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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    宇妓になる予定だったお蔵入り作品。中途半端に終わってます…書く気力が…3800字まで書いたので供養させていただきます_(._.)_

    お蔵入り作品厳しい冬も終わりを告げて、過ごしやすい春がもうそこまで来ている今日のこの頃。朝晩はまだまだ冷え込むが、昼の陽気な暖かさは産後の嫁にも身重の嫁にも過ごしやすい時期になってきた。まぁそんな過ごしやすい時期ではあるが、そんな嫁達に買い物なんざ行かせるわけにはいかねぇから、俺がこうして街に出掛けて調味料や米みてぇな重てぇもんは買ってくる日々。左手は失ったがこれくれぇのもんは余裕で運べる。
    買い物を済ませ屋敷へと帰り、裏戸へと向かう。すると、

    「あ!天元様ぁ!おかえりなさぁぁい!!」

    艶のある白い長髪と大きな空色の瞳が特徴的な、見目麗しい少女が俺を笑顔で出迎えた。

    「よう梅、ただいま」

    「お兄ちゃーん!天元様帰ってきたよー!」

    明るくどこまでも通る、少女・梅の声に対する返事が、裏戸の奥から「んあぁぁ」と聞こえてきた。裏戸から入るとそこは台所だ。その台所から聞こえてきたって事は今日の昼飯もやっぱりアイツが支度してんだな。まぁ、赤ん坊抱えた雛鶴や、腹がでかくなったまきをや、悪阻がしょっちゅうの須磨に任せるわけにはいかねぇもんな。それに、うちで一番美味い飯作るのアイツだからな。自然とそうなるわな。
    俺は買ってきた調味料と米を置くために、梅の横を通って裏戸から台所へと入っていく。流し台には、トントントンと手際の良い包丁音を鳴らしながら野菜を切っている男が一人…うねりのある黒髪と、梅と同じ空色の瞳をした、顔や身体に特徴的な痣を持つ男……

    「妓夫太郎〜、味噌とか味醂買ってきたぞ〜」

    「んあぁぁ。そこ置いといてくれぇぇぇ」

    名は妓夫太郎……梅の兄だ。妹の梅は歳が13で、自分はおそらく15,6ぐらいだと言っていたが、見た目はその告げられた歳よりも若干幼く見える。青年と言うべきか、少年と言うべきか迷うコイツの後ろに立ち、その手際の良い調理を見守る。

    「……んだよ」

    「いや…手際良いなって感心してただげだよ」

    「邪魔するつもりねぇなら、味醂取ってくれよなぁぁ」

    「あーはいはい。ほらよ」

    妓夫太郎に指図され、さっき買ってきた味醂の一升瓶を開け渡す。するとコイツは目分量でささっと調理していき、改めてコイツの手際の良さに感心した。

    「お兄ちゃん!アタシも何か手伝う!!」

    「あ〜、んじゃ嫁さん達に昼飯どれくらい食べれっか聞いてきてくれるかぁぁ?」

    「分かった!」

    妓夫太郎の指示に素直に従い、梅は嫁達のいる各部屋へと駆け足で向かった。

    「……台所から遠ざけたな」

    「……屋敷が火事になってもいいなら梅にもこっち手伝わせるぞぉぉ」

    「そりゃ勘弁だ」

    無表情のまま言ってきたコイツの言葉は冗談じゃねぇ。梅が台所に立つっつった日にゃ、俺もコイツも手ぇいっぱいの嫁達さえも必死に止める。そんくらいアイツは料理が向いてねぇ。そんな梅に上手い具合に手伝いを宛てがってんのはさすが兄貴って感じだな。思わずクスっと笑っちまう。

    「何が可笑しいんだよ…」

    俺が笑った事に不快感を持ったのか、眉間にグッとシワを寄せて見上げてきた妓夫太郎。睨みつける程じゃねぇが、まぁ不機嫌にはなってんな。

    「いや…相変わらず仲の良い兄妹だなって思っただけだ」

    「……当たり前だぁぁ。もう、あんな兄妹喧嘩はやんねぇよぉぉ」

    妓夫太郎の瞳がどこか遠くを見つめる…。何を思い出してんのかはすぐに察した。それは俺にとっても忘れる事のできない日……コイツ等兄妹…上弦の陸が鬼として死んだ日だ……。

    俺が"今"のコイツ等兄妹と出会ったのは、雪の降る寒ぃ日だった。雛鶴は出産間近、まきをは安定期直前、須磨は妊娠発覚…うちとしてはかなり大事な時期だった。そんな時期だからまぁ買い物は自ずと俺がやる事になる。その日も事前に買いそびれてた調味料を買いに積雪の中買いに行ったわけだが…その途中だった。その姿を目にしたのは……
    雪降る寒い中、薄手の着物…いや、着物とも言えねぇ質素でボロボロの服を着た子供が、背を丸くして蹲っていた。多少遠くにはいたが、聴覚の良い俺には、その掠れた哀しい声が届いてきた。

    「梅っ…梅ぇぇっ……大丈夫…大丈夫だからなぁぁぁ…」

    どこかで聞いたことのある声だった…その声に引き寄せられるように俺はその子供へと歩み寄る。
    よく見るとその子供は何かを抱き締めていた。その何かが幼い子供だと気付くのに時間はかからなかった。

