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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    支部に投稿した宇鬼化ifうぎゅ、鬼宇がチート

    ##宇妓
    ##鬼化if

    訳あり下弦様江戸後期…人の世が乱世に包まれる中、ここ無限城では、1つの死闘が終わりを告げた。

    「ほう。さすがだな天元…下弦の壱をいとも容易く葬るとは…」

    「お褒めに預かり光栄でございます、無惨様」

    鬼舞辻無惨…鬼の始祖であり、鬼にとって絶対的君主。鬼が彼に逆らう事は死を意味する。そんな無惨の前に頭を垂れているのは、青みの強い菖蒲色の着流しに、金色の生地に色とりどりの華をあしらった派手やかな羽織を纏った、銀糸の髪をした男…紅の瞳と、左眼の赤の紋様が特徴的な整った顔のその男の名は『天元』。下弦の弐であった鬼。

    「今より貴様が下弦の壱だ」

    無惨のその言葉により、天元の左眼の文字が『下弦弐』から『下弦壱』へと変わる。

    「随分と早い昇格だ。これからも期待しているぞ」

    「ありがたきお言葉でございます」

    「ところで天元…」

    「はッ」

    「私の見たところ、貴様は既に上弦に匹敵する実力を持ち合わせているようだが…このまま上弦にも入れ替わりの血戦を申し込むのか?」

    「そうですね…そうなりますと、まずは上弦の陸様へ入れ替わりの血戦を申し込む事になりますでしょうか?」

    「そうなるな。今のお前ならばアイツも苦戦を強いられ…」

    「ならばお断りいたします」

    「ッ何?」

    「"嫁"と入れ替わりの血戦などしたくありませんので」

    「………は?」

    言葉を途中で切られた事に怒りを顕にした無惨だが、その後すぐの満面の笑顔で言い放たれた天元の言葉に思わず気の抜けた声を出してしまう。

    「"嫁"とは…まさか堕姫……」

    「いえいえ。妓夫太郎でございます」

    「………は?」

    「ですから、妓夫太郎が俺の"嫁"でございます」

    上弦の陸は、兄・妓夫太郎、妹・堕姫の二人の兄妹からなる。無惨としては、実力も向上心も高い兄・妓夫太郎を上弦の陸として認めてはいるのだが、その妓夫太郎が"嫁"……?確か妓夫太郎は、天元のような見た目も実力も備わっている者を忌み嫌っていた筈なのだが。

    「……それは貴様の妄想」

    「いえいえ。既に接吻も情事も済ませております」

    「ちょっと待て」

    無惨は一瞬困惑した。
    接吻も情事も…?上弦がその様な事をすれば、視覚共有や思考を読み取ったり等ですぐに分かる事。やはり全て天元の妄想か。
    変わり者とは思っていたがまさか衆道でそんな妄想を嗜む者とは思っていなかったと、無惨は呆れ気味に天元を見つめた。
    そんな無惨の様子に、天元は恐れ多くもフッと笑みをこぼす。

    「何が可笑しい」

    「いえ。無惨様はご存知かと思いますが、俺は忍びの出身。そして忍びは他人に思考を読まれてはならぬ生き物…その為、幼き頃からそのすべを叩き込まれております」

    「…知っている。だからこそ、貴様は唯一私が視覚共有も思考読み取りもできぬ鬼…」

    本来ならば天元の様に、何を考え、何をしているか分からぬ鬼は始末してしまう無惨だが、天元の実力を考慮し、生かし続けている。
    それは事実であるが、視覚共有と思考読み取りは妓夫太郎にはできる為、妓夫太郎とその様な事となっているならば妓夫太郎を通じて気付く筈である。それが無いという事は、やはり天元の虚言……

    「鬼となった今、その術を他人…"嫁"に施す事など容易でございます」

    「ちょっと待て」

    本日二度目の「ちょっと待て」。
    にこやかに話す天元に、無惨は額に血管を浮き出してしまう。

    「まさか妓夫太郎にも施したのか?視覚共有と思考読み取りを弾く術をッ…」

    「ええ。最初は俺が施したのですが、やはり妓夫太郎は素晴らしい才能でございますね。コツを教えたらすぐに習得致しました」

    「ちょっと待て!妓夫太郎自らその術をやったのか!?」

    本日三度目の「ちょっと待て」は強め。
    無惨は少なからずショックを受けてしまった。この何を考えているのか分からない変わり者ならば舐めた真似をしてくる事は想像できるが、あの妓夫太郎が…荒くれているようで、実際は礼儀を尽くす妓夫太郎が、自分に許可なく視覚共有と思考読み取りを弾く術を使った等、無惨は信じきれなかった。

