キスしないと出れない部屋 推定三度目の光の奔流が部屋を満たす。
そう広くない部屋を染め上げた閃光に目をつぶって、再度目を開けても特に変化は見られなかった。
「……一真さん。これ、強行突破は無理なのでは」
数歩前で扉に向かって刀を向ける一真に、三四は諦め交じりの言葉を投げかけた。
限定解除を三度受けても傷一つ付かない異常な扉を見た三四は、それに書かれた文字列を読み返しては困惑するばかりだった。
――曰く、『キスしないと出れない部屋』、らしい。
◇
何故このようなトンチキ空間に二人して放り込まれたのかと言われると理由は単純で、二人でふと足を踏み入れた廃墟の一室が一瞬でアホンダラ空間に切り替わっただけのことである。決して知りながらうっかり入り込んで閉じ込められただとか、そこまでの馬鹿をやらかしたわけではない。
閉じ込められたことに気付いた一真が咄嗟にB.D.Aを起動して蹴破ろうとしたが時すでに遅く、大山祇命戦の際のように制限解除を連続で行おうとももうどうにもならなかった。なんなら三四が言葉を投げなければ四度目の限定解除を行おうとしてたところである。
三四は白服のポケットに入れていた粒子計測器を取り出してその数値を見る。大気中の粒子濃度を測定するのに特化した計測器のモニターには、おおよそ考えられないほど高い数値が表示されていた。
「一真さん」
「ッ、呰上、外と連絡は取れたか?」
「いえ、駄目です。おそらく通信ができないのは粒子濃度が高すぎるためかと」
そう言いながら、計測器のモニターを見せる。
度々聞かされたことだが、粒子濃度が高い場所、例を挙げると密林などでは通信機器や探知機などが正常に使用できなくなる恐れがある。閉じ込められた二人が助けを呼べないのはこれによる阻害を受けていたからだった。
通信が未だ取れない以上は、自力で脱出するしかない。
三連続の限定解除で帯び始めた熱を吐き出すように息をついた一真は、通算四度目の限定解除を行おうと、ふざけた文言の書かれた扉の前に向きなおろうとして、流石に三四に止められた。
「一真さん。流石に、三度の限定解除で無傷ならどれだけやっても無意味だと思います。先に一真さんの身体に異常が出ますよ」
「…………」
「粒子の異常濃度でほぼ確信したんですが、おそらくここから出るにはあの文言の条件を満たすほかない、と思われます」
少し気まずそうに文章を一瞥して、三四はまた計測器に目を落とす。
元々、二人がこの周辺を散策していたのは大気粒子の濃度の測定のためだったのだ。一か所だけ粒子の流動に僅かな異変を発見していたため、三四が直接現場に行って粒子濃度を測りつつ探索していたところ、ちょうど通りがかった一真が同行していた形である。
現在いる部屋に入った途端に計測器がバカみたいな数値を叩き出したものだから、急いで引き返そうとしたが間に合わず現在に至る。
一真が力ずくで脱出を試みている間、三四は計測器の数値を思い浮かべながらこの現象がなんなのかずっと思考を回していて、おおよそ考えうる可能性に辿り着いていた。
「……呰上、この状況について何かわかったのか?」
「わかったというか、推測の域を出ませんが……一真さんは、王冠種の固有宇宙観の力はご存じなんですよね?」
「ああ、一度ジャバウォックの力を体感したことがある。王冠種自身の粒子で空間を満たして、この宇宙の物理法則と異なる概念法則の領域を敷く力だろ?」
「はい。この空間は、おそらくその性質に極めて近い力が働いていると思われます。無論、王冠種と比べれば質も量も極めて低いものではありますが」
