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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    支部に投稿した炭→ぎゅ、うぎゅ、ご都合主義

    ##柱鬼

    幸せな匂いと初めての痛み狂気に満ちた匂いだった。今まで出会った鬼なんかよりもずっと。
    でもその中に微かにだけど、哀しみの匂いも混じっていたんだ。その匂いに俺の心は揺れ動いていった。その頸を斬らなきゃいけない相手なのに…
    それなのに…俺の頭を撫でる手の感触が更に俺の心を揺れ動かす…その手は間違いなく優しかった。優しくて、どこか温かくて…
    その優しくて温かい手が伸ばされたんだ…誰の元でもなく空虚に…
    その手を掴みたかった。握り締めて助けたかった。でもそれは鬼殺隊として抱いちゃいけない気持ちだって‥相手は倒さなきゃいけない鬼なんだって…どれだけ悲哀に満ちた匂いをしていても…
    俺は、その手を取ることができなかった。
    その手に伸ばしそうになった自分の手を必死に止めて…
    でも、その手を掴んだものがあった。それは、俺よりも大きな手…。その大きな手は、伸ばされた手を掴んで離さず、そのまま引き寄せていった。
    大きな身体の中に引き寄せられたその痩せ細った身体は震えてた。怒りや悲しみからの震えじゃない‥だって、その時の匂いは嬉しさでいっぱいだったから。大きなその人に微笑まれて、大きな手で頬を撫でられて、幸せな匂いに包まれて、鬼の瞳から刻まれた文字が消えてっいった…薄緑色の瞳が澄んだ空のような綺麗な色に変わって、その人の瞳を見つめてる。見つめられてるその瞳は、俺と似たような赤い色をしてた。あの綺麗な空色の瞳を、俺と似た赤い瞳が独り占めしてる…何でだろう…胸の奥がモヤってした。これは抱いちゃいけないものなんだって思って、俺は幸せな匂いに包まれた二人から視線を反らした。

    その後、あの兄妹鬼は宇髄さんの屋敷でひっそりと保護された。他の柱の人達と激しい口論はあったらしいけど、お館様が許しをくれたらしくて、柱と俺達以外には内密という特別措置という形での保護となった。「大変でしたね」と、他の柱との口論に対して労いの言葉をかけたら、宇髄さんは笑顔で告げてきた。

    「別に大変じゃねぇよ。アイツは俺の嫁だ。その嫁の為なら何だってするさ」

    嘘はついていなかった。真実の匂いしかしなかったから。あぁ、この人はあの兄妹の罪を一緒に背負っていく覚悟なんだって思った。この人には勝てないなぁって……
    あれ?何に勝てないんだろ?別に宇髄さんと競ってる事なんかないのに……??
    あれからずっとだ。ずっと何だか変なんだ。宇髄さんが幸せな匂いに包まれてあの鬼の事を話すと変な気持ちが沸いてくる。誰かに相談しようにも言葉に表せなくて、結局そのままにしちゃってる。それに、俺の頭の片隅にはあの鬼…妓夫太郎さんの姿が必ずいる。会いたくて、また撫でてほしいなぁとか思って…その空色の瞳に俺の赤い瞳を映して欲しいなぁて思ったりして…
    だからまた来ちゃったんだよなぁ。宇髄さんの屋敷に…。任務が終わると必ず来てしまう…褒めてほしいのかな?頭を撫でてもらいながら。自分でも分からないまま、屋敷の奥…日の光が届かない部屋へと雛鶴さんに通された。そして、

