突然の首の圧迫感、後ろに傾く体、鼻を掠める割れたビン
「っ!!」
すぐに体勢を立て直し、空振ってバランスを崩している相手を踏み倒す。
後ろを振り返ると敵の横っ面を銃で殴り倒す有馬がいた。他の連中は仲間を見捨てて逃げたようだ。
「有馬くん、グリップで殴ると銃が傷みますよ。」
「うるせぇいちいち指図すんな。」
「話してる場合ではなさそうです。あちらは僕らが何者かもわからず絡んできたようですが、通報されるのも時間の問題ですし。」
後始末もそこそこに、足早にその場を去る。
「悪ぃ。」
「あ?なにが。」
現在の拠点まで逃げ戻り、有馬へ話しかけるもこの態度。
「助かった。」
「…?あぁ、別に、なんて事ねぇだろ。」
言葉足らずな谷ケ崎の意図は二言目で有馬に届いた。
「何すればいい。」
「は?」
「借りになっちまってる。」
「ンだそれ…じゃあタバコ買ってこいよそろそろ切れそう。」
「それじゃ釣り合わないだろ。」
「めんどくせぇやつだな!なんなんだよ!」
謝礼を、とのことのようだが要望を言ったら言ったで却下される押し付けがましさに有馬はキレる。
幼い頃から兄には歯が立たず、兄へ頼み事をする際には代償としてなにかを渡したり、利益の半分を掠め取られたりしていた谷ケ崎は他人にもたらされた物事にはそれに見合う代償を払う、という思考が染み付いていた。
兄の死後、借金の肩代わりによってひどく困窮しその日暮らしを強いられていた時代も同様であり、他人から施しを受けるときにはいつも代償を払った。
金だけではない、本当に、なんでもやった。
「それじゃ何だ?俺のサンドバッグになれって言ったらなんのかよ。」
「お前がそれでいいなら。」
「聞いた俺が馬鹿だったわ、んな趣味ねぇよ。気持ち悪りぃな。」
律儀すぎて反吐が出る。有馬の感想だ。踏み倒すのもまた策の内だろ。馬鹿正直に生きていると碌なことはない、何をしようが生き残ったやつが強者なのだから。
「じゃあお前が死にそうになった時、身代わりになる……。」
「しつけぇな!大体身代わりっつったってお前、目の前しか見えてねぇからあの状況になったんだろうが!!」
「もうあんなことにはならない。」
「信用ならねぇ博打すぎんだろ。そのために死にかけろってのか、あ??」
どこまでも義理堅いというか、凝り固まった思考回路。
礼として命、なんと重いことか。