天元君小学6年生、妓夫太郎君小学1年生その日は新入生歓迎遠足の日だった。遠足は慣例によって、6年生が1年生と手を繋いで目的地まで行く事となっているのだが…
「…」
6年生宇髄天元は顔を顰めていた。何故なら…
「俺後藤って言うんだ。今日はよろしくなー」
「よ、よろしくお願いしますっ。しゃばなぎゅうたろうです」
同じクラスの後藤が自身の最愛の相手・妓夫太郎の相方だった為である…。この相方は出席番号で決まる為しょうがないのだが、天元は諦めきれなかった。
出発の校長先生の挨拶までもう少しの時に、天元は後藤を手招きする。手招きされた後藤は素直に天元の元にやって来たが、後藤は後にそれを後悔した。
「なぁ後藤…」
「ん?」
「替 わ れ」
「…は?」
後藤の肩にポンッと手を置いては、天元は後藤に満面の笑顔でそう告げる。いや、脅してきたと言った方が正しいか。その満面の笑顔には間違いなく、威圧が込められていたのだから…。
「いや替われって何を…」
「順番だよ順番。俺がお前のとこに並ぶからお前は俺んとこに並べ。良いな?」
「いや良くないだろ。先生に見つかったら…」
「んな事関係ねぇから。このクラスじゃ俺が法律だから」
「ヤダこのイケメン怖い」
「ほら。学校一のイケメンがこんなにも頼んでんだぞ?」
「それ自分で言う?てかこれどちらかというと脅迫…」
「良いから…替わってくれよ、な?ご・と・う・く・ん?」
「痛い!痛い!肩メッチャ痛い!何この握力!すげぇなお前!」
満面の笑顔の威圧と、常人離れした握力…後藤は最早屈するしかなかった…
「…あれ?天元?」
「よう妓夫太郎!」
出発の挨拶直前に、自分の隣に並んだのが見知った天元で、妓夫太郎は首を傾げた。
「さっきの人はどうしたんだぁ?」
「急遽順番が替わってな。俺がお前と手ぇ繋いで行く事になった」
「え」
本来なら天元が並ぶ場所には、何やら気が沈んでいる後藤の姿…一方の天元は満面の笑顔で上機嫌である。
「よろしくな!妓夫太郎!」
「え!あ、う、うんっ。よろしくなぁぁ」
ニカッと笑って顔を覗き込んでくる天元に、妓夫太郎は照れたように笑い、視線を下に向ける。モジモジとしているその仕草から、自分と手を繋いで行くのが恥ずかしいのだろうと察した天元はにんまりと笑みを浮かべる。
(二人っきりの時はいっつも俺にべったりな癖に、人前じゃ恥ずかしがりやがって…本当、ド派手に可愛い奴)
その小さな手を天元は握っていく。優しく包み込むように。そうすれば、その小さな手も握り返してくる。離れたくないと言いたげにしっかりと。
この手は俺だけのものだからな。他の奴に握らせてたまるかっ。