スバ北 バレンタインネタ1日目は4限が終わった後だった。座学続きで疲れていたスバルの口をこじ開けて、北斗がチロルチョコを放り込んだのが始まり。
2日目は寮の廊下で。これから仕事に行くと言ったスバルに、ちょうど帰ってきた北斗がお腹が空いたら食べろとチョコのお菓子を握らせた。
3日目は共有スペース。共有スペースで真と真緒とテレビを見ていたところに仕事を終えた北斗も来て、仕事で会った父親に押し付けられたのだという高そうなチョコをみんなで食べた。
4日目は2人で昼食の時。まだ食べれる、とぼやいたスバルに北斗がお弁当袋からチョコを取り出して、口にほうり込んでくれた。
そんな風に5日目、6日目と時が過ぎていった。
そう、ここまでくれば北斗が意図的にスバルにチョコを渡しているのだと誰でもわかるだろう。スバルも途中から分かっていた。分かっていたが、あえて口に出さなかった。毎日色々なパターンで色々なチョコをくれる北斗が可愛かったからだ。
そして今日が待ちに待ったバレンタイン当日。
あんずがアイドル全員に渡すのだと忙しそうにスケジュールを立てていたからよく覚えている。……でも、それなら当日にくれるだけでもいいのに。どうしてこんなに前からくれるのだろう、とスバルは首を傾げる。
スバルと北斗は少し前からお付き合いをしている関係だ。レッスンが終わり真と真緒と分かれて、2人で帰っているときの夕日に照らされた北斗が綺麗で、思わずスバルの口から出た「好き」という言葉。その一言で関係が変わった。……最も、変わったことといったら2人だけの場所でキスをするとか、そのくらいだけれど。
それでも付き合っているのだから堂々とチョコをくれればいいのに、とスバルは考える。スバルだって北斗に何をあげようかな、と楽しみにしていたのだ。ちなみに、結論は出ないまま当日を迎えた。
北斗はどんなチョコをくれるのかな、手作りだったら嬉しいなとそわそわしながらいつもより早く着いた教室で北斗を待つ。すると時計の長い針が3週ほどして、スバルの視界に黒髪が揺れる。
「あ、ホッケ〜!」
北斗が教室に入るや否や、椅子を押しのける勢いでスバルが北斗に飛びつく。
「おはよう明星。今日は早いな」
「うん!ホッケ〜もおはよう!」
抱き着いたスバルを引き剥がして自分の席に荷物を置きに行く北斗の後に着いていく。チョコはどこだろうと鞄からノートやら教科書やらを取り出す北斗の手元をじっと見つめていると、その視線に気付いたのか北斗が首を傾げる。
「なんだ明星、ノートを忘れたのか」
貸さないぞ、と鼻を鳴らす北斗にあれ?とクエスチョンマークが浮かぶ。そのまま暫く北斗の動作を見ていても、チョコを渡そうとする素振りもないし、挙句の果てにスバルを置いて今日の授業の予習をし始める始末だ。
でも、もしかしたら今は周りにたくさんの人がいるから渡してくれないだけかもしれない。だからきっと人が少なくなった時にくれるんだ。そうに決まってる。そうスバルが頷いて、予鈴のチャイムが鳴った。
……もう放課後なんだけど。
北斗からチョコを貰えないまま学校を終えるチャイムが鳴るのを聞いて、スバルが小さくため息をつく。そんなスバルのため息はガヤガヤと騒がしくなった生徒たちでかき消された。
朝からずっと、いつ北斗はチョコをくれるんだろう、そろそろくれてもいいはず、と考えながら過ごしていた。考え過ぎて授業中に指されても気付かないくらいに。そのせいで先生に怒られたし、なんなら北斗にも叱られた。
「明星、帰らないのか」
スバルの机の前に立って不思議そうな目で見つめる北斗に、ホッケ〜のせいなんだけど!と言いたいのをぐっと堪えて立ち上がる。
「帰る……」
「なんだ、元気がないな」
「そう〜?」