ジャバウォックの固有宇宙観の領域を体感して生還したのか、と内心で驚きつつも極めて冷静な声音で考えを述べる三四。その考えを聞いた一真は、ふむと口元に手を当てて脳内で噛み砕いた。
「なるほどな。材質的にどう考えても強度のない扉が壊れないのも、この部屋にだけ固有の概念法則が敷かれているからだったのか。なら、脱出条件が明確にされているのは、明文化することでそれ以外による脱出を封じる力を強めている意味合いもあるのかもな」
「おそらくその可能性は高いと思います。本来王冠種のみの力ですから、それくらいの制約の下でしか発揮できないのかもしれません」
……。
とすると本当に、扉に書かれた文章通りのことを行うしか脱出方法がないわけだ。
一真は頭を抱えた。
(どうする……⁉ 方法がその一つしかないって言ったって、呰上にキスするわけにもいかないだろ……‼)
三四は落ち着いており多少大人びているようには見えるが、まだ十二歳の少女だ。思春期に差し掛かるかどうかの未熟な女の子にそういった行為を強要するのは、一真の倫理観では到底受け入れられるものではなかった。
しかし思い悩んだところで状況が変わるわけでもない。
その様子を見ていた三四は、ぎゅっと手に力を込めて覚悟を決めた。
(……子供の私を相手に、一真さんから言い出すことはできないんだろう。なら、私の方から言い出すしかない)
もとより今回の探索に無関係の一真は、ほぼ巻き込まれたに等しいものだ。なら、これ以上このトンチキな状況に付き合わせるわけにはいかない。
「一真さん。……私なら平気なので、一思いにどうぞ。これ以上一真さんの時間を取らせるわけにはいきません」
「っ、呰上、だが」
「大丈夫です。……平気、ですから、早く終わらせて帰りましょう」
そう言って、ぎゅっと目を瞑る。
僅かに差し出された唇は真一文字に結ばれて、緊張のせいか力が入っているようだった。
言わずともわかることではあるが、三四にはこうした経験がない。九州にいたころは言わずもがなであるし、こちらに移り住んでからもまだ日は短く、親密な異性というのもいないため、自動的にこうしたことを経験する機会はまだ訪れてはいなかった。
故に作法などてんでわからない。
三四にできるのは一真からのキスを受け止めることだけ。
努めて平静を装いながら、強張る手を背に隠して待った。
――そして、当然その強がりを一真も見抜いている。
(……呰上にここまで言わせてしまうなんて、情けないな)
目を伏せ、己の優柔不断さを恥じ入った。
この言葉を口にするのにどれだけの勇気を振り絞ったのだろう。ここまでの反応を見ていれば、キスという行為になにも思っていないわけがないことぐらいすぐわかる。
自分の緊張も不安もすべて押し殺して待っている三四を見て、一真は一周回って頭が冷えてきた。
(……扉に描かれているのは『キスしないと出れない部屋』の一文だけ。ざっと全体を見渡しても、それ以外の注釈はどこにも記載がない)
……往々にして。
簡潔に書かれた一文というのは、拡大解釈が容易である。細かい指定がない以上は、『この行為は条件を満たしている』と言いくるめやすい。なら、
(……唇同士の接触に限定されていない。そもそもキスという言葉の定義自体、頬や手なども含まれていたはずだ)
無理に唇を重ねる必要もない。
頬、額、手、髪。冷静になって考えれば、候補はいくつか挙げられる。となれば一真が取るべき選択肢は――
「……呰上」
名前を呼ばれて、ビクッと肩が震える三四。
閉じられた目の目尻や、引き結ばれた口に力が入る。きっと手首に触れれば早い鼓動がわかりそうだ。
