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    黒羽(DQアカ)

    Twitterに流しにくいものを垂れ流します。

    2023.05.17 Twitter垢 乗っ取りに合っています…
    近いうちに連携切る事になるかと…。
    無念。

    からの、復活!!!
    ヒィーーーハァーーー!!!

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    黒羽(DQアカ)

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    公式クク主
    いつか黒羽が夢に見たネタです。
    旅の途中…8君が船から落ちてしまって、9がそれを助けて2人でどっかの島で一晩過ごす話。

    ・公式(?)998です。
    ・掠りちゅーしたり、背中に薬塗り塗りしたりします。
    ・カッコいい9はいません。(黒羽シリーズ公式)

    それでも大丈夫!!な方は是非お進み下さい!!

    #クク主
    kukuMaster

    深海の王子様(クク主)◆深海の王子様◆


    その日は朝から天気が悪かった。

    最近、オレ達はやっとの思いで自分達の船を手に入れた。
    一気に行動範囲が広くなり、しばらく船旅を続けていたが、この天候を機に、久しぶりに沖に戻る事にした。
    …そうこう話をしていると、気付けば頭上からサァア…と雨が降り始める。


    「くそ、降ってきたな…。」
    「遠くの雲が黒い…すぐに海が荒れる。ゼシカとククールは甲板の物を船内へ!ヤンガスと僕は帆をたたむよ!」

    そう、エイトがパーティに声をかけたのも束の間。
    あっという間に、船は荒波に揉みくちゃにされていた。


    …ザブン!!

    「きゃあぁ!」
    「ゼシカ!君は危ないから船内に…ヤンガス少し舵をお願い!」
    「了解でがす!」

    エイトは舵をヤンガスに渡すと、すぐゼシカに駆け寄りゆっくりと船内に誘導する。
    この波では、女性の力では甲板に張り付くのも厳しいだろう。
    冷静な判断だ。


    「エイト…!」
    「大丈夫だよ。王と姫をお願い。」
    「えぇ…分かったわ!」

    「エイト!西から敵3体!」
    「分かった!僕とククールで迎え撃つ!」

    オレはエイトに声をかけると、そのままスクルトを重ね掛けする。
    2人で戦うのなら、きっといつもの倍、長い戦闘になるはずだからだ。


    「ククール、後ろは任せた!」
    「へいへい…頼まれたぜ、突撃隊長さん!」

    そう言うと、エイトは真っ直ぐ敵中に飛び込んだ。
    …その一瞬たりとも迷わぬ姿は、自分への信頼だ。
    そう思うと、オレはいつも背筋が伸びる。

    戦闘中、オレは魔物の槍を剣で受けながら、エイトの動きを見る。
    足場が波でグラついているが、上手く船の上を駆け回っている。

    …こういう姿を見ると、改めて思う。
    エイトは本当に優秀な兵士なのだと。

    騎士団にいたからこそ、オレにはその技量がわかる。
    贔屓目もなくそう感じている。

    その理由として、単純にエイト自身の戦闘能力が高い。
    ぱっと見、身体の線は細いのに、力はヤンガスの次に強い。
    オマケに、こういった窮地での判断が的確且つ早い。
    組織に属していれば、エイトは間違い無く上に立つ器の人間だろう。

    …でもその一方で、
    コイツには唯一絶対の欠点がある。



    …ギィン!

    「うわッ!?」
    「エイト!!」

    敵に止めを刺した瞬間、エイトの声の方を振り向く。

    エイトもブーメランで敵に止めを刺しているが、舵を切るヤンガスを守った為か、最後の着地でバランスを崩したようだ。
    不運にもそのタイミングで船の足場が揺れ、身体は海の上に放り投げられていた。
    瞬きする間に、エイトは荒波の中にドボンと落ちていった。


    「ッ…兄貴ーーー!!」
    「っ…おいおい!嘘だろ!?」
    「あ、兄貴…アッシを庇って…!」
    「オレが行く!お前は船を沖まで頼む!」
    「は!?ククール!?ちょ…待つでがすよ!!」

    迷ってる暇なんてなかった。
    オレはそう言うと、エイトの落ちた荒波の海に飛び込んだ。



    …ドボン!!

    ゴボゴボ…


    (くそ…暗くて…何にも見えねぇ…!)

