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    you_fstg

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    ほぼモブ♂視点の伏棘。モブがとげくんに一目惚れするし、脳内でちょっと暴走します。

    【伏棘】1122実家でもある電気屋の入る商店街では、近くにできた大型ショッピングモールの年末商戦と重ならないよう、今年は1か月早い11月初めからセールと毎年恒例の福引大会を開始した。参加賞(いわゆるハズレ)だけでも高級ティッシュボックス5箱セットがもらえ、普通の商店街にしてはかなり豪華な景品が当たるので、この福引目当てにセール期間を待ってたくさん買い物をする客も多い。
    そして大学1年生で彼女ナシ、時間をまあまあ持て余している俺は、今年も時給1,000円で福引交換所のバイトに狩りだされたのである。客から券を受け取り、抽選器を回数分まわしてもらい、色を確認して景品を渡す。賞によっては名前と住所を書いてもらうこともあるが、いたって単純な仕事。そして、それに加えて平日の夕方。人もまばらでかなりヒマを持て余していた俺は、電気屋から交換所が見えないのをいいことに、パイプ椅子に深く腰掛け、携帯で読み途中の漫画をスクロールしていた。

    毎朝電車で見かける女の子に一目惚れした男子大学生が恋心を拗らせ、その子について知ろうとどんどんストーカー化していく恋愛系の恐怖漫画。最近話題になっているから話のネタにと読んではいるけれど、一目惚れなんて性格知らねぇのにするか? とか、相手の家までつけたら好かれるどころか逆効果だろ、と全然主人公に感情移入できない。気持ち悪い。心の中で「所詮マンガだしな」と突っ込みながら読んでいるとスマホに影が落ち、スッと福引券の束が差し出された。
    やべっ。慌てて顔を上げ、口を開いたのだが―――あまりの衝撃に「すみま……」と発しかけた言葉を飲み込んだ。


    『可愛い』とか『綺麗』なんて言葉じゃ全然足りない。妖精とか天使だと言われた方が納得できる。

    アメジストのように煌めく大きな瞳。二重の目を縁取るふさふさの睫毛。夕日を受けてきらきらと輝く、栗色の柔らかそうな髪。鼻から下は黒いマスクに覆われているけれど、ピッタリとあごのラインを拾う薄い布が彼の小顔をさらに強調している。
    そう、彼。
    雰囲気や見た目は確かに男の子だと断言できるが、性別を越えて一瞬でその子の虜になった。さっきまで「一目惚れなんて」と毒づいていたのに。

    呪いをかけられたように体は固まり、目の前に立つその子から目が逸らせない。周囲の音は消え、風景は霞み、この世にはその子しか存在しないかのようだった。
    あまりにも動かない俺を見て不思議そうに首を傾けた彼の仕草で、ハッとようやく我に返った。

    「す、すみません」
    なんとか絞り出した声は緊張で上ずり、引換券を受け取り確認するが、数える手が小刻みに震えている。落ち着け、落ち着け、と心の中で唱えるたびに体が火照る。喉はカラカラに乾燥しているのに、手のひらは汗でどんどん湿ってきた。

    なんとか数え終え「3回、です」と伝えると、さっきまで真顔だった彼がなんと目を細め、笑顔で応えてくれた。愛らしい微笑みと感動で体中の血液が一気に沸騰する。

    可愛い。好きだ。好きだ。好きだーー。
    出会ったばかりなのに、自分でも怖いほど想いが募っていく。

    名前も知らない彼が抽選器の取っ手に手を伸ばし、玉の出口に視線を落とした。
    盗み見するようで罪悪感もあるが、視線が外れると服で隠れていない部分、彼の素肌に自然と目がいく。あごから首、そして大きめのニットの襟からわずかに覗く鎖骨。色白で細い首筋は瑞々しく、透明感に溢れ、色気漂う艶めかしい首元に思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
    触りたい。首に口づけしたい。肌が桜色に火照り、体をよじり、紫の瞳が涙に濡れるのを見たい……。

    俺の暴走する欲望をよそに、真剣な表情で抽選器をぐるりと1周、続けてもう1周ガララララとまわした。
    同じ色の玉が2つ。参加賞の肌触りの良いティッシュボックスのセットを2つ長机に用意した。あと1回。このままだと会話すらできず、どこの誰なのか分からないまま終わってしまう。どうすれば……。
    彼が再び手に力を込めた。