    「おい。どうした?」

    俺は後ろから声をかけた。身重の嫁達が俺の帰りを待ってはいるが、こんな状況を見て見ぬふりなんざ出来る訳がねぇ。まぁ俺が出来る事っつったら最小限な事になるだろうが…最初はそういうつもりで声をかけたんだ。だがこの子供が俺に振り返った瞬間に、俺は愕然とした。

    「ッあ………」

    その子供もまた俺を見て、目を見開き愕然としていた…俺の左眼と左腕が痛み疼く……もうそこには何も無ぇのに…‥
    その子供の顔を俺は知っていた……髪色や瞳の色は違っても、目鼻口と、その特徴的な痣は間違いなくアイツだった。俺の左眼と左腕を奪った張本人…上弦の陸・妓夫太郎…。俺が一生忘れる事の無ぇ名前だ。
    一体どういう事だ?コイツは頸を斬って死んだ筈じゃなかったか?それに鬼舞辻無惨ももうこの世にはいねぇ…コイツがここに存在するわけがねぇんだ。だったら他人の空似か?…んなわけねぇよな。目鼻口まで似てるってんならまぁ百歩譲って他人の空似で済ませれるが、その特徴的な痣が寸分足らずそのままだ。あれだけの死闘を繰り広げた相手だ。顔は俺の脳に焼き付いている。見間違う筈はねぇ。
    俺がそんなふうに思考し凝視していると、コイツは口をパクパクさせながら、その小さな身体をこちらへと向けてきた。その細い腕の中には、ぐったりとした少女が抱えられていた。艶のある白髪は、あの花魁の妹鬼を彷彿させる。
    やはりあの兄妹鬼なのか?だが見た目は完全に人間だ。鬼の気配もしねぇ。頸を斬った後、コイツ等に何かあったのか?……わけが分からねぇ。
    俺が思考をグルグルと回らせていると、悲痛な声が耳に届いてきた。

    「た、頼む…梅を…妹を助けてくれッ…!」

    掠れた声を張り上げ、目を耳開いてコイツは俺に必死に助けを求めてきた。一瞬何が起こったのか分からず面を食らっていたら、

    「お願いだぁぁッ!妹だけはッ…妹だけは助けてぇんだぁッ!俺はどうなっても良いッ…何なら俺の左眼と左腕を奪っても良いからよぉぉッ」

    その言葉を受け、俺は確信した。
    コイツはあの"妓夫太郎"だと…。
    その日は寒かった。雪が降るぐれぇだからな。その寒さで俺は両腕を袖に隠していた。つまり、端から見りゃ俺の左腕が無いってのは分からねぇんだよ。なのにコイツは「左眼と"左腕"」って言いやがった。俺の左腕が無ぇ事を知ってんのは、鬼殺隊関係者以外、アイツ等しかいねぇ……。
    また左眼と左腕が疼いた…それは俺に抑える事のできねぇ疼きだった……。
    そして俺は行動に移った。
    ぐったりしている少女を抱えたままのコイツを抱き上げ、そのまま信頼のおける医者へと連れて行った。
    ……見捨てれるわけがねぇよ。あんな悲痛な表情と声で助けを求められちゃあなぁ。例え、俺の左眼と左腕を奪った相手だとしてもな。
    医者の診断結果は風邪だった。ただ肺炎間近だったらしく、結構危なかったらしい。それを聞いたコイツはガックリと膝から崩れ落ち、「た、助かったのかぁ?」と呟いていた。俺が「おう。もう心配すんな」と告げると、安堵のため息をついて肩の力を抜かしていた。そして、その後が問題だった。何がって?コイツが診察を拒みに拒んだからだ。

    「お前も診察受けんだよッ!」

    「俺は何ともねぇよッ!離せぇぇぇッ!」

    暴れるコイツを力づくで抱き上げて診察室に連れ込むのには成功したが、一向に大人しくならねぇ。医者もコイツのやせ細った身体を心配して診察をしたかったらしく、一緒になってコイツを大人しくさせるのに専念したわ。
    結局、俺が羽交い締めにしながら診察させた。結果、コイツもそれなりの風邪だった。何が何ともねぇだよ。抱き上げた時に熱がありやがるなって思ったんだよ。
    それと医者が言うには、コイツの痣がある病気の症状に似ているからそっちの検査もするって事だった。栄養状態も悪く、この兄妹は仲良く2、3日入院ってなったわけだ。信頼のおける医者がいると本当助かるわ。まぁ無論、無償ってわけにはいかねぇから、コイツ等の治療費は俺が払ったな。そんなこんながあって俺はコイツ等兄妹が退院するまで様子を見に病院に通った。嫁達にも事情を説明すると了承してくれたわ。屋敷からそんなに離れていなかったのが幸いした感じだな。そしてコイツ等の元に通って分かった事がある。まず、コイツ等はれっきとした人間だって事だ。病気にもなるし、人間の食いもんも食う。日の光の元でも普通に暮らせる。そして、コイツ等はやっぱりあの上弦の陸の兄妹だって事。兄の方に「お前、上弦の陸の妓夫太郎だろ」って話を振ってみたら、表情を歪ませて、

    「梅には言わねぇでくれ!アイツは鬼だった時の記憶がねぇんだ!もし鬼ん時の罰を与えてぇな
    ら俺だけにしてくれッ!左眼も左腕も…何なら両眼両腕奪って良いからよぉぉッ!」

    「落ち着け落ち着け」

    そう必死に訴えてきた。いや眼も腕も奪うつもりねぇわ。俺どんだけ非情な人間に見えてんだよ。
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