    自然の荒波のチカラに勝てるわけもなく、オレはただ波に揉まれる。

    (エイト…どこだ…!)

    (オレとした事が…考えなしに飛び込んじまった…!)

    微弱なバギを応用して、とりあえず強い波が身体に与えるダメージを相殺する。

    (この辺に落ちたんだ…間違いない。ちゃんと落下点は見てた…でもこの波じゃすぐ遠くに流されて当然か…!?)


    …ザバ!

    「ぷは!!エイトーー!!どこだーー!!」

    海面に上がり、声を上げる。
    勿論返事はなかった。

    「エイトーー!!エイトーー!!」

    大雨に雷、この声が聞こえる確率の方が低い。
    そんな事はわかっていた。
    ただ今は、周りを見回し、声を上げるしか出来なかった。


    「エイトーー…え…っ!!」



    (いた!!!)

    海面の所…遠目に黄色い服が浮かんでいる。
    もはや奇跡のような確率に、オレは無意識に心で神に十字を切った。


    (バギ!!)

    オレはまたバギを応用し、なんとかエイトの側に距離を詰める。
    それなのに、エイトに近付いては波に離され、もどかしい時間が続いた。

    この間も、オレはエイトを呼び続けたが、一向に顔をあげない。
    波に顔をつけたまま浮いている。

    …このままでは、エイトの命が危ない。


    「く、そ…!!」

    オレはバギを応用し続け、なんとかエイトの黄色い服の端に手にかける。
    そのまま、エイトの身体を腕の中に引き寄せた。


    「エイト!エイト!!」
    「…。」

    水面につきっぱなしだったエイトの顔を上に向かせる。
    エイトは意識を失っているようだ。
    その暗い顔色に、オレの心臓がドクンと恐怖で闇を灯す。


    (嘘だろ…こんな所で…こんな道半ばで…!!)

    (まだだ…絶対死なせない…!オレが…絶対に…!!)

    そう思うと、オレはギュウとエイトの身体を抱きしめた。


    「…る、ル…ラ!!」

    オレは飛空呪文でどこかへ避難しようとしたが、波に揉まれ上手く詠唱ができなかった。
    今までの戦闘と、荒波に揉まれながら使ったバギのせいで、体力とMPも切れかけている。


    (…や、ば…これ…本気でやばい…!)

    (…くそ、エイト…早く…息…蘇生しなきゃ…いけないのに…!!)


    「ぜ、たい……はな…さないッ!!」

    そのまま、オレは意識を手放した。









    『王子様?』

    トロデーンのお城で生活を始めて、数年経った頃だったと思う。

    自分を森で救ってくれた、命の恩人であるミーティア姫。
    彼女とは年も近く、自然と話す事が多くなって行った。
    今日も、厨房の手伝いをしている僕の隣で、姫が表紙が綺麗な本を読んでいる。
    確か、巷で女の人に流行っている小説だった。

    『えぇそうよ。お姫様はいつか迎えに来てくれる王子様と恋に落ちるの。』
    『こい…って何?』
    『エイトは恋を知らないの?お互いの事が一番大切な相手と2人で。ずっと幸せに暮らすのよ。』
    『一番?でも僕、一番なんて選びたくないよ。』

    そう言い、僕は向き終わった芋を水に漬ける。
    その時、隣の料理長がガハハと笑った。


    『姫様、エイトにはまだ恋なんて早いお話ですよ。』
    『そんな事ないわ。エイトは…大人になったらミーティアの王子様になるんだから。』
    『僕が?』
    『おやおや…これは大層な肩書を拝命したなぁエイト。』
    『はいめー?』
    『よっエイト殿下!…ってか?』
    『でんか?』

    初めて聞く言葉ばかりで、思わずキョトンとしてしまう。
    気付けば料理長の他にも、コック達が話題に加わっており、周りは大層盛り上がっていた。
    みんな、楽しそうに笑っている。
    …僕1人を除いて。


    『ね!だからエイトはミーティアと、このトロデーンでずーっと幸せに暮らすのよ。』
    『ははは!良かったなぁエイト。こりゃ将来安泰だ。』
    『で、でも!僕…幸せになるならみんな一緒がいいよ…。』
    『ダメよ、エイトはミーティアと2人で幸せになるの!』

