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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    支部に投稿したうぎゅ、ご都合主義

    ##柱鬼

    いつの日か日が昇り、小鳥たちが朝の訪れを報せてくれる頃…ある屋敷の奥深い部屋で、一人の男が眉間にシワを寄せていた。

    「おい……」

    「………」 

    「起きろ。おいッ」

    「………」

    「テメェ絶対起きてんだろッ」

    一式の布団の上で横向きで寝ている全裸の男を、もう一人の全裸の男が後ろから抱き締め寝ているという…情事後であることを匂わせるその状況で、抱き締められている男…深緑色をしたうねりのある髪質と特徴的な痣を顔や身体に持つ『鬼』の妓夫太郎は、自身に抱きついている大柄の男を起こそうと声を荒げた。

    「おいッ宇髄ッ!」

    「……宇髄じゃねぇだろ。天元な」

    「あーはいはいッ天ッ元!起きやがれテメェ!」

    妓夫太郎に抱きつく男、宇髄は妓夫太郎に名前を呼ばれても起きる事はせず、妓夫太郎の首元に顔を埋めスーハーとその匂いを嗅ぎ始める。宇髄のその鼻息が首元に触れ、妓夫太郎は思わず「んッ」と声を出しビクッと身体を震わせてしまう。

    「ッ…何嗅いでんだよッ」

    「お前の匂い」

    「分かってるわ!そうじゃなくて、何で嗅いでんだよって聞いてんだよ!」

    「何となく」

    「テメェ…寝惚けてんな?」

    宇髄の奇行に妓夫太郎は呆れた表情を浮かべ、ハァ…と深い溜め息をつく。

    「さっさと起きねぇと、愛しの女房達に見られっぞ」

    「この部屋には近付かねぇ約束だから大丈夫」

    「おい旦那。もうちっとシャキッとしろ」

    「お前が俺の嫁になるって約束してくれんならシャキッとするわ」

    「またその話かよッ…」

    宇髄の言葉に妓夫太郎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ「この野郎は…」と小さくぼやく。

    「テメェの左手と左目を奪った野郎を嫁にしようなんざ、お前頭どうにかなっちまったんじゃねぇのかぁぁ?」

    その妓夫太郎の言葉に、宇髄は埋めていた顔をようやく上げた。銀糸のような艶のある白髪の前髪の下にある左目には、大きな傷…そして、妓夫太郎を抱き締める大きな左腕には、左手が存在しない。それは、吉原遊廓での死闘の末失ったもの。そして、それらを奪ったのは、宇髄が今愛おしそうに抱き締めている妓夫太郎であった。

    「お前だって…一度は命を奪った相手に抱かれてんじゃねぇか」

    「……テメェには梅を引き取ってもらった恩があるからなぁぁ。求められたから応じてるだけだ」

    「梅だけを引き取ったつもりねぇよ」

    そう言い、宇髄は妓夫太郎の頸に舌を這わせ、チュウッと音を立て吸い付く。その行為に妓夫太郎は大きく身体を震わせた。

    「頸はマジでやめろって言ってんだろッ」

    「もう斬らねぇから安心しろ」

    「そういう問題じゃねぇぇッ。つか、いい加減起きろよなぁぁッ!」

    妓夫太郎の言葉に宇髄は耳を傾ける事なく、再びその首元に顔を埋め、スーハーと匂いを嗅ぎ始める。再び始まった宇髄の奇行に妓夫太郎は「この野郎…」と呆れ気味になりながら、宇髄を起こす事を諦めてしまう。ここ最近はよくある事…最早日常と化した光景。
    妓夫太郎自身、何故こうなってしまったのか分かっていなかった。
    あの吉原遊廓での死闘の末、自分たち兄妹は頸を斬られ地獄へと堕ちた。そこまでは良い。その先が問題だった。自分たちを覆う炎に身を包まれたかと思ったら、頭の中に声が響いてきた…

    『哀しき兄妹……お前たちにやり直す好機を与えよう』

    その声に妓夫太郎は「は?」と目を丸くし、その瞬間目の前が真っ白になった。光が自分たちを包み込んだ…そう感じた。
    気が付けばそこは木々が生い茂る山だった。木々の隙間から満月が見え、月光が自分たちを照らしていた。