    「それはそうでございます。無惨様に自分のあられもない姿…この場合は声でございましょうか。聞かせるわけにもいきませぬし、何より俺が可愛い"嫁"の喘ぐ声を他人に聞かせたくありませんので」

    「オイ…最後の本音は私に隠すべき事ではないのか?」

    「ハハハ。無惨様に隠し事等しとうありませんからッ」

    「ならば、すぐ様視覚共有と思考読み取りを弾く術を解けッ」

    「それはそれ。これはこれでございます」

    「貴様…いい加減そのふざけた態度を改めなければ、私直々に手を下すぞ」

    「それはそれは。誠に嬉しい限りでございます。無惨様ともなれば、それは素晴らしい『譜面』が完成する事でしょう」

    「……貴様は本当に食えぬ男だッ」

    この場で手を下す事もできた。だが、天元の『譜面』なる能力は必ず役に立つ。
    人間の時より天元が持つ能力『譜面』。相手の攻撃を音に変換し、攻撃の癖、死角をつき、音の隙間を攻撃すれば相手へ打撃を与えれるという唯一無二の能力。鬼となった今、『譜面』最大の欠点であった『完成までに時間がかかる』を克服し、常時『譜面』完成状態となっている天元。それに加え、その完成された『譜面』についていける身体能力も得ている。
    とことん気に食わない男だが、その能力と実力は本物であり、無惨は天元に手を下す事を諦めざるをえなかった。

    「改めて私に忠義を誓え。そうすれば今回の無礼を許してやろう」

    「勿論でございます。無惨様には感謝しかございません。抜け忍となり、里の忍び、そして血を分けた兄弟達からも命を狙われる地獄の日々から救っていただいた無惨様へ、未来永劫の忠義を誓わせていただきます」

    「ふん。それでいい。これからも期待しているぞ天元」

    「はッ。それともう一つ…無惨様へ感謝しなければならぬ事があります」

    「何だ?申してみよ」

    「可愛い"嫁"に出会え、俺は誠に幸せ者でございます。鬼にならなければ出会えなかった事でしょう。無惨様には感謝しかございませんッ」

    天元から忠義の誓いを告げられ気分を良くしていた無惨だが、忠義を誓った時よりもハキハキと強くしかも満面の笑顔で妓夫太郎との出会いを感謝している事を告げてきた天元に、思わずガクッと膝の力が抜けてしまう。

    「それはわざわざ申さなくても良い!そして私は徒党を組む事を許していないからな!」

    「徒党ではありません。ただの夫婦…この場合は夫夫か…でございます」

    「言い直した理由は何となく察したが、同じ「ふうふ」なのだから別に言い直す必要はないだろ!」

    「無惨様から妓夫太郎と夫夫である事を認めていただき光栄でございます」

    「別に認めたわけではないからな!いい加減貴様と話していると疲れる!もう帰れ!!」

    「はッ。ではこれからは「下弦の壱」として、無惨様の為、働かせていただきます」

    鳴女の琵琶の音と共に(実はずっといた)天元の足元に襖が現れ、天元はその襖に落ちていく。その際、「まぁぶっちゃけ妓夫太郎と過ごせりゃ良いんだけど」と本音を残していく…。

    「アイツ最後に何か言っていったな!?」

    無惨は心底思う…。

    アイツは嫌いだ…と。


    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

    月明かりも届かぬ程木々が生い茂る山の中、「下弦の壱」天元は、瓢箪を片手に走っていた。その速さは音速の域を超え、常人…いや、上弦の鬼以下ならば目にする事も不可能だろう。そんな速さで彼が向かう先は、眠らぬ街…遊郭『吉原』。そこに彼が最も会いたい者がいる。

    「ん?」

    まだ山中ではあるが、天元は足を止めた。そこは、吉原の灯りが小さく見える場所。そんな場所でとある影を見つけた。

    「何だ。わざわざ迎えに来てくれたのか」

    「…そういうつもりじゃねぇよぉぉ」

    うねりのある緑髪、そして極端に細い腰回りとゴツゴツと出ている背骨と肋骨と坐骨という特徴的な身体。顔と身体にはいくつも痣があるその男の黄色眼球の両瞳には、『上弦』『陸』の文字。上弦の陸・妓夫太郎である。
    妓夫太郎は気だるそうにしながら、天元へと近付いてくる。

