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    yuewokun

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    ##sc16受けお題
    ##ライスコ

    sc16受「初○○」ライスコ「あ、ライ。あけましておめでとうだ」
     唐突に背中に投げつけられた言葉にライは一瞬反応できなかった。思い出したような声で飛んできたそれを一度脳内で反芻して、ようやく意味を理解した。左腕に付けた時計をちらりと確認すると確かに針は天で重なっている。
     ようやっと振り向くと、声をかけてきた男は鼻先を赤くしてニコニコと笑っていた。はふっと口から洩れた息が白く形をもって目の前に浮かんでは消えた。
    「あれ、俺なんか変なこと言った?」
    「いや……任務中にそんな平和な言葉を聞くとは思ってなかった」
     昨夜から続く仕事はどうにも間が悪く、終わる気配がないまま二人はそれと共に年を越してしまったらしい。こんな仕事に年末年始なんて関係はない。いや、ターゲットのスケジュールという意味では関係は大いにあるのだが、自分たちの生活においては大して意味を持たない。故にライの頭からはそんなものは捨て置かれていて、ぽろっと投げつけられた言葉でようやく拾い上げられた程度のものだった。

    「こんな仕事してるんならさ、そういうのは逆に忘れないようにしなきゃダメだろ」
     口元を白くぼやけさせて、クスクスと笑う。ライは、ココ最近よく共に任務をこなすこの男が割合気に入っていた。黙っていると冬の池のような冷たさと鋭さを感じるのだが、口を開くと春の陽射しのように笑って存外人懐こい。猫のような目じりのつり上がった目は意外と素直に感情を乗せてくるので分かりやすいのも嫌いではない理由のひとつだ。
     いまだってただ年をひとつまたいだだけだというのに妙にそわそわとして嬉しそうにしている。
    「スコッチ」
    「うん?」
    「初日の出?御来光?とやらでも拝みに行くか」
     ぽかんと目も口も開いてスコッチは唖然と眼前の男を見た。
    「なんだ、日本人はそういうのが好きなんじゃないのか」
    「いや、うん。好きだけど……」
     そんなことを言う男だとは思っていなかったのだ。
     ライは自身の目的以外の物事には無関心で、無駄なことはあまりしない。効率の悪いことは嫌い。それがスコッチが彼に抱いているイメージだ。
     任務には全く関係ないそれに、しかも年を超えたことにも気付いていないほどに無関心の行事に彼が時間を割こうとしている事が驚きだった。
    「いまから山でも登って見るのはちょっと効率悪いし、ライも面倒だろ」
    「お前が見たいなら付き合ってもいいが」
     無感動な顔をそのままにコテっと首を傾げるその仕草がおかしくて、スコッチは思わず笑ってしまった。
     それにライがムッと眉を寄せてる。
    「行きたくないなら構わんが」
    「あは、ごめん。ふふ……そうだな、ここの近くに廃寺があるんだ。そこで初詣でもして行こう」
    「廃寺?」
    「ああ。前にこの近くに来た時に見つけたんだ。わざわざ人混みに行くのも嫌だしな。俺たちみたいなのはそのくらいがいいだろ」
    「初日の出は」
    「ふは!なんだよライが見たいのかよ!それは来年見に行こうな」
     大晦日から山に登って、山頂でカップ麺でも啜りながら二人で見に行こう。帰る時は道中の神社で初詣しておみくじ引いてゆっくり下るんだ。
     まるで普通の友人のように笑いながらスコッチが言うものだから、ライもそれに大人しく頷いた。次の年も横にいる確証なんてないのに、それも悪くないなんて思ってしまったのだ。


     手元の携帯端末を覗く。新年を迎えてからあと十五分ほどで七時間が経過する。顔を刺す冷気を誤魔化すように煙草に火をつけていると、薄暗い世界がゆっくりと光り始めた。地面が、足が、手が、己の顔が、視界の全てが暖かく遠い光に飲まれて思わず眼下に広がる景色を眺めた。
    「初日の出とやらも悪くないじゃないか」
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