逆鱗「ねぇ」
激しい運動をしたわけでもないのに酷くのどが締め付けられる。
寒くもないのに体が震えて手足の末端が冷たくなっていく。
「君でしょう」
「は、ぁな、なに…」
舌がもつれてうまく発音できずに口をもごもごとさせていると胸を強く踏みつけられ呼吸がままならなくなった。
「い”っんむ…っ」
痛みにより漏れた声が上体を倒した男の手によってふさがれて悲鳴すら出せない。助けを呼ぶなんてもってのほかだ。
「君がやったんだよ」
「フィリルも、アリスも、悲しそうな顔をした」
「二人ともが優しいから本気で離れることにはならなかったけれど……さぁ」
胸に置かれた足へかかる体重が増し、重いどころではなくなる。ミシミシと骨のきしむ音がしても男は足を緩めない。
なんとか足をどけようと手を使い引っ張るものの上からの圧であるせいで全く動かすことができないどころかより骨の軋みが悪化した。
ふうふうと無様に息を荒げて痛みから逃れようとするのをあざ笑うようにつま先をぐりぐりと動かされる。
より一層ひどくなる痛みに耐えきれずに涙がぼろぼろと流れ出てきた。
「や”、や”め”て”」
「やだ」
にべもなく切り捨てられたかと思うと一気に足の力が増しゴリゴリと感触を楽しむように動かした後ごきん、と野太い音がした。
「ぎっ」
「やだ、汚いなぁ…」
そう吐き捨てて靴を倒れたままの人物の服に擦り付けた。
「まぁ、さ…」
これからは私たちに関わらないでよ。
ね?、と愛らしく微笑みながら顔を覗き込んでくる姿はその顔とは裏腹になんとも恐ろしすぎる物だった。
恐怖や痛みで朦朧とする意識の中で何度も頷きこの男から逃げられるように祈るソレが見た最後の景色は勢いよく己の顔面に振り下ろされる上履きの裏で、目が覚めた時には白い病室で眠らされていた。