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    yuewokun

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    ##sc16受けお題
    ##ライスコ

    sc16受「捕まえて」ライスコ それを掴んだのは無意識だった。本能的というのか、反射というのか。
     うすぼけた視界で、白い海から滑り落ちて行きそうな黒いそれに咄嗟に手を伸ばしたのだ。

     直後聞こえてきた呻き声と、不機嫌そうな悪態に、ぱちとスイッチが入るように思考が切り替わってクリアになる。ゆっくりと瞬いて視線をあげると、切れ長のグリーンアイがじっとこちらを見つめ返していた。眉間には立派なシワが深く刻まれている。薄い唇は一度小さく開いたが、なんの音も発さずにまたゆっくりと一文字になってしまった。
    「あ、え、ライ?」
    「……」
    「え、なに」
    「こっちのセリフだが」
     ため息混じりに返答した彼は長い指でちょんちょんと肩口を指す。釣られるようにそちらを見ると、黒く長い彼の髪が彼の骨ばった白い肩に撓垂れ掛かっていた。そこから視線を滑らせれば、終点をしっかりと握り込む自身の手があった。

     思わず首を傾げると、またため息が飛んでくる。
    「首を傾げたいのも俺なんだが」
    「そ、うだな……ごめん」
     指を開くとサラリとそれは流れて掌から逃げていく。
     緩かな喪失感になんだか急に心細くなった気がした。
     なんとなしに掌を閉じて開いて。それを繰り返してみたがどうにも拭えない物足りなさがある。
    「そんなにこの髪が好きだったとは思わなかったな。それとも、」
     そんな声と共に視界が暗くなる。頬を柔らかく撫でる黒い絹は先程自信が手にしていたものだった。
     顔を上げると眉と口角を持ち上げて、薄らと笑みを浮かべる男がいた。

     長く黒い檻の中心で浮かべるその顔が、一体どんな感情からくるものなのかは分からなかった。なにせ彼は何枚も上手で、普段からこちらをどう思っているのかもわからない。子供のような主張をすると思ったら、次の瞬間にはこちらを子供のように扱って大人の顔であやしくる。
     どこまでが本心でどこからがつくられた上っ面なのかもわからない。彼は過干渉でもなければ無干渉でもない。優しすぎもしなければ厳しすぎもしない。その奇妙な距離感と怪しさは、たまにこうして床を共にして生を感じさせてくれるには丁度良かった。
     近すぎると失った時の怖さを想像してしまうし、遠すぎると届かないのだと思い知らされる。
     だからこれくらいがちょうどいい。
     恐らく彼もそう思って相手をしてくれている。

     こうして彼に見下ろされるのだってもう片手では足りない。だけれども、彼の浮かべる表情の真意を正確に読み取れた夜は恐らくない。
    「ライ」
     それは、どんな感情の顔?
     そう聞いてみても良かったが、聞いたところで彼は答えてくれない気もした。
    「今夜は寂しい気分か?」
    「ん。悪い?」
     頬の横に垂れている黒髪を握って軽く引っ張ると、くすくすと笑う声が零れてきた。
    「随分素直だな。今日はそんなに気の滅入る任務だったか?」
    「そんなんじゃないよ」
     ビン、と髪が伸びる。
    「でも、なんか寂しい夜ってあるだろ。体温が欲しいみたいな」
    「なるほど」
     ふ、と息をついて彼は頷いた。

     近づいてくる顔を見つめながら、ライにもそんな夜があるのか、と内心少しだけ驚いた。

     黒い艶やかな檻に捕らえられて寂しさを紛らわすオレを、彼はどう思っているのだろうか。彼も捕まえて欲しいと、体温を分けて欲しいとそう思うことがあるのだろうか。もしそうならその時はこうしてオレが彼の長い長いその髪を引いて捕まえてやろう。
     あたたかな体温にそんな思考は溶けていった。
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