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    D4 ワイスピx3みて書きたくなったお話。
    Twitterには「目ぼしい車とタバコが欲しかった。」で上がってる内容です。
    ※捏造過多、モブが出しゃばり気味
    解像度を上げたい方はワイスピを見るか、ドリフト関連(運転してる様子がわかるやつ)の動画をご覧ください。

    Drift Queen北の監獄での脱獄事件。矯正局、ひいては国を統率する中王区の失態とも言えるスキャンダル。御上は爆発火災事件として発表し、囚人たち――D4の逃亡は隠蔽された。

    そのため一般人は脱獄囚の顔どころか存在自体知り得ない。表立った指名手配は行わず、秘密裏に捜索をすすめている中王区。脱獄囚側もまた、その犬たちの顔を把握できないため、東都まで進出した今でも気の抜けない状況は続いていた。


    木を隠すなら森の中。現在地はシブヤ、スクランブル交差点。

    縦横無尽に人々が行きかい、制限時間の中ぶつかることなく滞りなく流れていく雑踏。
    渡り終えてもなお圧迫感は変わらずだが、こういう場面では時空院を先頭に配置すると勝手に人が避けていくため便利だと気がついたのはつい最近のことだ。人ごみに紛れながらも堂々と、4人の行進は続く。

    しかし。

    ――ドンッ

    「っ……!!」
    時空院から少し離れた位置で歩いていた有馬に、突如として現れた人間の肩がぶつかる。気怠くうつむきがちに歩いていた有馬は、不意の衝撃にバランスを崩すにとどまらずその体を浮かせる。
    一番近い位置にいた谷ケ崎が受け止めることで地面への衝突は免れた。

    「イッテーー!これは腕折れたわ!死ぬほど痛ぇもん!……おいお前!ぶつかっといて詫びもねぇのか!?」
    革ジャンを埋め尽くすスタッズ、もはや機能しているのかも怪しいダメージデニム。相手は左肩を押さえ、わざとらしい演技。顔色は至って健康そうだ。

    「吹っ飛んだのは有馬さんの方ですけどね。」
    「ほんとにこんなこと言うやついるんだな。」
    かたや有馬は左胸を押さえて口許をゆがませている。相当応えたようだ。ぶつかったとき鈍い音がした原因はこれか。

    普段の彼であれば率先して喧嘩を買いに行き周りが止めに入るのが常であるのだが、恰好のつかない状況に、珍しく噛みつきもせず歩き去ろうとする。

    そんな有馬の背中に声がかかった。
    「……有馬?お前あの時の有馬か!ふてぶてしいその目、忘れやしねぇ!!」

    「有馬くんのお知り合いの方ですか?」
    「勘弁してくださいよ。」

    なんでも昔付き合っていた風俗嬢と親しそうにしゃべっていた有馬を見て喧嘩を吹っ掛けたところ、返り討ちにされたうえ女も掠め取られたという。
    卑怯な手ばっかり使って、まっとうにやってりゃ俺が勝ってたなどとのさばる男。

    もとのフィジカルや戦闘技術の優れたメンバーが多く、どうも非力に見えがちな有馬だが、無事脱獄を果たしているのは、やはり人並外れたセンスの成せる業だろう。
    その業が卑怯……少々ひねくれている可能性はあるが。

    しかし、風俗嬢など。春を売る仕事をしている女がこの醜男に本気だったとも思えない。
    件の女の名前か「ここあ……!」と膝をつき芝居がかった動作で悲嘆を表現する男、坂東というらしい。
    ふと有馬を振り返ると、ひとしきり苦悶した後はケロッとしており、全く別の方向を向いていた。
    「有馬さん、一応聞きますけど身に覚えは?」
    「……はあ?あるわけねェだろ何なら女の名前も覚えねェ。あ?タバコどこ行った?」
    「ほんと最低ですね貴方も。」
    毛ほども興味がない様子だった。
    まあ、ここあなんて名前、大概が源氏名だろう。語られるのはすべて坂東自身の主観100%の内容であり。有馬も覚えていないらしいのでその出来事の真相は謎のままだ。

    悲しんでいるところ申し訳ないが、これ以上無益な会話を続ける必要もない。いきましょ、と改めてその場を去ろうとする4人だったが、

    「ちょっと待てよ逃げんのか!?ふざけんなイシャリョー払えや!」
    「仲間とダンゴになって、1人じゃなにもできなくなっちまったみてぇだな!」
    「俺ぁとっくに覚悟決めてんぜ!」

