている彼に、大きな肉まんに見てはしゃいでいたジョンがさーっと顔を青ざめさせて飛びついている。そんな愛らしい丸のイデアの背を撫で宥めるドラルクの姿は、幼い我が子をあやす優しい母親か何かのようだった。
こんな暢気な奴が、この街を牛耳るマフィアの参謀役を担っているなんていうのだから、この世の中終わっている。
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