❤️🧡 『変化と不安と耐久と〜妖ver』大山の茂みのその奥の、鬼の屋敷の大広間。
どんちゃん騒ぎの大宴会。
大鬼と九尾の元に集まりしは百を超える妖共。
飲めやあかせや百の酒。歌えや歌え千の歌。
やんや、やんやと大盛り上がりだった夜も次第にふけていき、酒の気配は残しつつしだいにしとやかな空気が漂い始める。
「……。」
居間に居りますは一匹の鬼。
宴会から早くに引っ込んだあと、ずっと悩ましげに床をにらめつけている。
「……。わざわざこんなに数を集めたというのに、あいつに懸想していたのはこんなに小さな妖か。」
いかにも気に入らん。と言いたげに、鬼はカツンカツンと爪先を文机で打ち鳴らす。
「なぁ…?」
鬼の見つめる先に握り拳ほどの未熟な妖が一人
まだ発生したばかりで存在があやふやなその妖は、まだ鬼に返答する術を持たない。
が、最近いやに美しくなった狐に惚れ、姿をのぞき見るくらいのほのかな感情は持ち合わせていた。
「…あの子に気があるだけで気に入らないが…、純粋な恋情を持っただけの妖を消すのは気が咎める。さて、どうしたことか。」
かつんかつん。
再びため息が吐き出される
「御前様!!」
ガタン。
その重い空気を押し破り居間に飛び込んできたのは、1匹の狐。
先程まで宴会の主役の一人であった九尾殿。
すっかり気が抜けてしまったのか、今はふさふさ揺れる尻尾は1本だけ。
あれだけ豪華だった装いも脱いでしまって、整えた髪も乱れた姿に先程の威厳は欠片もない。
「おやおや…これは可愛い子だな。
…こっちにおいで。」
他の妖の前では消して見せぬ狐の緩い姿に、鬼は相好を崩してあぐらをかく膝を叩いた。
招かれた狐は慣れたように鬼の太ももに頭をあづけて、ころんと転がり丸くなった。
先程まで大妖の九尾殿として威厳放ち数多の妖怪にかしづかれていた狐が、今はまるでただの人懐こい小狐だ。
「ふふ…。大山の九尾殿がこんなふうになっていると知ったら…、皆ひっくり返ってしまうだろうな?」
膝の上でまるまって、威厳などどこへやら言ってしまった狐の姿に鬼は口元をついにやけさせる。
「…うるさい…。御前様の前だけだからいいの…。」
「あぁあぁ、そうだな。」
ツンと口を尖らせて拗ねたものの、優しく頭を撫でられてすぐに機嫌を直してしまうのもより幼ささを増している。
「あっ、そうだ。」
ぱっと弾けるように声を発すると、狐はまるで畳の上の妖なんて見えないように、ただ鬼だけをみて、甘い仕草で袖を引いた。
~~~~~~~~~~
「…ねぇ、見て。もうこんなになったよ。」
するり。
狐は嬉しそうに口角をあげると上等な衣の合わせを広げて、ふっくら尖った乳首を見せた。
ぺたんと平だった胸も少しふっくらしいるようにみえる。
「もう…きっと御前様の赤子を孕めるよ…確かめて。」
狐はゆるりと笑って鬼の手を自分の元に引き寄せる。
「それは嬉しいな。……どれ。」
骨張った鬼の手が検分するように、膝に転がる狐の襟元に割り入って、胸部を柔らかく掴む。
柔らかくしっとりした胸の全体を掴むと、次はなだらかな頂点を確かめるように押しつぶしていく。
「んん…♡」
緩やかに胸から離された手はそっと着物の奥に滑り込んで、狐のへその下あたりをゆるゆると撫で摩る。
鬼の大きい手が狐の白い腹をぐっぐと押し込む。
「ああ。確かに…お前のここにお宮ができてているね。」
こりこり。
薄く脂肪がついてあちこちに曲線が増えた姿、少し広がった骨盤、腹の奥にできた子宮。
鬼との子を孕むために変化した体。
「あ、っうぅう…♡」
ふさふさの耳をぴくぴく動かして耐えていた狐が、甘えるように鬼に問いかける。
「んっ…。ねぇ…御前様。もう、いいでしょ?」
どこか期待を込めて鬼を見あげる狐の甘く溶けた目がゆらゆら揺れる。
今か、今かと待ち望んでいるのが感じられて、すぐにでもいいと言ってやりたくなる。…しかし、
「子供を作るのは、もう少しここが育ってからにしようか。」
するり。
