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    yuewokun

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    ##sc16受けお題
    ##ライスコ

    sc16受「合言葉」ライスコ「サンドイッチ食べたい。あの、あれ、ホットサンド」
    「またですか? そんなにお好きでしたっけ、ホットサンド」
    「この間ホットサンドメーカー買ったらハマっちゃったんだよ。すごいぞホットサンドメーカー」
    「はあ、そうですか。でも僕はもう蕎麦の気分なんですが……ライはどうです?」
    「蕎麦よりはホットサンドだな。酒も飲みやすい」
    「蕎麦だって日本酒が合いますよ」
    「……」
     長身の男三人が行儀よく横並びになって歩くのは夜の公園。ざりざりと鳴る足元の音と、ちりちりと鳴く虫の声ばかりが響いている。数少ない街灯には羽虫が集っていた。
     木々の多く植えられたこの公園は湿度が高い。しっとりと肌に吸い付いてくる空気を軽く手の甲で撫で付けながらライは横に並ぶ二人から視線を外した。

     ここ最近はこの三人で組まされることが増えた。
     コードネームを得た時期も近く、それぞれの得意分野も適度に分散されているのでなにかするのにこの三人で固めておけば便利だと思われているのだろう、というのがライの見解だ。
     ライは狙撃、バーボンは情報収集とターゲットの捕捉。スコッチは、飛び抜けた得意分野があるというよりは器用にどちらの補佐もできる。場合によってはスナイパーとしても、裏方としても、囮としても、その責務を全うできる柔軟な男だった。

     三人で仕事を終えた夜はこうして夜食の希望を並べていく。意見が重なれば三人で共に摂るし、意見が全く合わなければこの場でさっぱり解散する。もちろん、一人を残して意見が合う時もある。
     今夜のように。

     公園の出入口にある虫の集った朧気な街頭の下でバーボンがくるりと振り返った。
    「……僕は今夜意見が合わなそうなので失礼します。スコッチ、ライが飲みすぎないようよく注意してくださいね」
    「あっはは、そんな子供じゃないんだから」
    「おい」
    「いやだなあ、子供だったらお酒を飲みませんよ」
     ふふん、と鼻を鳴らすとバーボンはそのまま二人に背を向けて長い足を踏み出した。その背が先の角に消えるのを見届けると、スコッチはちらりと横に立つライを見た。視線が絡む。
    「どう思う?」
    「気付かれてる」
    「やっぱり? バーボン察しがいいもんなあ」 
    「お前の頻度が高すぎるんだ」
     緩慢な動きでタバコを咥えると、静かにジッポーライターのホイールを回した。ぼう、と立ち上がった炎がタバコの端に熱を分ける。それからひとつ吸って、吐き出された白い息をスコッチは真正面から受け止めた。
    「ん、それやめろって」
    「先に誘ってきたやつがなにを言う」
     くすりと笑みを零してライは踵を返した。揺らめく長い黒髪を恨めしげに睨んでスコッチもその後に続いた。



     ゆっくりと蓋を開ける。肉とチーズと、パンの焼けた匂い。スコッチはごくりと喉を鳴らしてそれを取り出した。もとから少し色濃い生地のパンは、四辺にさらに濃い色の焦げ目を付けている。
    「ライ、ライ、できた! すごい美味しそう」
    「……ああ、本当に買ってたのかそれ」
    「フライパンでもいいけど、やっぱ憧れるじゃんホットサンドメーカー」
    「そう、か」
     鼻歌でも歌いそうなほどワクワクしているスコッチの顔を眺めみて、ライは興味なさげに首を傾げながら曖昧な返事をした。
     あちあちとスコッチが声を上げながらまな板にそれを移して半分に切ると、その切れ目をライに見せつけてくる。ドレッシングのかかったコールスローと、溶けたチーズがでろりとかぶさった肉厚のコンビーフが黒いパンに挟まれている。
    「ホォー」
    「美味しそうだろ!」
     にこにこと笑みを浮かべてそれを皿へ移す姿には、つい数十分前までベッドのシーツに溺れていたとは思えない快活さがあった。
     なんだか面白くないような、若さに感心するような、呆れてしまうような。ぼうとそれを眺めていたライは、如何ともし難い表情のまま手にしたウイスキーボトルを傾けた。
    「そのルーベンサンドは美味そうなのはいいが、もうそろそろそれは使えなくなるのは分かっているのか?」
    「うん?」
    「バーボンに感づかれただろう。そのままでいいというのなら俺は構わんが」
    「ああー……んー…………どうしようかな」

     ホットサンドを、ルーベンサンドを食べたいとスコッチが口にしたとき、ライには選択肢が生まれる。その誘いに応えてやるか、突っぱねてやるか。返事は酒も入れるかどうか。いまのところ呑まないという選択をしたことは無い。
     実のところ、合図はこの言葉にしようとしっかりと打ち合わせをしたわけでもなんでもない。ただ、初めてその夜を迎えた日のキッチンにはたまたまライ麦パンがあって、コンビーフがあって、チーズがあった。だから挟んで焼いて食べた。ついでにウイスキーが戸棚で寝ていたので引っ張り出して飲んだ。ライの記憶ではそれだけだったはずだ。
     それがいつの間にやら二人の間での合言葉になった。

     こう改まって言葉について言及するというのは初めてだった。どことないむず痒さを感じながら、ライは手にしたウイスキーをグラスに注いだ。
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