初デート(クク主)◆初デート◆
「エイト、明日デートしない?」
「え?」
とある夜。
街の外にいる主君の為に、夕食を準備していた時だ。
突然近付いて来たと思ったら、ククールが目の前でとんでもない事を言い放った。
明日は久々に、大きな街で買い出しをする予定だ。
こんな日は暗黙の了解で、いつも各々担当の買い出しが終わったら自由行動になる。
恐らくククールは、その時間の事を指しているのだろう。
「…デート?」
「そう。」
「君と?僕が?」
「そう。光栄に思いたまえよ、エイト君?」
「…………えぇ?」
「いやだから、なんで嫌そうなわけ?」
そう言い、ククールは簡易テーブルを挟んで頬杖をついた。
僕は夕食のトレーに食事を乗せると、小さく息をついた。
「別に…嫌ってわけじゃないよ。」
「じゃあなんで渋るんだよ。」
「それは…。」
「それは?」
「…面倒くさい、といいますか。」
「ハイ決まりー。明日、買い出しを午前中で済ませたら、荷物置いて、宿屋前に集合な。」
「えぇ…。」
「じゃ、そう言う事で。おやすみ、エイト君❤️」
そう言い、ふらりと手を振ると、彼は部屋に戻っていく。
…いや、ここまでいたなら配膳手伝ってよ。
などと、心の中で文句を言ってみる。
あの船での一件以来、僕はいい意味で、彼には気を遣わなくなった。
彼もどことなく、素で話してくれるようになった……気がする。
距離が近付いたっていうのかな。
元々年も近いから、どことなく気も合うと最近知った。
この距離感が、今の僕には心地よい。
(明日は宿で、ゆっくり錬金レシピの整理をしようと思っていたんだけどなぁ。)
そんな事を思いながら。
僕は明日、自由な彼に付き合う覚悟を決めたのだった。
*
翌日。
「おー、待たせたな。」
お昼を過ぎた頃、ふらりと彼が現れた。
僕は早めに買い出しを終えたので、少し彼を待つ事になった。
お昼もまだだから、お腹も減ってちょっと腹立たしい気分だ。
「遅いよ。自分で誘った癖に。」
「悪い悪い。そっちこそ随分早かったじゃん?もしかして、オレとのデート楽しみにしてた?」
「はぁ……君のその軽口、本当尊敬する。」
「だから悪かったって!昼はオレがおごってやるから、機嫌直せよ。」
「えっ本当?やったー!何食べようかなぁ。」
「うわ、ゲンキンなやつ…。」
そう言い、僕らはゆっくり歩き出した。
聞けば、この街には有名なレストランがあるとの事で、ククールに連れられるまま僕はその店に入る。
お昼の時間という事もあり、店内はとても混んでいた。
人気店と言うだけあって、店内は若いカップルや女子同士のお客さんが殆どだ。
僕はなんだか場違いみたいで、少し気まずかったけど、ククールは何とも思ってないみたいだ。
その証拠に、今も平然と何食べる?とか聞いてきている。
彼にとって、周りはもう気にならないんだろうな。
色んな意味で。
辺りの人は皆、ククールをチラチラと見ては、どこか恥ずかしそうに、コソコソと何かを話している。
…人が集まる所に来ると、いつもこうだ。
ああ、そうか。
彼は生まれた時からこの容姿なんだもんな。
周りに騒がれるなんて、もう慣れてるんだろうな。
そんな事を思いながら、僕はボーっと彼を見ていた。
「エイト。」
「え?」
「何食べるか決めた?オレこの魚のランチにする。」
そう言うと、ククールがキラキラしたメニュー表をこちらに差し出す。
違うものばかりに気を取られて、僕はメニューを全然見ていなかった。
なんとなく、彼の選んだ物の近くを見る。
「あ…と。じゃあ僕は…こっちの肉のランチ。」
「ふは!お前さ、本当年頃の男って感じだよな。」
「え?」
「線細いのに、結構量も食べるしさ。そういう所見るたびにギャップだわ。」
「あー、僕昔から体格に恵まれないんだよね。」
「は〜それでオレより力強いから、色々複雑だぜ。」
そう言い、ククールは店員さんを呼ぶと、慣れた感じでオーダーをする。
その姿を、僕は黙って見つめていた。
…さすが、スマートというか。
今までも、こういうお店に女の子と来たことあるんだろうな。
大衆食堂派の僕とは違って、沢山おしゃれなお店にも行ったんだろうな。
急に、彼が遠くなったような気がして、僕は心がもやっとした。
何故かは分からない。
…そして、そのモヤモヤは、大盛りの肉ランチが一気に吹き消した。
*
…カランカラン!