    「な、何なんだぁぁ?」

    夢を見ているのか?それともこれは地獄の試練??妓夫太郎は頭の中で色々な仮説を立てるが、正解に辿り着く事はできなかった。ただ分かっている事は、背中には大切な妹がいる事。そして、妹は人間の姿をしているが、自分は鬼の姿をしているという事……。妹は許され、自分は許されなかった……妓夫太郎はそう感じた。
    鬼である自分の背中でスヤスヤと可愛らしい寝息を立てながら眠っている妹を抱え直し、妓夫太郎は山の中を彷徨い歩いた。長い時間歩き続け、妓夫太郎はここが亡者が住まう地獄ではなく、生者が住まう現世であると確信した。夜鳥の鳴く声、肌に感じる風、全てが生を受けていた頃感じていたもの。
    やり直す好機?地獄で罪を償う事がそうじゃないのか?寧ろそちらの方が有難かった。何の幸福も得れなかった現世に再び舞い戻って来るくらいならば…おまけに自分は鬼の姿…妹の想いのおかげで人間の姿を取り戻した筈なのに、わざわざ鬼として黄泉がえさせるなんて…過去に仏や神を呪ってやると言った事への罰かぁ?と妓夫太郎はフッと笑った。
    だが妹は別だ。妹は人間として黄泉がえった。妹はやり直せる。妹だけは幸福の道を歩める。その為にも、誰か信用のおける人間に……誰だ?一体誰なら信用できる?……そもそも人間なんて今まで信用して来なかった…人間なんて欲望にまみれ、心の中には皆鬼を飼っている生き物…そんな奴らに大事な妹を任せられるか?だが鬼の自分だけではどうしようもできない…どうしたら……そう考えていた時、妓夫太郎の目の前に人影が現れた。その人影を月光が照らす…照らし出されたその姿が瞳に映った時、妓夫太郎は驚愕した……

    「何で…テメェ、生きてんだ……」

    確かにあの時はトドメをさせていなかった。だが自分の猛毒をあれだけ食らってその後生きてる筈無いと思ってた。あれだけ自分と激しい斬り合いをしたのだ。毒の周りも速かった筈。だが目の前に現れた男は、顔に傷こそ残れども、死の気配を全く感じれない程ピンピンとしていた…。

    「そりゃこっちの台詞だぜ…妓夫太郎」

    妓夫太郎にとって因縁の相手…宇髄天元は、顔を引き攣らせながらも笑みを浮かべて、妓夫太郎に歩み寄った……。

    その後、既に鬼舞辻無惨はこの世にいない、鬼殺隊も解散している、そして何より妓夫太郎自身に敵意がないという事で、宇髄は兄妹を自分の屋敷で引き取る事を決意した。妓夫太郎は妹の梅だけを引き取るよう言ったが、宇髄は半ば強引に妓夫太郎も屋敷に住まわせ、今に至る…

    「俺はお前ら兄妹がうちの裏山に黄泉がえってきたのは運命だと思ってんぜ」

    「何の運命だッ」

    「お前が俺の嫁になる運命」

    「んな運命は存在しねぇから安心しろ」

    「存在してっだろ。たった今」

    そう言いながら宇髄は妓夫太郎の耳裏に舌を這わせながら愛撫しだす。

    「ッ〜〜!やめろッつってんだろうがぁぁッ!」

    「ここ頸じゃねぇし」

    「テメェなぁぁあッ」

    耳裏を這う舌の生暖かい感触と、宇髄が言葉を発する度に吹き掛ける熱い息で、妓夫太郎の耳は熱く真っ赤になっていく。それがむず痒くて妓夫太郎は掻き毟りたくなるが、両腕を宇髄にガッシリとホールドされてしまっていて掻くに掻けず、妓夫太郎の苛々は募っていく。

    「第一、俺を嫁にって言うけどなぁぁッ、お前、俺の何処に惚れてんだぁぁッ?」

    「ん〜、あ〜…全部っちゃ全部だが…強いていやぁ、音か」

    「は?」

    「お前の音、何か落ち着くんだよな」

    「………」

    妓夫太郎は呆れた。惚れてる所はどこか?という質問に「音」と答える人間などまずいない。そもそも具体的でなく抽象的な答えを言ってくるあたり、そこまで自分を好いていないのだろうと妓夫太郎は思った。それに、自分の音と言ったら…

    「…俺の唄は汚ぇんだろ」

    宇髄のもつ能力『譜面』。攻撃を曲に見立てて譜面とし見極めていく能力。聴覚が優れている宇髄ならではの能力だ。その『譜面』により、妓夫太郎は敗北を喫したと言っても過言ではない。そして、その『譜面』が完成した時に宇髄から言われた言葉を思い出す…「読めてんだよッ!お前の汚ぇ唄はよぉぉッ!」その言葉を今否定するのか?そう思った妓夫太郎だが、

