誰が被害者?「嫌だ!離せッ!離せぇぇえッ!!」
床に這いつくばり、手足をジタバタと激しく動かしては自分に覆い被さる者に必死に抵抗する妓夫太郎…。普段強気な彼女のその目には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「嫌だッ!ヤダッ!ヤダヤダヤダァァァッ!!」
「駄々こねてんじゃねぇよ。大人しくしやがれ」
妓夫太郎に冷たい言葉が落ちてくる…それは、いつもは優しい言葉をくれる人…音柱・宇髄は、冷めた様な視線を妓夫太郎へ向けて、床に這いつくばる彼女の小さな身体を組み敷いていく。
「ヤダッ!ヤダヤダヤダァァァッ!本当に嫌だってばぁぁぁぁッ!!柱ぁぁぁぁッ!!」
妓夫太郎の目から大粒の涙が溢れ始める。それでも宇髄は妓夫太郎の身体を離さない。決して…
「な、なぁぁ!柱ぁぁッ!!何でもするッ!何でもするからぁぁぁぁッ!!お願いだぁぁぁッ!!」
「何でもするなら、今は大人しくしてくれねぇか?」
「ひっ、ひっくッ…!ゃっ、ゃぁッ…!ヤァァダァァァッ!!誰かッ…誰か助けてぇぇぇぇッ!!!」
「俺以外の奴を呼ぼうなんて良い度胸してんな。お前が信用してんのは俺だけだろ?ほら。もう諦めろ」
「ヤダァァァァッ!!!ヤダヤダヤダヤダヤダヤダァァぁぁッ!!!ウヷァァァァァン!!!」
妓夫太郎の悲痛な泣き叫び声が響く…
どうして…信用してたのに…今日も優しい顔で俺に話し掛けてくれて…嬉しかったのに…
宇髄に裏切られ、妓夫太郎は心を閉してい……
「……え?強姦???」
「違うわァァァッ!!!」
妓夫太郎を床に押し付けている宇髄の姿にドン引きしている善逸がそう声をかけ、宇髄はすぐ様訂正の叫び声を上げた。
「うぁァァァン!!竈門ぉぉぉッ!!我妻ぁぁぁッ!!だずげでぐれぇぇぇッ!!」
妓夫太郎は大泣きしながら手でバンバンと床を叩いては、炭治郎と善逸に助けを求める。
「えっとぉ…宇髄さん…妓夫太郎さんを離してあげたら…」
「ダメだ!!」
苦笑を浮かべながら炭治郎がそう告げるが、宇髄は即答で却下する。
「いやそもそもこれどんな状態?何を蝶屋敷でやってるの?この二人」
そう。ここは蝶屋敷。鬼殺隊隊士が負った傷を癒やす場所である。そんな場所でこの凸凹男女は何を入り乱れてるのかと善逸は冷めきった目で見つめる。
「ほら!這いつくばってねぇで立て!直ぐ終わっから!!」
「イィィヤァァァァダァァァァッ!!!」
(いつもお姉さんっぽい妓夫太郎さんが末っ子みたいになってる…何だか微笑ましいなぁ)
「ねぇ炭治郎?何でこの状況でニコニコできるの?ねぇ?」
妓夫太郎を立たせようとする宇髄とそれに必死に抵抗する妓夫太郎。それをニコニコと微笑ましそうに見つめる炭治郎とそんな炭治郎を奇怪の目で見つめる善逸…最早誰もが近寄りがたい雰囲気である。そんな場所に何の気兼ねなく歩み寄って来る者が一人…
「はぁい謝花さぁん。お待たせしましたぁ」
「ヒッ!」
柔らかい口調が特徴的なこの蝶屋敷の主・蟲柱・胡蝶しのぶがニコニコと満面の笑顔でやって来た。そんなしのぶに妓夫太郎は声を上げ、青ざめていく。その理由は、しのぶが右手に持っている…
「お注射の時間ですよ〜。大人しくしてくださいね〜」
「ヤァァダァァァァァァッ!!!」
「「………え?」」
しのぶが持っていた注射針がキラリと光り、それと同時に妓夫太郎は悲鳴を上げた。そんな光景に炭治郎と善逸は目を丸くし、宇髄はハァ…と深い溜息をつく。