「はぁ〜美味しかった!ご馳走様でした。」
「どういたしまして。ここ、美味かったな。当たりで良かったぜ。」
「あれ、ククールも初めてだったの?手慣れてるから、てっきり何回か来てたのかなって思った。」
「まさか。お前らと旅してから来た街だぞ?今日の為に、美味しい所がないか調べたんだよ。」
「そうなの?」
「そうなの。なぁ、オレ別のメニューも食べてみたい。そのうち、また来ようぜ。」
「う、うん。」
…意外。
また、僕の事…誘ってくれるんだ。
てっきり、女の子とのデートの下調べみたいな感じなのかなって思ってたのに。
これじゃ君、本当に僕とデートしてるみたいじゃないか。
…不思議だ。
僕は今度は胸がポカポカするのを感じていた。
「さ、こっからがメインディッシュな。」
「え?まだ食べるの?デザートとか?」
「ちげーよ、そういう事じゃなくて。ってかまだ入るのかよ。…ほら、こっち。」
「うん?」
そう言い、ククールが歩き出す。
僕はただその横を歩いた。
少し歩くと、僕達は大きな雑貨屋さんに到着した。
見ると、煌びやかな商品が所狭しとならんでいる。
これは、品揃えは多そうだ。
女の子じゃなくても、思わず前のめりになる。
「ほら、好きなの選びな。」
「え?」
「バンダナ。この前海で失くしただろ?」
「…え?」
想定外のセリフに、僕は思わずポカンとした。
この前海に落ちた時、僕のトレードマークと言えるえんじ色のバンダナを失くした。
愛用していたから少し寂しさはあったけれど、今は急ぐ旅の最中だ。
わざわざバンダナの為に心を落としている暇はないし、代わりの物を買うのも…なんだか気が進まなかった。
だから、しばらく頭には何も付けずそのままでいたし、これからもこのままでいいかなぁなんて思っていた程だ。
ポカンと口を開けた僕を見て、ククールが小さく吹き出した。
「お前はこうやって連れてこないと、絶対買いに来ないだろうなって思ったからさ。」
「え、待って。今日って…この為に?」
「まぁね。この前…打ち身の薬、差し入れて貰ったし。」
そう言い、ククールは視線を合わせずに、店内の手頃なバンダナを手に取り始める。
そして、やっぱり似たような色がいいわけ?などと聞いてくる。
…僕は急に、胸がドクンドクンと別の生き物のように感じた。
「え、えぇ……すごい、う、嬉しい、かも。」
「お、素直じゃん。」
「なんだろう…すごい…友達って感じする。」
「おいまて、じゃあ今までは何だったんだよ?」
「いや、ごめん…なんて言うのかな。今までこんなに距離が近い友達いなかったから…こう、一緒に自分の物を選んでもらうとか、本当に初めてで。」
そう言い、気恥ずかしくて僕は口元を手で隠した。
どうしよう。
…多分僕、顔赤い。
「あーあー仕方ねぇなぁ。ほら、初めてのお友達のククール様が買ってやるから、しっかり選びな。」
「えっ…買ってくれるの!?」
「こーゆーのってさ、人に貰った方が大事にしようって思わない?」
「それは…そうかも。」
「ほら、どれにすんの?おっ…これとかどう?」
「…すごい、どぎつい赤。どっかの聖騎士団員とお揃いはちょっとなぁ。」
「あんな派手なオレンジに黄色併せてて、よく言うぜ。」
そう言い合うと、僕達は同時に吹き出した。
その後、沢山の色のバンダナを当ててみたけど、結局前と似たえんじ色の物を選んだ。
宣言通り彼に買って貰い、僕は早速頭に結ぶ。
付けてみて思ったけど、すごいしっくりくる。
僕が完成した、とでも言うのかな?