    「あぁそうだな…お前の唄は汚ぇ…」

    「否定無しかよ」

    否定されず、普通に肯定され妓夫太郎はガクッと力を抜かす。
    確かに自分の攻撃は我流で、宇髄のような細かな技巧のある美しい攻撃とはかけ離れてはいたが、そうハッキリと言われては流石に傷付くというもの…やはり自分の「音」が好きだなんて嘘だなぁぁと妓夫太郎は深く溜め息をつく。そんな妓夫太郎に宇髄が囁く。

    「お前の唄は汚なくて、荒くて、独特で…それでいてどこか魅力的で、それがド派手で正に俺好みの唄だった」

    「何だそりゃ」

    「そのままの意味だ」

    「後付だろぉぉ」

    「後付じゃねぇよ。実際、お前の音が裏山からしたから俺はあん時向かったんだ」

    「俺の頸を狩りにかぁ?」

    「違ぇよ。お前に会いたかったんだ」

    「それこそ意味が分からねぇ。テメェの左目と左手を奪った俺に会いてぇとか。普通は無ぇ左目と左手が疼くもんだろ」

    「あぁ疼いたさ。お前の音が耳に聞こえた瞬間から…今も疼いてらぁ」

    妓夫太郎は宇髄の言いたい事が全く理解できなかった。失った左目と左手が疼くのなら自分を側に置かなければ良いのではないか、こんな関係にならなければ良かったのではないか…「だったらどうして」と問おうと視線を宇髄へ移した時、美しい紅い瞳と視線が重なった。

    「疼いて疼いて仕方なくて…あん時のお前との斬り合いを思い出す。俺の唄とお前の唄がぶつかり合って交ざり合って、奏でられた唄が俺の心を燻って昂ぶらせる…あんな最高の唄は今まで感じた事ねぇよ」

    「…また抽象的な」

    「抽象的じゃねぇよ。実際に俺の耳に聞こえてた唄だ」

    宇髄自身が現実なものと伝えても、その唄が聞こえない妓夫太郎にとっては抽象的なものに変わりはなく真実味を感じれない。だが、自分を見つめる宇髄の瞳が真剣で、嘘をついているようには見えず、妓夫太郎は返答に困ってしまった。
    「最高の唄」と言われたのは正直嬉しかった。自分の荒削りな技と、宇髄の美しい技が交ざり合ったものを「最高」と評価してくれ、妓夫太郎の胸はドクンッと高鳴る。その事は宇髄には告げようと思わなかった妓夫太郎だが、

    「…今、ときめいたろ?心臓が鳴ったぞ」

    「その耳潰してぇぇ」

    聴覚の優れる宇髄には心音の変化は筒抜けで、妓夫太郎は自身が宇髄の言葉に胸を高鳴らせた事を隠せず悪態をつく。

    「お前がときめく度に俺の耳潰されてたら俺の耳いくつあっても足りねぇわ」

    「どういう意味だごらぁ」

    「お前が何回もときめいてるって事だよ」

    「……」

    妓夫太郎は宇髄の言葉に「やっぱ今までのも全部筒抜けだったか」と悔しそうに舌打ちをする。
    自分を信じて妹と自分を屋敷に引き取ってくれた時も、自分を嫁にしたいと告げてくれた時も、身体を重ねたいと求められた時も、今まで何度も宇髄の言動で胸を高鳴らせてきた妓夫太郎。自分には縁のないものだと思っていた感情を宇髄へと向けている…妓夫太郎自身その事に気付き始めていた。だが、その感情に気付かないふりをしていた。自分には不似合いな感情だ、抱いてはならない感情だ…そして、宇髄には絶対に知られてはならない感情だ、と。だが、宇髄はとっくに気が付いていた。妓夫太郎が自分に好意を抱いていてくれている事を。高鳴る心音と紅潮する頬がそれを伝えてくれている。今もそうだ。

    「俺にときめきまくってんだから、いい加減「宇髄妓夫太郎」になれよ」

    「何だそりゃ」

    「俺の嫁になれ妓夫太郎」

    「鬼の俺が人間様の嫁になれっかよ」

    そう告げて妓夫太郎は宇髄から視線を反らし思考し始める。
    そう。妓夫太郎が宇髄への好意を気付かないふりをしている最もな理由は、自分が「鬼」であるから。妹のように人間として黄泉がえったのならば違ったのかもしれない。宇髄からの求婚も喜んで受けたかもしれない。だが、自分は「鬼」。人間とは違って異様な風体をした自分が、人間の、しかも見目麗しい男の嫁になどなってはならないと思い込んでしまっている。

    (そもそも、俺みてぇな醜男を嫁にしようってのがおかしな話じゃね?男色でも俺は選ばねぇだろ)