三四の前で片膝をついて目線を下げる一真。
ここまでの思案は約二秒ほど。
導き出した結論以外を頭から追いやる。
おそらくは、これがこの状況での最善策だと信じて、一真も覚悟を決めて三四に手を伸ばした。
「……手、出してくれ」
「……? 手、ですか?」
「ああ。右でも左でも構わない」
想定外の言葉に、疑問符を浮かべながらも閉じていた目を開ける三四。自分の目の前に膝をついている一真に僅かに面食らうも、言われた通りに右手を差し出した。
小さなその手を取って引き寄せる。
まるでエスコートの一場面のようだったが、当人たちは極めて真面目だった。
白い指先を前にして、最後に一度呼吸を整えて。
――そっと、指先に軽くキスを落とした。
「――へ、あ」
想定していなかった光景に、三四の口から言葉になっていない声が零れる。
指に添えられた手の感触や、指先に僅かに触れる唇の感覚、それらを内包した視覚情報を理解して、
……ぶわ、と数瞬遅れて顔が真っ赤に染まった。
心拍数は心配になるほど高く引き上げられている。口を重ねられることに対しては覚悟をしていたが、こんな、うやうやしい仕草でキスされるとは露にも思っていなかった。
不意打ちの光景に、防御できるわけもない。
ショート寸前の三四の頭はもう身体に何の命令も下すこともできずに、ただただ手を差し出したまま石のように固まってしまっていた。
一方で、キスをした張本人である一真は特に動揺も見せないまま指先から口を離した。彼にもこのような経験はないため、頭の中の知識を総動員して振舞っていたのだが、終わってから不安が押し寄せてくる。ただしそれをおくびにも出さないようにして、伏せていた目を上げて三四の方を見上げて、
「……呰上、大丈夫か」
「……え、あ、ひゃいっ⁉ はい、だ、大丈夫です……!」
林檎のように頬を真っ赤に染めた三四の視線とかち合う。
珍しく裏返った声には相当の動揺が含まれていて、手を引っ込める様子もない。翡翠色の瞳は揺れ、しかしずっと一真のほうを見つめているばかりだ。
この動揺が伝わってきたのか、じわじわと一真の方も気恥ずかしさに襲われる。表情にこそ出してはいないが、僅かに視線を彷徨わせていた。
「……すまない呰上。出来るだけ不快にならないよう考えたつもりだったんだが、嫌だったか?」
「い、いいえ。嫌でも不快でもなかったですが、その、……こ、心の準備が、できてなくて」
紅潮した頬を隠そうと手を当てる。いつもとは比べ物にならないほど熱を帯びていて、鏡を見なくとも自分の表情がわかってしまいそうだった。
引っ込めどきを逃して未だ一真に取られたままの手にはもうほとんど感覚がない。心臓は相当な頻度で鼓動を打っているというのに、末端にはどうやら血液を送ってくれてはいないようだった。
「あ、いえ、その……、そう、でした。何も唇が触れ合うことだけがキスというわけでもないんですよね」
「ああ、これで扉が開いてくれるといいんだが……」
そう言って、視線を扉の方へ向ける一真。
特に鍵の開くような音はしていない。ぱっと見は何も変わっていないように見えるが――
「……『片方脱出可能』?」
初めに記載されていた文言の下に、注釈のように付け足された小さな文字が並んでいた。
片方、恐らくは一真の方だろう。このキスの仕方では三四の方は脱出条件を満たせていないらしい。随分と要望の多い部屋だな、と内心で呆れている一真のそばで、三四は半分放心状態のまま、追加された文章を眺めていた。
(……片方、ということは、私のほうからも一真さんにキスしないと出れないということ……?)
