【3次創作】宇髄家のしゃばにゃ【須磨にお任せ】
「ゃうぅぅぅー!」
「あー!待ちなさいうめー!」
その日、宇髄家の一室でふたりの乙女の声が響いた。
「うめー!出てきてくださーい!」
「須磨、何やってんのよ」
屈んではソファー下を覗き込む須磨にまきをは微かに呆れた表情を浮かべながら問い掛けた。
「あ、まきをさん!うめをソファー下から引き摺り出してください!」
「えぇ?そんな無理矢理引き摺り出すのは…」
「まきをさんならやれますよ!」
「どういう意味!?」
目を輝かせながら告げる須磨には一切悪気は無かった。仕方なく身を屈め、ソファー下を覗き込むまきを。すると、鋭い目付きの薄緑色の瞳と目があってしまう。
一目見て分かる……うめ、只今警戒度MAXである。
「ちょっと須磨…アンタうめに何したの?」
「何もしてませんよ!ただ歯磨きをしようとしただけです!」
「……あぁ。うめの歯磨きね」
まきをは一瞬思考した後納得した。よくよく見れば須磨の手には猫用歯ブラシ。
歯磨きしたい須磨VS歯磨きしたくないうめ、という構図のようだ。
うめの歯の健康を考えれば歯磨きはした方が良いのだが、
「ゃうぅぅぅ〜ッ」
ソファー下からは唸り声に近い愛猫の声……
今無理矢理やってはストレスを与えるだけではとまきをは考え、
「今日はご機嫌ななめみたいだから、また今度にしたら?」
「ダメですよそんなの〜!!」
「いやでも、この嫌がりようだと…」
まきをが説得を試みるも、須磨は一切引かない。何故こんなにも引かないのか不思議に思い始めたまきをが問おうとした時、
「女の子がお口臭いなんて、そんなのあってはならないんですッ!!!
一歩も引かない理由を大声で叫び、フンッ!と意気込む須磨と、何をそんなに意気込んでんの…と呆れるまきを……きっと、うめも呆れた表情を浮かべているに違いない。そう思ったまきをだが、
「みゃッ!!?」
須磨の言葉にハッ!とした表情を浮かべ、何やらショックを受けてしまったうめ。
その後、ゆっくりとソファー下から這い出て来たうめを、「捕まえました!」と笑顔で捕獲する須磨。そして、
「はぁーいうめー、お口あ〜んしてくださいね〜」
「みゃぅッみゃッ」
不服そうにしながら須磨の膝に乗り仰向けになっては口を開けるうめと、ニコニコしながら歯磨きを始める須磨の姿があった。
(乙女心に響いたって事…?)
そんなふたりに呆気にとられながらも、温かく見守るまきをだった。
因みに、兄猫ぎゅうたろうは……
「よーし。良い子だな〜ぎゅうたろう〜」
「んなぁ〜なぁ〜」
大好きな天元の膝の上で仰向けになり、大人しく歯磨きされるぎゅうたろう。
「これを動画に撮って、「仕上げは天元様」と題して教育番組に送りましょー!」
「いやそこは動物番組でしょ!?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【もう待てないよ】
その日、天元はいつもよりも遅く帰宅した。そんな天元を玄関で我先にと出迎えたのは愛猫ぎゅうたろう。
「ぎゅうたろう〜待っててくれたのか〜?」
「んなぁぁん」
足にスリスリと寄って来た小さい身体を抱き上げては、今度は自分からと頬擦りをしていく天元。そんな天元の愛情表現に満足そうにぎゅうたろうは甘えた声を上げる。
「天元様、先にお風呂に入られます?」
そんなふたりのやり取りを微笑ましく見ていた雛鶴が声を掛ける。
「おう、そうだな。体冷えちまったから風呂で温まってくるわ」
「かしこまりました」
「んじゃぎゅうたろう。リビングで待っててくれな?」
「んなぁぁあッ」
