いただきます「今夜は御馳走だな」
俺がそう微笑みながら告げると、目の前の"御馳走"はギロリと睨み付けてきた。
手を天井から吊した鉄枷で拘束されて、足には重し付きの鉄枷…自害防止に手ぬぐいで猿轡をされた絶望的な今の状態でもその強気な姿勢に変わりわねぇ。良いねぇ、そのギラギラした眼。一見澄んだ青い色に見えるが、微かに淀みを隠してやがる。そんな美味そうな眼で上目遣いされちゃぁ、我慢できねぇってもんだ。
その味を妄想して思わず舌なめずりしちまう。
「お前も鬼狩りの柱なんだ。食われる覚悟はできてんだろ?ん?」
畳の上に座り込んでる御馳走の前にしゃがみ込んで、俺は御馳走の瞼をこじ開ける。ペロリと眼球を一舐めすれば、その身体はブルッと小さく震えた。流石のコイツでも眼球舐めの感触には怖気づくか。ぷるっとしてて最高の感触なんだがなぁ。
震えた瞳を想像しながら見下ろせば、そこにはまだ強気な瞳があった。へぇ~…今までの鬼狩り…歴代の柱とは随分と肝っ玉が違うんだな。……まぁ確かにコイツは、今まで殺ってきたどの柱よりも愉しめたからな。
荒くて、動きが読み難い…型なんざ一切無く、その場その場で繋ぎ合わせたきったねぇ唄を響かせてたコイツの刃……だが、その汚ぇ唄は俺の胸を躍らせた。今まで聴いてきたどの唄よりもだ。
独創的で、ド派手で…それでいてどこか憂いのある唄……それは正に俺好みの唄だった。そんな愉しい唄をコイツは聴かせてくれた。俺の耳を愉しませて、そして俺の唄とも協奏して……二人で奏でた唄は最っ高に心地良いもんだった。だからせめてもの情けだ。優しく食ってやるよ。
顔にある個性的な痣を指でなぞる。
「この痣……身体にもあんのか?」
「………」
俺の質問にただフーッフーッと荒い息を猿轡の隙間から吐いて、変わらねぇギラギラした瞳を俺に向けてくる。その強気もいつまで保つんだろうな。意外と食い始めたら一気に泣き始めたりして、許しを乞うようになんのかね。あ〜楽しみだわぁ。楽しみ過ぎて頬が緩んじまう。俺のショク欲ももう限界だ。美味そうなその身体……たっぷり味あわせてもらうぜ。
「そろそろ頂くとするかな……」
まだギラギラした瞳に見つめられながら、ゾクゾクッと走る快感に身を震わせ、俺は口元に笑みを浮かべ、その身体に口を当てていく……。あぁ。ちゃんと食べる前に言わなきゃな……んじゃ、
──いただきます。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日、上弦の陸・宇髄天元の屋敷に、上弦の参・煉獄杏寿郎が訪れていた。
「宇髄聞いたぞ!柱を一人打ち負かしたそうだな!流石だ!!」
「結構手こずったけどな」
「うむ!今の柱達は一筋縄ではいかぬ猛者揃いと情報が入っている!そんな柱の一人を打ち負かしたのだから胸を張って良いぞ!!」
ハッハッハッ!という煉獄の大きな…それはとても大きな笑い声が部屋に響く。その笑い声に慣れているのか、宇髄は特に気にする素振りを見せず、思いに耽るような微笑みを浮かべる。
「結構面白ぇ奴だったよ。譜面も中々完成しにくかったわ」
「ほう!過去形という事は…もうこの屋敷には居ないのか!」
「……あぁ。居ねぇよ」
「食ったのか!」
「…その日の内に、美味しくな」
そうニタリと笑う宇髄がとても愉しそうに見えた煉獄は、満面の笑顔を浮かべた。
「柱ともなれば格別な味だったのだろうな!」
「あぁ。極上だったわ」
「ふむ!どんな味だったのだ!」
「そうだなぁ……童貞で処女だったらしくてな」
「……ん!?」
煉獄は一瞬宇髄の言葉が理解できず、固まってしまう。
ドウテイ……ショジョ…とな?
「アイツの人の手で開かれた事のねぇ蕾を開いた時の快感と言ったらそりゃもう格別だったなッ。ずっとギラギラした眼してたんだが、そん時ばかりは瞳が震えてよッ」
ツボミ……とは?開く……とは?