    2人で?
    みんなで、じゃダメなの?
    幸せになるのに、何故1人を選ばなければいけないの?
    その理由が、僕は全く分からなかった。


    『ははは!まぁまぁ、姫様。エイトだけじゃあなくて、男ってのは女の子に比べて、色んな成長が遅いんです。私だって、恋だの愛だの、理解したのは大人になってからなんですよ。』
    『えっ…料理長が?そうなの?』
    『えぇ。お二人が大きくなられる頃には、きっとエイトから、僕のお姫様になってください…とお願いする立場になっているかもしれませんよ。』

    そう言い、料理長はまたガハハと笑うと、剥き終わった大量の芋を軽々と運んでいく。
    それを2人で見送ると、ミーティア姫がポツリとつぶやいた。

    『ミーティア、早く大人になりたいわ。』
    『どうして?コイができるから?』
    『それもあるけど…早くトロデーンのみんなの為にお仕事をしたいの。みんなが笑って暮らせる国を、ミーティアが守るのよ。』
    『…。』

    幼心に、関心したのを覚えている。

    その凛とした横顔。
    僕の知らない難しい言葉が、年も違わぬ女の子の口からスラスラと出てくる現実。

    間違いなく、ミーティア姫は僕なんかよりずっとオトナで、心優しいお姫様だ。
    だから、僕も…ミーティア姫に相応しい【王子様】にならないといけないのかなって、その時は漠然と思っていた。

    …でも、歳を重ねるほどに、それはそう簡単な話ではなくて。

    守りたい、命より大切な人、という忠誠を誓ってはいる。
    けれど、ミーティア姫の【王子様】になりたいと思っているのかが、まだ僕は分からなかった。








    「エイト!!!」
    「…ごほっ!ごほっ!」

    肺に海水が入って、すごく痛い。
    息が出来ない。

    名前を呼ばれて、やっと意識を取り戻した。

    …何て昔の記憶を思い出していたのだろう。
    急に現実に引き戻され、そのギャップにまだ脳が追いつかない。

    僕はまだ息が苦しくて、声の方を向く事が出来ず、とりあえずそばにある何かをぎゅうと握りしめた。
    その間も、優しい大きな手が、ずっと背中をさすってくれていたので、少しずつ呼吸が出来るようになっていった。

    呼吸が落ち着くと、僕はようやく声の方を見る。
    すると、必死な顔のククールが、こちらを覗き込んでいた。

    君らしくないな…
    身なりも髪もぐっちゃぐちゃだ。


    「おい、エイト!大丈夫か?しっかりしろ!」
    「ごほっ…ごほっ!…く、く?」
    「あぁ…くっそ!!本当生きててよかった!死んだと思った…マジで。」
    「ごほっ……ぼ、く…?」
    「魔物との戦いの後、海に落ちたの。覚えてるか?」
    「…。」

    ククールと会話しているうちに、意識がはっきりとしてきた。

    そうだ、船が荒波にぶつかったんだっけ。
    トーポは咄嗟に船に投げたから、多分大丈夫…。
    王と姫と、ゼシカは船の中だし、ヤンガスは舵を切ってるから大丈夫。
    少しずつ、思考も働いてくる。

    「うん…なんとなく…ごほっ。ぁ…あれ、君は…?君も…落ちたの?」
    「ばか!飛び込んだの!お前を助ける為に!!」
    「そ、そう…なの!?どうしてそんな事したの…危ないよ!」


    …え、嘘でしょ?
    僕の為に、あの荒波に飛び込んだの?
    なんでそんな危険な事したの?

