夢とうつつ(クク主)◆夢とうつつ◆
ラプソーンを倒し、ようやく長い旅が終わった。
倒してしまえばあっという間だったと思う。
その後、オレ達はあるべき場所へと戻った。
ゼシカは実家に。
ヤンガスはゲルダの元に。
エイトは城に。
オレはマイエラに戻る事はなく、そのまま気儘な一人旅をしていた。
その後、一度だけ久々に全員集まり、
ミーティア姫の結婚式で大暴れしたけど…あれは傑作だった。
オレ達みんなで、エイトと姫を、逃げる馬車に押し込んだ。
…これでいいんだ。
…これで良かったんだ。
そう思いながら。
それなのに、城に戻った二人が結婚する事はなく、
ただ変わらぬ関係を保っていた。
なんで?
エイトは姫の事、好きだったんじゃないのか?
デリケートすぎて、本人達にはとても聞けない。
だから、オレはこっそりとトロデのおっさんに探りをいれた。
「ミーティアはエイトの事を好いているようじゃが、エイトはその気持ちを受け取ることが出来ないようじゃ。」
…ま、こればかりは人の心じゃからの。
そう言い、愛娘の失恋をあっさりと言い当てる。
相変わらず変な所が達観してるな、と思いつつ、オレは心のどこかで安心していた。
オレは、エイトが好きだ。
旅の途中、この気持ちに気付いてから、ずっと心の奥に隠していた。
友達ではなくて、恋人になりたい。
エイトの、一番近くにいたい。
勿論、キスもしたいし、セックスもしたい。
…健康的な年頃の男子だ。
当然の欲望だろう?
オレは、エイトはミーティア姫と結ばれると思っていた。
だから、この気持ちは墓場行きだと思っていた。
でも、エイトはミーティア姫を選ばなかった。
姫には悪いが、正直心が浮かれている。
一番の恋敵であった姫が、エイトの恋人候補から外れた。
…それだけで、自分に勝機があるなんて思っちゃいないけれど。
エイトが、まだ誰も選んでいないという事実が、オレを浮つかせていた。
*
「エイト。」
「あ、ククール!」
不定期に、偶然を装い、オレはトロデーンの城に訪問する。
近衛兵長になったエイトは、本当に忙しそうで、見つけるのも一苦労だ。
「よく来たね!久しぶり…一人旅は順調?」
「まぁな。近くまで来たから、顔見に来た。」
「そっか…でもごめん。今仕事中で…もう戻らなきゃ。」
「うん。分かってる。…なぁ、今晩ヒマ?飯行かない?」
「あ…ごめん。時間…取れないと思う。」
「そっか。…悪いな、無理言って。」
「ううん。ごめんね。」
じゃあ、気をつけてね、とエイトはオレに背を向けた。
…これで、通算3回目の敗退だ。
もはや意図的なのでは、と思う。
オレは、エイトに嫌われてはいない…はずだ。
でも、確実にエイトから一線を置かれている。
そして、その原因は分からなくもない。
例の、丘でのやり取りのせいだろう。
また遊びに行こうと言ったエイトを、オレはやんわり拒絶した。
あの時、エイトはとても傷ついた顔をしていた。
…好きな相手の事だ。
もちろん見逃さなかった。
でも、オレは自己防衛の為、エイトに距離を置くことにした。
オレ以外の相手と幸せになるエイトを、側で見ている自信がなかったからだ。
エイトとの接触を、極力少なくしようと思っていた。
本当に、自分勝手な自己防衛だ。
エイトからすれば、今更声をかけてくるな…そういう事だろう。
今はまだ、オレからめげずに声をかけてはいるが、流石に脈なしだろうか。
もう、取り返しはつかないんだろうか。
…もしかして、エイトにはすでに別に心に決めた相手がいるのだろうか。
「…ま、当然の報いだよな。」
そう呟き、オレはその場を後にした。
