安眠湯たんぽ夜になるとそいつはやってくる。
気配を消して部屋に侵入してきたそいつは布団に眠る俺の元に足音を立てないよう近寄ってくる。気付かれてねぇとでも思ってんだろうな…俺はお前が部屋に侵入してきた時から気付いてんだよ。
俺が起きてるとも知らず、もぞもぞと俺の布団に侵入してきて、その丸まった背中を俺の背にくっつけてくる。コイツの温もりが背中にじんわりと伝わる。背中越しなんて、本当素直じゃねぇなぁ。しょうがねぇ…俺からお前に振り向いてやるか。
俺は起きてる事を悟られぬように、寝返りをうつフリをして、俺の隣で背を丸めて横になっているコイツへと身体を向けた。そして、その背に身体を寄せていく。身体を寄せ、その細い腰に腕を回せば、コイツはビクッと身体を震わせた。
「また来たのか?妓夫太郎」
身体を密着させ、耳元で囁やけば、コイツは不機嫌そうな顔をこちらに向けた。「上弦」「陸」と刻まれた薄緑色の瞳に俺が映る。
「……わりぃかよ」
「いいや。良い湯たんぽ代わりだ」
「湯たんぽなんて必要ねぇ季節だろうがぁぁ」
「安眠できる万年使える湯たんぽだよ、お前は」
そう告げて俺はコイツの項に唇を当てる。唇を当て、舌を這わせていけばビクビクっと身体を震わせる可愛いコイツ。
「な、舐めんなよなぁぁ」
「んじゃ吸う」
宣言通り、ちゅっと音を立て俺はコイツの項に吸い付き、痕を残す。鬼の身体なのにコイツは俺のこの痕だけはしばらく消えないようにしてくれる。それがとても嬉しくて、俺はコイツの首筋に何個も何個も痕を残していく。
「ッ…つ、付けすぎだぁぁ」
「別に良いだろ。俺の所有印なんだから」
「だ、だったら俺にも付けさせろよなぁぁッ」
「だったらこっち向けよ」
俺がそう言って腰に回した腕を解くと、コイツは渋々といった感じで身体をくるりと回転させて俺へと向いてくれた。
頬が赤くなっている。視線も泳いで俺を直視しようとしてねぇ。メチャクチャ恥じらってんな。可愛い奴め。思わずフッと笑っちまう。
「ほら。俺にも所有印付けてくれよ」
首筋を見せながらそう促す。俺の誘いにコイツは一瞬躊躇ったが、俺の首筋に顔を埋めて、唇を当てちゅぅっと吸い付き痕を残していく。それが終わると、すぐさまくるりと身体を回転させ、また俺に背を向けやがった。
「おいおい。一個でいいのか?」
「所有印は一個で充分だろぉぉ」
「俺は何個でも付けて欲しいが?」
「るっせぇ。今度は噛み付くぞ」
「それも上等」
顔は見えねぇが、耳が赤く染まってんのは見える。初めてだもんな。お前が俺に付けてくれたのは。嬉しくて痕を付けてくれた首筋を擦る。ずっと残ってくれねぇかなこれ。
そう微笑みを浮かべながら、俺はまたコイツの腰に腕を回し、ギュッと抱き締めて目を閉じる。安心できる匂い、そして音だ。それらに包まれて俺は眠りにつく。
「おやすみ、妓夫太郎」
「んあぁ。おやすみ、天元」
自分は眠らないのにこうして布団の中で共に居てくれるコイツは俺の愛しい鬼。愛してやまない俺の大切な嫁だ。