    単純に、疑問が口から出ただけなのに。
    この言葉を聞く途端、不快だと言わんばかりに、ククールは舌打ちをした。

    「あぁーもう!言いたい事は沢山あるけど、お説教は後だ!今は少し眠りな。体力奪われてんだろ。」
    「ん…でも…。」
    「大丈夫、そばにいるから。」
    「…ほん、と?」
    「あぁ。」

    「……絶対、だから…ね。」

    そう言い、彼の腕の中で僕は再び意識を手放した。








    …パチパチ。

    目の前で火が揺れている。
    海のそば、大きな木の下にとりあえず焚き火を設けた。

    目先の海はとても穏やかで、あの荒波と同じモノとは思えない程だ。
    雨も完全に過ぎ去り、空には満天の星空が広がっている。
    この辺りの気候は暖かいようで助かった。
    これで寒い気候だったら、きっと2人凍え死んでいただろう。

    荒波に揉まれた後、気が付くと、オレはどこかも分からない無人島に流れ着いていた。
    エイトを抱きしめたまま、オレは浜に打ち上げられていたんだ。
    あの荒波で、エイトを離さなかった自分を褒めてやりたい。

    オレは意識を取り戻すと、すぐにエイトを横たえてその状況を把握する。
    奇跡的に脈がまだある。
    でも、腕の中のエイトはとても冷たく、息をしていなかった。
    正直、恐怖で胃が震えた。

    その後はただ無心に、心配蘇生法を繰り返した。
    気が遠くなりそうだったが、なんとかエイトが息を吹き返した。
    さっき会話も少し出来たから、山は超えたと思っていいだろう。
    荒波に打ち付けられたせいか、エイトの右足が折れていたので、最後のベホイミをかけた。
    今エイトはオレのビシャビシャのシャツの裾をぎゅっと握ったまま、オレの右の太ももに顔を埋めてスゥスゥと眠っている。

    とりあえず1晩明ければ、多少はMPも回復するだろう。
    朝になったら、ルーラで近場の宿に入って、ヤンガスたちと連絡を取らなければ。

    …にしても。


    「あぁ、生きた心地がしねぇ〜。」

    やっと落ち着いたと感じたのか、オレの口からようやく大きなため息が出た。


    ーーー…どうしてそんな事したの。

    「…本当だよ。オレだって信じらんねぇよ、バカ。」

    数時間前のエイトの言葉に、小さく返事を返した。

    正直、自分で驚いている。
    オレって、こんなに情の熱いタイプだったか?
    仲間の為に命をかけて、あの黒い荒波に飛び込む様なヤツだったか?
    …違うだろ。
    誰がどこで何をされていても、決して深入りせず、スマートに生きてきたじゃないか。
    本当、どうしたんだよ。
    全くもって、オレらしく無い。


    (だって…気付いたら、飛び込んでたんだ。)

    (オレがエイトを助けなきゃって、頭が身体を動かしていた。)


    「はぁーあ。美女ならまだしも、何でこんなちんちくりんの為に…!」
    「悪かったね、ちんちくりんで。」
    「あ、起きた?」
    「君の大きな独り言のお陰でね。」

    エイトは気怠げに目を擦ると、身体を起こし、ゆっくりとオレの隣に腰掛けた。


    「体、どう?」
    「なんとか動けそう。その、ありがとう…君が助けてくれなかったら、僕死んでたと思う。」
    「本当にね。あのさぁ、ちょっとお説教していい?」

    そう言うと、エイトが「きた」と思わぬばかりにため息をついた。


    「…どうぞ。」
    「前から思ってたんだけど、お前って自己犠牲の傾向強すぎ。自分は仲間のために命懸けてて、仲間が自分の為に命懸けるのは許さない、みたいなとこ?正直気に食わない。」
    「だって…。」
    「だって、じゃねーわ。自分の代わりにお前が危険な目にあって、それで助かった時の仲間の気持ち考えな。毎回生きた心地がしないし、普通の奴はきっと情を感じて、今度は命をかけてお前を守ろうとする。そうやって命を掛け合ってたんじゃ、いつかどっちかが死ぬぞ。」
    「…。」
    「今回の…お前の指示と判断は間違ってねーよ。でも、目が覚めた時のお前の言葉が問題だ。お前が海に落ちて、そんなお前をそのままにして航海を続けるようなオレ達だと思ってた?」
    「そう、だよね。…ごめん。」
    「次からは、自分の命も仲間の命と同じくらい守るように考えろよ。その為の多少の無茶ならやってやる。そのくらいは、オレだって…お前の事、大切だと思ってる。」
    「…うん。ククール、本当に…ありがと。」