    「んじゃ何でこんなとこ居んだよ。滅多に妹から出てこねぇお前が」

    「その妹がお前に会いたくねぇつうから、俺だけ会う為にここまで来たんじゃねぇか」

    「それ、迎えに来たのと変わらなくね?」

    「迎えには来てねぇぇ。お前ぇとの用事はここで済ませるつもりだからなぁぁ」

    「出迎えてはくれたんだな」

    自分に会う為に出不精にも関わらずわざわざ出迎えてくれた妓夫太郎の行動が嬉しくて、天元は「嬉しいぜ、ありがとな」と微笑みを浮かべ妓夫太郎を抱き締める。

    「ッ…急に抱きつくんじゃねぇぇッ」

    「ん?俺が教えた通り、視覚共有と思考読み取りを弾く術使ってんだろ?」

    「ィヤ…まぁ、使ってるなぁぁ…」

    「だったら良いじゃねぇか。誰かに見られるってわけじゃねぇんだし」

    「そういう事じゃねぇんだよなぁぁぁ」

    「んじゃどういう事……あぁ。照れてんのか」

    「照れてねぇわッ」

    抱き締められる事に慣れていない妓夫太郎が天元に抱き締められ照れている事は明白なのだが、本人は頑なにそれを否定するので、天元は内心「可愛い奴」と思いながら笑みをこぼす。

    「ッつか、ちゃんと「壱」になってきたんだなぁぁ」

    天元の紅の瞳に刻まれた文字を目にし、妓夫太郎はその左目元を擦るように手を当てる。

    「心配したか?」

    「いんや全然」

    「オイ」

    「お前ぇなら楽勝だろうと思ってたわ」

    「まぁぶっちゃけ楽勝過ぎて拍子抜けしたわ」

    天元の言う通り、入れ替わりの血戦は一瞬で決着がついた。本来なら再生しあう鬼同士の死闘…長期戦に成りかねないのだが、天元の圧倒的力と速さで再生する間もなく散っていた元下弦の壱。
    そんな天元の実力を知っている妓夫太郎は、その身を一切心配していなかった。心配している事といえば一つ…

    「次は俺ら「上弦の陸」を狙う気かぁぁ?」

    口元は口角を上げニタリと笑っているが、下から覗き込むように睨みつける妓夫太郎。
    下弦の壱の上、それが上弦の陸。天元が上を目指すならば、次に血戦を交えるのは妓夫太郎たち兄妹となる。
    大事な妹をこの男と戦わす気は無い妓夫太郎は一人でこの男に勝てるのか…と今の今まで深く考えていた。
    考えた結果…おそらく自分は負ける。長期戦になればなる程、この男の『譜面』は研ぎ澄まされていき、自分の身体を斬り刻んでいくだろう。そうなれば再生能力も間に合わず、最後は力尽きて…

