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    yuewokun

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    ##sc16受けお題
    ##ライスコ

    sc16受「ココア」ライスコ「あーさむい」
     はあ、とできるだけ柔らかくした白い吐息を手に吹き付ける。寒さで固まった指先は、思っていたよりもぎこちない動きをしていた。
     手と手を擦り合わせて揉んで組んで離して、とそこまでしてようやっと血が巡っているような感覚がやってきた。寒い寒い。
     ちらりと盗み見るように横目で隣の男を伺えば、白い吐息を小さくボヤかせながら黙々と同じ歩幅で歩いていた。スンと澄ました顔はいつもと同じだった。いや、嘘。スッと通った鼻の先が少し赤い。表情は微動だにせずとも、白い肌は素直らしい。そういえば彼は白人を彷彿とさせるようなタイプの色白だった。黒い服を身にまとっているのでそれは余計によく映えた。
    「ライ、寒くない?」
    「……」
     視線だけこちらに向けて、口は開かない。負けじと黙って見つめていれば、程なくしてグリーンアイはそっぽを向いてしまった。
    「ええ……なに、口開くのも嫌なくらい寒い?」
     ぱっとこちらを振り向くグリーンアイ。あれ、そういうこと。
     思っていたより寒いのは苦手なようだった。なんだかわいいところもあるじゃないかなんて思ったのは内緒だ。

     しんと静まった住宅街で、ライとオレの足音だけが響く。深夜帯ではあるけれど、こんなに人がいないのはこの寒さのせいもあるだろう。大寒波がどうとニュースで言っていたような気がする。
     寒くて口も開きたくないライはずっと黙っているので、オレが口を閉じればまた足音だけが規則正しく響いている。
     ふと顔を横に向けると明かりのブレる街灯のすぐ下に、ぼうと光る電光物。
     ああ、いい所にいいものがあるじゃないか。
    「ライ、ちょっと待て」
     静止の言葉だけ投げてオレはそれへと走り寄る。後ろの足音は一拍遅れて停止した。
     大雪が積もる地域でなくてたすかった。ボタンも硬貨入れも取り出し口も通常通り営業中である。
     がしかし、白い光の中のラインナップを確認して思わず固まった。些か偏りが酷いのではなかろうか。

    「まあいいか」
     しょうがないので適当にポチとボタンを押すと、硬貨を入れたところのすぐ上に着いている小さな電光版がピロピロと楽しげに動き出した。ぴ、ぴ、ぴと音を立ててそれが止まると今度はご愉快な音で数字が揃ったことを教えてくれた。初めて見たなあと少し感動しながら後ろを振り返ると、少し離れたところで大人しくライが待っていた。振り返った俺に気付いて首を傾げてはいるがこちらに来る様子はない。まあいいか。
     当たり分にもう一本同じものを押して、二本のあったか〜い缶を抱えてライの元へ戻った。じんわりと指先に熱が戻ってきたせいか、さっきよりも足は軽かった。

    「ほら」
     ひとつを差し出すと、素直に彼はそれを受け取った。一瞬缶の熱さにびっくりして、白い指先がぴくりと仰け反ったのが面白かった。
    「……ココア」
    「仕方ないだろ、コーヒー売り切れてて残ってるのそれかつめた〜いのしか無かったんだから」
     やっと口を開いたかと思えば不満そうな声だった。心做しか眉がよって、唇も尖っている気がする。普段、余裕磔磔のお前らとは違ってなんでも出来ますとでもいうような澄まし顔とは打って変わって、たまにこういう子供みたいな顔をするのが面白いと思う。
    「嫌なら飲まなくていいよ。オレが後で飲むから……とりあえずそれで指先あっためとけよ」
     ライはあまり甘いのが好きではない、らしい。明確に彼の口から聞いたことがあるわけではないが、普段から甘味を口にしているところを見ないし、むしろあの強面で甘いのが好きと言われたらギャップで思わず笑みがこぼれてしまうだろう。
     オレの言葉に小さく頷いたライは、それを頬に擦り付け、高い鼻梁に当て、それから両手でぎゅうと握りこんでいた。余程寒かったらしい。
     一通り熱を伝播して満足したのか、それとともに手を外套のポケットに突っ込んでこちらを振り返った。
    「あったまった」
    「そりゃよかった」
    「お前は寒くないのか?」
     無造作に片手で持ったままの缶へグリーンの視線が向く。
    「うーんいや寒いけど……オレは飲んであったまろうかな」
     プルタブを捻って口を開けると、ふわっと甘くてあたたかい香りが鼻先に膨らんだ。この優しい香りが好きだなあと思う。まるで子供の頃の、少し甘すぎるほどの幸せな夢が詰まったような、そんな香りだ。喉を流れ込んでくるその熱が体を中から温めてくれている。

     口を離すと、ぱちりと切れ長の瞳と視線が絡んだ。思っていたよりも近くて、無意識に仰け反ると今度は長い腕が伸びてきて下顎を捕えられてしまう。強制的に開かれた口は入り込む冷気との温度差で白い息を吐き出す。冷たい鼻先が触れ合いそうな距離で、オレが吐き出したそれは甘い匂いがした。
     一瞬の空白。そのときに名前を呼んで、静止させればよかったものを、俺は間抜けに口を開いたままグリーンアイを見つめていた。甘く熱い口内を、俺よりも冷たい舌に蹂躙されていると気付くのに数秒かかってしまった。
     何かを探るように動き回ったそれはしばらくして満足したのか最後にちう、とむだに可愛らしい音を立てて離れていった。

     「温かいのはいいが、やはり甘すぎるな」
     ペロリと唇を舐めてそう言うと、ライは踵を返してまた規則正しい足音で歩き出した。
     白い頬を叩かなかったことも、あったか〜い缶を手から滑り落とさなかったことも、長い髪を引きちぎらなかったことも褒めて欲しいと思う。なんてやつだ。もうココアなんて買わないし買ってやらない。
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