    「こんにちは、妓夫太郎さん」
    「何だぁぁ?また来たのかぁぁ?」

    紺色の質のいい着流しに身を包んだ妓夫太郎さんが胡座をかいてこちらを見た。

    「あれ?梅ちゃんは?」
    「梅なら隣の部屋で寝てるぞ」
    「そうなんですか」

    梅ちゃん…妓夫太郎さんの妹で『堕姫』という鬼だった。鬼舞辻無惨の呪いから解放された彼女は、禰豆子みたいに身体が縮んでいって、幼い子供の姿になった。鬼の姿じゃなく、人間の姿で。妓夫太郎さん曰く、「コイツは自分の意志で鬼になったわけじゃねぇからかもなぁ」らしい。そう言いながら、眠る梅ちゃんを抱き上げた妓夫太郎さんの姿は今もハッキリと覚えてる。優しくて、温かくて、慈愛に満ちてたっていうのかな?そんなすっごく気持ちの良い匂いだった。
    梅ちゃんは鬼の時の記憶が無くて、人見知りさんなのかしばらくお兄さんである妓夫太郎さんの側から離れなかったらしいけど、最近は宇髄さんの奥さん達と仲良く遊んだり、禰豆子とも仲良くしてくれたりしてる。

    「何だぁ?梅に会いに来たのかぁ?」
    「あ、いえ。妓夫太郎さんと梅ちゃんの様子が知りたくて来ました」
    「ふぅぅん…まぁ見ての通り、普通だなぁ」
    「それなら良かったです。あ、着物も似合ってますッ」
    「‥やっぱ俺にはこういう地味な色が似合うよなぁ?」
    「え?あ、そういう意味で言ったんじゃなくてッ」
    「あの野郎…俺にもテメェ好みの派手な着物着させようとしやがったからなぁぁ。思わず取っ組み合いになっちまったわ」
    「あぁ宇髄さんですね!派手を司る祭りの神ですもんね宇髄さん!」
    「…何だそりゃ」
    「宇髄さんが自己紹介で言ってくれました!」
    「アイツマジか…」

    呆れたような顔をしてる妓夫太郎さんだけど、宇髄さんの話になった途端、幸せな匂いに包まれた。やっぱりいつも通り。幸せに暮らしてるみたいだ。良かった…うん。良かった。なのに、何でモヤモヤするんだろ…。幸せなのは良い事なのに…。

    「…あれ?妓夫太郎さん?」
    「んあぁ?」
    「その首元…どうしたんですか?」

    妓夫太郎さんの顔や身体にはいくつもの痣がある。でも首元にあったのはその痣じゃなかった。まるで、人が虫に刺された痕みたいなやつで、それを指摘したら、妓夫太郎さんはハッとした表情でその痕のついた首元を手で抑えた。

    「妓夫太郎さん?」
    「な、何でもねぇッ!何でもねぇから、この痕の事は誰にも言うなよなぁぁッ!」
    「?熱でもあるんですか。顔真っ赤ですけど」
    「だから何でもねぇってのッ!!」

    顔を真っ赤にした妓夫太郎さんからは恥じらう匂いがした。何で恥ずかしがってるんだろう?そんなに恥ずかしいものなのかな?でも、顔を真っ赤にしてる妓夫太郎さんが何だか可愛く見えて、クスッて笑っちゃった。

    「でも不思議ですね。鬼の身体の妓夫太郎さんに痕が付くなんて」
    「ああ。それは何か徐々に人間に戻ってきてる証拠なんじゃねぇかって天元が…」
    「天、元‥?」
    「あ、いや宇髄がぁぁ……」

    妓夫太郎さんは慌てた様子で直ぐに呼び方を訂正した。
    …何でだろ。妓夫太郎さんは宇髄さんのお嫁さんになったんだから、名前で呼ぶなんて普通の事な筈なのに。確かにこの前会った時までは宇髄呼びだったけど、それが天元呼びになったのは二人がすごく仲良くなった証拠であって……
    あれ?何だか…すっごくモヤモヤする…何か気持ち悪いな、これ……