    以前より自分の見た目を卑下してきた妓夫太郎ならではの思考である。宇髄曰く、そんな事一切無いとの事だが、そんな宇髄の言葉に妓夫太郎が耳を傾ける事はなかった。そして今もそんな事を頭でグルグル巡らせているのだが…

    「鬼じゃなくなりゃ嫁になんのか?」

    思考している最中に耳心地の良い低音で囁かれたと思ったら、顎をクイッと掴まれ顔を後ろへ向けさせられた妓夫太郎。無論、耳元で囁き、顎を掴んで顔を後ろへ向けさせてきたのは宇髄である。突然の事で妓夫太郎は目を丸くし、キョトンとした表情で宇髄を見つめた。

    「何だよッ急に…」

    「だから、鬼じゃなくなりゃ嫁になんのかって聞いてんだよ」

    「いや無理だろんな事。それとも何かぁ?もう一回死んでまた黄泉がえってこいって…」

    「……目」

    「あ?」

    「お前の目、梅と同じ空色になってんの、気付いてなかったのか?」

    「……は?」

    その言葉に妓夫太郎は驚愕し目を見開いた。
    醜い自分の姿など見たくないと鏡など見た事がなかった。だから全く気付いていなかった。自分の瞳が、妹と同じ…人間時代と同じ空色で輝いている事を。

    「お前らと再会した時は薄緑だったが、今は綺麗な空色してるぜ。それと腰回りもほっそいが前より肉付きよくなってきてる。お前は着実に人間に戻ってきてんだよ」

    「………」

    宇髄に言われて初めて気付いた自分の身体の変化。確かに以前より骨がゴツゴツと出ていない。そういえばこの前、鬼の時の記憶を失った妹が自分に人間の食べ物を持ってきてくれた。以前なら匂いだけでも受け付けなかった人間の食べ物だが、あの時は匂いなど特に気にもならなかった。
    まさか本当に自分は…
    そう思うと自分の心に光が差してきた。
    妹と同じように人間となって、日の光を浴びれるようになって、妹とまた梅の花を見に行けるようになって、その時はコイツも……

    「ッ……ぁ、あんま期待させんじゃねぇよッ」

    「俺は事実を言ったまでだぞ」

    「期待するだけして、結局戻らなかったら、俺はッ…」

    「そんときゃ普通に俺の嫁になって俺に甘えて暮らせば良いだけだろ」

    「結局お前の嫁になんのかよッ」

    「それは決定事項だ」

    クスクスと笑う宇髄に、妓夫太郎は眉間にシワを寄せて睨みつけるが、その顔は赤く染まり、睨みつける行為が照れ隠しであると宇髄へ伝わる。そんな妓夫太郎が愛らしくて宇髄は優しく微笑みを浮かべながら妓夫太郎を優しく抱き締め、囁くように告げる。

    「もしお前が人間に戻って、日の下に出れるようになったら、全員で梅の花見に行こうな。綺麗に咲くとこ知ってっからよ」

    「何で梅の花…ッ」

    「梅がいつかお兄ちゃんと見に行くって言ってたからな」

    「……」

    妹は自分が人間に戻る事を願っている。そしてこの男もまた…こんなにも求められるなんて、自分はとても幸せ者だと妓夫太郎は初めて実感した。そして沸き立ってくる、とある願い…

    「……戻ったら」

    「ん?」

    「…人間に戻ったらぜってぇ連れてけよ。その、梅の花が綺麗に咲くとこ」

    ボソボソと小声での要求だったが、宇髄の耳にはちゃんと全て入っていた。それは妓夫太郎からの初めての前向きな願い。今までは「妹だけは幸せにしてくれ」と妹の幸せばかりを願う要求だったが、今日初めて妓夫太郎自身も幸せになる事を願ってくれた。それが心から嬉しくて宇髄は「勿論」と答え、笑みを浮かべながら妓夫太郎の額に唇を落とした。
    絶対に叶えような、その願い…と互いに想いを重ね合う二人…
    いつの日か必ず……


    「ところで、お前の匂いなんだけどよ…」
     
    「あ"?」

    ふんわりとした心地よい雰囲気に包まれていた中、宇髄は再び妓夫太郎の首元に顔を埋めてスーハーと匂いを嗅ぎだす。

    「…催淫作用でもあんのか?チンコ勃ってくるんだけど」

    心地よい雰囲気など一瞬で吹き飛ばす宇髄の言葉に、妓夫太郎は怒りを顕にして、

    「んなわけねぇだろ!勃ったなら自分で処理しろよなぁぁぁッ!俺はもう起き……俺の尻に擦り付けてくんじゃねぇぇぇえッ!!」
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