ぼんやりとした頭で考える。
さてどうしようか。三四はここまで自身が受け止めることしか考えていなかったため、自発的にやるとなるとまた別種の覚悟が必要になってくる。具体的には羞恥心に打ち勝てるかどうかだ。
「……呰上。やれそうか?」
「うあ、う、……やれ、ます。やります」
添えられたままの手をぎゅっと握って、しどろもどろになって答える三四。
ぐ、と力のはいる指先には熱が集中している。触れられているからきっと一真にも伝わっているはずで、ますます羞恥心が増幅していくような気がした。一真の方は落ち着いていてまるで自分だけが意識しているように思えてなおさらだ。
……表情に出してないだけで割と一真も気恥ずかしく思ってはいるのだが、三四が知るわけもない。
少しだけ目を閉じて、ふっと息を吐く。
形だけでも冷静さを取り繕って、あとはもう何も考えずに動くことにした。動かなければ恥ずかしさだけが募っていくばかりである。
目の前に膝をついたままの一真を相手に、手を繋いだまま三四もそばにしゃがみこんで。
……もとより三四にはこの一択しかなかったらしい。
記憶を手繰って唯一知っていたキスの形。それを頼りに三四は目を瞑ったまま、小さな唇で一真の頬にキスをした。
ちゅ、という効果音が合いそうなくらい、とても可愛らしいものだった。
「…………。その、響や吹雪がしてくれたのを真似たんですが、大丈夫でしょうか……」
恐る恐る顔を離して、目線を彷徨わせながら零す。
一方で一真の方もこれには少し驚いたようで、僅かに目を見開いてちょっと固まっていた。
「……、あ、すまない。てっきり呰上も手にするかと思っていたから、ちょっと面食らった」
「それはその、少しだけ考えたんですが……、一真さんのように綺麗にできる自信が無くて、」
それに、と続く。
「……少し前に博士から、頬のキスは親愛の意味があるって聞いたことがあったので、合うかな、と……」
言いつつまたじわじわと羞恥心が襲ってきてるような気がしたが、知らないふりをしておいた。これ以上感情に振り回されては、今後も一真の顔が見れなくなるような気がしたのだ。
数瞬経って、どこからかガチャンと鍵が開くような音が響く。音の方向は扉の方からだったので、きっとこれで三四も脱出条件を満たせたのだろう。お互いようやくホッと息をついた。
閉じ込められてからそんなに時間は立っていないが、それにしては感情の起伏のせいか疲れた。
……前にいる一真が立ち上がったのはわかったものの、未だに目を合わせることができない。今一真がどんな表情をしているのか知るのが少しだけ怖かった。
「呰上? 立てるか?」
未だ繋いだままの手で三四が立つのを支えてくれている。はい、といつもの声音を作って、三四も立ち上がって扉の方を向いた。
「おそらく開いたはずです。……何も起こらないうちに出ましょうか」
「ああ。……なんというか、不思議な部屋だったな」
ガチャ、と今度はすんなりドアノブが回る。そのまま力を入れればあっさりと扉が開いて、廊下の窓越しに外の景色が見えていた。
数歩出て、そういえばと一真は気が付く。先ほどからずっと三四の手を握ったままだった。握っている、というか三四が掴んでいるので自動的に繋がっているのだが、離されないのはきっと三四が忘れているだけだろう。
ずっと三四と視線が合わず、僅かにうつむいて見えるのは気のせいではないだろうな、と一人考えた。あのようなことがあった後では顔も合わせづらいだろう。こっちだって、たとえ子供の三四相手でも気恥ずかしいものは気恥ずかしいのだ。三四からすれば何倍も恥ずかしかったに違いない。
さてどうフォローすべきだろうか、と内心でせわしなく考えつつも、努めて表に出さないようにする。空いていた片手は無意識のうちに後ろ髪を搔いていた。
「……一真さん」
名前を呼ばれると共に、ぱっと手が離れる。ようやく三四の方も気が付いたらしい。
「巻き込んでしまってすみません。あと、探索を手伝ってくださってありがとうございます。……今日のことは私が千尋さんに報告するので、一真さんは先に休んでください」
