sc16受「指先」萩景 手というのは、その持ち主がどういう人間かをよく表すという。握手しただけでその人の職がわかったりするのだとか。全く想像できないが、そういうこともあるらしい。
オレはそんな特殊能力を身につけていないし今後もわからないだろうけれど、身近な人間の手を見ているとなるほどな、と思うことはある。
例えば、我らが班長の手は大きくて肉厚で、握手をするとぎゅうっと包まれるような感じがする。力強さと安心感があって、男らしくて羨ましい手だ。腕相撲をしてみたときは握りあった瞬間、ダメだこれ絶対勝てない、と思わず笑いがこぼれたほどだ。
零は、ずっと一緒にいたからか逆に印象がない。頑張って思い返してみれば、オレと少し似てる気がする。小さくも大きくもなく、少し筋張っている。ああでも、俺よりも少しだけ、指が硬いような気がする。努力家でペンをよく持っていたからかもしれない。ペンだこはオレよりはっきりしている。
松田は意外と手が小さい。手のひらをあわせて大きさ比べをしたらオレの方がほんの少し指が飛び出ていた。とは言っても極端に小さい訳ではなくて、むしろ細かい作業をするのには大きすぎない方が適しているんだろうなあと思える、そんな手だ。指も細い。あまりこういうことを言うと嫌がられそうだけれど、綺麗な手だと思う。
萩原の手は指が長いから大きく見える。手のひらの肉は少しだけ厚いような気がする。伊達班長とはまた少し違った意味で男らしい手、かもしれない。
あと、後者の二人は爪が綺麗に短く整えられている印象があった。二人とも細々とした作業が得意だからなんだろうとは思う。長いと、あれこれ引っ掛けたりして危ないのだろう。
その指先をさすれば引っかかるものはない。すこし皮膚の固くなった肉の弾力だけが感じられる。
「ハギ、本当に指先綺麗にしてるんだね」
「んー、そう?」
長い指ひとつひとつに保湿クリームを塗り込んでいるのをみていたら触りたくなって、誘われるがまま、そこに手を伸ばした。
しっとりとした指先が、オレのそれに絡む。無香料らしいから特に薫ったりはしないけど、艶やかな花の朝露でもまとっているんじゃないかと思えるほど潤っていて綺麗だった。
「爪も綺麗に切りそろえてて、そうやってクリームも塗ってて、すごいな」
「女の子は意外と手フェチが多いからなあ。こうやって手入れしてるとウケ良いんだよな」
「手フェチ……」
「そそ。綺麗にしといて損はねえよ。作業するにも荒れてるよか良いし、」
言葉を続けようとしたであろう口が、ぼんやりと開いたまま数秒止まって、ゆっくりと閉じられた。萩原は何事も無かったように笑って、クリームを分け与えるようにオレの指をさすったりにぎったりとする。
「萩原?」
「んー?」
「いや、なんか、言おうとしてなかった?」
「諸伏ちゃんの気のせいじゃねえ?」
「気のせいじゃない」
適当な誤魔化しに思わずムッとして続きを促すと、萩原がハハァとため息混じりの苦笑いを零した。
「いやー、なんていうか」
「うん」
「諸伏ちゃんにこういう話するのはどうかなって」
「どういう話?」
「えっちなはなし」
にまっと笑った萩原がオレの指に萩原のそれをゆっくりと絡めていって、ぎゅうと握りこんでくる。捕らえられた俺の手は逃げ出せなくて、指が所在なさげに空虚を掻きながら動いてしまう。
「お、オレだって男だし……べつに、」
「そんなあわあわした顔で言われるとなあ……」
「あわあわなんてしてない」
「してるしてる」
繋いでいない方の指先が、ゆっくりとオレの顔をなぞって、首筋を撫でて下へ下へとおりていく。腹の当たりまで来たところで、ふふっと萩原が笑う。
「たとえば爪が長いと、危ないだろ」
「え?」
「あと皮膚が荒れてたらそんなの、触れられてる時に変な感じがするだろ」
「……」
「だから、爪は揃えて皮膚も荒れないようにケアしといた方がいいってさ、俺は思うんだよね」
目を細めて、オレを見る。指がゆっくりオレの腹を撫でる。服の上から触れていたそれが、おもむろに中に侵入してきた。まだ育ち盛りのオレの腹筋を摩るそれはしっとりと潤っている。
「諸伏も、痛いのは嫌だろ?」