星と狼と悪巧み星と狼と悪巧み
「内密で相談がある」
そう言われてダーランに呼び出されていたシンユエは酷く緊張していた。
ロアール商会に拾われてから生活は安定向上して飢える事も兄に怯える事もなくなった。好きなだけ研究出来るし、存分に医術を振える。そんな都合の良い環境に裏がない訳ない。
何を言われるのか。そう不安に思いながらも元気になった師匠や生き生きとしている兄弟弟子の顔を思い出して自らを奮い立たせる。
セイアッドに救ってもらった時から、何でもすると決めたのだから。
覚悟を決めてダーランの執務室のドアをノックする。すると、中からは間延びした声でどうぞぉと返事が返ってきた。
緊張感のない声に若干安堵するが、短い付き合いの中でもこの男が一筋縄でいかない事を嫌と言うほど思い知らされている。
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