*
「また、お誘いを断ったのですね。」
「ひ、姫!?」
ククールと分かれて城内に入った瞬間、ミーティア姫に声をかけられた。
「…ご覧になっていたのですか?」
「えぇ。いい加減、意地を張るのを辞めたらどう?」
ミーティア姫の言葉に、僕は黙るしか出来なかった。
…例の結婚式の時。
逃げる馬車の中で、僕はミーティア姫から告白を受けた。
でも、僕はその気持ちには応えられなかった。
僕はククールの事が好きだったからだ。
皮肉にも、姫に告白されて気が付いた。
僕は、彼の事が好きだった。
彼に、恋をしていた。
彼を、愛していた。
彼の隣を歩けて、幸せだったのも。
彼にキスをされて、嬉しかったのも。
なぜなのか、その理由が全部分かってしまった。
でも、その時にはすでに遅かった。
彼は僕の事を好きではない。
僕と同じ気持ちを持つことも、きっとない。
そう、分かっていたから。
優しい彼は、拒絶する事こそ無いけれど。
あの、丘での最後の時間が全てだ。
彼の中で、僕は永遠に親友なのだ。
…初恋は失恋で終わる。
なんかの本で読んだけど、先人のいう事はやはり正しい。
馬車での姫の告白に対して、僕はただ黙るしか出来なかった。
その様子から姫は何かに気付くと、ただ僕を尋問した。
エイトには、ミーティア以外に好きな人がいるのね、と。
…女性は、本当に強い生き物だ。
気付いた気持ちを、彼女に伝えていいものか分からなかったけれど、ここぞという勢いではかされた。
「エイト、気持ちに蓋をしたままでいいの?」
「……。」
「せっかく大切な気持ちに気付いたのに、本当にそれでいいの?」
「……。」
「ミーティアは、エイトに幸せになって欲しいわ。」
「……。」
僕は何も言葉を放つ事が出来なかった。
僕が彼を好きだと言っても、きっと彼は頷かない。
親友の関係を壊す事はしたくない。
そんな感情を抱えたまま、今彼と2人でご飯なんか行ったら…僕の気持ちが溢れてしまいそうで。
もう少し、落ち着いたら。
この気持ちが、彼を親友だと思い直せるまでになったら…その時は彼を僕からご飯に誘おう。
そう思った。
「ミーティア姫、お気持ちとても嬉しいです。」
「……。」
「でも、僕はまだ……貴女のように…強く在れない。」
「…エイト。」
「さぁ、お部屋までお送りしますね。」
そう言い、僕はミーティア姫の手を取った。
*
世界中を旅をしていると、
行く先々でトロデーン城の近衛兵長の話を耳にする。
とても強く、律儀で、品行方正。
老若男女に優しく、完璧な従者。
酒場の年頃の女子などは、元仲間であるオレに、ウワサの近衛兵長の話を聞いてくる。
あわよくば、紹介して欲しいと言わんばかりだ。
今日みたいに、トロデーンに近いトラペッタの酒場にいると、特に話題が耳に入る。
…あーあ。
みんな、わかってねーな。
アイツは、あぁ見えて頑固だし。
負けず嫌いな子供っぽい所もあるし。
意外と感情的で、すぐ顔に出るし。
本当は、朝起きるの苦手だし。
疲れてると、お風呂入るのめんどくさがるし。
ダンスのセンスないし。
恋愛もわからん、お子ちゃまだし。
…でも、特別…愛情深くて。
仲間思いで。
料理が上手くて。
努力家で。
意外と頭も良くて。
笑うと可愛くて。
ちょっと自己犠牲にしがちだから、オレが、守ってやりたい。
今でも、そう思っている。
「…オレ、女々しい。」
そう言い、オレは酒場のカウンターに頭をつける。
エイトとは恋人になりたかったけど…もういいかな。
もう、親友でもいいや。
いい加減、2人でご飯とか行きたい。
ゆっくり話したい。