    相当しつこい、覚悟って何のだ。
    いつしか坂東の仲間も加わりその場の人口密度は急激に上昇した。
    だがこの人混みでその口を物理的に封じることはできないし、なによりそう易々と罪を重ねる気もないためできれば目立たず穏便に済ませたいところ。

    「うぜェ、テメェに構ってるヒマねンだよとっとと失せろ。」
    「前は卑怯な手で負けちまったからな……リベンジだ、今回は俺の得意分野で勝負させてもらうぜ。」
    知らねぇよ。4人の心が一つになった瞬間であった。

    しかし、D4を含め物騒な出で立ちの男が屯している状況は、傍から見ずとも異様な雰囲気を放っており、この喧騒をいつ中王区に嗅ぎつけられてもおかしくない状態のため仕方なく案内されるままに歩く。


    行きついた先は閉業した商業施設。東都特有の土地の狭さを高さで補った立体駐車場であった。

    「ここで俺とレースだ。」

    いかにもやんちゃそうな若者と、派手な車のひしめく地下フロア。度重なるチューニングでもともとの車種が不明ほどの改造車たち。

    「高級車もここまで改造されてちゃ風情のかけらもありませんねぇ。」
    これなんかもとは有名なクラシックカーですよ、と車体を眺めながら気の毒そうにつぶやく時空院。

    周囲からはやれ馬力がどうのリア何とかがどうのと飛び交う会話が聞こえてくる。
    ちんぷんかんぷんな谷ケ崎は頭にはてなを浮かべるばかりだ。
    そして腹やら脚やら露出の激しい女たちからの張り付く視線。なんか変か?と自分の身なりを確認してみる。
    むせかえるタバコと香水の香り。改造車のフルレンジスピーカーから流れるEDMとエンジンの腹に響く音。
    そこへフロアすべての音をかき消すように、コースに見立てた空間を目に痛い配色の風が縫うようにすり抜けていく。続くのは白煙と歓声。
    「うわっ!……こんなに狭い場所で、レース?」
    燐童はその迫力と観衆の盛り上がりに気圧され、思わず帽子を押さえる。

    「ドリフトバトル、とでも言いましょうか。周りの改造車たちを見るに、この地下から屋上まで、いかに早くたどり着くことができるかを競っているようですね。」

    ドリフトとは、自動車や二輪車における後輪を横滑りさせながら走る走行方法であり、方向転換の素早さが特徴的なテクニックだ。アクション映画などで見られることも多い。
    カーレースといっても多種多様。ドラッグレースやF1などのカーレースとは異なり、ドリフトはただ速ければいいわけでもない。
    ほかのレースをスピードスケートに例えるならば、ドリフトはフィギュアスケートになぞらえられ精密なドライビングテクニックが必要になってくる。
    しかも今回は立体駐車場という狭い屋内でのレース形式であり、特殊性は格段に上がる。

    燐童は改めて周囲を見渡す。
    コンクリート張りの壁や柱にはところどころ黒ずんでいたりハケで引いたようなカラフルなラインが目立つ箇所がある。改造車のなかにもリアバンパーやテールランプが破損しているものがあり、危険を伴うレースであることが伺えた。

    4人の先頭を歩く有馬の表情は分からないまま。

    「坂東さんちっす!レースですか?また今度俺ともやって下さいよ。」
    「今、タクとコバのレースなんですけど、どっち賭けます?」
    ガニ股で肩をいからせ歩く坂東に次々声がかかる。ずいぶん張り切っているが、周囲の反応から察するにここではトップクラスの腕前なのであろう。
    「また今度な、俺は今からコイツと勝負だからよ。」
    不意に投げ渡される冷たい感触。
    指に引っ掛けると腕のブレスレットとともにジャラリと音を立てぶら下がる。
    興味を示した周囲からは冷やかしの声が上がる。

