恋リア千ゲ続き⑥寝息を立てる千空の横から抜け出したゲンはTシャツ短パンというラフな格好で自室から1階にある共用のキッチンに降りてきた。水をもらってすぐ上がるつもりだったがダイニングに人影を見つけて一瞬足を止めた。
💃🎤「ゲンくん?」
🃏「め、メンゴ〜!こんな格好でこんな時間に鉢合わせちゃって〜!」
この部屋のカメラは24時間回ってる。何もなければカットだろうが、何せ昨日(全体MTGでの三角関係発言)の今日(事後の自分たち)。渦中の2人とくれば編集側はどうあっても使いたいシーンだろう。
それに、例え千空との今後の関係を世間的にはビジネス交際で通したとて自分の気持ちは本物。本気で好きになったのだ。
番組上で偽りのキューピッドに徹し千空とアイドルの仲を取り持った好感度の高い『あさぎりゲン』より、心象は悪くとも自分の信念とアイドルから千空と勝ち取ったヒールな『あさぎりゲン』の方がずっといい。「あの時千空ちゃんを選んでいれば……」なんてこの先ずっと後悔の十字架を背負っていい子ちゃんを演じて芸能界を生きてくなんてまっぴらだ。やるなら徹底的に。千空のいう『ロードマップ』とやらは既に頭の中に出来上がっている。
🃏(恋愛脳は非合理的、か。千空ちゃんの言ってた意味、今ならよくわかるよ)
ゲンの覚悟は揺るぎない。この撮影に臨んだ時は軽い気持ちだったし、知名度上がれば万々歳〜♪ぐらいだったのに。肝が座ったというか腹を括ったというか。
「2つ分」のグラスを手に取ってウォーターサーバーに向かう。たったそれだけの動作なのに、まるで見せつけるように堂々と、ゲンはテーブルでスマホをいじるアイドルの横を歩いてみせる。
──人気は譲ってあげる。だから、千空ちゃんは俺が貰うね
女とはなんて察しのいい生き物だろう。まるで台本をなぞるように、見てほしかった場面を拾って言葉に変えてくれる。
💃🎤「……?なんで、コップ、……2つ。……!」
はっとした顔のアイドルちゃんは気づいたようだ。
そう、そうだよ。俺「ひとり」だったらコップは2ついらない。じゃあアイドルちゃん用に?それも違う。今彼女の座る席には既に水で満たされたコップが置いてあるもんね。
そう、この「もうひとつ」はここにいない「誰か」のために注ぐもの。それが誰なのか……。聞かなくてもわかるよね?予想通りの反応ありがとう。
ゲンはにんまり笑ってあえてゆっくり、手元が定点カメラから隠れないようにコップに水を注いでいく。
💃🎤「私、……今から千空くんのお部屋に行こうかと思ってるんだけど」
🃏「……そこにはいないって、わかってるのに?」
💃🎤「!?」