体温(仮題)僕は好きだった。君の手が。
僕は君の手が好きだった。
そこから感じられる君の体温だけは、君のぬくもりだけは、絶対に嘘をつかないから。
どれだけ僕を翻弄したって、どれだけ嘘にまみれたって、どれだけ虚偽の海の泡に消えてしまいそうになっても…ほんの少し小さな手を握れば、すぐに本物だと分かる。それが、いつの間にかすり替えられてしまいそうな、どこか危うい雰囲気を纏う君を確かめる、唯一の方法だった。
窓の向こうで、一番星がゆっくりと目を覚ます。
君と迎えたこんなにも綺麗な夜が、こんなにも痛い。
どうして僕は、君の気持ちに応えてあげなかったのだろう。
後悔を噛み締めながら…いや、後悔に噛み締められながら、の方が正しいだろうか。とにかく僕は、自分でどんな表情を浮かべているかもわからないまま、君の布団に顔を伏せた。ベッドの前で、情けなくも床に膝をつく。ただ茫然としてしまっていた。ようやく受け入れられ始めた段階で、僕の心は鋭く貫かれた。銃か何かで撃たれたりしたら、きっとこんな感覚になるんだろう。頭は重く、重く、そのまま顔を起こすことすら叶わず。ただくぐもった声で、人が来ないよう小さく、何度も何度も君の名前を呼んだ。呼べば答えてくれる気がした。無邪気に笑って意地悪に嘲って、嘘だと笑う。そんな君が今にでも目を覚ますような、そんな気がした。
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