    そう言い、エイトが恥ずかしそうに、へへっと笑った。
    その顔を見て、オレの胸の奥がジンワリ温まる。
    エイトの笑顔を見たらなんかほっとした。

    …それと同時に、身体の端がむず痒い。
    オレは左手で顔を隠して天を仰いだ。

    「あー…。」
    「何?どうしたの?」
    「オレさぁ、こんなキャラじゃないのに。」
    「そうかな?君は意外と熱い男だと思うよ。」
    「やめろよ。鳥肌たつ。」
    「こういう大事な事、ちゃんと言葉にしてくれたり。自分の回復は後回しにして、僕の回復してくれたり、とかね。」
    「…は?」

    オレはキョトンとエイトの顔を見る。
    エイトはニコリと笑顔で応えた。

    「僕の右足、折れてたでしょ?海に落ちた時に骨やっちゃって、その時同時に塩水飲んじゃって。その衝撃で意識無くしたんだよね。でも起きたら足治ってたから。」
    「…。」
    「君はそんなにぼろぼろのままなのに。きっと、僕の足を優先してくれたんでしょう?」
    「…。」


    …嘘だろ。
    さっきまで死にかけてたんだぞ。
    状況を見る余裕なんか、一切なかったはずなのに。
    すぐに状況把握してくる、この優秀なリーダー様が、本当に憎たらしいというか何というか。


    (…本当、優秀なヤツ。)

    そう思うと、オレは再び目の前の焚き火に視線を落とす。
    すると、隣のエイトが少し、もじもじと足の指先で遊び始める。

    「あのね…僕、君のそーゆーとこ、結構好きだよ。」
    「そりゃどーも。」
    「えぇ、軽…。勇気出して言ったのに。」
    「ヤロウから好きとか言われてもなぁ…。」
    「はぁ〜…本当、君は女の子が好きだねぇ。」

    などと言いながら、オレはどことなく2人の距離が縮まったような感覚を覚える。

    何より、面と向かって言われると…照れるだろ。
    ってか、エイトも人に好きとか言うんだな。
    どことなく珍しい言葉に、オレは後から気恥ずかしくなり、こっそりと少し口元を隠した。
    …そんなオレを、少し寂しげな顔でエイトが見ていた事に、勿論オレは気付かない。


    「…君は、一体誰の王子様になるのかな。」

    「は?何?」
    「ううん、何でもない。」

    一瞬、エイトがポツリと何かを言ったけど、よく聞き取れなかった。
    大した事じゃ無さそうだから、深掘りもしなかった。


    「なぁ、明日朝イチでルーラいけそう?」
    「うん。僕少しMP残ってるから、明日の朝にはルーラ1回位なら多分大丈夫。」
    「よし。オレ今MPすっからかんだからさ、もしもMPが回復しきらなかった時は頼む。」
    「任せておいて。それより、君も少し寝た方がいいよ。僕が寝てる間、ずっと起きてたんでしょ?」
    「おお怖…見てたように言ってくれるぜ。じゃーお言葉に甘えて。」
    「うん。…おやすみ、ククール。」
    「あぁ。」

    そう言い、オレはゆっくり横になると、瞳を閉じた。










    「あーにきぃーーー!!」
    「エイト!!」

    「みんな!」


    翌日、最寄りの宿に泊まると、旅人用の掲示板でオレ達を探す書き込みを見つけた。
    指定の場所に行くと、ヤンガスにトロデのおっさん、そしてゼシカがエイトを見つけるなり一気に抱きついてくる。


    「王、ご心配をおかけしました。ヤンガスにゼシカも…驚かせてごめんね。」
    「本当じゃよ!!荒波に落ちたと聞いて心臓が止まるかと思ったわい!」
    「私もよ!ヤンガスに聞いた時…頭が真っ白になったわ!」
    「兄貴…アッシが舵に気を取られていたから、魔物から庇ってくださったんでガスよね!?面目ないでゲス…。」

    四方からもみくちゃにされているエイトが、チラリと後ろにいるオレを見る。
    オレは、ほらな、と視線で返した。

    みんな、お前の事が心配だったんだぜ。
    ゼシカなんてきっとあの嵐から寝てないのだろう。
    目の下のクマが物語っている。
    そしてエイトもきっと、みんなの顔から、この辺りには当然気付いているだろう。


