きらきらの真っ赤なイチゴ。それだけでいつもとちがって、ぼくは笑っちゃうのを我慢できなかった。机の上がもうパーティーみたいだった。誕生日の次に楽しい日。
今日はお迎えも少し早かった。だから保育園の帰り、パパと一緒にスーパーに行って、たくさん買い物をした。イチゴにホットケーキミックス。あとぴかぴかの袋に入ったジュース。カゴの中が楽しいものですぐにいっぱいになって、パパと二人で特別だねって言って笑った。
お家に帰って机の上に並べていっただけで楽しくって、おっきい声でパパを呼んだ。パパはエプロンをしていて、ぼくにもお揃いのエプロンをつけてくれる。そして目の前のボウルに一緒にホットケーキミックスをどばっと出して、牛乳と卵も入れた。卵の殻が入ったってパパが慌ててた。
泡立て器で混ぜたらすっごくいい匂いがしたけど、パパはまだ食べちゃいけないよって言う。パパがフライパンにまあるく垂らすと、甘い匂いがした。ぷくぷくとしてるのをひっくり返すとべちゃってフライパンの端っこについちゃって、パパと失敗したねって笑った。お皿の上に何枚も何枚もホットケーキが山になっていって、この前保育園で先生が読んでくれた絵本みたいだった。
ホットケーキがいっぱいになったらぼくの番。生クリームをぎゅって出して、スプーンの後ろでぺたぺたして雪の日みたいにしていった。そこに桃とかみかんとかを並べて、またクリームを塗って、ホットケーキを乗せていく。するとおっきなケーキになっていった。一番上には真っ赤なイチゴとサンタさん。どこに置くかすごく迷ったけど、カッコよく置けた。パパもいいね、って笑ってた。
イチゴは特別好きだから、たくさん乗せられるクリスマスが好き。赤はパパの色。だからぼくも赤が好き。
「お! 上手に出来たなぁ」
「かっこよくできたよ! パパもホットケーキ作るのじょうず!」
「ちゃんと丸くなったもんなぁ。パパもチキンできたぞ」
ぱんだ組さんの時のケーキは三角だった。真っ黒になった時もあった。だから二人でパパがお休みの日に練習したんだ。まあるくなりますように。黒くなりませんように。だからお休みの日はお部屋の中は、甘いホットケーキの匂いがした。お休みの日の匂い。パパと笑って一緒に作るのが楽しくて、ぼくはおやすみの日が大好きだった。
完成したケーキを冷蔵庫にしまって、ご飯の時間。さっきパパがあたためてたから、お部屋はシチューの匂いがした。あとはじゅうじゅういってるフライドチキンとポテトサラダ。ぼくもコップを運んだり手伝ったら、テーブルの上は美味しいのでいっぱいになった。
いただきますしてパパとご飯を食べる。ご飯は何でも美味しいけど、パパと一緒のご飯が一番美味しい。だからいっぱい食べられちゃうんだ。
「よし、ケーキ食べようか。もうお腹いっぱいになっちゃったか?」
「食べられる! ケーキ食べる!」
「よーし、じゃあ準備するぞ」
「はーい」
お皿を片づけたら、パパがじゃーんって言いながらケーキを持ってきてくれた。さっきよりキラキラして見える。
「どうやって切ろうか」
「パパはこのおっきいイチゴで、ぼくはこっち。ママのはこのイチゴとサンタさんも」
「了解」
「あ! ぼくのケーキおっきくしてね?」
「わかってるよ」
パパがママのケーキをお皿に乗っけてくれたから、ぼくはママのお写真の前に運んでいった。ママのイチゴはキレイな三角のイチゴ。写真のママはいつも笑ってる。ぼくは笑ってるママしか知らない。
ぼくを待っててくれたパパと一緒にいただきますをした。フォークで大きいイチゴを刺して、二人でぱくって一口で食べた。
「……すっぱい」
「これはすっぱかったな……」
美味しいんだけどすっぱくて二人で変な顔しながらイチゴを飲み込んだ。ちゃんと甘いとこもある。だけど口の中がよだれでいっぱいになった。
「ママー! 気をつけて! イチゴすっぱい!」
「ママにもお水用意しておいてあげようか」
「ぜったい必要だよ!」
「ああ、そうだ。しゅわしゅわのジュース、あれ甘いから開けようか」
「飲む!」
そう、今日はクリスマスで特別だから、しゅわしゅわのジュースがある。ピカピカのに包まれたやつで、瓶のジュース。
「おっきい音するから、びっくりするなよ?」
「……だいじょうぶ」
パパが脅かすから、耳を塞いでパパがジュースの瓶を持ってるのをじっと見た。瓶の中で丸い空気がふわふわと動いてて、海の中みたいにキレイだった。いつも飲んでるオレンジジュースにもリンゴジュースにもこんなのない。くるくると踊るみたいに動く泡を見ていたら、突然ポンッと大きな音がして、わってびっくりして声を出したらパパは笑ってた。
「ははっ、大丈夫か? はい、どうぞ」
「ありがと」
青いコップに入れたからか、ジュースは海みたいな色に見えた。泡がきらきらしてて、宝物が生まれてるみたいで、どきどきして飲んじゃうのがもったいなく思えてきた。けどパパがにこにこしてぼくを見てるから、ちょびっとだけ飲み込んだ。