煉獄の頭の上にいくつもの疑問符が浮かんでいく。
「んで、メスイキ箇所を刺激してやったら身体大きく震わせてな!口を手ぬぐいで塞いじまってたから、声が聞けなかったんだよなぁ!そこは残念だったわぁ!ぜってぇ良い声で鳴いてくれたってぇのによぉッ!」
メス、イキ…箇所……
その言葉で煉獄は、自分と宇髄の食い違いに気付く。"食った"の意味が全然違う、と……。
「んで、俺のチ○ポでガンガン掘ってやってな!もう最後らへんは奥突く度にイッちまって!ギラギラしてた瞳も涙で潤んで蕩けてたなぁ!メチャクチャエロくて綺麗でまた眼球舐めてやったわ!」
ドンドンと強くなっていく宇髄の口調。そして満面の笑顔。流石の煉獄も圧されてしまい、言葉を掛けるタイミングを見失ってしまっている。
「最後はぐったりして身体ビクンビクン痙攣させてて、目も虚ろになっちまってたから、もう自害する気力もねぇだろうと猿轡外してやって、口付けしてやったわ!そしたらまぁ、出るわ出るわ、エッッロい声!!そのエロい声で俺の色欲(ショクヨク)更に倍増!そっからまた何発もヤッてやったわ!」
その時の事を思い出しながらなのか、瞼を閉じながらご満悦といった表情を浮かべる宇髄。そして最後は……
「いやー!マジで最高に絶品で美味かったわ!!妓夫太郎の奴!!」
後光が差しているような満面の笑顔で告げて、ようやく宇髄の猥談は終わった。
煉獄は一瞬考えた。どう返事をすれば良いのかを。だが、その考えてる時間が勿体無いと感じた煉獄はそのまま今思った事を宇髄へぶつけた。
「なるほど!!それは良かったな!!!」
「おう!」
何故かハハハ!と笑い合う二人…
「しかし、その後は普通に食ったのだろ!?」
「ん?良いや。逃げちまった」
まさかの宇髄の返答に口元だけ笑って固まる煉獄……そんな煉獄を気にせず宇髄は笑いながら言葉を続ける。
「一瞬の隙をつかれてなぁ!今朝逃げられちまった!いやぁ〜やっぱアイツは面白ぇわッ!」
「それは笑い事なのか宇髄!!」
特に気に留めている様子のない宇髄に、煉獄は口元だけ笑って目をギラギラとさせツッコミを入れる。そんな煉獄からの珍しいツッコミに、宇髄は飄々と答えた。
「ん?まぁ、嫁入り前に一回ぐれぇは実家に帰らせても良いかなって思ってなッ」
余裕たっぷりに、ニカッと微笑む宇髄。そんな宇髄を見て、煉獄はわざと逃した事を察した。
「……ん?嫁入り、という事は……食わずに側に置くつもりなのか!」
「おう。アイツの音聴いてっと不思議と落ち着いてなッ。最初は胸躍って愉しかったが、次第に俺に溶け込んできやがった。俺の唄と協奏できる奴を手放すわけにはいかねぇだろ?」
笑ってはいるが、その赤い瞳は本気だった。宇髄は本気でその柱を嫁にしようとしていると感じた煉獄は再び満面の笑顔を浮かべた。
「そうか!!祝言を挙げる際は是非とも呼んでくれ!!」
「おう!祝い金楽しみにしてるぜ!」
そしてツッコミのいないまま、二人の談笑は続く……
そんな談笑が行われている事など知らず、鬼殺隊柱・謝花妓夫太郎は、重い身体に鞭を打ちながら、鬼殺隊診療所を目指していた。
「あんッの、クソ鬼がぁぁぁッ……!夕べも何回も何回も出しやがってぇぇぇッ……!」
重い腰が昨夜の行為を思い出させる。まだあの鬼のおぞましい粘液が腹の中に残っていそうで、妓夫太郎は顔を歪め、その場に嘔吐してしまう。
吐き終わり、ゼーハーッゼーハーッと荒くなった息を必死に整え、自分に向けられた妖艶な微笑みを脳裏に思い浮かべた……そこから出てくる感情はただ一つ……
「今度はぜってぇぇ頸を斬ってやっからなぁぁあッ!やられた分は必ず取り立てるッ!!それが俺、妓夫太郎だからなぁぁあッ!!」
沸き立つ殺意をその瞳に宿らせて、妓夫太郎は心に誓う。
その殺意の相手が、意気揚々と自分用の白無垢を用意しようとしている事など知る由もなく……