    「は?狙わねぇよ?何で俺がお前と血戦交えなきゃなんねぇんだよ」

    「……は?いや普通は上目指すもんだろうが」

    「生憎俺は普通じゃないんでな。嫁と交えるのは、寝床だけにしてぇわ」

    目を細め、口元に薄っすらと笑みを浮かべる天元。自分の言葉に目を丸くしている妓夫太郎のその細い腰に腕を回し、如何わしい手つきでその腰を撫で始める。

    「ッ〜!」

    腰からゾクゾクッと何とも言えない感触が伝わり、妓夫太郎は思わず身体をビクンッと震わせてしまう。その反応が可愛くて天元は手を更に下へと進ませていく。

    「ヤメッ…!テメェはなぁぁぁッ!」

    天元の腕から逃れようと力づくでもがく妓夫太郎だが、腕力は天元が上で逃れる事ができない。

    「こっっのッ、馬鹿力がぁぁぁぁぁッ!」

    「おう。その馬鹿力に降参して大人しく抱かれろ」

    「ふっっざけんなよなぁぁぁぁあッ!」

    「この前はあんなに俺によがってたじゃねぇか」

    「言うなぁぁぁぁぁッ!」

    「俺の嫁になったんだから嫌がるなって」

    「だから嫁になった覚えは無ぇッ……つかその嫁扱いッ!!」

    「ん?」

    「テメェッ!この前妹に「兄貴を嫁にくれ」って言いやがっただろ!?」

    「おう。そしたら「下弦なんかにやれるかぁ!」ってキレられたわ」

    「それで妹はテメェに会いたくねぇ言ってんだよ!」

    「マジか。んじゃ、この稀血で機嫌取らねぇとな」

    そう言いながら、天元は手首に下げていた瓢箪を妓夫太郎に見せる。揺れる瓢箪の中からはちゃぷんっという音が響き、中に大量の液体が入っている事が分かる。
    瓢箪の中身が稀血と聞いた妓夫太郎は、表情から怒りを消し、天元の腕から逃れる事を止めた。

    「それ稀血だったのかよ」

    「おう。手土産にな」

    「新鮮なうちに飲みてぇから寄越せ」

    「取り立てるなら、ちゃんと俺にも何かくれよ」

    「手土産なんだろうがッ」

    「妹にはな。お前には何かくれねぇとあげねぇ」

    まるで子供が悪戯を楽しむかのような意地の悪い笑みを浮かべる天元に、妓夫太郎は「このボケッ」と先程消した怒りを再び顕にし睨みつける。

    「お前に睨まれてもなぁ。可愛いだけなんだよなぁ」

    「ずっと思ってたけど、お前ぇの目腐ってんだろッ」

    「腐ってねぇよ。ほら、見てみ」

    「それ以上顔を近づけッ…ん〜ッ!」

    自分の目を見ろと言って顔を近づかせてきた天元は、そのまま流れるように妓夫太郎の口を己の唇で塞ぎ、舌を口内へと侵入させていく。

    「んッ…ぐッ…!」

    天元の舌から逃れようと首を反らそうとする妓夫太郎だが、天元により頭と腰をガッシリと掴まれ、首を反らす事も体を離す事もできない。
    口内に侵入してきた天元の舌は、妓夫太郎の舌に絡み出し、互いの唾液を絡め始める。

    「んッ…ぁふァッ…」

    執拗な天元からの攻めに妓夫太郎の体温は徐々に上がっていく。唇と唇の隙間からは熱い吐息が溢れ、頬を紅潮させていく。

    このままでは、またコイツの思い通りになってしまう。
    妓夫太郎の上弦としての自尊心は、それを許さなかった。

    「!ッ〜!」

    妓夫太郎の口内を犯していた天元は鋭い痛みを感じた。その痛みは、ガチンッという音が耳に聞こえた瞬間に天元の舌に走る。
    咄嗟に犯していた妓夫太郎の口から唇を離し、舌を抜き取ると、その舌の先は噛み切られ血が溢れ出ていた。
    ペッと妓夫太郎は噛み切った天元の舌を吐き出し、ニタリと笑ってみせる。

    「あ〜…ひょうはひゅるはねえはんひは」

    「何だってぇぇ?」

    舌を噛み切られた天元は思うように言葉が発せず、妓夫太郎には全く伝わらない。まぁそれも一瞬ではあった。

    「今日は許さねぇ感じかって言ったんだよ」

    天元の舌はすぐ様再生し、いつも通り話せるようになる。だが、その表情に先程までの笑みは無く、どこか威圧的な…獲物を狩る肉食獣のような瞳で、妓夫太郎を見下ろしていた。
    そんな天元の威圧的態度にも妓夫太郎は屈せず、ニヤリと余裕の笑みを浮かべながら、天元を挑発する。