    「あ、あの!」
    手が止まり、視線が再び交わる。え、あ、どう、何話せば、えっと……頭が沸騰したみたいに何も浮かばない。
    「えっと、その……」
    やっと喉の奥から出てきた言葉は。
    「何の景品、欲しいんですか!」

    向けられた大きな目が、パチ、パチと瞬きする。
    何訊いてんだよぉぉぉぉ。俺が玉の操作なんてできねぇのに、完っ全に怪しすぎだろ……。
    さっきまでの胸の高鳴りは一瞬でしぼみ、首も肩も心もガクッと力を失った。もうだめだ……と思ったのに。テーブルの上に置かれた景品一覧に、トンと人差し指が置かれた。

    え?

    反射的に顔を上げると、心臓をえぐる破壊力のある笑顔。突飛な質問をしたのに。嫌な顔せず答えてくれた彼の優しさに、もしかしてちょっとでも可能性ある? 全くのゼロじゃないよな、と淡い期待の灯がポッとともった。

    指さす景品に目をやる。
    「あ、このソフト」
    コクッと彼が頷く。
    数日前に発売されたばかりのゲームソフト。これが欲しいということは、本体はすでに持っているということになる。世界中で発売されている有名なゲーム機でかなりの家庭にあるはずだが、彼と共通の物を持っているというだけでテンションが一気に上がった。

    「俺っ、これ発売日に買って、ストーリーとか臨場感とか、めちゃくちゃ良かったですよ!」
    少しでも会話したい。どうにかして仲良くなりたい。なんとかして連絡先を。
    「あ、これオンラインで対戦もできるし、チームになって協力して戦えるし、」
    もし良かったら、と口をつくまま喋っていると、2人だけの淡い空間に「先輩」と突然男の声が割り込んできた。
    誰だよ! 邪魔する声の主に目をやると、愛しの彼より背の高い、寝ぐせなのかツンツンにセットしたのか、ウニのような頭の男がいた。彼とは正反対の、氷を思わせるような冷たい雰囲気。あろうことか彼に体を向けて隣に立ち、こちらに鋭い視線を送ってきた。なんだオマエ、と嫌悪感をたっぷりのせて俺も睨み返す。
    一瞬恋人なのかとヒヤリとしたが、『先輩』ってことは部活が一緒なんだろう。買い物袋を両手に持っているということは、ただの荷物持ちとして呼ばれた可哀そうな後輩クンか。勘違い野郎が威嚇しやがって、と見えない火花を散らす。



    景品一覧に置いた指を見て、ウニ野郎が口を開く。
    「先輩、ゲームソフト欲しいんですか?」
    にこやかに頷く彼に、「もし当たっても俺が預かります。来週期末テストですよ」とプライベートでかなり仲が良いですよアピールして、俺を牽制してくる。アピールするということは、裏を返せば彼氏ではない焦りからするわけで、そんなガキっぽい牽制で動揺させようなんてお粗末すぎる。エセ彼氏ヅラ、お疲れ様。
    2人の見た目と会話から、愛しの彼は高校2年生か3年生だろう。俺より年下かぁ。恋人になったらこんなケチウニと違って思いっきり可愛がってたくさん甘やかしてあげたい。喜ぶ顔いっぱい見たいなぁ、と幸せな妄想が広がる。

    ゲームソフトが当たっても預かると言われた彼はぷくっと頬を膨らませて抗議する。小動物感溢れる仕草が可愛すぎる。俺にも向けてほしい。
    年下ウニと違って、大学生の俺は勉強だって教えられるし、(悲しいことに)ずっと恋人がいなくてかなり貯金もあるから、ゲームソフトだってデートのお金だってホテルの良い部屋だって予約して彼を喜ばせることができる。
    でもその為には、彼の連絡先をどうにかして手に入れなければ。

    「へー、ここの景品、かなり豪華ですね」
    彼の可愛い抗議を無視して、ウニ野郎が長机に置いた一覧を見る。
    「図書カード5万円分に最新型のコードレス掃除機、大型テレビに……」
    そうだ、テレビだ! 一気に視界が開けた。

    テレビは当選者の自宅に届けて設置するのだが、提供したうちが配達することになっている。去年教習所合宿に有無を言わさず入れられ、再試験は自腹だと脅され必死に免許を取得し、今では繁忙期に親に代わって配達と、テレビとか特別な資格のいらないものなら設置もしている。