    「どうしたぁ?顔色わりぃぞ?」
    「え?」

    顔を覗き込まれて、思わず胸がドキッて高鳴った。近い…妓夫太郎さんの顔が近い…

    「任務で疲れちまったのかぁ?大変だなぁぁ。人間だから体力に限界があるってぇのに」
    「あ……」

    温かい感触が頭に触れた。優しくて、心地良くて、ずっと触れて欲しいなぁって思えるその感触…妓夫太郎さんの手が、俺の頭を優しく撫でてくれていて、俺の中のモヤモヤは綺麗に消えていった。
    俺はこの手が好きなのかな…この優しい手が…
    その手に、自然と手が伸びていく。
    掴みたい…あの時掴めなかったこの手を…俺の手で……

    「おおーい!今帰ったぞぉぉッ!」

    その声がして、俺の手は止まった。そして、俺の頭を撫でる手も離れていく。

    「ん?竈門じゃねぇか。来てたのか」
    「はい、お邪魔してます。宇髄さん」

    任務帰りの宇髄さんが隊服のまま妓夫太郎さんのいるこの部屋にやって来た。その瞬間、この部屋に幸せな匂いが立ち籠めて、俺の鼻の奥までその匂いは届いた。誰の匂いかなんて直ぐに分かった。

    「たくっ…着替えてから来いよなぁぁ」
    「お前の顔が直ぐに見たかったもんでな」
    「…アホか」

    妓夫太郎さんは頬を指でポリポリと掻きながら、立ち上がって宇髄さんの元へと歩んで行った。眉間にシワが寄って迷惑そうな顔をしてるけど、本当はそんな事思ってない。宇髄さんが無事な姿で帰って来て、安心した匂いと嬉しい匂いが混ざった凄く気持ちの良い匂いがしたから。気持ちの良い匂いなのに…どうして俺は胸がザワつくんだろ…どうしてこの場に居たくないって思うんだろ…
    妓夫太郎さんの手が、俺の頭を撫でてくれていた手が、宇髄さんの頬に触れてる。愛おしそうに触れてるその手を、宇髄さんがその大きな手で「もう離さない」と言ってるように優しく包み込む。微笑む宇髄さんの赤い瞳にはきっと、あの綺麗な空色の瞳が映っているんだろうな。そして、あの綺麗な空色の瞳には、宇髄さんの赤い瞳が……。

    「……あの、俺、そろそろ帰りますね。次の任務もありますからッ」
    「んあぁ。またなぁぁ」
    「おう。任務ご苦労さんッ。俺は明日まで任務無しだがなッ」
    「おい柱ぁ。ちったぁ下の分まで働けや」
    「何言ってんだ。久しぶりの休みが一日にも満たねぇんだぞ?その休みだって急遽無くなるかもしんねぇのにその言い方はねぇだろッ」
    「あーはいはい。だったらさっさと着替えてゆっくりしろや。隊服のままじゃゆっくりできねぇだろぉ」

    二人の会話は途切れる事無かった。ちょっと喧嘩口調だったりするけど、すごく幸せな匂いに包まれてる。最後に妓夫太郎さんに俺を見てほしいなんて思ったけど、妓夫太郎さんはずっと宇髄さんを見たまま…その綺麗な空色の瞳が俺を映す事は無くて、少し残念に思いながら俺は妓夫太郎さんの部屋から出て部屋の戸を閉めた。すると、さっきまで二人の会話が聞こえてたのに急に何も聞こえなくなった。何かあったのかな?って思って、戸に触れたけど、何だか開けちゃいけない気がして俺はそのまま宇髄さんの屋敷から次の任務に出掛けた。
    任務に向かう道中、ずっと考えてた…。自分から来たのに…自分から妓夫太郎さんに会いに行ったのに、どうしてこんなに胸の奥が痛いんだろ…どうして二人の幸せな匂いを嗅ぐと胸の奥がザワつくんだろ…とても良い事なのに…あの人が…妓夫太郎さんが笑顔で幸せに暮らしているのはとても良い事なのに…どうして……

    「……今度善逸に相談してみようかなぁ」

    この胸の痛みとザワつきは一体何なんだろ…善逸に相談して無事に無くなると良いんだけどなぁ。
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