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    kk14ac

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    零を遡る-1
    『零に立つ』

    『ジネ・マニングが森を出るSS』のほんの数時間前

    ##SS
    ##零を遡る
    ##レイ・シャーウッド

    月が西の地平へ姿を隠し、空が濃紺からその衣を変え始めた薄明の頃。
    木立の中、一人の青年が立っている。青々とした空間に佇むその姿はどこか頼り気なく、寂しげなようにも見えた。木の葉が微かに触れ合う音、その遠くに、梟が巣へと戻る羽ばたき。風は青年の髪を撫で、耳飾りを小さく鳴らした。
    青年はひとり、等間隔に並ぶ盛り土の一つを前にして立っている。その手に持つ杖を握り直し、口を開いた。

    「バーバラ。マニングが今日、森を出る。……あの子はこの先、何を得るのだろうね」

    応える者はいない。

    「君の旅立ちも迷いがなかった。それでもこうして語りかける僕は未熟だ」

    こぼれ落ちるように語られる言葉達は静かに、地面へと染み込んでいく。青年は一度、言葉を切り、視線をさ迷わせた。

    「僕は」

    「僕は…親にはなれずとも、師として、あの子に触れてきた。師として、あの子の告白を受け止めた」

    「……受け止めて、しまった」

    声が揺らぐ。

    「あのときの彼女は弟子じゃなかった。一人の少女だった。僕も、ヒトとして……」

    「いや」

    「ぼく……僕、には…応える資格はおろか、受け止める資格も…ないんだ」

    声が僅かに震える。青年の胸中をぐるり、遥か昔の記憶が巡る。
    それは黒煙。それは炎。それは痛み。それは微笑む彼女。
    ─その身を動かす魂は、彼女のものと引き換えだという事実。
    レイ・シャーウッドは森羅導師である。どこにも属さず、ヒトに手を差し伸べ、旅をしている。病にかかった貧民には薬を与え、蛮族の襲い来る集落には結界を築いた。見返りは求めず、ただ生きるためのマナと食料だけを糧にした。それは彼が森羅導師だからである。否、その生き方を己の道と定めたのはただ一点、かつて同じ時を過ごしたヒト─クレアが、彼を生かしたからだ。
    これは自分の命ではない。自分を生かしたが為に、彼女は死んだ。彼女一人であれば逃げられた。ヒトの社会に自分の居場所はなく、自身を受け入れてくれた彼女は、受け入れたが為に殺された。どこにもいけない命ならば、彼女がくれた命ならば、この生、この心に所有権などない。しかし投げ打つことも許せず、故に、ただ生きるだけの道を選んだ。
    その選択を、かつての言葉が更に縛り付けていた。

    "──お前は、何者にもなれない"

    何者にもなれない。なるべきではない。なる資格などない。そう言い聞かせてきた百年以上の歳月と、左胸に宿るその重石。そこへヒビを入れた、いや、ヒビに気付かせたのが弟子─マニングだった。

    「受け止める資格などないのに」

    「僕は」

    青年の瞼の裏に、三日前の彼女の姿が浮かぶ。焚き火に照らされた少女。青年を見つめる視線が、不安と寂しさとを浮かべた顔が、すきだと伝えた声が、青年の胸中に一石を投じた。その波紋は消えず、絶えず反響し、今まで青年が感じたことのないざわめきとなった。
    胸元で拳を握りしめる。俯いた表情は見えず、震えたままの声は絞り出されるようにして地へ落ちた。

    「マニングの言葉を……うれしい、と、思ってしまった」

    強く握る手に、爪とシャツが食い込む。その下、円環の痣を苦々しく思う。誰にも明かさずにいた彼の内側、彼自身も気付くことのなかった変化。その吐露を、墓は静かに吸い込んだ。
    ふと、瞼越しに光を感じ、青年は目を開く。気が付けば空は、朝日を迎えるべくその色を白く変えていた。生き物たちが目覚める気配に、朝焼けに染まる東の空を思う。彼女が旅立つ日が、やってきた。
    握る手を緩め、かつての相棒が眠るその墓へと向き直る。冷えた空気を吸い込んだ青年の顔には、平静さがいくらか戻っていた。薄く微笑んで、再び語りかける。

    「僕は…道半ばだ。マニングが得た答え…彼女の意味がなんであれ、僕は僕で、けじめをつけなければね」

    「すまない。君はいつも僕の世話を焼いてくれたものだから、今もまた、こうして甘えてしまった」

    「さよなら、バーバラ。君の魂が、神の元へ届かんことを」

    夜明けを告げる鳥の声。冷たく水気を帯びる夜の空気に、太陽がその熱を差し込んでいく。弟子がそろそろ目覚める頃だろうか。数刻後に迫る門出に彼女はどんな心持ちなのだろう。青年はふと頬を緩め、墓地へ背中を向ける。去ったその後に、変わらぬ静寂がただ森の中にあった。
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    🙏😭👏🙏😭👏🙏🙏🙏🙏🙏😭😭😭❤❤
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    Replies from the creator

    recommended works

    inuki111

    MEMOぽいぴく開設したので、試しに以前メモした🐈‍⬛の恩返しパロ(kis→isg♀→na)を置きます
    ボツにしたネタの供養ができるのでありがたい…センシティブもここに置く予定

    🐈‍⬛の恩返しパロ絶対かわいい
    na様がisg♀ちゃんをお姫様抱っこして塔の階段を駆け上がるシーンが見たい…isg♀ちゃんがna様の顔をじっと見てから照れちゃうやつ…
    こういうふんわりした雰囲気のおとぎ話みたいなストーリー大
    🐈‍⬛の恩返しパロisg♀→女子サッカー部エース。お人好しで行動力のある女子高生。ある日の下校中、工事現場の前を通りかかると、猫が積荷の下敷きになりそうになっていたので、サッカーボールを蹴って落ちてきた積荷の進路をズラすという神技を披露。猫のもとに駆け寄って怪我がないか撫で回していると、その高貴な感じの猫は後ろ足2本でisgの前に立ち、何とぷにぷにの肉球で顎クイをしてきた。「気に入った、お前を猫の国の王妃に…この俺、ミヒャエル・カイザー様の妃にしてやろうじゃないか」といきなり流暢な人間の言葉(しかも助けられた癖に上から目線)で喋りだし、isgはトンチキな状況に目をぱちくりする。終いには「今晩、必ず迎えに行く」と言って優雅な足取りで去っていった。その晩、猫の使者たちがisgの家を訪れて猫の王国に連れて行こうとするも、「猫のお嫁さんにはなれない」とisgは断固拒否。すると翌日、猫耳の生えた美麗な外国人が玄関先に現れて…?
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