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    伊那弥彪

    ラクガキと二次創作文物置。支部にアップしたりする。

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    伊那弥彪

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    逆転パロ宇妓、蒲鉾以外逆転軸。
    楽しく書けたよ!

    ##宇妓
    ##逆転パロ

    狂愛乱舞「妓夫太郎〜♡迎えに来たぜ〜♡」

    鬼殺隊士我妻善逸は困惑していた。己の背後にいる鬼の姿に……。銀糸のような美しい白髪を風に靡かせ、左眼に赤色の花火なのか梅なのか…とにかく目立つ化粧を施した整った顔…服装は、青みの強い菖蒲色の着流しに、金色の生地に色とりどりの華をあしらったきらびやかな羽織…背丈は優に六尺は越えており、とにかくド派手な美丈夫。そんな鬼が両腕を大きく広げ、満面の笑顔をこちらに向けていた。

    「あの…妓夫太郎さん……あれ……」

    善逸は自身の真横に居る今回任務の上司である柱・謝花妓夫太郎に、その鬼の存在を指摘するが……

    「……何だぁ?」
    「いや、あの……俺達の後ろに何かド派手な鬼が……」
    「………幻覚だろぉ」
    「え?いや、メッチャこっち見て妓夫太郎さんを呼んでますけど?」
    「俺は何も聞こえねぇ何も見てねぇ……」
    「ええええ!?」
    「んな幻覚より今は目の前にいる鬼に集中しろぉぉ」

    妓夫太郎は背後の存在を完全に無視し一切視線を移すことなく、目の前の今回任務の標的の鬼に集中していた。妓夫太郎の標的の鬼もまた、彼らの背後の鬼に困惑しオロオロしているのだが、妓夫太郎はそんな事等お構い無しである。

    「情報じゃ十二鬼月の可能性有りって事だったが…ただの雑魚鬼だなぁぁ。丁度いい。我妻、俺が援護すっからオメェがコイツ殺れ」
    (あ、この人、本当に完全に無視する気だ)

    妓夫太郎の徹底無視の意思を察し、もう何も言うまいと諦めた善逸。柱の妓夫太郎がそういう姿勢なら、背後の鬼は気に留めなくても大丈夫だろうと、腰に差した刀に手をかけ、目の前の鬼に集中しようとした……その瞬間、

    「………え?」

    善逸は愕然とした。目の前にいた鬼の首が無い……妓夫太郎が斬ったのか?と横目で見るも、妓夫太郎はその場から動いておらず、彼の日輪刀である鎌もその手にあり、血で汚れていない……だとすると、誰が……

    「オイオイ…俺が折角来たのに、他の男に目をやるなんざどういうつもりだ?ん?」

    善逸は全身から血の気が引いていくのを感じた。目の前にいたのは、先程まで自分達の背後にいた鬼……その手には、標的の鬼の首がぶら下がっている……何より善逸が恐怖したのは、その瞳……

    (じ、上弦の陸!!!)

    血のように赤い瞳に刻まれた文字……「上弦」「陸」……その文字の意味に、善逸は全身が震え上がる。自分はまだ下弦とも相対していない。なのにいきなり上弦を目の前にするなんて……

    「ぎ、妓夫太郎さッ……コイツ……ッ」
    「………」

    善逸を庇うように下がらせ、目の前でニヤニヤと余裕の笑みを浮かべる上弦の陸を、妓夫太郎は下から見上げるように睨みつける。

    「上目遣いなんて、可愛い事してくれんじゃねぇか」

    そう言いながら上弦の陸は歩み寄り、妓夫太郎の顎に指を置いてクイッと上げた。その視線が自分に向けられるように…笑みを浮かべる自身の視線と交わるように……。

    「相変わらず良い目してんなぁ。ギラギラして、それでいて澄んでいて……本当青空みてぇだ。その視線、俺だけのもんに……」

    言葉途中だった。上弦の陸は更に言葉を続ける気だった。だが妓夫太郎はその言葉を遮る。
    金 的 で。

    「ッ〜〜!!」
    「イタァァァァァァッ!!!」

    側で見ていた善逸も思わず叫び、股間を抑える。直接食らった上弦の陸は叫ぶどころではない。と言うか、鬼でも金的は効くのかと善逸は新たな発見をした。

    「ヒヒヒッ……戯言ばっかほざいてっから痛ぇ目にあうんだよぉ…色男がみっともねぇなぁぁあッ」

    地べたに蹲る上弦の陸を妓夫太郎は見下しながら、ニヤニヤと笑う。その目は明らかに嘲笑っていた。上弦相手にも相変わらずなんて流石だなぁと善逸は感心しながらも、やはりまだ安心できずにアワアワと取り乱している。

