君は特別だからメモ書き 小説じゃない
※クエストの時系列がゲームとちょっと違う
「ポピー!ちょっと!」
大広間での夕食後、アルバートに呼び止められる。
動物学の授業がきっかけで仲良くなった彼は、人懐こい笑顔で駆け寄ってきた。
「どうしたの?私の分のカボチャのパイなら、もう食べちゃったからあげられない!」
「いくらカボチャが好物だからって、そんなに食いしん坊になれないよ!というか、そうじゃなくて!」
こっちきて、とアルバートに促されて中庭への扉を潜る。
適当にベンチへ腰掛け、彼に話の続きを促した。
「ポピーあのさ、ちょっと前の話になるんだけど、ハイウィングのことを教えてくれて、ありがとう。改めてお礼を言いたくなって。」
「え!そんな、いいの!それに私もあなたに彼女の話ができて嬉しかった。ありがとう。」
ポピーがとびきりの笑顔で微笑むと、アルバートは少し俯いて、あーとかうーとか溢した。
しばらくモジモジしていたアルバートは意を決したように、ほんのり赤くなった顔をあげる
「ポピー、あのさ、唐突な話だとは思うんだけど、…ええと、ポピーが僕に秘密を教えてくれたように、僕もポピーに秘密を教えたくて。」
「ええっ?どうして?」
「だって、その、不公平?でしょ?僕がポピーの秘密だけ知ってるって状態。うん、そうだ不公平だ。そういうことにしよう。
だからポピーには僕の秘密を知ってもらうことにしました。」
「アルバート、落ち着いて、なんだかすっごく早口だし、口調も変!
それに、不公平だなんて思わないよ。ハイウィングのことは私が勝手に教えたんだから。」
気にしないで、と両手を振るポピーに対し、アルバートは負けじと首を左右にブンブン振る。意志は固いようだ。
バッと立ち上がった彼はついてきて、というもはや拒否すら許さないような言葉と圧でポピーを拐ってしまった。
気が急いているのか、興奮しているのか、いつもより早めのアルバート足取りに足がもつれそうになりながら天文学棟の上層階へたどり着いた。
「なに、ここになにかあるの?」
「そうだよ、さあ見てポピー!これが僕の部屋!」
「部屋?部屋なんて、どこにも」
ない、と言いかけたポピーの目の前、冷たい石壁がもぞもぞと生き物のように動き出す。
それはあっと言う間に扉へ変わり、
どうぞお入りくださいと言わんばかりに大きく口を開けた。
「ええっ?なに、これ!こんなのしらない!」
「僕も教えてもらわなかったら一生出会えかったと思うよ。さぁ!入って!」
中に入ると、月明かりに照らされた静かな広間が広がっていた。
思わず見上げたガラス張りになった高い天井の近くで、数冊の本が互いを小突き合いながら楽しそうに飛んでいる。
ポピーは視線を正面に戻した。
目の前には魔法薬に関する大量の本が乗った大きな机、右奥には魔法薬の調合台(おそらく魔法薬の調合に失敗したであろう、煙を上げながら飛び跳ねている鍋付き)、あとは規則性なく並べられている植木鉢。隅の方にはなんでそんなものがあるのかわからないが、織機がカタカタと音を立てながら忙しなく何かを編んでいる。
お世辞にもきれいとは言えない、どちらかというととっちらかった空間だ。
ホグワーツにこんな場所があったのか、ポピーは口をあんぐりと開けたままその場に立ち尽くした。
さながら餌を待っているジョバーノールの雛だ。
「これが、秘密?」
「うーん、惜しい。そうだけど違う。
本当に見せたい“とびきりの秘密”は上の階にあるよ。さぁ、さあ!」
アルバートについて上の階へ上がると、大きな温室のような扉が目に入った。
しかし入り口から見える中の風景に、ポピーはさっきとおなじように餌を待つ羽目になる。
だって、あんまりにも常軌を逸しているのだ。
「入って入って!はやく!ポピー!」
半ば強引に手を引かれて扉を潜る
あまりの眩しさに一瞬目が眩んだが、ポピーはすぐに目の前の光景に釘付けになる。
草原だ。日は傾き、地を黄金色に照らしている。あたたかい風が歓迎するようにポピーの頬をやさしく撫でていく。
まさか、まさか部屋の中にこんな空間があるだなんて、思いもしなかった。
アルバートが振り返り、満足そうににんまりと笑う。
「ねぇ、僕の秘密がまさかこれでお終いだと思ってないよね?」
「…わ、私、お腹いっぱいだよ。もう、もうわからなくなってきた。ここって結局なんなの?」
「必要の部屋っていうんだ。本当に何かを必要としている人に、それが用意された部屋をホグワーツは与えてくれることがあるんだって。
僕は、助けた魔法生物たちを保護しておける場所が欲しかったんだ。だから、こんな部屋が与えられた。」
アルバートは眩しそうに手を日に翳しながら、もう片方の手で器用に指笛を吹いて見せた。
「さぁこれが僕の“本当の秘密”だよ!」
日の落ちる方角、遠くの方からひとつの影が走ってくる。
逆光で見えづらかったそれはみるみるうちに大きくなり、あっというまに二人の元へ辿り着いた。
「ユニコーン…!」
「そうだよポピー。この子は僕の新しい友達。とっても優しい子なんだよ。」
「私、ユニコーンなんて初めて見た!わぁ!すごい!すごいよアルバート!どこで見つけたの!」
「あはは、ちょっと人に頼まれてね、禁じられた森で保護したんだ。」
「あぁ!すてき!まさか!本当に!?」
ポピーはたまらずその場で飛び跳ねた。
夢みたいだ。だって、本でしか見たことがなかった魔法生物が、今、目の前で美しいたてがみを靡かせながらポピーを見つめている。
「ねぇアルバート、私嬉しい!こんなとびきりの秘密を教えてくれるなんて!」
「喜んでもらえて良かった。」
「でも良かったの?だってユニコーンだよ!私が興奮して誰かに喋ったらって、思わないの?もしそうなったら、きっとあなたはみんなから質問責めの毎日よ!それに、ホーウィン先生が血相を変えて飛んでくるわ!」
アルバートはユニコーンを撫でる手を止め、ポピーへ向き直る。
いつものふんわりとした笑顔ではなく、真剣な顔で。
「思わないよ。だって、ポピーは魔法生物を誰よりも大切に扱ってくれるから。
みんなにバラしてここをめちゃくちゃにしちゃう、なんてしないでしょ?
それに、」
「…うん」
「…………ポ、ポピーは…僕にとって、と、と…」
「……」
「とっても頼りになる動物学の先輩だから!この子に関して相談したいことがあるかもだし!」
落ち着きがない様子でアルバートが再びユニコーンの横腹を高速で撫で回す。
彼女はやめろと言わんばかりにアルバートの髪の毛を器用に喰んでひっぱった。
ポピーは一瞬あっけにとられたが、なんだ、そういうことならと胸をドンと逞しく叩き、「まかせて!なんでも聞いて!」と目をキラキラさせて答えた。
何か言いたげなユニコーンにキツめの尻尾の鞭をくらいながら、アルバートはよろしくおねがいします、と情けない声で、ヒッポグリフに挨拶した時よりもガックリと、深く深くお辞儀をした。