    「王、今回ククールが助けてくれなかったら、僕は命を落としていました。皆にも、こんなに心配をかけている事を…分かっているようで分かっていなかったのだと学びました。今後は少し…自分の命にも気を配りつつお仕えして参る所存です。」
    「おお、おお…そうじゃな。昔からお主はちと自分を軽視する所があったからの。でもククール、エイトを助けてくれて、本当に感謝しておるぞ。」
    「あ〜…やめてくれ、そーゆーのは苦手なんだ。」
    「何よ、素直じゃないんだから。アンタも海に飛び込んだって聞いて、こっちは生きた心地しなかったんだからね!」
    「おおハニー!このオレの事をそんなにも心配してくれてたのかい?」
    「えぇ…勿論、エイトの次に、ね!」

    相変わらずのゼシカ節を受け、この話題もひと段落となった。

    「と、とりあえず。兄貴もククールも…お疲れでげしょう?ここの宿は長めにとってやすから、まずは今晩ゆっくり、体力を回復して欲しいでゲスよ。」
    「ヤンガス、ありがとう。そうさせてもらうね。」

    と、その言葉に甘え、オレとエイトは宿のキーを受け取った。
    ヤンガスによると、オレとエイトには1人部屋を取っておいてくれたらしい。
    ゆっくり、静かに療養してくれという配慮に、オレは素直に感謝する事にした。







    その後、オレは宿の部屋の備え付けの風呂につかる。
    …部屋付けの風呂、しかも個室。
    ヤンガス…一体宿代でいくら使ったんだ。

    と、そんな事はさておき、オレは自分の身体をゆっくりと撫で洗う。
    沖に上がった時、オレはもうMPがなく、自分にはベホイミがかけられなかった。
    その為か、今でもオレの全身は荒波に打ち付けられた時の身体の痛みが取れずにいた。

    最初はアドレナリンが出ていたせいか、身体の痛みなど感じなかったが、時間が経つにつれじわじわと痛みが出てきた。
    その時にベホイミをかけたが、どうも効きが悪い。
    …恐らくこれは打ち身で、傷ではないから。
    きっと時間がゆっくりと治していくのを待つしかないのだろう。

    そう思いながら、オレは風呂から上がると、ゆったりとベッドに腰掛ける。



    …コンコン。

    「?どうぞ。」

    突然の来訪に、オレは声で返答する。


    …カチャ。

    「お邪魔します。」
    「エイト?」

    槍も旅の荷物袋も持っていない、軽装のエイトがひょっこり顔を覗かせた。
    頭にはトーポが乗っている。

    「あの…ごめんね。せっかくの1人部屋なのに。」
    「いーよ。それよりトーポ!無事だったんだな。」
    「あ…うん。しばらくゼシカが面倒見てくれてたみたい。」

    そう言うとエイトは部屋に入り、そっとベッドにトーポを降ろす。
    トーポは、オレの近くまで寄ると二足で立ち上がり、じっとオレを見つめる。
    まるで、エイトを助けてくれてありがとう、とでも言うようだ。
    オレはその小さな頭を、人差し指で撫でる。

    「そっか、良かったな。こいつも怖い思いしただろうに。トーポ、命知らずのご主人様から、ちゃんと詫びのチーズは貰ったのか?」
    「…ちゃんとあげたよ、高級チーズ。ヘソクリちょっと奮発して。」
    「えっマジ!?ふは!それは得したなぁ?トーポ。」

    そう言うと、トーポはどこか満足気に丸まった。


    「で、改まってどーした?」
    「うん。あの、これ。君に買ってきたんだ。」

    そう言いエイトが小脇に抱えた紙袋を開く。
    中からはメンソール系のハーブの塗り薬が出てきた。
    オレは予想外の持ち込み物に、驚いて目を開いた。

    「あの…君、多分今全身の打ち身が酷いんじゃないかなって思って。この街にね、有名なハーブのお店があるって聞いたから、それで。これ、打ち身とか打撲に効くんだって。あっ…今更だけど、スースーする薬は平気?」
    「それは…平気、だけど。」
    「良かった。数日塗ると楽になるらしいから。良かったら試してみて。」
    「待って、エイト。なんで…オレが打ち身が痛いって分かったんだ?オレ、身体が痛いなんて一言も言ってないだろ。」

    エイトに、みんなに、自分の事で気を遣わせたくないから。
    だからオレは一言も漏らさず、じっと堪えていたんだ。
    それがバレていたなんて…なんだかショックだ。
    無意識に動作に出てたのか?

