お祭り(クク主)◆お祭り◆
ある旅の途中、たまの気晴らしにと、僕達は少し豪華なベルガラックの宿に泊まるべく、立ち寄った。
ルーラで到着すると、僕はすぐに違和感を感じた。
元々明るい街だけど、今はなんだかお祭りムードだ。
街全体に花が飾られ、広場では明るい民族音楽が鳴っている。
街の入口では、1人の女性が、ピンク色の花を配っていた。
女性はこちらに気付くと、旅人にも臆せず話しかけてきた。
「ようこそお越し下さいました!今は花祭りの最中なんですよ。」
「花…祭り?」
僕が尋ね返すと、彼女はニコリと笑い、腕の籠の中の花をゼシカに手渡した。
「1人1輪、この花を差し上げています。日頃の感謝を伝えたり、大切な人に渡したり。どうぞ楽しんで行って下さいね。」
そう言い、慣れた手つきで僕やククール、コワモテのヤンガスにまで花を渡して行った。
「…はは!ヤンガス、花似合わねぇなぁ。」
「うるさいでがす!アッシだって柄じゃねぇことくらい分かってるでがすよ!」
早速、ヤンガスをいじるククール。
…確かに、ヤンガスが花を大切に持ってる姿は珍しくて、つられて僕も笑ってしまった。
「あ、兄貴まで〜ひどいでがすよ〜!」
「あはは、ご、ごめんね…つい…。」
「ヤンガスの持ち方がおかしいのよ。両手で大切そうに持ってるんだもの…ふふ!ギャップがね…。」
「ゼシカまで〜!」
そう言いながらも、ヤンガスは両手で花を持っている。
彼の優しさは、こういう所にも滲み出てしまうようだ。
「…さて、どーしようかなぁこの花。」
「あ、見て。街の女の子達、髪飾りみたいに着けてるよ。」
僕は周りの年若い女の子達を見て言った。
ゼシカもサラリとあたりを見ては、少し顔を曇らせた。
「あーあれは…誰かから貰ったものでしょ。私のこの花、自分でつけるのもなんだかね。」
「あ…そっか。じゃあ、良かったら僕の花、貰ってくれない?」
「え?」
「この花、きっとゼシカに似合うよ。」
「…いいの?」
「?…勿論。ゼシカが良ければだけど。」
瞬間、ゼシカはチラリとククールを見ると、すぐに、ありがとうと頷いた。
僕は手元の花をゼシカの左耳の辺りに刺し込んだ。
淡いピンクが、ゼシカにすごく映えて似合っていた。
「うん、すごく可愛い。」
「あ、ありがとう。…じゃあ、私の花はエイトにあげるわ。いつもの感謝の気持ち、ね?」
「えっ…ありがとう!」
そう言い、僕はゼシカから花を受け取った。
「感謝…といえば、アッシも。兄貴、どうかこの花受け取ってくだせぇ。」
「えっヤンガスのもくれるの!?」
「日頃の感謝の気持ちでがす。」
「わ、なんか恥ずかしいな…。ありがとう。」
そう言い、気付けば手元の花が2輪になった。
改めて言葉にして渡されると、少し気恥ずかしく思う。
そんな僕を見て、ゼシカはフと笑うと、街の中を指差して言った。
「ねぇ、街の中、ちょっと見てきてもいいかしら?あの辺のバザー、ちょっと覗きたいの。」
「え?ああ、勿論いいよ。」
「さ、ヤンガス、一緒に行くわよ。何かあったらボディガードしてよね。」
「えぇ?嬢ちゃん、ボディガードなんているでがすか?」
「街中で魔法使う訳にいかないでしょ?いざという時はその腕で守ってよ。」
「へいへい…分かったでがすよ〜。」
しぶしぶと、ヤンガスが歩き始めたゼシカの後を着いていく。
「…ゼシカのヤツ、ここにスーパーイケメンがいるってのに、ボディガードにヤンガスを連れて行くか。」
取り残されたククールが、僕の後ろでつぶやいた。
「あー…お祭りとかでククールが隣にいると…女の人が寄ってきちゃって大変だからじゃない?」
「…なるほど?それは懸命な判断かもなぁ?」
そう言い、ククールが胡散臭そうに口元に手を当てる。
…でも、多分ゼシカは…僕とククールを2人きりにしてくれたんだ。
