アラタ視点のりゅうちと「最近付き合い始めた!毎日いちゃついてる」
フーディエの新人であるケイスケとデジラインを交換してから、おれはちょくちょくデジラインのやりとりをしている。
話題といえばもっぱらおすすめの漫画の話とか、爆デリの話とか、龍司と千歳の近況といったかんじだ。
今日もいつも通り、「そーいえば、最近龍司と千歳はどーよ?元気にやってるか?」というラインを送っていた。
通知が届く音がしたのでデジヴァイスを見てみたら、あいつから来ていたメッセージがこれだ。
???????
付き合い始めた……?
ああ、千歳に彼女ができたってことか?フーディエのバイトの女のことが好きだって言ってたもんな。
ついに付き合い始めて毎日いちゃついてるってことか。千歳らしいな。彼女にデレデレしていちゃついてるところが眼に浮かぶぜ。
つーか龍司と千歳はどーよ?って聞いてんだから主語を書けよな。一瞬どういう意味か考えちまったじゃねーか。
まあ、龍司は……、ないだろ。龍司はそんな浮いた話、聞いたことなかったからな。
というか龍司って、付き合うとか興味、あるのか……?いちゃついてるところも全く想像できねー。
「千歳、彼女できたのか?」
とりあえず、そう返しておく。あ。もう既読ついた。早いな。
「違う」
端的なメッセージが届く。え、違うのか?ってことは龍司に…?マジかよ。それは驚きだ。
そんな風に考えていた時、次のメッセージでオレの思考は完全にストップしてしまった。
「龍司と千歳が付き合い始めたってこと」
???????????
龍司と千歳が……?
なんで……?
え?千歳は好きな子いるって言ってなかったか?というか千歳って相当な女好きじゃなかったか?
え?龍司と千歳って全然そんな……そんな雰囲気じゃなかったじゃねーか!?
ケイスケの送ってくる文章を飲み込もうとしても、混乱でいっぱいの頭ではうまく思考がまとまらない。
「え、意味がわからん。どういうことだ?通話できるか?」
端的なデジラインの文章がもどかしく、思わずそう送信する。
ケイスケの「うん」という返事を待ってオレはすぐに通話を繋いだ。
「おい!どーいうことだよ!」
「だから、そのままの意味だよ。龍司と千歳が付き合いはじめたんだって」
画面にケイスケが映るなり混乱のままに大声をあげてしまったが、画面の向こうのそいつはけろりと答える。
「はあ〜!?なんだよそれ!それが意味わかんねー!」
叫び声を上げたオレに、ケイスケはさらなる爆弾を落とした。
「え、でも千歳は龍司のこと、ジュードができる前から好きだったらしいよ?」
は?
頭が真っ白になってフリーズする。
ジュードができる前……?それって、オレが二人に会う前からってことか?
「嘘だろ、そんな前から?全然気付いてなかったぜ…じゃあなんで今まで…」
呆然としながらそう言いかけて、ふと、ある考えが頭によぎった。
もしかして、オレが二人の恋路の邪魔をしちまってたんじゃ…?
それからケイスケは二人が付き合うに至った経緯だとかバカップルで見ていて恥ずかしいだとか、何やらそういった話を一方的にオレに聞かせたが、正直全く頭に入ってこなかった。
ケイスケとの通話を終えたあとも、オレはひとり、しんと静まり返る部屋の中で自分の中に湧き上がる疑念を振り払えずにいた。
今まで二人には散々メーワクかけちまったけど、まさか恋愛のことでも?
考えすぎだ、自意識過剰だろと思考を立て直そうとしても、そんなに長い間好きだったのに今になって付き合い始めたなんて何か理由があるんじゃないかと勘繰ってしまう。
ついこの間までオレと龍司が揉めていたことや、本音でぶつかり合ってやっと和解したこと…
そのタイミングと重なるところがある気がして、どうしても心に引っかかってしまうのだった。
◇◇◇
「え?…違う違う!アラタのせいじゃねーって!」
あの後一晩中悩んだオレは、結局千歳に直接聞くことにしたのだった。
ハンバーガーショップの席で向かい合うなり率直な問いをぶつけたオレ対して、千歳は一瞬驚いた表情をしたが、すぐにいつもの陽気な調子になった。
さっきまで少しだけ強張っていた肩の力がふっと抜けたのは、千歳の否定の返事を聞いた安堵からなのか、千歳とまたこんな気安い会話ができるようになった喜びからなのか。
おそらくそのどちらでもあるのだろう。
少し前までの関係ならこんな風に気軽に千歳と会ってこんなことを直接聞くなんてできなかったな、と、関係の修復を改めて嬉しく思う。
(つっても、龍司とも和解したとは言え、流石にこの内容を聞くために呼び出すにはまだハードルが高い。)
「だいたい、オレたちの方からアラタにちょっかいかけてチームに引き込んだんだからさ。アラタがオレたちの邪魔になってたわけないだろ。」
千歳はそんなオレの心境を見抜いているのかいないのか、優しげな声色で続ける。
「龍司とはずっと親友だったから、その関係が壊れるかもしれないってオレが勝手にビビってただけだよ。
そんでまあ、龍司もお嬢のこととか店のこととか色々あっただろ?そこでますますタイミング逃しちまったっつーか。」
千歳は手元に視線を落とし、ポテトに手を伸ばす。
「だから、アラタは気にしなくていいんだよ。」
ポテトをつまんだ指に落とされたままの視線。
その一瞬がなぜか無性に気になった。
「ん、このポテト久々に食ったけどやっぱうめーな!」
しかしそれも一瞬のことで、千歳は思い切り明るい声を出してオレの顔を見る。
「アラタも食べろよ!」
「お、おう」
千歳に促されてまだ手を付けていなかったハンバーガーを持ち上げ、包みを広げる。
千歳の笑顔は優しくて、でもこれ以上オレに何も言わせない、そんな雰囲気があった。
「つーか、そういうアラタはどーなのよ?気になってる子とかいねーの?」
先ほどまでの千歳の話に碌な言葉を返せないままハンバーガーを齧っていると、千歳がニヤニヤとした表情をして話題をオレに向ける。
「お、オレ?オレはまあ……最近、付き合い始めたやつがいる、けど」
ゴホッ!ゴホッ!
「お、おい!大丈夫かよ!?」
千歳が盛大に飲み物を咽せたようだ。何度か咳き込み、涙目で「マジかよ!?どんなやつ!?」と食い気味にオレに迫る。
「オレのことはいいから!」
本当に今はオレのことは置いておきたいのだが、千歳がブーブー言うので「後で話すから!」と約束する。
千歳が言外に千歳のことから話題を変えたいという態度を示しているように感じられたが、どうしても、最後にこれだけは、聞いておきたくて。
「千歳はさ、今、幸せか?」
また一瞬キョトンとした表情になった千歳だったが、今度こそ満面の笑みを浮かべて言う。
「おう!すっげー幸せ」
その言葉が聞けて、やっと本当に、心の底から安堵できた気がした。
「じゃあアラタの番な!相手どんな子?年下?年上?可愛い系?美人系?」
「あーうるせー!」