    「じ、上弦の陸様!大丈夫ですか!?」

    蹲る上弦の陸を首だけになった鬼が心配し見上げている。その姿に善逸は「いやアンタの首もいだ張本人」と心の中でツッコむ。
    そんな自分を心配する鬼を、上弦の陸は……

    そ の 手 で 握 り つ ぶ し た 。

    「うっぎゃぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

    目の前で行われた残虐行為に善逸は叫び声を上げ、その恐怖に身を震わせた。

    「あぁぁッ……耳障りな声を俺の耳に入れんじゃねぇよッ」
    「ヒッ!」

    ドスの効いた震える低い声……その声が指しているのが自分の声だと思った善逸は身体を硬直させた。
    殺されると思った。上弦の陸から聞こえる音は、確実に殺意に満ちていたから……
    そして上弦の陸は言葉を続ける……

    「…ったくよ。雑魚鬼がッ!」
    「そっちぃぃ!?てかアンタを心配しただけじゃん!?」

    殺意の矛先が自分では無いと知って気が緩み、思わずツッコんでしまう善逸……そんな善逸のツッコミ等気にせず、上弦の陸は更に言葉を続けていく。

    「俺は妓夫太郎の声を聞いていてぇんだッ。それが蔑む声だろうとなッ!」
    「ド変態かよ…」

    上弦の陸の告白に、妓夫太郎は蔑む視線を送る…完全にドン引きである。

    「ん?別にそっちの趣味はねぇぞ?俺はどちらかっつうと泣かせてぇ趣味だしな。あ、その後はちゃんと甘やかして甘い声を聞かせてもらうから安心し……」
    「テメェのクソッタレな趣味なんざ聞いてねぇんだよなぁぁッ!」

    回復したのか、すくっと立ち上がっては微笑みを浮かべ、またしても妓夫太郎の顎に指を置く上弦の陸。そんな上弦の陸に妓夫太郎は殺気を放ちながら、二度目の金的を食らわせた………だが、妓夫太郎の足は空を切る……

    「流石に二度目は食らわねぇよ?」

    ふわりと空に飛び、微笑みを浮かべ妓夫太郎を見下ろす上弦の陸…そんな彼に妓夫太郎はチッ!と大きく舌打ちをし、鎌を構えた。

    「オイオイ。俺はお前と殺り合うつもりはねぇぞ?」
    「テメェになくても、俺にはあるんだよなぁぁッ!」

    スッと地に足を着き、妓夫太郎の前に立ちはだかる上弦の陸。相対する妓夫太郎はいつでも戦闘に入れるように構え、視線を彼から外さない…
    緊迫した状況……ピリピリとした空気に、善逸はゴクリッと唾を飲み込む………が、

    「たく……手の掛かる嫁だぜ」
    「………へ?」

    上弦の陸が発した言葉に善逸は思わず気の抜けた声を出し、恐る恐る視線を妓夫太郎に向けた……妓夫太郎は眉を顰めて、歯をギリギリと不機嫌そうに噛んでいる……。

    「あの…妓夫太郎さん……今の……幻聴ですよね?」
    「当ったりめぇだろうがッ」
    「ですよねー!妓夫太郎さんが上弦の陸の嫁なわけないですよねー!!」
    「おうよッ。誰があんなボケカスの嫁になんざッ……」
    「あの日のお前、最高に可愛かったよなぁー。俺のチ○ポを処女ケツに突っ込まれて涙溜めて瞳潤ませて「やめろぉッ」言いながらビクビク感じてよぉ」

    瞼を閉じながら恍惚な微笑みを浮かべ、何かの記憶を思い浮かべている様子の上弦の陸……そんな彼の言葉に、妓夫太郎の否定する言葉に笑顔を浮かべていた善逸は硬直し、妓夫太郎は引き攣った笑みを浮かべ額に青筋を浮かばせた……。

    「もう最後らへんは奥突く度に射精して、顔がでろでろになっちまってたよなぁぁ。あん時のお前マジで可愛かったぜッ。あ、勿論普段のお前も可愛いからな!俺はお前のどんな姿も愛してっから安心しろ!」

