それは甘く それは例えば、移動教室や登下校といった、ごく日常的なタイミングで目撃される。また或いは、放課後に街を歩くような、何気ない時のことだ。
クラスや学年を問わず彼に話しかけてくる相手は多く、ひとたび街へ出れば、制服のデザインや年代すら関係なく彼のもとへ走り寄ってくる相手が何人もいる。
そのたびに俺はどうしようもなく気を揉み、心の狭さを痛感しては、自己嫌悪に陥っていく。
彼の端末はしょっちゅう震えていて――誓って、どこの誰からどんな連絡が来ているのか詮索するつもりは毛頭ない――、画面を光らせているメッセージアプリの通知が視界の端に映ってしまう。どこかの誰かが、彼に気持ちを寄せている証拠。
学園の内外でイベントがあるたびに、長期休暇のたびに、嬉しそうに彼の名前を呼ぶ相手が増えていく。そしてそれはつまり、彼が楽しそうにそれらに応える回数が増えていくということと同義なのだった。
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