僕はまだ、ククールへの気持ちが良く分からないままだけど。
お祭りって聞いたその瞬間、ククールと回りたいって思って、ククールを見てしまったから。
…きっと、僕の気持ちを察してくれたんだと思う。
「…ま、いいや。とりあえず宿は取っておこうぜ。そしたら、おまえも見るだろ?お祭り。」
「あ…うん。見たいな。」
「なんか美味いもんあるかな。」
「屋台ってだけで美味しくなるよね。」
「あっそれな、分かるわ〜その感覚。」
そう言い、僕達は宿屋に向けて歩き出した。
……ククール、僕と、一緒に回ってくれるんだ。
あまりに自然な流れで、僕は心のどこかでホッとした。
宿を取り終えると、僕とククールは荷物を置き、2人で街に繰り出した。
明るい街の雰囲気と音楽で、心なしか足元がふわふわする。
僕の隣をククールが歩いている。
目に入った物に対して僕達は感想を言い合った。
…楽しいな。
なんだか、どきどきする。
気兼ねない友達と、一緒に遊んでる感じ…なのかな?
仕事中心の生活に後悔はないけど、
あんまりこういう経験がなかったから、すごく楽しい。
たまに、ククールに女の子達が声をかけて来たけど、「ごめんね、オレ達デート中なの」とウインクしてやり過ごしていた。
改めて…イケメンってすごいや…。
「…ん?何見てんの?」
「いや、イケメンってすごいなって思って。」
「何を今更。おまえも顔は悪くないんだから、次来たらやってみろって。」
「いや…僕には来ないってば。」
そんなやりとりすら楽しく感じる。
そのまま、僕達は屋台で買い食いしたり、雑貨屋さんを覗いたり、お祭りを全力で楽しんだ。
少し喧騒に疲れた頃、ふと、ククールが僕の手首を引いて歩き出した。
歩いてる間に、彼の手は僕の手首から手の甲に下がり、後半はほぼ手を繋いでいるようだった。
人混みが酷かったから、はぐれるのが怖くて、僕はその手をぎゅっと握り締めた。
すると、ククールも手を握り返してくれた。
瞬間、僕の胸が…どきんと大きくなった。
「はー着いた。ここ、座ろうぜ。」
「うん…すごい人混みだね。」
そう言い、僕達は街のはずれの生垣のそばに腰掛けた。
座ったタイミングで、ククールの手がするりと離れた。
…僕は気恥ずかしくて、ククールの手を握っていた自分の手を、空いた手で握り締めた。
「…花祭り、だっけ?すごい規模だな。」
「そうだね。あの2人の企画…なのかな?」
「カジノだけでなく、こんな企画まで考えるとはな。さすがやり手の後継ぎなだけあるぜ。」
「本当にね。」
こうして話している間も、遠くではお祭りの音が聞こえる。
でも、今はククールと2人だけの空間が出来たようで、少しホッとした。
「お祭り、すごく楽しかった…。屋台も美味しかったし。」
「そうだな。オレもこーゆー祭り的なもの、久々だった。」
「…あの、ククール。お祭り、僕と回ってくれて…ありがとね。」
「ん?あぁ。」
「ククールは、てっきり1人で回りたいのかなって思ってたから。僕ちょっと意外だった。」
僕がそう言うと、隣のククールがふはっと笑い出した。
僕はきょとんと彼を見る。
「だって…おまえさぁ?街の入口でお祭りって聞いた時、バッてオレの方見ただろ?嬉しそうな顔してさ。」
「えッ!!」
「ふふっ…あんな顔されてさ、1人で回ったりしないって。」
「あーー、えーーとぉ…。」
…確かにな、と僕は思った。
無意識とはいえ、自分の素直な行動が恥ずかしい。
今、絶対顔が赤らんでいる気がする。
「そんなにオレと回りたかったの?素直なエイト君。」
「あ…ぅ…。」
「一緒に回れて、満足した?」
「…………はい//」
「そっか。良かった良かった。」
…そう言うククールも、どこか満足気だ。
その様子に、僕もどことなく安心した。
そんな時、ククールが何かを思い出したようにパチンと指を鳴らした。