    そう言い終わり、再び両腕を広げて満面の笑顔を妓夫太郎へ向ける上弦の陸……それはまるで自分の胸に飛び込んで来いと言ってきてるようで……そんな彼に妓夫太郎は勢い良く顔面に自身の足をめり込ませた。

    「テッッメェェッ……マジでふざけてんじゃねぇぞッ!ぁァアッ!?」

    足をめり込ませながら踏み付けるようにグリグリと動かす妓夫太郎……額の青筋は切れそうなくらい浮かび上がり、ギロリと睨みつける瞳からは殺意が迸っている……殺意を向けられていない善逸でさえも震え上がるほどの恐怖だ。

    「あ、あ、あ、あのぉぉ……ぎ、妓夫、太郎さ……」
    「幻聴だ!良いな!?幻聴だからなぁぁッ!!」
    「はいぃぃぃぃぃッ!!!」

    最早真実などどうでもいい。妓夫太郎が珍しく声を荒げ、幻聴と言ったのだからこれは幻聴なのだと思うしかない善逸は先程の上弦の陸の言葉を一刻も早く忘れようとした……

    「ところでよ、妓夫太郎…」

    いつの間にか妓夫太郎の足から逃れていた上弦の陸は、何か腑に落ちないような顔をして妓夫太郎を見つめていた。そして……

    「お前、さっきから誰と喋ってんだ?」
    「………?」
    「………は?」

    首を傾げ、謎の質問をしてきた上弦の陸に、妓夫太郎と善逸の時は止まる……。
    善逸は、「あれ?俺死んでないよね?いつの間にか殺られてましたーなんて事ないよね??」と血の気を引かせてガクガクと震え出す。そんな善逸を妓夫太郎は「……これ」と指を差し、上弦の陸に善逸の存在を知らせる。

    「………あれ?その黄色いチビスケいつの間に居たんだ?」

    まさかの善逸の存在を完全に無視していた上弦の陸であった。

    「アンタが現れた時、最初っから居たわァァァァッ!!!」

    恐怖の反動か……善逸は全力でツッコんでいく。
    そんな善逸に、上弦の陸は悪びれる様子もなく、

    「あ〜わりぃわりぃ。俺、妓夫太郎しか視界に入れてなかったわ!」
    「いやそこの鬼には気付いてたじゃねぇか!」

    最早恐怖は消え去り、キレのあるツッコミを上弦相手に堂々としていく善逸。だが、

    「まぁ仕方ねぇよな。こんなに愛らしい嫁を目の前にしたら、嫁しか目に入らねぇってもんだ。なぁ妓夫太郎〜」
    「テメェのその腐った目ん玉抉ってやろうかぁぁッ?」
    「ん?何だ?俺の眼欲しいのか?良いぜくれてやっても。その代わり…お前の唇貰うけどな?」

    善逸の存在をまたしても忘れたかのように、上弦の陸は微笑みながら妓夫太郎の顎に手を添え、その綺麗な顔を近付けていく…そんな完全に妓夫太郎しか視界に入れていない様子の上弦の陸に、善逸は遠い目をし、呆れてしまう…一方、詰め寄られている妓夫太郎は、「テメェにはこれをくれてやるわ!」と刃を上弦の陸の頸目掛け振りかざすが、軽い身のこなしで避けられてしまう。

    「おうおう。相変わらず威勢良いなぁ。さっすが俺の嫁」
    「だから、テメェの嫁になんざなった覚えねぇっつってんだろがぁぁあッ!!」
    「照れんなって。俺の事も素直に「天元」て呼んでくれよ」
    「誰が呼ぶか!クソ鬼がッ!!」
    「本当恥ずかしがり屋だな…可愛過ぎんだろ」

    上弦の陸、天元という名である事が判明。
    天元と妓夫太郎のやり取りをずっと見ていた善逸は思う……

    (ヤバイ…ずっと思ってたけど、この鬼、話通じねぇ……)

    鬼らしいと言えば鬼らしいが、この鬼は更に異常だと善逸は痛感していた。妓夫太郎の言葉を全て自分の良いように捉える天元。何その前向きさ。少しは妓夫太郎さんに分けてあげてよ。と心の中でツッコむ善逸。そして誰か援護に来ないかなぁと青黒い空を見上げた……。