バンダナはもはや僕の一部だったみたいだ。
そのまま、雑貨屋さんからの帰り道を、僕はウキウキと歩く。
自然と足取りが軽くなるのを見て、隣のククールが笑った。
「ふふ、随分ご機嫌じゃん。」
「そうだね。今なら君がカジノで負けて一文無しになっても怒らないかもしれない。」
「えっ、マジで?」
「…多分。」
「弱気になるなよ…笑」
そう言い、また二人で笑い合う。
気付けば夕方にさしかかり、辺りがサッとオレンジ色に染まっていた。
「ククール。」
「ん?」
「今日は誘ってくれてありがとう。すごく楽しかった。」
「ふは、良かった。お気に召したようで何よりだよ。」
「あと…このバンダナ、大切にするからね。」
「頼むぜ?オレはもう2度と海に飛び込むのはゴメンだからな。」
「ふふっ!分かってるよ。」
そのまま、僕たちはたわいない話をしながら宿へと帰った。
*
宿に着くと、1階のカフェでくつろいでいたヤンガスとゼシカに出会った。
「あら、エイト!そのバンダナどうしたの?」
「ククールが買ってくれたんだ。どうかな?」
「へぇ!どう言う風の吹き回しでゲスか?勿論似合ってるでガスよ、兄貴。」
「ありがとう。」
「うふふ、やっぱりエイトにはバンダナがないとね。」
「ちげぇねぇ。」
そう言い、ゼシカとヤンガスが笑う。
その時、ククールが漸く口を開いた。
「このド派手なバンダナがないと、エイトを街で見つけられないからな。」
「ちょ、酷くない?僕の事バンダナで判別してたって事?」
「まぁ確かに…エイトのチャームポイントではあるかもね。」
「この色が兄貴の色、とっても似合ってるって意味でガスよ。」
「もー、2人までー。ちょっとは否定してよ。」
などと言い合い、みんなで笑いあった。
*
その後、僕は宿屋の部屋に戻る。
今日はククールと同室だったので、僕の後に続き彼も部屋に入って来た。
そのまま僕たちは別々にお風呂に入り、眠る準備に入る。
僕は寝る直前まで、錬金レシピを整理していた。
ククールはいつも寝る前に本を読むので、今日も例外なく何かを読んでいる。
「…ねぇ。」
「んー?」
「それ、何読んでるの?」
「え?ふふ…どうしたんだよ急に、本に興味湧いた?」
「いや、深い意味はないんだけど…。」
「うん?」
「君の事、ちょっと知りたくなった。」
「え。」
僕がそう言うと、ククールが本から僕へ視線を変える。
そしてそのまま、ニヤと笑う。
「え〜何々?意味深だねぇ?」
「そう?友達の事、知りたいなって思うのはおかしい?」
「友達、ね。昼間もちょっと話題に出たけど。エイトってさ…人に囲まれてるようで、実は他人に距離置く所あるよな。」
「そうかな。」
「あんまり人の事、聞いてこないじゃん。」
「そう見える?無意識だけど、良くも悪くも…あんまり人に興味ないかもしれない。」
「でもさ、エイトのお友達のオレは、ちょっと特別って訳だ?ふふ…悪くないね。」
「うん。ククールは…ちょっと特別。」
僕がそう言うと、ククールは一瞬キョトンと目を開く。
そのまま、その綺麗な顔がゆっくりと微笑みに変わる。
「魔法書。」
「え?」
「この本。いつも3冊の本をその日の気分で選んで読んでるんだけどさ。今はこれと…歴史書とワインの本読んでる。」
「へぇ!そうなんだ。物語とかは読まないの?」
「たまに読むかな。女の子とのトークで1番ウケがいいし。」
「それはそれは…勉強家なことで。」
「エイトは本嫌い?」
「嫌いじゃないけど…自分から読みたいとは思わない。」
「あっは!それを嫌いって言うんじゃねぇの?」
そう言い、ククールが吹き出して笑う。
僕はその顔を見て、なんだか釣られて笑ってしまった。
「エイトは本より錬金の方が好きだもんな。」
「うん。物作るのって楽しくない?」
「ん〜オレはあんまり。材料探して、測って…色々めんどくさい。」
「そう?それが楽しいのに。」
「じゃあオレの分も、存分に錬金してくれ。」
「任せといて。すっごいの作ってあげるね。」
そう言い、お互いに笑い合う。
旅の仲間としてのククールと、友達としてのククール。
今日は2人のククールが僕の中に生まれた瞬間だった。
…こうして、
僕達の『初デート』は無事に幕を閉じたのだった。
【完】
旅の中で少しずつ仲良くなっていく。
そんな過程が楽しくなって来ました。
いつものラブラブちゅっちゅは封印して、たまにはこんなのもいいかな…などと。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
2024.12.12 黒羽