    「くだんねェ……」
    「なんだよ怖気づいて逃げんのか?俺はその生意気な面についた鼻へしおってやれれば満足だ。もしお前が勝つことがあれば、そのマシンでも、そこらの女でもお持ち帰りしてもらっていいぜ。」
    下卑た笑みを浮かべこちらを伺いながら、まるで小学生が数十円の駄菓子をかけて競うかのような口調。
    車1台買うにしても駄菓子を買うよりははるかに高額、しかも周囲のマシンを見るに、改造費はそのまた数倍は嵩んでもおかしくない。相当自信があるようだ。
    賞品候補にされた周りの女たちは非難の声をあげながらも、有馬に対し品定めをするような視線を向ける。

    有馬は、そんな男女の目も意に介さずキーを見つめ、小考の後、歩きだす。
    「チッ……俺が勝ったら俺の好きにさせろ、な?」
    「えっ、ちょっと待ってください!正気ですか有馬さん!」

    この勝負、負けてもデメリットは少ない。しかしリスクがないわけではない。

    刑務所から東都まで、主に車を運転していたのは有馬だった。
    本人の口から語られることはないが、後部座席にいる有馬はだんだん顔が紙のように白くなり、タバコ休憩と称してトイレから出てこない場面が少なくない。そういうことなのだろう。

    口は悪いが平時の運転は比較的丁寧であり、緊迫した状況ではやや無茶な運転もするが手元に狂いはない。そのテクニックは全員が評価している。
    だがここで事故でも起こし、怪我や、最悪メンバーが欠けるのは避けたいところ。欠員による作戦変更は考えたくもない。慌てる燐童の肩を、谷ケ崎が待て、と掴む。
    「なんか策があるんだろ。」
    「珍しくやる気ですねぇー。」
    何を根拠に。スタート地点へ向かう有馬の姿を見据える谷ケ崎と、明らかに面白がっている時空院に呆れかえりつつ、燐童は仕方なく居住まいを正し事の行く末を見届けることにした。


    両サイドに群がる観衆と自分の存在を主張する色鮮やかなチューニングカーたち。
    スタートライン替わりに両端に立つ女が1人ずつ。

    その間に佇む今回の主役は、青と黒。

    どちらも各所エアロパーツやエンジンをカスタムしたこだわりのマシン。
    青地に白と赤のバイナルグラフィックを背負うランエボ、マットブラック塗装、サイドは金色に輝くフェアレディZ。
    乗り込むのはそれぞれ坂東と有馬。

    両者の間にスターター役の男が陣取る。
    「我らがキング、坂東さんと出自不明の新参者の対決だ!みんな楽しめ!もう賭け金の支払いは済んでるか!」
    スターターの煽りに一層湧く観衆。方々でこぼれた硬貨が地面を叩き、完全アウェーの状態であるD4へブーイングが浴びせられる。

    「ダンゴにならないと強気になれないこけおどしはどっちだよ……。」
    「今なら儲かりそうな予感ですねぇ。」
    「丞武やめとけ。ロクなことねぇぞ。」
    非難の声には慣れっこなD4、不快感がなくはないがそれよりも気になることがある。見つめる先には黒と金に彩られる車体。

    歓声をガラスに遮蔽された空間で、坂東は有馬へ挑発的な目線をやる。
    視界の端でそれを捉えた有馬は、目の前から視線を外さないまま緩慢な動作で坂東へ向け中指を立てた。

    スターターの男が恭しく両腕を上げる。周囲の声は自然とボリュームが下がり、いよいよ、始まる。

    READY,

    SET,

    GO!!

    腕が振り下ろされるタイミングで飛び出す。
    空回りしウォンウォンうなる低いエンジン音は徐々にバリバリと高鳴り、タイヤが擦れる悲鳴に置き換わる。
    先に前を陣取るのは坂東。もともと車同士がやっとすれ違えるかどうかという狭さの道幅であり、開けた場所があれど直線は短くスピードを上げすぎるとその後のコーナーを曲がり切れないため、追い抜きも容易ではない。
    少しでも操作を誤れば壁や周囲の車に激突は必至だ。
    アクセルを踏み速度を上げながらクラッチを踏むと同時にサイドブレーキ、ロックされた後輪が滑り、車がスピンする直前でハンドルを切り返す。間髪入れずにアクセルを煽り、サイドブレーキを下げる流れでクラッチを離す。
    タイヤからは白煙、スピードを落とさず横っ面からコーナーに滑りこんでいく2つのマシン。