「…………!」
口の中でぱちぱちして、甘いのもすっぱいのも色んな味が弾けていった。駄菓子のぱちぱちわたあめにも似てるけど、弾けるのに痛いとかじゃなくって、シャボン玉みたいに優しい泡がぱちんぱちんと割れて、泡の中に隠れてた甘いのやすっぱいの、さっぱりしたのが次々に飛び出してくる。
宝箱みたい。とっても優しい宝物の入った宝箱。なんだかパパみたい。楽しいことも、嬉しいことも、おかしいことも、いっぱいくれるパパみたい。どきどきしてもう一口飲んでみた。
「ぼく、これ好き」
「そっか。じゃあお誕生日にも買ってこようか」
虫歯になっちゃうからいっぱいはだめなんだって、パパはごめんなって言った。でもパパも嬉しそうに飲んでたから、パパも好きなのかもしれない。
「早く寝ない子のとこにはサンタさんこないから、寝る支度しないとな」
二人でお風呂に入って、パパがおやすみってぎゅってしてくれるから、ぼくもぎゅってしてからお布団に入った。頑張って起きてサンタさんとお話したいけど、まだ成功したことはない。
サンタさん、お願いがあるんだ。ぼく、ほしいものがあるの。ちゃんといい子にできるから。お願い。
「…………あれ?」
いつの間にか朝で、目の前には大きな袋が置いてあった。きらきらのリボンもついてる。寝る前にはなかったそれをぎゅって抱きしめて、パパを呼んだ。
「パパー! サンタさん来た!」
良かったなぁって頭を撫でてくれて、開けてみたらって言うから、ぼくはどきどきしながらシールを爪でカリカリしてはがしていく。ふわふわの柔らかい袋を開けると、中にはマフラーと手袋が入ってた。
「わあ! マフラー! 手袋もあるよ!?」
「本当だ。良かったなぁ」
「赤いやつ! かっこいい! つけていい?」
「赤いの好きだもんな。ちょっと巻いてみようか」
ふわふわのマフラーは気持ちよかった。真っ赤でパパの色をつけると、ぼくまで強くなったみたいで嬉しくなっちゃう。
「パパみたい。かっこいい?」
「似合う似合う」
「やったぁ! ママにも見せてくる」
ママの写真に、サンタさんからもらったよって教えてあげた。ママは笑ってる。似合うって言ってくれてる。ママの写真の中にパパと並んでるのがあって、そのパパはぼくみたいに赤いお洋服を着てる。
ぼくの大好きな退治人のパパ。赤い帽子も被って、ママの隣で笑ってる。写真の中にはぼくはいない。ただ見てるだけ。
「ママも似合うって言ってるみたいだな」
「良かったー。ぼくもパパとおんなじ色」
「そうだなー。パパとお揃いだな」
じゃあこれはパパから、って緑の紙で包んである箱を渡してくれた。なに? ぼくに? と聞くと、パパはうんって頷いた。
ずっとクリスマスだったらいいのに。楽しくってにこにこしちゃうクリスマスが、ずーっと続いたらいいのに。
「シンヨコレンジャーのベルト!」
前に保育園で作ってパパに見せたことがある。音もならないし、光らないけど頑張って作ってお気に入りのベルト。パパにも見せたことがあった。
今は本物がある。かっこいいベルト。パパは僕がベルトを作ったの覚えてくれていた。
「ありがとう、パパ」
今日はお休みだったから、バトルソードも新聞紙と画用紙で作って、パパとたくさん遊んだ。たくさんカッコイイって言ってくれた。パパと遊べて嬉しかった。クリスマスだから。
でも夜になったらクリスマスだから吸血鬼がいっぱい出たって言って、パパは赤い服を着てお仕事に行っちゃった。ぼくのパパじゃなくって、退治人のパパになってた。
カッコよくて、みんなのためにいっつも笑ってお仕事に行くパパが好き。お仕事が大変なのに走ってぼくのお迎えに来てくれたり、ご飯作ってくれたり、遊んでくれるパパ。肩車もしてくれる。そんなパパがぼくは大好きなんだ。
窓を開けて外を見た。もうサンタさんもいないけど、お外は明るくて色んな人がいる。何か話してる声も聞こえた。どこかにパパもサンタさんもいるかもしれない。
「サンタさん……」
プレゼント、ありがとう
汚さないように気をつけるね
パパとおんなじ赤いの、大事に使うね
ぼくね、すっごく嬉しかったよ
本当に本当だよ
パパとお揃いの赤いやつ
でもね、
でもぼくね、
赤いのもいらないから
パパとママとぼくでケーキを食べたいんだ
3人で、クリスマスしたいの
いい子にしてるからお願い
来年のクリスマスまでいい子にしてるから
サンタさん、お願い
ぼくね、ママがどんな声で笑うか知らないの
だからお願い
「パパ、お仕事がんばってね……」
窓を閉めてお布団に入る。枕のとこに置いておいたベルトを触ったから大丈夫。レンジャーは強いから。レッドはいっつもがんばってるから。ぼくもこれをつけてたら大丈夫。
だからパパ、早く帰ってきてね。