Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yuewokun

    @yuewokun

    ひろみちゅ~

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 54

    yuewokun

    ☆quiet follow

    ##萩景
    ##sc16受けお題

    sc16受「愛され」萩景 軽やかに呼ばれる名前ににっこりと笑い、手を挙げながら同じように軽やかで甘い声で応える彼の姿は、ほんの少しの距離を開けてぼんやりと見つめているだけの自身とは縁遠い存在のように思えた。
     まるでステージと客席のような壁を感じる。しかし彼がくるりと振り向くともうそこにその段差はなくすぐ隣で昔からの親しい友人のように笑いかけてくる。
    「なあに諸伏。そんなにじっと見てきて……俺に見惚れちゃった?」
     自分で言いながら漏れる笑いをかみ締めて萩原が肩を抱いてくる。一気に距離を詰めてくるというのに、あまり相手に不快感を覚えさせない彼は先天的に人に嫌われない才能の持ち主なのだと思う。いや嫌われないというより、好かれる天才なのかもしれない。
     己とて決して対人対応が苦手な訳では無い。それでもある程度は人との接し方に緊張感を覚えるし、こうもあっさりと他人の懐に忍び込める自信もない。
     萩原研二は、いままで知り合った中でもそういったことが飛び抜けて上手い人だった。
    「萩原ってすごいよね」
    「え、なにが」
     引っ掛けていた笑いを引っ込めてきょとんと表情を落っことした萩原が首を傾げる。図体の大きな男だというのに可愛らしさすらあるのでやはりそういうところが人に好かれやすい部分なのかもしれない。
    「なんか人に愛され愛する天才、みたいな」
    「どゆこと」
    「ええっと、なんて言えばいいのかな……萩原って誰とでも仲良くなれるでしょ。もちろん萩原がいろいろ考えて人と接している結果なんだろうとは思うけど、そもそも人に愛される才能があるしそれに応える才能もあるなあって」
     拙いながらもなんとか言葉にしてみれば、萩原は片眉をぴこんと持ち上げる。肩を組んだまま、口元に空いている手を当ててあさっての方向を見上げながら「へぇ」だとか「ふぅん」だと言葉を漏らす。それからゆっくりと目線がこちらに戻ってくる。にんまりとした少し意地の悪い顔で口を開いた。
    「諸伏ちゃんも、俺のこと愛してくれてるんだ?」
    「へ?」
     どうしてそんな話になった。
     今度はこちらが首を傾げると、萩原は得意げに笑って自身の顔を指差す。
    「俺ってみんなに好かれて、愛される才能があるんでしょ。じゃあ諸伏ちゃんも俺のこと愛してくれてるよね?」
    「え、ええ?」
    「違うの? 俺のこときらい?」
     パッと組んでいた肩を離して萩原が両手を上げる。手のひらはこちらを向いていて、痴漢冤罪防止のようだった。もう肩を組んでいたので、痴漢騒ぎなら紛うことなき有罪だが。
    「もう、なんでその二択なんだよ! もちろん萩のことは好きだよ」
     そう言ってやれば上がっていた腕がすぐさま降りてきて首元に巻きついてきた。ご機嫌な大型犬はしっぽを振ってすりすりと顔を寄せてくる。
    「ふっふっふっ、俺も諸伏ちゃん大好きよ」
    「フフ、ありがとう」
    「んーねえ諸伏。俺はね、諸伏の方が愛される天才だと思うんだよね」
    「どうして?」
     聞き返せば、彼は目の前でピンッと右手の人差し指を立てる。
    「まず、かわいい」
    「え、ええ?」
     中指が立ち上がる。
    「二つ目、良い子」
    「ううんー?」
     薬指が立ち上がる。
    「三つ目。可愛くていい子なのに、しっかりしてて自分があって、つよくてかっこいい」
    「えっと……」
     小指が立ち上がる。
    「四つ目」
     萩原の言葉が途切れる。
     三つも恥ずかしくなるような事を挙げられて困っていたのにこれ以上なにを言おうというのか。恐る恐る萩原を見返すと、萩原の垂れた柔らかい瞳とぶつかる。まるでその視線から甘い電流が走ったようにビリビリと全身に刺激が回ってふにゃふにゃの間抜けな声を漏らすとその瞳がうっそりと細まる。
     ゆっくりと近づいてきたその顔が耳元に埋もれる。ただただ呆然とそれを受け入れるしかなかった。
     水飴を垂らすようにゆったりとした声でもう一度「よっつめ」と彼が囁く。耳元に熱がこもる。

    「色気がある」
     ほとんど吐息ともいえるその言葉を耳元から流し込まれた。
     思わず情けない声をあげながら、萩原の胸元を突き飛ばすと予想以上に力が籠ってしまったのか壁まで吹っ飛んでしまった。背中を強く打ち付けて犬のような声をあげる萩原はそれでもすぐさまなんてことないようにこちらを見て、全ての指を開いた手のひらを向けてくる。ちょっとだけ震えている。
    「五つ目、ちょっと、ウブで、勢いがありすぎてかわい、い……ケフッ」
    「いや、いや! 最後まで無理して褒めなくていいから! ていうかぶっ飛ばしちゃってほんとごめん、大丈夫?」
    「恥ずかしがっても、ちゃんと俺のこと心配してくれて、めっちゃ最高。ゲッフ……優しいね、諸伏ちゃん。そういうところ全部含めて愛してるわ」
    「ワ、ワ、もうわかったから! だからもうやめようってば! はずかしい……!」

     萩原はひとに愛される天才だと思っていたけれど、どちらかというと愛する天才だったらしい。
     もう無理に褒めないでと言ったらその日から毎日のように褒められ、愛してると囁かれるようになった。毎回照れてしまうし、酷いとまた吹っ飛ばしてしまう。しかし恥ずかしいけれど、その言葉を受け取るたび嬉しくなってしまうのは自分の中だけの秘密だ。萩原がたまに顔を覗き込んできては満足そうに頷いてるなんて知らない。本当に。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works