    「そんな恥ずかしがり屋なお前に、俺からの贈り物だ。受け取ってくれるよな?」

    自分のペースを崩す事なく、天元は優しい微笑みを浮かべながら、ある物を何処からともなく取り出した……その大きな手に乗っているのは、純白の…金糸で梅の花が施された美しい白無垢……その贈り物を、妓夫太郎は目を見開き見つめた……。

    「お前の為に用意したんだ」

    甘く囁く言葉を添えて、白無垢を妓夫太郎に差し出す天元。きっととても高価なものだろう。刺繍からして特注品であろう。自分の為にという言葉は嘘ではない事が分かる……自分の為にわざわざ用意されたその贈り物を、妓夫太郎は……

    ベ シ ッ と 地 面 に 叩 き 落 と し た 。

    「おまッ!折角の純白が汚れちまうだろ!!」
    「知るかァァァァッ!!!」
    (妓夫太郎さんの行動は正しい…うん。正し過ぎる)

    善逸は妓夫太郎の行動を肯定しうんうんと頷く。あんな大きな物をどこに仕舞っていたのかというツッコミはもうしない…無駄に疲れるだけである。

    「たくっ……」

    地面に叩き落とされた白無垢を急いで拾い上げ、泥を叩いて綺麗にした天元は、ハァと深い溜息をつく。

    「これの何が気に入らねぇんだよ」
    「それを気に入ると思ってたテメェの脳みそは確実に腐ってんぞ」
    「ぜってぇお前に似合うのによ」
    「テメェは俺が女にでも見えてんのか?ぁッ?」
    「何言ってんだ。お前の股間にチ○コ付いてたの見てんだぞ俺。大きさも色も可愛かったチ○コ」
    「ブッ殺す!!!」

    己を馬鹿にされたと感じた妓夫太郎は、凄まじい殺気を纏い、刃を構え天元へと斬りかかる。その速さは目にも止まらぬもので、妓夫太郎の本気さを物語っていた。だが冷静さを欠いたその一太刀……天元は、ニンマリと余裕の笑みを浮かべ自身も妓夫太郎へと向かっていく……その背筋が凍ると思える程の余裕の笑みに善逸は嫌な予感を感じ、「妓夫太郎さん!」と声を上げた……だが、その声は無意味に終わる………
    一瞬だった……二人は刃を交える事なく、互いの身体を素通りした……
    善逸は震えた……目の前の光景に言葉が出てこない……
    天元は変わらぬ余裕の笑みを浮かべ、後ろを振り向く……そして、

    「似合ってるぜ、し・ろ・む・く♡」

    満面の笑顔を浮かべた天元の視線の先には、先程の白無垢に身を包んだ妓夫太郎の姿……そして、妓夫太郎が着ていた隊服は何故か天元の手中に……

    「いやどんだけ早着替えなんだよ!!どんな凄技だよ!!!ねぇ!!!」

    あまりの早業にツッコミを放棄していた善逸はつい声を荒らげてしまう。無論、妓夫太郎の声しか耳にしたくない天元はそのツッコミを無視するのだった。

    「テッッメェェェッ……!」

    ニヤニヤと自分を見つめてくる天元に、妓夫太郎は怒りから震えが止まらず、引き攣った笑みを浮かべながら睨みつける。

    「ん?花嫁衣装着れてそんなに嬉しいのか?」
    「んなわけあるかぁぁあッ!!」
    「照れるなって。本当似合ってるぜ、妓夫太郎」

    妓夫太郎を愛おしく思う気持ちからなのか、優しい微笑みを向ける天元だが、妓夫太郎にとっては腹立たしいものでしかなかった。

    「この白無垢を、テメェの返り血で真っ赤に染めてやらぁぁあッ!!」
    「そりゃ困った。んじゃ汚れる前にさっさと祝言挙げねぇとなッ」

    白無垢姿の妓夫太郎が刃を構え、再び天元へ斬りかかる。それを天元は笑みを浮かべながら避け、時には妓夫太郎の腰へと手を回そうとする。

    「人の腰に手を回すんじゃねぇよ!このド変態がぁぁッ!」

    自分の腰へと回る天元の手を斬り落とし、その返り血を白無垢で受ける妓夫太郎……

    「あ〜ッ!汚れちまった!!」
    「は!!ザマァみろ!!」
    (……あれ?でも鬼の血なら日光に当てれば消えるよね?)

    最早空気と化している善逸は二人のやり取りを少し離れた場所から遠い目をして見つめていた。

    (……あれ?日光……?)