普段とあまり変わらない声音。しかし僅かに取り繕った感じが滲んでいるのは、やはりまだ少し動揺が残っているのだろう。普段通りに接しようと努めている三四の意を汲んで、一真も普段通りに言葉を返した。
「報告、俺も行かなくて大丈夫なのか? 別に予定もないし、少しくらいなら付き合えるぞ」
「いえ、流石にそこまで付き合わせるわけには。……あ と、その。一真さんの前で一連の流れを話すのは、やっぱり少し恥ずかしくて」
「そ、そうか。なら俺はまた後日天ノ宮のところに話しに行く。……あと、呰上」
一瞬言葉を切って、三四の方に向き直る一真。
ここでようやく、三四は顔を上げて一真と目を合わせた。
「……どうしようもなかったとはいえ、軽々しく呰上に触れてしまってすまない。最初の方も、不安にさせてしまった」
「い、いえ。私は気にしていませんし、不安と言ったってそもそも私が早とちりして唇同士だと思い込んでいただけです。一真さんはちゃんと別の解決策を示してくれました」
こちらがお礼を言うことこそあれ、謝られる筋合いはない。そう主張すれば、一真は僅かに目を細めたのちに優しい仕草で三四の頭を撫でた。
「……。そういうのは、呰上に大切な人ができた時まで取っておいてくれ。あまり軽々しく投げ打っていいものじゃない」
「――……、」
女の子としての三四を案じる言葉。
状況的に仕方なかったとはいえ、容易に男に唇を差し出す三四の無防備さを心配しているようだった。確かにそうだと三四は内心で反省すると同時に、こうした心配をしてくれるのが少し嬉しく思えた。
「……それじゃあ、図書館まで送る。そろそろ日も傾いてきたし、早めに帰るか」
「ありがとうございます。それでは、行きましょうか」
二人で、廃墟を後にする。
道中も会話を続けながら帰っていた。僅かにギクシャク感がじんわりあったような気がするものの、おおむね普段通りの二人だった。最も、双方物静かな二人だったため緩やかなやり取りであり、あまりわからなかったけれど。
日が暮れる一時間前くらいには、二人は図書館の前に着いていた。軽く別れの言葉を交わしたのち、三四は図書館にいる千尋のもとへ、一真は宿舎の方へと帰っていった。
◇
その後、無事に千尋へ報告も終わり、一人帰路に就く三四。まあ、無事にと言われると少し語弊があるものの、完遂はしたから問題ないだろう。具体的には一真が三四にキスしたあたりの部分で千尋が「事案じゃない?」などと言い出したりなどだ。後日一真の方からも報告をしておくらしいが、彼がちゃんと弁明できるかどうかは三四にはわからない。三四の方からもやれるだけの弁明はしておいた。
取り繕う。
報告のときからずっと公私の公の部分を前面に出すことで、ずっと冷静な受け答えができてた、と思いたい。もしかしたら報告中も千尋にはバレていたかもしれない。
宿舎に着く。自室に戻って、扉を閉めて鍵をかけた。
「…………。」
そのまま、力が抜けたかのようにずるずるとドアの前に座り込んだ。
(…………私、ずっと一真さんのことばかり考えてた)
ずっととくとくと鳴っている心臓を押さえながら、自分の右手を見る。
未だ指先が熱い気がする。
……差し出した右手と、上になる手の甲。
それが、部屋の中で見たあの光景と重なって。
「――……ッ‼」
三四の意思とは関係なく、一瞬でフラッシュバックする映像。目に焼き付けてしまったそれは鮮明に思い出せてしまって、三四の頬を急激に紅潮させるには十分だった。
「………………。」
思わず両手を頬に当てた。酷く熱を帯びている。
ドクドクとなる心臓。思い出すたびに心臓を鷲掴みにされるような未知の感覚。目が回りそうになる。
思い出すのはあの部屋での一真の姿ばかり。
羞恥心。羞恥心、だと思っていたもの。情緒の育ち切らない三四では瞬時に判別しきれなかったそれ。遅効性の毒のように緩やかに理解した正体。
……とどのつまりは。
一真からのキスは、三四の初恋を奪うには十分すぎるほどの衝撃だったわけだ。
『……呰上に大切な人が出来た時まで――』
部屋から出た後に一真から言われた言葉が脳内で反響し続けている。
この言葉を受け取った時は、まだずっと遠い未来のことだと思っていた、けれど。
…………存外早く、来てしまったのかもしれない。