エイトの笑った顔が見たい。
…そう思いながら目を閉じると、酒場の喧騒が遠耳に聞こえてくる。
きゃあきゃあと、女の子の声がするが、もう反応をする気力はなかった。
…丘で、うっすら拒否した事、素直に謝ったら、エイト…また時間とってくれるかな。
都合がいいって怒られてもいい。
エイトが足りない。
寂しい。
声聞きたい。
触りたい。
「…エイト。」
「ククール。」
「…エイト、すき。」
「あー、はいはい。」
「…エイトが足りない。」
「君はそう言って、いつも軽口ばっかりだね。」
「……。」
「……。」
「…え?」
耳に馴染んだ声に、思わず顔を上げた。
すると、隣の席にエイトが座っていた。
「…え、いと?」
「久しぶり。」
「え、ほんもの?」
「本物。」
「…うそ。」
「嘘じゃないよ。」
そう言い、隣のエイトが仕方なしに微笑む。
驚きで目をばちばちと開く。
「え、うそ、何で?」
「仕事でトラペッタに来てたんだけど、ルイネロさんから酒場で仲間が潰れてるって聞いて。」
「…なかま。」
「もう…世界を救った勇者様が、飲んだくれてみっともないなぁ。」
そう言い、エイトはバーテンに1杯の酒を頼んだ。
その所作を、オレはただ黙って見ていた。
「…エイトだ。」
「そうだよ。ふふっ…何回確認するの?」
「だって、おまえ…全然オレの相手、してくれねーから。」
「…忙しくて。ごめんね。」
「近衛兵長、なっても…会えるっていってた。」
「…君が、忙しいと簡単に会えなくなるって言ったんだよ。」
そう言い、エイトはバーテンから酒を受け取ると、数口酒を飲みこんだ。
「…メシも、行けないくらい?」
「まあねぇ。」
「オレとの時間、ぜんぜんとれない?」
「……。」
「オレはこんなに逢いたいのに?」
「…なんで?なんでククールは、僕にそんなに会いたいの?」
「…すきだから。」
「……。」
「オレ、エイトがすきだから。」
「だめ、全然説得力ないよ。」
そう言って、ふふ、と笑うと、エイトはまた酒をあおる。
オレはここぞとばかりに心の内をはなつ。
「だって、おまえは姫と結婚するじゃん。」
「しないよ。」
「姫、エイトのことすきじゃん。」
「……。」
「エイトも、姫のことすきだろ?」
「僕は、君が好きだったんだよ。」
「…オレ?」
「うん。」
「エイト、オレのこと…すきなの?」
「好きだった、かな。」
「…今はきらい?」
「…どうかな。わかんない。」
そう言い、エイトはまた酒を頼む。
…意外と飲めるタイプだったようだ。
「エイト、どうしたらオレのこと、すきになる?」
「えー?わかんないよ。」
「オレ、エイトにすきになってほしい。」
「…なんで?」
「エイトと、一緒にいたいから。」
「……。」
「…オレ、エイトとずっと一緒にいたいから。」
「……。」
オレは、エイトの肩を掴んだ。
エイトは酒を口から離すと、じっとオレを見つめてくる。
「君は、ずるいよ。」
「……。」
「まぁ、いいや。大分酔ってるみたいだから、宿まで送ってあげる。もう帰ろ。」
「…ん。」
そう言い、エイトはバーテンに2人分の金を払うと、オレの腕を優しく引いた。
*
「…そら、キレイだな。」
「そうだねぇ。」
エイトに腕をひかれ、オレは宿へヨタヨタと歩く。
頭上には満天の星空が広がっていた。
「野宿、おもいだすな。」
「そうだね。」
「旅してた頃、不謹慎だけど、オレ…少したのしかった。」
「…うん。」
「エイトのメシ、美味くてすき。」
「ありがとう。」
「あと、ダンスがへたなのも、すき。」
「…?急になんの悪口?」
エイトの声に、オレはへへっと笑った。
