誕生日僕の誕生日は10月4日。
その日が『誕生日』だと、僕がこの世に生まれてきた日だと知れたのは偶然だった。
いつもの様に両親に頼まれ中身が何かも検討も、検索もしたくない物を運び終え、当時まだあった家に帰ってた時だった。
家を出る時には居なかった両親が煌々と電気を点け楽しそうに、冷蔵庫に入れていたお酒を飲みながら、テレビを見ていた。
「お、イルマく〜ん!おかえり〜遅かったね〜」
「あらイルマお帰りなさい」
怖い大人達に追いかけ回さされたから僕は汚れや汗やらでドロドロだったが、そんな姿はまるで見えていないとばかりに明るく迎え入れる両親。
それでも、嬉しかった。今日も帰ってこない両親を待つ夜ではなく3人揃って過ごせる夜だと思ったから。
「ただいま。これ今日の分」
怖い思いをしたかいがあったからか、普段より少しだけ厚い封筒を渡すと、テーブルの上の食事や飲みかけの缶を薙ぎ払い嬉しそうに受け取る両親。
「うわぁ!!凄いねイルマくん!!こんなに稼いだんだね!!」
「凄いわねイルマ!!なんて良い子なのかしら」
「そうだね〜イルマくんはまるで天使みたいに良い子だね〜あ、天使と言えば…そっか!だからイルマくんの誕生日は10月4日なんだね」
喜んで貰えた嬉しさと、褒められた喜びで聞き流すところだった。
「たんじょうび…?」
聞いた事があった。人にはお母さんから生まれた日があって、その日が『たんじょうび』という事を。
ただ、僕はその日を知らなかったし、両親も言わないし、両親もお互いの『たんじょうび』になにかしていたとか言ってもいなかったので、僕にはそんな日がないのかと思っていた。
でも、僕にもあった!!『たんじょうび』が、僕にもあったんだ。
あんまりにも嬉しくなって、普段なら聞かないことを聞いてしまった。
「ぼ、僕が生まれた日って、どんな日だった?」
そんな事を聞かれるとは思っていなかったのか、はたまた僕が興味を示すと思わなかったのか、顔を見合わせた両親は楽しそうに教えてくれた。
「大変だったよ〜だってママも僕も遊びに行けないし〜」
「陣痛は痛かったしね〜」
「こんな大変だと思わなかったよ〜」
「そうそう、大変だったわ〜」
本当に楽しそうに、明るく話してくれた。
大変だったと、遊びに行けなかったと、痛かった、辛かった、そして、
「もう、いらないって思ったわ」
ぼくも、いらなかった?
「…そっか、たいへんだったんだね…」
「そうだよ〜でも、こんな良い子だったから良かったね〜」
「そうね!!イルマが良い子でよかったわ」
ぼくが、いいこじゃなかったら、いらなかった?
「ぼく、ちょっと、つかれちゃったから、もうねるね」
本当は疲れなんて吹っ飛んでたし、眠気も無くなっていたけど、早く、ただ早くここから
にげたかった
それでも身体は休息を求めていたようで、ペラペラの布団に入った途端に眠ってしまったし、朝居間に行けばテーブルから落とされた缶や食べ残しがそのままにされていたのを見て、夢じゃなかったんだと思った。
あの言葉は、全て
「夢じゃ、なかったんだ…」
だから、バラム先生に誕生日を聞かてた時は、情報を言っただけにすぎなかったんだ。
なのに
「ハウェーヤー」
「ハウェーヤー」
「ありがとう」
「感謝する」
「ありがとうございます」
「ありがとうでござる」
「ありがとう!!」
「深く感謝致します」
そして
「生まれてきてくれて…ありがとうイルマくん」
大好きな家族の、おじいちゃんの優しい手に撫でられ、僕は『生まれてはじめて』生まれてきて良かったって、嬉しいって思えたんだ。
とめどなく涙は流れていたけど、僕の心は凄く暖かな気持ちで、ポカポカして本当に、
「みんな、ありがとう…!!!」
もう、会うことはないけれど、この気持ちだけは伝えたかったな。
僕を産んでくれてありがとう。
僕は、今、大好きな悪魔たちに祝福され、本当に幸せです。
鈴木入間
人間
居住地魔界
幸せに生きています。
おしまい