    そうだ、テレビが当たれば俺が届ければいい。
    「車運転できるんですね」と好感度が上がり、手際の良い設置に「すごい、カッコイイ……」と尊敬の眼差しを向けられるだろう。そしてさり気なくゲームソフトをプレゼントすれば完璧だ。設置にかかる時間を多めに伝えておけば、「あれ、時間結構余ってる。もしよかったら一緒にゲームしませんか。初めてで……色々教えてください」と誘ってくれるかもしれない。当たってもゲームをさせようとしないお節介ウニとは比べものにならない広い心と頼れる年上感に、両想いになるのも時間の問題だな。
    出る玉なんて操作できないのに、邪魔なウニの登場で正常な思考ができなくなっている。

    テレビ! テレビ! 青玉! 青玉! 拳を握りしめ、抽選器の小さな穴を凝視しながら心の中で祈る。
    「掃除機欲しいっすね」と家事好き綺麗好きアピールもしてくる後輩ウニの呟きには反応せず、愛しの彼が最後の1回を回した。

    ドラマのスローモーションのように、抽選器の銀色の穴からゆっくりと零れ落ちたのは―――

    その場にいた3人がトレーの上にコロコロと転がった玉に釘付けになる。
    愛しの彼が狙っていた4等の遥か上、金色に輝く玉。

    「すげぇ……」
    景品一覧と玉を見比べながらウニが呟く。


    特賞:『1泊2日 高級老舗旅館 客室露天風呂付ペア宿泊券』


    「つなーーー!」
    大きな目を見開き、ぱぁぁぁっと効果音が入りそうなほど破顔した彼がツンツン頭に勢いよく飛びつき、顔に頬をくっつけゼロ距離で大喜びしている。そのスキンシップに心臓を握り潰されたような衝撃を受けたが、特賞なんて当てたら誰だってテンション爆上がりするよな、と何とか自分を納得させる。

    ウニじゃなくてマグロの方だったか。綱吉とかでツナってあだ名なんかな。それにしても顔だけじゃなくて声も可愛いな……。大はしゃぎでツナ缶クンに抱きついてる彼を横目に、ぼーっとそんな考えが浮かんでは消える。

    テンション上がってるだけ、喜びを部活の後輩にぶつけてるだけ、と言い聞かせれば言い聞かせるほど、ショックを受けて冷静な自分の一部が異を唱える。
    どこからどう見ても恋人。
    目の前の光景に、嫌でも『失恋』の文字が浮かぶ。

    「すじこ、いくらーー」
    ショックすぎて彼の言葉が魚卵に変換されている。ほら次は「めんたいこ」だって。脳がバグるほど、数分前に出会ったばかりのまだ名前も知らない彼に本気で恋してたんだな。辛いのに涙も出てこない。


    「宿泊券、ご両親に送るんですか?」
    ツナの言葉にハッと現実に引き戻される。
    付き合ってるなら「一緒に行けますね」だの恋人らしいセリフが出てくるはずだ。ということは、と再び浮上したチャンスにHPが回復しかけたのだが。

    ニヤリと目を細めた彼が、片腕を絡めたまま少し引く。
    「ちょっ、先輩、あぶな」
    バランスを崩して、ツナが両手に持っている買い物袋を落としそうになる。知りたくなかったのに。中身を視界の端で目敏く捕えてしまった。

    後輩の耳に顔を寄せた彼が、頬に手を添えて何かをささやく。少し遅れて後輩の顔がボッと朱に染まった。

    その反応。
    買い物袋の中身。
    どれをとっても、やっぱり先輩後輩以上の関係だ。

    失意の中なぜか思い出したのは、さっきまで読んでいたストーカー漫画。主人公の気持ちが今ならよく分かる。
    彼氏が登場しなかったら、俺はどうにかしてこの子の連絡先や居場所を知りたいと手段を選ばなかったかもしれない。気持ち悪い野郎にならなくてよかったと、むしろ感謝しないといけないのかもな。今はまだそんな気は起らないけれど。



    ふと気づくと2人とも目の前からいなくなっていた。どうやって見送ったのか記憶が朧気だ。時計を見ると撤収の時間が過ぎている。もう帰りたい。お笑い見て腹の底から大笑いしたい。
    喪失感で心も体もどんよりと重い中、仕事終わらせれば早く帰れる、と何とか気持ちを切り替え奮い立たせたのに。ふと目に付いた景品のゲームソフトに、存在しない彼との幸せなお家デートがよみがえり、ツツ、と涙が頬を伝った。