「もうダメですよ謝花さん。本当はこの注射1週間前に打たなきゃならなかったのに」
「ヤダヤダヤダッ!」
「何度も何度もお知らせ出したのに全くこちらに来てくださらないので途方に暮れていたんですよ?」
「ぜぇぇってぇぇヤダァァァァァ!!!」
「まぁ宇髄さんに話したら「んじゃ俺が連れて来る」と言ってくださったので良かったんですけどねぇ」
「うわァァァァん!!!柱の裏切り者ぉぉぉッ!!」
「お前の為だろうがっ!!一瞬チクッとするだけなんだから我慢しろ!!」
「その"チクッ"がヤダァァァァ!!!」
鬼を恐れない鬼殺隊屈指の隊士・謝花妓夫太郎が号泣してまで嫌がっていたものが注射と知って、炭治郎と善逸は呆然とする。
「オイお前ら!ボーッとしてねぇでコイツの足を抑えろ!!俺が後ろから羽交い締めにしてっから!!」
妓夫太郎の身体を起こす事までは出来た宇髄は、自身の膝の上に暴れる妓夫太郎を乗せ、後ろから脇に腕を通して羽交い締めにしていた。それを見た炭治郎は「あぁ…何か懐かしい光景だなぁ」と駄々をこねる末の子たちを必死にあやしていた自分と禰豆子を思い出す。
まぁそんなこんなで宇髄の指示に渋々従い、炭治郎と善逸は暴れる妓夫太郎の足を必死に抑えていく。
「竈門と我妻の裏切り者ぉぉぉっ!!!」
「柱命令です!!俺らのせいじゃありません!!!」
「うわァァァァァン!!!」
「よし胡蝶!!今のうちだ!!」
妓夫太郎の身体の自由をガッツリと奪い、宇髄はしのぶへ視線を送る。その合図にしのぶもコクっと頷き、妓夫太郎の細い腕を握り、消毒を施していく。そして、そのキラリと光る細い針の先を妓夫太郎の肌へ近付けていく…
その光景を目にした妓夫太郎は「ヒィッ」と声を上げる…。
妓夫太郎の頭の中はグルグルと回り出す…
自分の中に針が入ってくる…嫌いな物が自分の中に…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!そんなの刺されたくない!!自分の中に入れたくないッ…!!自分の中に、自分の中に入って良いのはッ……
「ブッ刺されんなら、柱のぶっといチ○コが良いぃぃいいッ!!!!」
混乱の中、妓夫太郎が大声で発した言葉…
その衝撃的発言に炭治郎と善逸は未だよく分からない宇宙空間に飛ばされたような顔になり、宇髄は目を閉じて項垂れ、しのぶは笑顔のまま構わず注射していった。
「世話になったな、胡蝶」
「はいお疲れ様でした〜。竈門君と我妻君もお疲れ様です」
注射を終え、ぐったりとしている妓夫太郎を背に抱えた宇髄をしのぶは笑顔で見送る。その横には未だ宇宙空間から帰ってこない炭治郎と善逸。
「あ、宇髄さん」
「ん?」
「避妊はちゃんとして下さいね?」
「言われなくてもしとるわッ」
「それなら安心です」
そう会話をして、宇髄は妓夫太郎を背負って蝶屋敷から帰って行く。妓夫太郎が何やら「柱の馬鹿ぁ…」とブツブツと呟いていたが、まぁ宇髄なら上手くやるだろうとしのぶはニコニコと満面の笑顔を向けていた。
「…二人にはまだ早い話でしたかね?」
未だ宇宙空間から帰ってこない炭治郎と善逸には少し申し訳無さそうにフフッと笑うしのぶ。そして何事も無かった様に屋敷内へと入っていくのだった。
※生まれつきの病気で定期的に注射しなくちゃいけない的な。でも注射だけは大嫌いな妓夫ちゃんみたいな。好き勝手に書きましたごめんなさい。
屋敷の柱とかにしがみつく妓夫ちゃんを引っ張る宇髄さんも妄想したら萌えました。