    風圧を感じながら谷ケ崎は、追手から逃げるカーチェイス中、ぼんやりしすぎて今のようなターンで頭を強かに車窓へぶつけた記憶が蘇り、顔をしかめた。
    「谷ケ崎さん!ボーっとしてないで、追いつきますよ!!」
    立体駐車場での勝負を見届けるには、観客は逐一通過位置に先回りする必要がある。
    我先にとエレベーターに押し寄せる人々をかき分け、見学の3人は上へ上へと移動していく。

    「有馬くんどんどん調子を上げているようですね、滾ってきましたよぉ!」
    序盤、坂東優勢で車2台分ほどの間隔があったが有馬も徐々に感覚を掴んできたのかコーナリングの無駄が減り、カーブもクラッチを蹴りながらエンジンの勢いを殺さず縫うように進んでいく。

    徐々に距離は縮んでいき、コース終盤に差し掛かるころには坂東の真後ろに張り付く形になった。
    「……っクソ!」
    有馬の想定以上の走りに、坂東はだんだんとその表情に焦りを滲ませる。すぐ後ろにいる男がどんな表情をしているか確かめたいが、バックミラーを見ている余裕はない。

    焦りと比例するように、アクセルを踏む坂東の足は少しずつ力み始める。有馬にもその感覚は伝わり、煽るように、定位置から離れない。

    最後のコーナー、案の定スピードを出しすぎたことでハンドルを切るタイミングが遅れ、やや大回り気味になった青の横。

    内側を抉るように通りすぎる、煌めく黒。

    その先に続く螺旋状のスロープ、有馬は繊細なハンドル操作とアクセルワークで、パイロンの周りをぐるぐると回旋するように上へ上へと一気に駆け上がる。道幅にぴったりはまりこむ形で進んでいくため坂東の車が追い抜く余地はなく。

    白煙をまとい屋上へ滑り込んできたフェアレディZ、停車した途端に観客が群がる。
    レース前とは打って変わり、新参者の健闘を思い思いに称える歓声。

    「~~っ!有馬さん!!やった……!!」
    いつの間にか息を詰め、こぶしを握りこんで待ち構えていた燐童は、黒が目に飛び込んできた瞬間、緊張から解放されらしくもなくガッツポーズを掲げた。
    「ああ、すげぇな。」
    谷ケ崎も素直な賛辞とともに、両隣の燐童、時空院と握手を交わし肩を軽くぶつけ合う。

    車から降りた有馬は空を仰ぎ「ぁ……」と喉仏を下げる。
    「どいつもこいつも、あんまナメてんじゃねェ。」
    「やりましたねぇ有馬くん、もしや経験がおありで?」
    続いて到着した坂東は、居心地悪そうに、もともとゆがんだ顔をさらにゆがませている。
    「くそ、こんなはずじゃ……なんなんだお前!」
    負け惜しみから声を荒げるが、有馬は時空院を見たまま。片方の口角を吊り上げる。
    「負け戦はしねぇ主義なんだよ。」
    「御見それしました。」
    時空院の軽く掲げた手を取り、肩をぶつけ合った後。これ返すわ、と坂東へさっきまで乗っていたマシンの鍵を寄こし、近場で目に付いたワゴン車へ足を向ける。
    「は!?おい!」
    「コレ誰の?」
    ワゴン車の持ち主が興奮のまま名乗り出ると、その鍵を奪い運転席へ。意図を察した他3人も連れだって乗り込んでいく。

    「おい有馬何やってんだよ!」
    意気消沈していた坂東は4人の突飛な行動に困惑し呼び止める。
    「俺の好きにしていいんだろ?そんな派手な車いらねェし。……誰かたばこ持ってるやついねェ?レギュラーなら文句言わんからさ。」
    人混みから投げつけられるタバコたちをキャッチし火をつけ煙を吸い込む。
    坂東の話もそこそこに、もう用は済んだというようにワゴンが発進、各々が窓から顔を出す。
    「楽しかった。あと、ずっと思ってたんだが……ズボンがボロボロだぞ。買い換えた方がいい。」
    「皆さん!僕らがここにいたこと、できれば内緒にしてくださいね!」
    「言ったら殺しますヨーーー!!」
    「あともう一生話しかけてくンなよ。」

    ワゴンは今まで激闘を繰り広げていた立体駐車場を安全運転で滑り降りていく。

    「これはファッションだっつの!!」

    坂東の絶叫と爆音の喝采を背に。

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