    必死に思考をめぐらすオレに対して、エイトは控えめに笑った。


    「分かるよ。君はみんなに心配させまいとして、いつも大事な部分は我慢してるじゃない。」
    「え?」
    「歩き疲れた、とか…たまにワガママでカモフラージュもしてね。本当は、誰よりも大きな怪我をしてる時だってある。」
    「…マジかよ。」
    「その気遣い、有難く気付かないふりをするのも大切かなって思ったんだけど。今回は…その、どうしても御礼がしたくて。」

    そう、エイトが申し訳なさそうに言う。

    「そっか…みんなにはバレてた?」
    「ううん。僕以外で気付いてた人は、多分いないと思う。」
    「そっか。なら…まぁいいや。」

    そう言い、オレは少し肩を落とす。

    …なんて言うか、エイトには全部お見通しみたいだな。
    隠しても隠しても、何故か全てバレてしまう。
    そもそも、こういうのを他人に悟られまいと、隠したりするようになったのは、一体いつからだったろう。

    自分の苦しい顔は極力見せないように。
    いつも、飄々としているように。
    そうするようになったのは、いつからだった?

    そう…きっと、みんなの為にと、肩を張っているのはオレも一緒だったんだ。
    1人で耐えて、勝手にそれをカッコいいと思い込んで。

    今回、俺もエイトに色々見透かされて分かった。
    なんだか急に、張り詰めた物の空気が抜けていくようだ。


    「あ…じゃ、僕行くね。ゆっくり休んで。」
    「おいおい!ちょ〜っと待てよ、エイト君。なんだなんだ、色気ねーなぁ?」

    オレは部屋を出ようとするエイトに声をかけた。

    「へ?色気?」
    「せっかくここまでして貰えるんなら、とことんサービスしてもらわないと。」
    「さ、サービス??」

    オレのセリフに、エイトがポカンと言葉を返す。
    そのままオレは続ける。

    「そ!薬、僕が隅々まで塗ってあげる…🩷とかないの?」
    「………は?(睨)」
    「(怖!)嘘、言葉を変えます。手が届かないから、背中塗って?お願い。」
    「えーっ僕が!?」
    「他に誰がいるんだよ。」
    「えぇ〜…。」
    「なんで嫌そうなんだよ。イケメンククール様の背中に薬塗れるんだぞ。ありがたく思え。」
    「あのさぁ…君のその溢れる自信はどこから湧いてくるわけ?」
    「いいから!ほら、早く!オレ今丁度風呂上がり!そう言う意味では本当にナイスタイミングだったな。」
    「はぁ。…まぁいっか。」

    そう言い、エイトがオレの背後にまわる。
    オレは羽織っていたガウンを上半身降ろした。
    エイトはベッドに腰掛けると、薬をゆっくりと手に取る。
    その時、あたりにフワリとハーブの良い香りが広がった。


    「どこ痛い?」
    「全部。」
    「全部って…痛い事が僕にバレたとわかった途端、急に雑じゃない?」
    「文句言うなよ。エイトに隠し事は出来ないって学んだオレは、もう何にも隠さない事にした。」
    「え?…ふふっ!何、その理屈?」

    そう言うと、エイトはゆっくりとオレの背中に薬を塗っていく。

    背中越しだが、思ったよりエイトの手が小さくて驚いた。
    そりゃそうか。
    身長だって、頭一個くらいオレより小さいもんな。
    いつも、誰よりも先を力強く進んで行くから、エイトの存在そのものが、勝手に大きく見えていたのだろう。


    「なぁこれ。いい香りだな…オレ結構好きかも。」
    「そう?良かった。男の人はハーブ苦手な人も多いってお店の人が言ってたから、ちょっと心配だったんだ。」
    「オレはこの位の、柔らかい香りは好きだな。」
    「分かる。癒されるよね。」
    「あ、でも、トーポには臭すぎるみたいだ。見ろよ、布団の中に逃げてる。」
    「え…あっはは!本当だ。さすが鼻がきくね〜。」
    「だよなぁ〜。」