    「当たり前だぁぁ…俺ぁ夜鷹じゃねぇんだ。そうやすやすと股開いてたまるかよぉぉ」

    「俺は夜鷹じゃなくて、"嫁"を抱くつもりなんだが?」

    「だぁからッ、嫁になった覚えは無ぇよッ」

    「散々俺にイかされた癖に?」

    「ぶち殺すぞッ」

    「素直になれって。今日も何度も何度もイかせてやっからよ」

    そう言い、天元は人差し指で妓夫太郎の顎をクイッと上げ、口元に笑みを浮かべながら舌なめずりをする。

    「ハッ!おっ勃ててみろよッ。今度はテメェのブツを噛み千切ってやっからよぉぉッ」

    天元の挑発に妓夫太郎も挑発で返す。このまま互いの意地をぶつけ合うかと思ったが…

    「…それって、俺のを咥えるって事だよな?」

    「噛み千切るっつってんだろうがァァッ!」

    「いやでも即再生すっし、そういう鬼ならではの行為も中々…」

    「おい変態。ちったぁ冷静になれ」

    常人なら考えもしない事を真顔で言ってくる天元に、妓夫太郎は若干引き気味になりながら、呆れた表情を浮かべる。

    「なぁ。噛み千切っても良いから1回だけやらね?」

    「ふっっっざけんなよなぁぁぁァアッ!」

    「俺のを咥えてるお前想像したら勃ってきたわ」
     
    「お前ッ…俺でおっ勃てるとか、とち狂い過ぎてんだろうがぁぁァアッ!」

    「お前は本当に自分が色っぽい事を自覚した方が良いぞ。無自覚に周りを誘惑されたら堪ったもんじゃねぇ」

    「お前ぇやっぱ目ぇ腐ってんだろッ。俺のどこが色っぺぇんだよッ」

    「どこがって聞かれてもなぁ…全部なんだけど。まぁ強いて言やぁ、痩せてんのにいい感じの胸筋と、そのほっそい腰回りと、意外と肉のついてる尻と…」

    「それ以上言ったらマジでぶち殺すッ」

    いつの間にか出していた血鎌で天元の顎を貫く妓夫太郎。妓夫太郎の血鎌には猛毒が仕込まれているが、人間の頃から毒に耐性のあった天元は、鬼となった今、その耐性力も高くなり、妓夫太郎の毒をすぐ様解毒していく。

    「お前が聞いたから答えただけだろ?」

    毒を受けてもケロッとしている天元に妓夫太郎はチッと舌打ちをする。

    「マジで相性最悪だなぁぁ…」

    猛毒使いの自分と毒耐性(ほぼ無効)持ちの天元。そして、唯一無二の様々な能力。天元と勝負をした際、自分の不利になる事ばかりで妓夫太郎は苛立ちを隠せない。

    「ん?相性なら抜群だろ?」

    「……何の相性だよ」

    「身体」

    「言うと思ったわッ」

    何の幸運か…自分の負けしか想像できない相手は、自分へ好意…というのか、物珍しさの興味というのか…とりあえず今はこちらを敵視する事はない様子。その為、自分達がようやく上り詰めた上弦への入れ替わりの血戦も行わないと豪語している。
    自尊心は多少傷付くが、今目の前の男と争う事は避けるべきだと、妓夫太郎は痛感した。
    だからと言って、嫁になるっというのは別の話。そもそも男で、しかも容姿の醜い自分を嫁にしようなど、本気なわけがない。例え…本当の本当の例えとして、今嫁になったとしても、いつか飽きて捨てるに違いない。まぁ確かに、この男との行為は今まで感じた事がない快楽を味わえたが、そこに特別な感情が果たして本当にあったのか。そもそも最初は無理矢理……

    「何かすげぇ腹立ってきたなぁぁぁッ」

    「ん?」

    「何で無理矢理犯されてあんな風になっちまったんだろうなぁぁ俺ぇぇぇッ」

    「俺の愛が伝わったからじゃね?」

    「生憎これっぽっちも伝わってねぇなぁぁぁぁッ」

    「んじゃ、お前が俺の事好きだからじゃね?」

    「はぁァッ?んなわけあるかぁぁッ!寧ろ嫌……ッ」

    「俺の事嫌いならここまで出迎えねぇし、抱きつかれんのマジで嫌なら飛び血鎌すりゃ良いのにしねぇし、今も何だかんだ言いながら抱かれてっし」

    「んなぁぁッ…!」

    天元の言葉にハッとしてしまう妓夫太郎。確かに天元の言う通り、その気になればこの状態から逃れる事はできた筈である。何故自分はその行動をしないのか…妓夫太郎の頭がぐるぐると回りだす。

    「お前自身気付いてねぇみてぇだけど、ぶっちゃけるとお前、俺の事かなり好きだぞ?」

    勝ち誇ったようににんまりと笑う天元が告げてきた言葉。それは妓夫太郎の言葉を詰まらせ、妓夫太郎の体を硬直させてしまった。
    硬直しながらも小刻みに震える妓夫太郎を天元は見下ろしながら、その紅の瞳で見つめ続ける。