    ▽▲

    毛筆でデカデカと『特賞』と書かれた大きな祝儀袋を抱きしめ、福引所をあとにした。特賞。特賞! 恵と温泉旅行! もうニヤニヤが止まらない。普通に歩いてるのに体が軽すぎてスキップしそうだ。しかもこれから今日の本番、恵と初めてのディナーデートが待っている。

    野薔薇から『真ん中バースデー』のことを教えられ、「誕生日はみんなで祝ってるんだから、こういう日に2人きりで特別なお祝いしなさいよ」とアドバイスされた恵が、「次の日祝日だし、夕飯行きませんか」と誘ってくれた。野薔薇のダメ出しを何度も食らい、カジュアルだけど雰囲気のある、高校生でも入りやすい記念日にぴったりのレストランを予約してくれたらしい。どんなお店でも嬉しいけど、恵が俺のことを思いながら探してくれた、それだけで特別で、野薔薇や悠仁に見守られながら携帯で検索してる恵の姿を想像するだけで愛しさが込み上げてくる。


    放課後早めに寮を出た。予約した時間まで近くを散策していたらセール中の薬局を見つけ、あまりの安さにノドナオールとのど飴を買いだめすると福引券を渡された。あと15分で福引所が閉まると言われ行こうとすると、「あの……ちょっと買いたい物あるんで、先行っててください」と目を逸らせながら恵が言った。「何を」と訊かなくても明らかで、恥ずかしそうに言う年下彼氏に、『可愛い♡』という思いが乗らないように「しゃけ」と答えると先に薬局を出た。マスクの下は口元がかなり緩んでいたと思う。



    「あのスタッフ、先輩のこと狙ってましたね」
    狙う? 殺気は感じなかったけど。
    「めんたいこ?」
    「命じゃありません。恋愛対象としてって意味です」
    ますます意味がわからない。知り合いでもないし。
    「先輩を見る目付きもだし、俺、ガン飛ばされました」
    「おかか、高菜ー」
    そんなわけ無いだろ、接客業なんだから愛想いいのは当たり前、と反論しても「鈍感すぎです。もし俺がいない時に先輩がソレ当ててたら、どさくさに紛れて手握られてたんじゃないですか」と表情がどんどん険しくなってくる。頭は良いけど、真面目すぎて視野が時々狭くなるのが心配だ。

    「つな、つなまよ」
    もしそうだったとしても、俺は恵以外恋愛対象として見れない、ときっぱり伝えると「ありがとう、ございます」と恵のまとっていたピリッとした空気が和らいだ。

    そういえば、と恵の持っている買い物袋に目を落とす。
    「こんぶ」
    ずっとノドナオールの袋を恵に預けっぱなしだった。ビンだからかなり重いはず。
    「ありがとうございます。でもレストラン行くから、そろそろ仕舞うんで」
    そう言うと周りに人がいないことを確認してかがみ、買い物袋と俺の持っていたティッシュボックス、祝儀袋を影の中にトプッと沈ませた。仕組みはよく分からないけどドラえもんの四次元ポケットみたいで便利だな、と思っていたら、目の前にスッと手のひらが差し出された。恵を見ると照れくさそうに、でも視線は逸らさずジッとこちらを見つめる。もしかして。
    「すじこ?」
    「……はい」
    「いくら」
    「それは、まあ……初めてなんで少し恥ずかしいです」
    頬を染めながら、「でも、」と続ける。
    「先輩が他の奴からそういう目で見られるの、嫌なんで」
    嫉妬の色を隠そうともしない鋭く光る瞳に、ぞくりと快楽にも似た感覚が背筋を駆け上がった。

    外で初めて手をつなぐ。恋人みたいに。
    おずおずと手を重ねると、恵も少し緊張しているのか手のひらがしっとりとしていた。寮で、ベッドの上で、もう何度も手を絡ませているのに、初めて恵の手に触れた時みたいに胸がドクドクと鼓動する。
    顔はまだ少し照れを含んでいるのに、手を取ると『離さない』とでもいうように強く握り返された。


    初めて恵から向けられた嫉妬。戦闘の時は別として、普段は15歳とは思えないくらい冷静で落ち着いていて、ベッドの上でもじれったいほど丁寧なのに。
    今日は特別なことがいっぱいだ。

    マスクの下で幸せを噛みしめながら、まだ少し落ち着かない様子の恵に体をくっつけ、肩に頭を寄せた。
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