    フッと思い出したかのように善逸は空を見上げた……

    「たくっ!いい加減大人しく嫁入りしろっての!!」
    「ハッ!そんなに俺を落としたきゃぁ、もっと俺と踊るこったなぁぁ!!」

    まるで西洋の踊りのように軽快な足取りで斬りかかる妓夫太郎。次から次へと繰り出される攻撃。型のない、我流のその太刀筋を、天元は見極めながら辛うじて避けていく。

    (相変わらず良い音してやがる…雑な中に綿密な動き……俺の譜面でも簡単には読めねぇな)

    妓夫太郎の太刀筋に思わず笑みが溢れる。天元は妓夫太郎の全てを愛していた。この太刀筋も、独特な音も。それ故に躍る胸のざわめき。

    「俺と一緒に"躍"ってくれんのか。嬉しいぜ妓夫太郎」

    心底愉しそうに微笑み、妓夫太郎の攻撃を躱していく天元。

    共に奏でよう。狂愛の音を……。

    交り合う心地良いその音を全身で感じながら、天元は躍る。

    「チッ(余裕な顔しやがってッ…!)」

    愉しそうなその表情に苛立ちを覚えながらも、妓夫太郎は冷静さを欠かさなかった。攻撃の手を緩める事なく、白無垢の裾を擦りながら天元の意識を自分に集中させていく。
    当たらなくても良いのだ。この時を…この乱舞を、後少しだけ……もう少しだけ………

    (まだ俺と踊ってもらうぜぇぇッ!クソ鬼ッ!!)

    この舞の締め括りは光りを浴びて……それが妓夫太郎の目指すもの。
    息が上がりつつある。素早い天元の動きに合わせて連撃し続けているのだ。呼吸を極めた妓夫太郎でも限界がある。それでも妓夫太郎は止めない。その時が来るまで。

    「もう限界だろ?俺も充分愉しめたからよ。そろそろ俺らの愛の巣に行こうぜ」

    躱すだけだった天元はそう告げ、間合いを一気に詰めてきた。その突然の動きに、妓夫太郎は白無垢に足を取られ、体勢を崩す。表情が歪む。歪んではチッと悔しそうに舌打ちをし、体勢を整えようと足を踏ん張った。だが、

    「捕まえた♡」

    腰に手を回され、腕を掴まれて、微笑んだ美しい顔に視界の全てを奪われてしまう。

    「愉しかったぜ、お前との協奏」
    「?俺は演奏なんざしてねぇぞ?」
    「俺の耳にはちゃんと聞こえてたぜ。お前のド派手な唄」

    抱き込まれても妓夫太郎は笑みを浮かべていた。だが、その笑みは引き攣り、口からはハァハァと熱い吐息が漏れ出る。額からは汗が滲み出て、その汗を天元の舌で拭われ、その生暖かい感触に思わずビクッと身体を震わせてしまい、眉間には深いシワを刻む。
    その状況は誰が見ても、天元の勝利だった。

    「さぁ帰ろうか。俺らの家に…な?」

    吐息交じりの低い声…纏わり付く艶めかしいその声に、妓夫太郎はハッ!と笑う。

    「帰れるもんなら帰ってみやがれ!クソ鬼がぁぁ!!」

    余裕の無かった妓夫太郎の表情が一気に変わった。ギラギラとした瞳に、上がりきった口角。それは強がりの笑みではない…その笑みの意味するものが一瞬分からなかった天元だが、

    「妓夫太郎さん!!」

    善逸の声に天元はハッとする。今まで無視をしてきたその声へ顔を向けると……鬼にとっての絶望の光が少しずつ差してきていた……

    「ゲッ!!もう夜明けかよ!!!」
    「ヒャハハハ!!残念だったなぁぁ!!クソ鬼ぃぃ!!」

    どんなに強い鬼でも太陽の光には無力…それは天元も同じ事……天元は初めて焦りを見せ、その場から立ち去ろうとする。だが、妓夫太郎がそれを許さない。

    「オイオイ。俺の事愛してんだろぉぉ?だったら、まだまだ一緒に居てくれよなぁぁッ!」

    ずっと拒絶していた天元の頸へ腕を回し、その身がこの場から去らぬ様に引き止める妓夫太郎。その殺意の抱擁に天元は笑顔を引き攣らせた。

    「いや〜お前から抱き付いてくれんのは嬉しいけどな?今じゃねぇんだわ」
    「あん?俺からのありがたい抱擁に文句でもあんのかぁぁ?」

    このまま妓夫太郎を抱えていけば良いだろうと思うかもしれない。だが、時は一刻を争う状況。抱えた妓夫太郎が抵抗すれば太陽の餌食となってしまう。故に天元は一人でここから立ち去らねばならない…。
    それが分かっている上で妓夫太郎は天元を強く抱き締める。