バスルームへ行く為にぎゅうたろうを下ろす天元。だが、まだまだ甘え足りないぎゅうたろうは天元の足元から離れようとせずスリスリしたり足に爪を引っ掛けたりと精一杯の抵抗を見せ始める。
「わっ!お、おい、ぎゅうたろう〜」
参ったなぁ〜と苦笑を浮かべる天元だが、口元は緩みに緩みまくっているので嬉しさが滲み出ているのが分かる。
「んじゃぎゅうたろうも一緒に風呂入るか?」
「なぁぁん!」
「ダメですよ。目を離した隙に溺れたり、シャンプーを舐めたりする恐れがあるんですから」
「あ、はい」
ニヤニヤとぎゅうたろうに語り掛けていた天元だが、雛鶴の正論に返す言葉無く思わず敬語で返事をしてしまう。ぎゅうたろうも天元と一緒に行く気満々だったのか、雛鶴の言葉にショックを受けて、シュン…と落ち込んでいる様に見える。
「ごめんなぁぎゅうたろう。リビングで大人しく待っててくれ」
「んなぁぁあぁッ」
自分に甘えた声を上げてくるぎゅうたろうを、天元は「くッ…」と眉間にシワを寄せた辛そうな表情を浮かべては振り切り、着替えを持ってバスルームへと急いだ。
「んなぁぁあぁぁあッ!」
「悪い!ぎゅうたろう!」
トタトタトタトタッ!と自分の後を追ってくる可愛らしい足音が聞こえてくるが、天元は脱衣所で服を脱ぎ、浴室へと入って行く。
これで諦めてくれるだろ…そう思い、体を洗おうとした時、
「んなぁぁあぁぁあッ!」
ガリガリガリッと浴室のフロストガラスのドアを引っ掻く音と、ガラス越しに見える、直立した小さな愛らしい姿……
脱衣所の扉を閉めるのをすっかり忘れていた模様……
「んなぁぁあぁあッ!なぁぁあんッ!」
「あぁァァァーーーッ!!」
悲痛でいて愛くるしさも含むその心揺さぶられる声に、愛おしさが天元突破した天元。自分を待つ愛おしい者の為、超特急で体を洗い、洗髪しと、カラスも驚く速さで入浴を終えた。
「天元様、もうお風呂上がったんですかぁ?」
「髪の毛乾かして無いじゃないですか!」
「いやもう無理。これ以上時間掛けられねぇ」
リビングで待っていた須磨とまきをの質問に軽く答える天元。そんな天元の胸の中では、満足そうな、どこか安心したような表情を浮かべたぎゅうたろうの姿があった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【悩み】(ほぼ会話)
キメツ学園1年生我妻善逸は何度目かの溜息をついていた。そんな善逸の横を偶然通り掛かった天元は呆れた表情を浮かべて話し掛ける。
「オイオイ辛気臭ぇなぁ。高校生なんだから、そんな深い溜息ついてんなよ」
「万年悩みに無縁な先生には、俺の繊細かつ傷付きやすい心の痛みなんてわかりっこないんですよ」
「お前失礼過ぎね?俺だって悩みあるわ」
「えぇ…本当にぃ?どんな悩みですか?」
「実はな最近、朝起きる頃になるとな、ぎゅうたろうが…あ、ぎゅうたろうって俺の可愛い愛らしい愛猫な?」
「充分に存じ上げでおります。何回も写真見せられてるんで」
「そうか…そのぎゅうたろうがな、布団の中に潜り込んでくんだよ。もぞもぞと俺の布団の中に」
「……はぁ」
「んでな。俺の腕枕を御所望でな。俺の二の腕に、顎と手を乗っけてグルグル喉鳴らしながら寝始めんだよ」
「………」
「でも俺は起きてぇわけよ。でも気持ち良さそうに眠り始めたぎゅうたろうを起こすわけにはいかねぇだろ?少し動くだけで身動いで俺の腕をギュッて掴んでくるし。そしたら俺もう動けねぇわけよ。しょうがねぇからしばらくそのままにしとくんだけどな。いや本当困ったもんだ。起きたくても全然起きれねぇよ。ハハッ」
「…いや惚気かよッ」
「おう。惚気だよ」
やっぱこの人には悩みという悩みなんて無いんだな、と改めて思った善逸だった。