    …と、エイトの方を振り返った、その瞬間。


    「あ。」
    「んっ。」


    一瞬、オレの唇がエイトの口元に触れた。

    …そう、ほんの一瞬だ。
    言い換えれば、掠った。
    そんなレベル。

    思いの外、エイトの顔が近かった。
    多分、オレの背中越しにトーポを覗き込んでいたからだと思う。

    それなりに長く旅をしているが、こんなに近くでエイトの顔を見たのは初めてだ。
    エイトの黒いまつ毛がハッキリ見える。
    エイトの瞳って、真っ黒かと思ったら光の加減で濃い茶色が入ってるんだな。


    「…当たった?」
    「…分かんない。」
    「こーら!エイトってば距離近すぎ。危なくちゅーしちゃうとこだったじゃねーか。」
    「君だって!急に振り向くから驚いた。はぁ、危なかった…。」
    「ちょ、危なかったってお前!なんだその言い草は!?オレとキスしたい女の子はこの世にゴマンといるんだぞ!」
    「知らないよ…ってか僕女の子じゃないし。」
    「はぁー!?じゃあなんだ!?お前はイケメンククール様とはキスしたくないって事か!?」
    「いやいや、論点ズレてきてるから…じゃあククールは僕とキスしたかったっていうの?」
    「はぁ!?バカ言え!誰がちんちくりんヤロウとキスしたいって!?」
    「いや、だからどっちだよ!!」

    そのままぎゃいぎゃいと、口論が続いていく。


    「んもー!うるさい!はい終わり!」
    「イッテェ!」

    口論しながらも薬を背中に塗り終えたエイトは、最後にパシンと背中を叩く。
    オレの背中に、ビィン、と打ち身の痛みが背中に響き渡った。


    「それだけ元気ならもう安心だね。トーポ、帰るよ!」
    「…〜〜ッ!いってぇ…エイト、いつか絶対泣かすからな!!」
    「ハイハイ、じゃあおやすみなさーい。」
    「くっそぉお…!」

    そして、オレは背中の痛みが落ち着くまで、ベッドから動けず、ただ前屈みでうずくまるしかなかった。






    …パタン。

    ククールの部屋を出ると、その扉に僕はトンと背中を付けた。



    (あぁ…本当生きてて良かった!!死んだと思った…マジで。)


    …ずっと前から知ってたよ。
    君はいざという時、全身全力で相手の為に動ける人。
    オディロ院長の時もそうだったよね。
    君は危険を顧みず、1人で炎の中に飛び込んだ。

    今回もそうだ。
    仲間の為とはいえ、あの荒れた海に命懸けで飛び込める人間は、一体何人いるだろうか。

    大きな手で、腕の中で…深い海の中でも僕を離さずに、大切に守ってくれた。
    遠い意識の中だけど、所々覚えてる。


    「……必死な顔、ちょっとカッコよかったのにね。」

    そう、肩のトーポに声をかけた。
    そして、僕はそっと唇に人差し指で触れる。


    …どきん
    …どきん

    「…?」

    さっき…唇が確かに触れた。
    でも、嫌悪感はなく…むしろ今になって胸がドキドキしている。

    なんでだろう?
    挨拶のキスとかはした事あるのに、こんなにドキドキはしなかった。
    …初めて唇にしたからかな?


    「…やめよ。僕も少し疲れちゃった。今日はこのまま早く休もうね、トーポ。」

    そう言い、エイトは自分の部屋へ足を進めて行った。



    【完】


    はい。
    友達→親友になる頃です。

    黒羽がリアルに夢に見て、ずっと書きたかったお話でした。
    こういう、自分の為に必死な9を見る度に、8君は彼に少しずつ惚れていってるんです。

    9も、らしくもなく8君の為に全力になっている事に次第に気付いて行って、結果オークニスの雪山イベント(ポイピク)で恋を自覚。
    (そこはやはり9の方が自覚は早い。)

    作中8君の、君は一体誰の王子様になるんだろうね、のセリフ。
    お前だよ!!!!!
    と叫びながら書きました。

    で、ちなみに竜神王√だと、王子様はちゃんと里までお姫様を迎えにいく…と、そういうわけです(?)


    いかんせん、両片思い…からの両思い、うまぁ!!!(むしゃむしゃあ!!)


    ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。


    2024.08.16 黒羽



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