    「愛する俺に抱き締められたまま消えやがれ、クソ天・元」
    「ん〜…そりゃ夢心地だろうが、今は遠慮しとくぜ…愛しい俺の妓夫太郎」

    赤と青…対照的な二つの視線が交わる。愛する者に向ける視線と殺意を抱く者に向ける視線……お互い口元に笑みを浮かべながら、その視線を外す事をしない。時が許すならこのまま交じり合わせたままにしたかった天元だが、

    「まだお前の熱視線浴びていてぇが、流石にこれ以上はマジでヤベェんでな。今日のところは帰らせてもらうわ」
    「ハッ!帰さねぇって言ってんだろぉぉ?どうやって俺の抱擁から……」

    ガッシリと掴んでいた。その身体を離すまいと…自分の抱擁から逃げる事等不可能と思って、笑い飛ばす妓夫太郎…だが、天元は一瞬で妓夫太郎の腕の中から姿を消した……妓夫太郎は目を見開き、咄嗟に背後へと振り向く。

    「わりぃな!元忍びなおかげで、こういうのは得意なんだわ!」

    そこには満面の笑顔でしてやったりといった感じの天元の姿…そんな天元に妓夫太郎は悔しそうに舌打ちをする。

    「お前からの抱擁、本当に嬉しかったぜ!後、名前も呼んでくれたしな!今度は寝床で抱擁しながら呼んでくれよッ、妓夫太郎♡」

    そう言い残して、天元は太陽の光の届かぬ森へと姿を消していった……。
    残された妓夫太郎は、歯をギリギリと食いしばる。

    「ックソがぁぁあッ!冥土の土産にと思って名前呼んだっつうのによぉぉッ!!」

    苛立ち、自分の頬をガリガリと掻き毟りだす妓夫太郎…悪い癖発動である。そんな妓夫太郎の元へ善逸が駆け寄って来る。

    「妓夫太郎さん!無事ですか!?」
    「?ずっと見てたんだろうがッ。無事に決まってんだろッ」
    「ですよねー!」

    本当は色々と疑問のある善逸だったが、触らぬ神に祟りなしと何も聞かずに満面の笑みを浮かべた。

    「あ、そういえば、任務対象の鬼は日光で消えました」
    「……そういやそんな奴居たなぁぁ」

    哀れ、名も知らぬ存在さえ忘れられていた鬼……

    「これで帰れますね!」
    「だなぁぁ……」

    予期せぬ事態は起こったが、何とか二人無事に朝を迎える事ができ、善逸は心から喜んだ。早く帰って禰豆子ちゃんに会いたいなぁと心を躍ろせ、帰ろうと足を動かした時、

    「…………あ」
    「?どうしました?」

    妓夫太郎は何かを思い出し、足を止めた。妓夫太郎も早く帰って妹に会いたいだろうにと不思議そうに善逸は見上げる。色々有り過ぎて忘れていた…いや、何かもう見慣れてしまったのかもしれない……

    「あの野郎ッ……俺の隊服持ったまま消えやがったッ!!」

    妓夫太郎の白無垢姿に………。









    太陽から逃れ、自分の地下屋敷へと辿り着いた天元は、手に持った妓夫太郎の隊服を見つめていた。
    微かに残る妓夫太郎の体温……本来ならその体温をこの胸に抱きながら帰ってくる筈だったが……

    (本当、手の掛かる嫁だな……ま、その分、手に入れた時の悦びは格別だろうから、楽しみにしとくか)

    必ず手に入れてみせる。身も心も…音も唄も…お前の全てを…
    そう心に誓い、天元は微笑みを浮かべ妓夫太郎の隊服に顔を沈める。あの時抱いた肌の温もりと、妓夫太郎自らくれた熱い抱擁を思い出しながら……。
    そんな天元を少し離れた場所から、瞳に「上弦」「参」と刻まれた、まるで炎のような髪型の鬼が笑顔を固まらせて見つめていた……

    (……うむ!話しかけづらい!!!)

    傍から見れば奇行でしかない天元の行動に、上弦の参は笑顔ながら困惑を隠せずにいた……。
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