風の贈り物#3 夢夕陽に染まった暖かな木々が風に揺られ、こはくを歓迎する。
以前来た時のような“バレたら終わり”の恐怖を感じる必要はなく、もう二度と立ち入ることはないだろうこの庭をゆっくりと堪能していた。
中庭の中央にそびえ立つ大きな木、青々とした葉からはあまり結びつかないがたぶんこれは桜だ。これと大きさまでそっくりな桜の木が桜河家にも植えられている。同じ頃に植樹されたのだろうか。
「その桜、私が産まれたときに記念に植えられたそうですよ」
突然、背後から声がした。
驚きながら顔をそちらに向ける。
視界いっぱいに広がる御簾、その向こうに人の気配を感じた。
(………この人や)
今日、会いたかった人。会いに来た人。
そんな人が今、御簾を隔てたすぐそこにいる。
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