隣にエイトがいるのが久しぶりで、浮かれているのが自分でも分かった。
言葉が返って来るのが幸せで。
腕が繋がってるのが嬉しくて。
「…エイト、だいすき。」
「……。」
「ごめん。丘で、つめたくして。」
「……。」
「オレ、かっこわるいよな。」
「…本当だよ。」
そう言い、エイトはオレの腕を引き、真っ直ぐ正面に立たせた。
オレはきょとんとエイトを見る。
目の前に、エイトがいる。
…嬉しい。
自然と笑顔になったのが分かる。
エイトはそんなオレを真っ直ぐ見つめると、ガク、と肩を落とした。
「……はぁ。ダメだな、僕も…これが惚れた弱みってヤツなのかな。」
「…?」
「お酒のチカラを借りないと、とても告白なんて出来ないよ。」
「…こくはく?」
そう、オレが繰り返すと、エイトはオレの両頬に両手を添え、そっと顔を近付けた。
唇に、ふに…と柔らかいものが当たる。
目の前に、エイトのまつ毛が見える。
一瞬、世界から音が消えたような気がした。
「…え、いと。」
「ククール、君にチャンスをあげるよ。」
「……。」
「明日…もし今日の事覚えてたら、もう一回だけトロデーンに来て。」
「……。」
「僕をみつけて、もう一回、好きだって言って。」
「……。」
「そしたら、僕も自分の心に素直になるね。」
「……。」
「このままにするか…君の好きな方を選んでいいから。」
じゃあ、おやすみ。
そう言い、エイトは寂しげに微笑んだ。
*
翌朝、オレはベットの上で目が覚めた。
着替えもせず、寝落ちていたようだ。
…昨晩は、夢のような出来事があった気がする。
エイトに会えた。
エイトと話をした。
エイトに好きって言えた。
胸がほっこりしている。
…ま、どうせ、夢だろうけれど。
あぁ、昨日は流石に酒を入れすぎた気がする。
どうやって部屋に戻ったか、覚えていない。
ズルズルと身体を動かし、朝風呂を終えると、オレはチェックアウトのためにフロントに向かう。
フロントスタッフに、声をかけられて、オレは心臓が止まりそうになった。
「昨晩、一緒にお戻りのお連れ様は、先に出発されましたよ。」
急いで外に出ると、オレはルーラを唱えた。
行き先は勿論、トロデーン城だ。
一瞬で城に着くと、エイトを探す。
こんな時ばかり、より見つからない。
息を切らして、ようやく彼を見つけると、エイトもこちらに気が付いたようだ。
大きな瞳をさらに開き、ただこちらを見つめてくる。
駆け足で彼に近付くと、オレは彼を抱きしめた。
貰ったチャンスを、使う事にした。
「エイト、大好き。」
そう言い、オレはエイトの頭を抱き込んだ。
少しして、腕の中から、小さな声が聞こえてきた。
「僕も、ククールが好きだよ。」
その声を聞き、オレはそっと彼の頭を解放する。
見れば、耳まで真っ赤だ。
愛おしい。
素直にそう思った。
そして、そっと彼にキスをする。
「…ん。」
「…っ。」
「……。」
「……お酒、くさい//」
「…ふはっ!」
そう笑うと、オレは再度エイトを腕の中に仕舞い込んだ。
【完】
はい。
もうさ、酒の力使うしかないかなって。。
ククールは普段こんなに飲まれる事もないのですが、もー色々限界だった。
そんな感じです。
エイト君も、少しお酒入れないと、とても彼と会話できなくて。
姫の後押しで、改めて気持ちを考え直して、そこにルイネロさんのナイストスが上がり、無事アタックとなりました。
まぁ、こんな感じがあってもいいのではないでしょうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
2023.02.28 黒羽