    (さぁて…今度はどんな風に反論してくっかな)

    何を考えてるいるのか分からない、得体の知れない鬼…そう周りから思われている天元。だが妓夫太郎への想いだけは真実で、常日ごろから嫁にして幸せにしたいと思っている。だが、その想いは中々妓夫太郎に伝わらず、時には苛立ちが静かに爆発し、無理矢理犯すといった暴挙に出てしまった事もある。今もその兆しが微かに出ていて、妓夫太郎の反論によっては、また苛立ちが爆発し、無理矢理犯してしまうと天元は確信していた。

    (鬼になった事でタガが外れやすくなったもんだ…おかげで幸せにしてぇ奴を泣かす羽目になっちまった。そこだけは鬼の欠点だな…)

    鬼は本能で生きるもの。人間よりも理性が欠落している。故に起きる感情の爆発。
    忍びとして感情を殺すよう教え込まれた天元でも、その鬼の本能にだけは逆らえない。
    天元は願う…これ以上自分を苛立たせないでくれと。自分を受け入れてくれと。
    本当は妓夫太郎が自分を受け入れてくれるまで抱く気はなかった。
    本当は無理矢理ではなく、優しく愛でながら抱きたかった。
    だから今日こそは…
    その願いを込めて、妓夫太郎の身体を優しく抱き締め、耳元に囁きかける。

    「今日は優しくする。だから、な?」

    天元にそう囁きかけられ、妓夫太郎の身体はビクッと大きく震える。
    やはりまた拒絶されるのか?
    そう思いながら、天元は妓夫太郎の顔を覗き込む。

    「……ん?」

    覗いた先の妓夫太郎の顔は、天元が想像していたものとは違っていた…。

    「ぃ、ぃや…だ、だからなッ……そ、その……す、す、すッ…き…とか……ぐぅぅッ……」

    耳まで真っ赤に染まり、『上弦』『陸』の文字が刻まれた瞳は左右に泳ぎ、何を言っていいのか分からず口をもごもごとさせている妓夫太郎。それは先程まで頑なに天元の気持ちを拒絶していた姿とは全く異なるもので、天元が始めて目にする妓夫太郎の恥じらう姿だった。

    「………」

    「ッ……ぅぅッ…な、なぁぁ…天、元…」

    始めて目にした妓夫太郎の姿を真顔無言で凝視している天元。そんな天元の名を呼びながら困惑した表情で上目遣いで見つめてくる妓夫太郎。
    その瞬間、天元の中で感情がパァンッと弾け爆発した。それは苛立ちではなく、愛情、劣情、そして独占欲…

    「て、天元……?」

    「……無理。それ反則過ぎんだろ」

    「は?……ッて、ちょっと待てぇぇッ!!」

    本能の赴くまま感情に従い、山中であろうとお構い無く天元は妓夫太郎を激しく抱いた。それはもう、デロデロのドロドロの甘々に。
    半ば無理矢理ではあったが、天元への想いを自覚した中、天元から何度も何度も愛を囁かれながらの行為は妓夫太郎の心と身体を満たしていった。それは妓夫太郎自らも唇を重ねていく程。
    本能に負け、またしても無理矢理始めてしまった天元だが、自分を求めてくれる妓夫太郎の姿に「結果良ければ全て良し!」と心の中で祝の扇を舞わせるのだった。


    ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


    吉原遊郭の一角、とある部屋で一人の花魁が苛立っていた。ブツブツと「お兄ちゃん何処行ったのよッもうッ」と呟いている。

    「よう妹!久しぶりだな!」

    「はァァッ!?」

    部屋の障子が開いたと思ったらそこには会いたくない男が笑顔で立っていて、花魁・堕姫は苛立ちの声を張り上げた。

    「ってお兄ちゃん!?」

    会いたくない男・天元の右肩にはぐったりとした兄・妓夫太郎が担がれていて、堕姫の苛立ちは増していく。

    「アンタ!お兄ちゃんに何したの!?」

    「何って……色々」

    「色々って何!?」

    「聞きたいか?」

    「言うなぁぁぁ…絶対言うなぁぁぁぁ……」

    妹に事を知られたくない妓夫太郎は、いつも以上に掠れた声で天元に口止めをする。

    「まぁそういう事だから言えねぇな」

    「お兄ちゃぁぁん!コイツに何されたのぉぉッ!」

    「聞かねぇでくれぇぇぇ……」

    「つか妹、お前、仕事は?」

    「お兄ちゃんがいなかったんだから客取ってる場合じゃないでしょ!?」

    「花魁だろ。頑張れよ」

    我儘だと思っていたが、まさか兄がいないだけで仕事をしないとは…と呆れる天元。まぁ客がいないおかげでこうして堂々と入ってこれたのだが。

    「というか!何でアンタがアタシを"妹"って呼ぶのよ!アタシのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけなんだからね!アタシを妹扱いしていいのはお兄ちゃんだけなんだから!」

