「バレンタイン」萩景 二月十四日。この日この日本では、それはそれは甘く香る一大イベントとして知られている。言わずもがなバレンタインデーだ。バレンタインデーと聞いてチョコレートを思い浮かべる人間は多くいるだろう。これが元はと言えば販促戦略だったのだとしても、もうすでにこの国ではひとつの文化として根付いてしまっている。
萩原研二はこの日が楽しみだった。幼い頃は母からも姉からもいつもとは少し違ったお高そうなチョコレートをもらえたし、学校でも色んな女子がこぞって彼に様々なチョコレートを贈ってくれた。昔から人当たりがよく、見目もいい研二はよくモテた。彼の幼馴染もつっけんどんな態度とは裏腹に他人に対して誠実でそしてこれまた見目がいいので、二人揃って多くの女子にチョコを渡された。義理も本命も混ざりあった沢山の想いを腕に抱えて家に帰るとき、研二はいつもご機嫌だった。
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