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    yuewokun

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    ##sc16受けお題
    ##ライスコ

    sc16受「塩適量」ライスコ ざりざりと男の手のひらでそれが擦れ合う。
     てらてらと光る身の上に満遍なく散りばめられたそれは日本人にとってはよく馴染みのあるもの。

    「日本人は塩を使いすぎじゃないか?」
    「なんだよ。ライだって日本人だろ諸星大くん」
     手を塩まみれにした男がムッと口を尖らせて振り返る。その視線の先には興味深そうに手元を覗き込んでいる色白の男がいた。
     ライと呼ばれた彼は返ってきた言葉に、片眉をクイッと動かして首を傾げた。まるでハリウッド映画の俳優のようだ。
    「俺は日本生まれじゃないからな」
    「ふーん。そういえばライってあんまり日本人ていうか……アジア系っぽくないもんな。ハーフ?」
    「いいや?まあどこかしらの血は入っているだろうな……まあそんなことはどうでもいいんだが、それ、なにをしてるんだ」
     それ、と指をさしたのは先程まで覗き込んでいた男の手元だ。
     二尾の魚が並んでいる。表面には細かく結晶が散りばめられている。もちろん施したのは先ほど口を尖らせていた男である。
    「お魚を焼く前の下準備だよ」
    「下味というやつか?」
    「いや、どっちかっていうと臭み取り」
     そう言って塩まみれにした手を洗い流すと、二尾が乗った料理用バットを端にのけて、入れ替わるようにまな板を置いた。冷蔵庫から真っ赤なトマトを二つほど取りだしてサッと水で洗う。包丁を手に取って、とそこまで流れるように動いていた男がふと我に返ったように振り向いた。
     あ、と声にこそ出さなかったが僅かに口を開いて思い出したように惚けた顔でライを見る。
    「ライ……なんでまだそこにいるんだ?別に変なものは入れないぞ」
    「お前にそんな心配はしてない」
    「いやしろよ……それじゃあなに」
    「興味があるだけだが」
    「料理に?」
    「……まあ、そうだな」
    「えっライが?料理に?」
     心底驚いたというその反応には特にリアクションを返すことも無く、ライはじっと眼前の男を見た。

     ひょろりとしたあまり重量感を感じさせない男だ。少し手足が長い。ティーンだと言われてしまえば信じてしまいたくなるような、日本人によくある童顔の縁には短く整えられた髭が控えめに居座っている。目尻はツンと跳ね上がっていて、柔らかく光を反射する黒髪と相まって猫を彷彿させる見目をしていた。しかし姿勢はすこぶる良くて、身体だけは猫というよりはよく躾られた賢い警察犬のようである。

     何の因果か、ライはこの男とただの仕事仲間以上の感情を抱いて行動を共にしている。
     ただし、世に言う恋人という間柄と言うには少し甘さが足りないのではないかとライは常々思っている。ライのパートナーの男は人懐こい顔で笑うと思いきや、少し付き合うとそれが表面上のものであることがよくわかる。
     端的にいって、随分とドライなのだ。
    「ああ、ごめん。ライが料理に興味があるとは思わなかったからさ」
     黙り込んだのを、気分を害したものだと判断した男はわざとらしく眉を下げて謝罪を口にした。
    「見ててもいいけど、手は出すなよ。危ないから」
    「俺は子どもか」
    「厨房の中では同じようなもんだろ」
    「言うじゃないか。今夜覚えておけよ」
     ライの言葉にパチッと瞬きをしたあと、男は何も言わずに視線を手元に戻して作業を再開した。表情は至って平素なもので、頬も耳も赤くなることは無い。口元だっていつも通り行儀よくスンと閉じている。
     照れるなりしても良いのではないか、とライは口にこそ出さないが少し面白くないと心のうちで悪態をついた。


     テーブルには焼き目の着いた魚と、赤赤としたトマトが主役とばかりに腰掛けているサラダと、ほうれん草のおひたし、白米、味噌汁がならんでいた。
     ホカホカと湯気をあげるそれらを前にして、行儀よく手を合わせる。最近まで気にしていなかったが、眼前の男が意外とそういったことに口うるさいのでいつの間にかライにとっても当たり前の行動にになった。

     ほうれん草のおひたしを摘む。文字通り醤油とだし汁にひたされたそれを口に含むと、程よい塩辛さと出汁の香りが広がった。白米がすすむ。
     焼き魚を箸でほぐすとパリパリとわざとらしく皮が鳴く。ふっくらとした身は塩気がきいていてうまい。これまた白米がすすむすすむ。
     合わせ味噌が溶けた汁物は、まろやかさの中にしっかりとした出汁が存在感を主張してくる。
    「うまいな」
    「そりゃよかった」
    「しかし、やはり日本人の食事は塩気が多い気がするな」
    「しょっぱかったか?」
    「いや、含まれている塩分のわりに塩辛くはない」
    「あっはは!そのトマト食べてみろよ」
     男がサラダのど真ん中で寝そべっているトマトを指さす。言われた通り口の中に放り投げて、ライは切れ長のグリーンアイをぱちっと瞬かせた。
    「甘いな」
    「ふふっ塩の対比効果ってやつで甘くなんの。塩があるから甘さが引き立つんだ。料理の基本は塩適量ってね」
     してやったりといった顔で笑う男にライはなるほどなと首肯した。
    「お前がなかなかの塩対応なのもそういうことか」
    「……は?」
    「俺も塩の使い方を覚えてみるかな」
    「いや、え?うん?」
    「でも今夜は甘やかしたい気分なので明日からだな」
    「なんの話?」
    「料理の基本は塩適量なんだろう?」
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