「あ、そうだわ。これ。」
「…?何?」
「エイト、動かないで……はい、オレの気持ち。」
「え?」
急に左耳のあたりをゴソゴソされた。
耳の感覚と香りで、花を付けてもらったんだと理解した。
…これ、ククールの花だ。
「これ…。」
「ピンク色、可愛いよ。エイト君。」
「…宿に置いてきたんだと思ってた。」
「バカ。お祭りで使う花を、このタイミングで宿に置いて来る訳ないでしょ。」
「…そっか。」
「オレの花、貰ってくれる?」
「…いいの?女の子にあげるんじゃなくて。」
「いーの。オレも、最初からエイト君にあげようと思ってたから。」
「…そ、う?…ありがとう。」
そう言い、僕は足元を見つめた。
左手で自分に着けられた花をそっと触る。
「どしたの?」
「…いや、なんだろう。」
「ん?」
「……なんか、すごく…恥ずかしいね。」
「あ…そっち?」
「え?どっち?」
「いや、嫌だったかなって。ちょっと心配した。」
「なんで?嫌な訳ないじゃない。」
「…あ、そ?」
「うん…。」
嫌なもんか。
嫌などころか…。
(…どうしよう、
すごく…すごくすごく、嬉しいっ…。)
この気持ちが、何なのか、まだ分からない。
お花、ゼシカから貰った時も、ヤンガスから貰った時も…嬉しかったけど。
何でククールからのお花は、こんなにどきどきするんだろう…。
「…でもさ、何でここ(耳)なの?」
「え?可愛いじゃん。」
「僕、女の子じゃ無いんだけど?」
「文句言うなよ。オレはお花無しなんだぜ?」
「え……あ!」
「おまえの花、ゼシカにあげちまうしさ〜。」
「あ、その…!ゼシカに似合うと思ったんだよ。本気で。」
「……まぁいいけど。…ゼシカはオトナみたいだからな。」
「え?」
ククールがツンと呟く。
僕は意味が分からず、首を傾げた。
そんな僕を、仕方ないな…とばかりにククールが見つめる。
「イケメンククールさまが、まさかこんなイベントで花無しとは…。」
「ご、ごめんってば。」
「ま、いーよ。オレも楽しかったから。」
「…うん。」
「…エイト、もう帰りたい?」
「あ、えっと……もう少し、ここにいたいな。」
「了解。」
そう言い、ククールが僕の頭をポンポンと撫でる。
楽しい時間が延長されたと分かり、嬉しくて、僕は思わずククールを見て笑ってしまった。
ククールが一瞬固まったような気がするけど、僕はそのままたわいない話を始めた。
そのまま、楽しい夜が過ぎていった。
【完】
おデート編、です。(デートだと言い切る)
クク主小説なので、ゼシカごめんね…。
主ゼシも大好きなんだけど…ごめんね…。
ゼシカはエイトからお花もらえて、嬉しい気持ちを抑えています。
お花貰う時にククを見たのは、自分がエイト君のお花貰っちゃうけど、このくらい大目にみなさいよってニュアンスです。
エイト君からククの事相談受けてて、ゼシカはエイト君がククの事好きになってるって気付いています。
…自分の好きな人だからこそ、先に気付いちゃうって事、ありますよね。
ゼシカ・アルバート、いい女だ。
なので、このクク主は、両片思い。
エイト君はまだ気持ちを理解出来てない状態です。
自分の中で、ククールが特別って事は感じ初めてるのですが、それが愛だと分かってない。
ククールは自分の気持ちに完全に気付いていて、墓場まで持って行こうとしてます。
(いや、ちょいちょい出てるけども笑)
手を繋いだり、お花をあげたり、恋人みたいなことしてんのに…全くうちのエイト君は鈍いんだから。
そんな所も可愛いんですが。
ちなみに、ゼシカとヤンガスは感謝の気持ちと口にしていますが、ククは感謝とは一言も言っておりません。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
2022.09.21 黒羽