夏服へと衣替えで起きた2年1組の様子ホームルームも終わり、これから生徒会業務へと赴くためにカバンの準備をしていると腕に生徒会の腕章が無い事に気が付いた。
あ‥‥そうだ、衣替えだから外して腕章をカバンにしまったんだった。
机に腕章を出して、取り付けようとするのだけど、安全ピンを上手く付けられず滑り落とす。
床をすべっていく安全ピンを追いかけようとしたら、後ろに立っていた折紙君が拾い上げてくれる。
「あ、ありがとう‥‥」
安全ピンとずり落ちる腕章を見て察したのか、にこりと微笑む。
「片手では難しそうだね‥‥付けてあげようか」
「付けてあげるアル!」
(えっ)
折り紙君の提案にも驚いたのに近くに居た孫君も手伝ってくれると、にこやかに言ってくれて‥‥なにやら断り辛く‥‥。
左肩の方で、前から腕章を持ってくれた孫君と後ろから安全ピンを留めようとする折紙君。
すぐに終わるかと思っていたら‥‥なにやら戸惑っている様子。
「‥‥つけづらいアルな」
「ん‥‥そうだね‥‥」
「あ‥あの‥‥自分で‥‥」
私が言葉を続ける前に孫君が声を張る。
「わかったアル! ネクタイをしてあげる時は後ろから回ってやると結びやすいアル! それと一緒アルな!」
さも名案が浮かんだといわんばかりに高らかに言うと実行するように、孫君が私の後ろへと移動して、腕を私の前と伸ばし挟み込むようにして腕章を掴む。
「あまねは前へ行くアル」
「あ‥‥‥‥うん‥‥」
なにか言いたげな表情で口を開くけど、私が困惑ぎみに目線を合わせると楽しそうに微笑み、言われた通りに立ち位置を交換する。
「これならきっと付けやすいアル」
後ろから孫君に抱きこまれてるような体勢で腕章を持ち、前からは折紙君が屈みこむ様にして腕章の安全ピンを留めようとしてくれてる。
なんだろう‥‥この状況‥‥大事になってる気がする‥‥。
この状況に戸惑いつつも、早く終わって欲しいと願いながら息を止めてやりすごそうする。
「どうアル?」
「ん‥‥付けたよ」
ほっとして腕章の方へ顔を向けると屈み込んでいた折紙君とばっちりと瞳が合う。
「あ‥‥あり‥‥」
お礼を言おうと口を開きかけると廊下のドアの方から‥‥
「あーーーっ なにやってるんですかっ 先輩がっ先輩達にっ抱きつかれてっ‥‥せ、先輩にっ‥‥いっいま‥‥っ、きききキ‥‥っ」
今にも過呼吸でも起しそうな勢いでいうレン君の声に驚く。
「落ち着いて‥‥レン君‥‥」
と声を掛けながら向き合おうと足を後ろへ運ぼうとしたら、その足が後ろにいた孫君の足へぶつかりバランスを崩し後ろへと倒れそうになる。
「あっ」
咄嗟に孫君が抱き止め、私の腕を折紙君に引っ張られる。
「落ち着くのは‥‥君のほうでしょ‥‥」
「わっと‥‥大丈夫アルか?」
折紙君に窘められ、孫君に笑いながら心配される。
「‥‥~~~ごめん‥‥あ、ありがとう‥‥」
あまりの事に驚きすぎて‥‥声が出なくなっていたことに気付き、搾り出すようにお礼を言うけど‥‥ドキドキと胸が早鐘のように高鳴る。
「あぁぁああっ近いっ離れてください、先輩っ生徒会に行きますよっ」
二人の間に割って入り、声を荒げるレン君に腕を引っ張られて咄嗟に自分のカバンを掴み、そのまま廊下へと引っ張られながら二人へと向き直り、腕章を指差しながら声を掛ける。
「二人ともっありがとう‥‥っ」
「どういたしましてアルっ」
微笑む折紙君と大きく手を振って声を掛けてくれる孫君に見送られながら教室を後にする。
「あーもー先輩のクラスはっ、太陽先輩といい‥‥(先輩との)距離が近いですよね‥‥っ」
「(あの3人は)仲が良いんだよ‥‥」
「そういう意味じゃなくてですねっそういう天然はいらないですっ」
(天然‥‥?)
生徒会室へと向かう廊下を歩きながら呼吸を整えようとするけど‥‥なかなか収まらなくて‥‥。
「先輩‥‥顔真っ赤ですよ‥‥」
「うん‥‥びっくりしちゃって‥‥」
「‥‥オレも驚きましたよっ‥‥~先輩が無防備すぎてっ」
「ご‥‥ごめんなさい‥‥」
なにやら不機嫌そうなレン君の言葉に勢いで謝る。
そうだよね‥‥私が最初に断れてたら‥‥こんなことにはならなかったよね‥‥こんな‥‥‥‥。
かぁあっと思い出しては火照る顔になり‥‥しばらくは治まりそうもないかも‥‥。
END
2022/04/28 読んで頂きありがとうございました。