それ以上狐の衣を乱すことなく、鬼の手は白い下腹部を柔かくひとなでして離れていった。
骨張った大きな手が摩るその奥のできたての小さなお宮。
いづれ2人の子供を宿す狐のそこは、小さくまだまだ脆い。
もう少しじっくり待ってやらなければ、狐の体に障りがあるだろう。
「え……。」
あっけやなく離れていく鬼の手に、それまで期待に蕩けていた狐が、しょぼしょぼと悲しげに顔を歪ませる。
「…まだ、まだだめ… ?オレ、もう御前様との赤子が欲しくて仕方ないのに…。」
ヒク。
酒で溶けた理性では歯止めが効かず、悲しくなった狐はぐすんぐすんと泣きべそをかきはじめた。
「あぁ、あぁ…。酒が入って泣き虫になっちゃったかい愛しい子♡」
鬼はすっかり何百年前か、狐がまだ子供だった時と同じように、狐の額に何回も口付けを落としてやっる。
「よしよし、泣かないで…。ほら、私も子供も逃げはしないさ…」
鬼との子供を宿したい。
狐がわぁわぁ泣いてねだるたび、まだだめだと諫める鬼が声の糖度をずぶずぶに増して、でろでろに溶ろけていく。
くすんくすん。
鬼は、慰めめられてなお鼻を鳴らす狐の鼻っぱしらをかぷっと噛んで、頬を舐めて、首に口付けをおとす。
「もう少し、もう少し……。」
「でも、でも…っ。御前様と家族を作りたいって…もう何百年も前からっ…!!」
「ああ…。そうよなぁ。ずぅっと前からだものなぁ…。」
この狐はちんまり小さな頃から自分を追いかけていた。
自分の側を去り行くものも多い中、立派に九本尻尾をはやしてからも恋しい恋しいと側を離れなくて…。
恥ずかしそうに母の後ろに隠れてしまった姿。
頬を真っ赤に染めて花をてわたしてくらた時のこと
叫ぶような勢いで婚姻を申し込まれたこと…。
小さい頃からの思い出を振り返ると、いっそう家族を作りたいと泣いてくれる自分の番が愛おしい。
愛おしくて、愛おしくて、可愛がりたい気持ちがもはや抑えきれなくなってしまった。
「あぁ……かわいい、かわいい私の子……。ここができたらすぐに子種をやろうな…。」
狐を宥めていたはずの鬼が、次第にねっとりと重ったるい心の声をこぼし始める。
穏やかだった黄金の瞳も、甘やかで毒毒しいほどの桃色に染まる。
「御前様…?」
ドロリと重くなった雰囲気に、狐がぴるぴる耳を動かして、無意識にも守るためなのか腹に手を添える。
ああ。そんなに怖がってくれるな。
なに。体に負担をかけずに甘やかしてやる方法なんていくらでもある。
ふぅ。
「あ…。」
どさり。
鬼は熱い熱を秘めた桃色の瞳で青い瞳と目を合わせると、そのまま前に体をたおして、狐を挟んで床に肘をついた。
鬼の長髪が簾のように垂れて、狐の顔に影が落ちる。
うっとりと、狐のお腹をむずつかせる声が優しく響いて、狐は優しい檻に囚われた
「なぁ、そんなに泣いてしまっては疲れただろう…。…今晩はもう床に入らないか。」
ピンク色の瞳と熱く湿った吐息にとかされて、狐はぼんやりと顔を熱らせる。
「うん…。」
鬼の色香に当てられて、耳までぺたんと下ろした狐は鬼に体を委ねた。
「そう。いい子だ…。」
鬼は、夢でも見るかのようにぽやぽやと答えた狐に、ご褒美の口付けを一度落として、抱き上げた。
鬼の筋張った手に抱き上げられると、きゅうんと甘く泣いた狐の尻尾がふわふわゆれた。
そうして床に入る襖を閉じる瞬間、チラリと鬼の視線が畳の妖によこされる。
「恨んだな?…よしよし、これで何の申し訳無さもなくお前を消してやれるな。」
『さあ、”去ね”。』
ボシュッ。
狐に恋した小さな妖は、嫉妬に身を落として呪いを発した瞬間に鬼の妖力で燃やされた。
こものの消滅を見届けた鬼の襟がちょいとつかまれる。
「ねぇ、よそ見しないで。」
「ああ…悪い、悪い。
私が夢中なのは、お前だけだよ。」
「もう…。」
どろり。
甘い空気を醸し出して、大妖怪達は今度こそ布団の中へと消えていった。
…噂では、この屋敷の主人達、招いた妖怪達に目にくれず、次の日も丸一日中出てこなかったとか、なんとか…。
~めでたし、めでたし!~