或る従者と職人の物語(「極まれり」前日譚) 離宮の衣裳部屋は夜半近くにもかかわらず、未だ明かりを灯していた。
整然と並べられた衣装と帳面を前に、少年は眉を寄せて立ち尽くしていた。黒髪は薄いフードの下で微かに揺れ、手元のランプに照らされた顔には、年齢にそぐわぬ緊張が浮かんでいる。
「……どうして、同じ意匠を」
細く吐き出されたその声に、虚空が静かに応じた。明日、王の御前で催される舞踏会。その場に出る主のために用意していた髪飾りが、他の妾のものと酷似していると、つい先ほど報告が入ったのだ。
しかも、相手は主の因縁浅からぬライバル__装いの「格」で負けることなど、決して許されるものではない。
少年は唇を噛んだ。間違いなく、自分の落ち度だ。詰めが甘かった。仕立て屋から衣装を受け取ったとき、もっと念入りに検分すべきだった。
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