クク主 竜神王√ 短編集⑦◆おかえりなさい◆
今日も竜神王として一日働き、
僕は今、ぐったりと帰路についている。
…最近、里に来る旅人が増えたような気がする。
世界が平和になり、世界を旅する人が増えたんだ。
それは、とても良い事なんだけど。
僕個人としては、竜の試練を受けたい、という人が増えてきて、正直疲れが溜まってきている。
1日の半分も試練の対応が入ると、他の事が出来なくて困る。
里の運営管理も、竜神王である僕の仕事だ。
手をつけなくてはいけない事、
読まなければいけない物、
決めなければならない事、
諸々山積みの状態である。
そろそろ、竜の試練は予約制にしようかな…などと思いながら、僕は玄関を開けた。
「ただいま。」
「おー。おかえり、エイト。」
玄関左奥の調理場の方から、ククの声が帰ってくる。
家に入った瞬間、独特なスパイスのいい匂いが鼻をくすぐってきた。
…やった、今日はカレーだ。
思わずそのまま調理場に向かった。
「クク、ごめんね、遅くなって。」
「いいって。お疲れさん。」
「カレー…嬉しい。」
「ふふっ、エイトはカレー好きだもんな。」
「…うん。」
あぁ…ククの笑った顔を見るだけで、なんだか心がじんわり癒されるなぁ…。
僕、本当ベタ惚れだなぁ…。
そんな事を思っていると、ククが急に右頬に手を添えてくる。
…大きな手でほっぺを撫でられ、心地よさから僕は目尻が下がる。
「…なに?」
「疲れた顔してんなって思ってさ。」
「あ、ごめん…顔出てた?」
「最近頑張り過ぎなんじゃねーの?竜の試練とか、少しセーブしたら?」
「……うん。」
…驚いた。
本当、彼は僕の事をよく見ているなぁと感心する。
すると、彼の手がそのまま肩に回り、そっと抱き締められた。
「…?クク?」
「恋人のハグは、疲労回復に効果があるらしいから。」
「へぇ…そうなんだ。」
「どう?」
「…うん。悪くない。」
「ははっ!随分と上からだな笑」
そう言って、ククは僕を抱きしめる腕に少し力を込めた。
程よい力でぎゅうと抱きしめられ、なんだか胸がホッとする。
「エイト、毎日お疲れ様。」
「…うん。」
「次の休み、気分転換に下界の山登りに行こ?」
「うん、いく…。」
「お弁当持って行こうな。」
「うん…楽しみ。」
よし、とククが僕の頭を撫でる。
腕がゆっくりと外され、僕はククの腕の中から解放されると、そのまま唇に軽くキスを落とされた。
「…?恋人のキスも疲労回復なの?」
「ううん。これはオレがしたかっただけ。さ、荷物置いて着替えてきな。メシにしよーぜ。」
そう言い、ククが僕の頭をまたポンと撫でた。
「…待って。」
「んー?」
「…もう一回、ぎゅってして。」
「ふは!いーよ…こっちおいで。」
そう言い、ククが優しく僕の腰を引き寄せた。
彼の腕の中に収まると、顔の半分をククの胸に押し当て、僕はそのまま目を瞑る。
…ククの花の香水の香りがして、とても落ち着く。
「…あー…癒されるー。」
「ホント?効果的面じゃん。」
「うん…。」
「よしよし、エイトは毎日頑張っててえらいよ。」
「うん…。」
…まずい、これはクセになってしまいそうだ、
そう思い、僕はそっと彼の胸を両手で押して離れた。
離れた瞬間、またククが僕にちゅっとキスをした。
「…これは。」
「これも、オレがしたかっただけー。」
「…ご飯食べたら、もっとして。」
「おぉ、いーぜ。」
そう言い、僕は着替える為、部屋に向かって歩き出した。
【完】
疲れたエイト君を癒すククールの話。
ククールは結構抜け目がないタイプだと思うので、エイト君の変化にもきっと敏感だと思われます。
お読み頂き、ありがとうございました。
2022.11.10 黒羽