    「ん?コイツの妹なら俺の妹だろ?正しくは義妹だけどな」

    「はァァ!?何言ってんの!?まさかアンタまたお兄ちゃんを嫁にするとかふざけた事言うんじゃないでしょうね!?アンタみたいな下弦がアタシのお兄ちゃんに手を出そうなんて千年早いのよ!!」

    「ん?俺の嫁になるって言ったよな?妓夫太郎」

    「……は?」

    自分の問いに対し天元が妓夫太郎へ聞き返した言葉に、思わず気の抜けた声を出す堕姫。
    そんな事ある筈がない。兄がこんな男の嫁になると言う筈がない。そう信じる堕姫だが…

    「言って……言っ………言ったなぁぁぁ……」

    肩に担がれたままの兄からの返答に衝撃が走り、目を点にしてしまう堕姫。担がれているせいか兄の表情は分からないが、耳が赤く染まっているのは見えた。

    「え?え?嘘?」

    「嘘じゃねぇよ。ちゃんと「天元の嫁になる」って言ってくれだぜ」

    「そんな…」

    誇らしげに笑ってみせる天元に、堕姫は愕然としてしまう。
    そんな堕姫の気持ちなどお構い無く、まぁ情事の最中だったけどな…と、天元は蕩けた表情で誓ってくれた妓夫太郎を思い出し、にやけそうな表情を引き締める事に集中していた。

    「ぅ……ぅうッ」

    「ん?」

    「うわァァァァァん!!お兄ちゃんのバカぁぁぁぁぁぁッ!!」

    「!?ギャン泣きかよ!?」

    「アタシがいるのにぃぃ!!そんな男の元に行くなんてぇぇぇッ!!」

    「ぃゃ……ちが………」

    小さな子供のように泣きじゃくる妹に声をかけようと思う妓夫太郎だが、天元に激しくヤられてしまったせいで思うように声が出せず、天元の肩で項垂れてしまう。そんな妓夫太郎の変わりにと、天元が堕姫を落ち着かせようとあやし始める。

    「落ち着けよ妹。別にお前から妓夫太郎を取るつもり無ぇから」

    「だってだって!嫁って!嫁って言ったじゃないィィィィッ!!」

    「妓夫太郎は今後もお前の側に居てお前を守るから安心しろ」

    「じゃ嫁って何よぉぉーーッ!」

    「だから、お前を守ってる妓夫太郎を俺が側に居て守るって事だよ」

    「……え?アンタまさか一緒に住む気?」

    「いきなり泣き止むなよ。嘘泣きと思われっぞ」

    驚く程ピタッと泣き止んだ堕姫に、さすがの天元も少々戸惑いを見せる。まぁ目に涙をいっぱい溜めているので、嘘泣きではないとは思われる。

    「まぁできるなら一緒に住みてぇけど…」

    「絶対ヤダ」

    「んじゃ俺が通うわ」

    「年に1回だけよ」

    「オイ。それ嫁にした意味ねぇよ。どこの七夕だ」

    「本当は数十年に1回にしたいんだから、これでも譲歩したつもりよ」

    「…毎回、稀血とか美人の肉とか手土産に持ってくる気だったんだけどな。あ、これ今日の手土産の稀血」

    「2日…いや、3日に1回ぐらいなら許すわ」

    年に1回だったのが、手土産と聞いた途端に3日に1回に変わり、天元は妓夫太郎に小声で「お前の妹チョロ過ぎね?」と心配そうに囁く。そんな天元からの囁きに妓夫太郎は「そこも可愛いんだよぉぉ…」と兄馬鹿ぶりを発揮する。

    こうして妹公認となり、下弦の壱・天元は上弦の陸・妓夫太郎を未来永劫その側で愛で守っていく事となる。
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