②友達の距離(領主踊り子if)◆友達の距離(領主踊り子if)◆
「おはようございます、ククール様。良い朝でございますね。」
「……。」
執事がニコニコと微笑み、部屋の大きなカーテンを開ける。
今朝はいつもより、少し遅くにオレを起こしに来たようだ。
勿論、ベッドには乱れた様子もなく、こいつの期待するような事は何も無い。
一方、遠目に見えるテーブルには、紅茶のカップが2つ残されていた。
それを見て、オレは昨晩のやり取りは現実だったのだと理解する。
…そのまま、オレはベッドのそばで、モーニングティーを淹れている執事を睨む。
「…おい。昨日は、やってくれたな。」
「?一体なんの事でしょう。」
…執事は、あくまでもとぼける気だ。
オレは頭をガシガシとかきながら、ベッドから身体を起こす。
この執事、一見柔らかく見えるが…あの父の代から仕えている強かな男だ。
「おまえだろ?昨日…あの踊り子を屋敷に入れたの。オレはそんなに欲求不満に見えたわけ?」
「滅相もございません。私はただ、ククール様の気晴らしになればと。」
「あのなぁ…そういうのは外で、適当にするからいいよ。」
「おや、それも困ります。外で、万が一の事が起こっては大変ですから。ですので、せめて同性ならば…と思ったのですが、お気に召しませんでしたか。」
「…おまえね。」
怯むこともなく、イケシャアシャアと言い放つ。
…この執事は有能だが、時に端的だ。
「勿論、私なりに、ちゃんと人となりを見てお部屋にお通ししました。礼儀も正しく、可愛らしい。なかなかの好青年ではございませんか。」
「まぁ…いいヤツでは…あったけど。」
「坊ちゃん…まさか、昨晩は据え膳食わずでございますか。」
「そうだよ、残念ながらね。…てか、坊ちゃんはやめろ!恥ずかしいだろ…。」
「ふふ、失礼致しました。」
そう言い、執事は微笑んだ。
何も分からない時から、そっと隣で支えてくれた彼だ。
感謝はしているが、なんていうか…まだ彼の中で、オレは小さな子供なのだと思う。
「とにかく、今後そういう気遣いは要らない。分かったか?」
「かしこまりました。では今後、彼をお部屋にお通しするのは辞めた方がよろしいでしょうか。」
「…ん?どういう事?」
「今朝方、丁度お帰りになる彼を見送りました。またお越し下さいね、とお伝えしましたら、また来ていいんですか?と嬉しそうでしたので。てっきり…。」
「そ、そうか。」
執事の言葉に、オレは口元を手で隠す。
急に気恥ずかしくなり、口元が緩んだからだ。
エイトが、『また来たい』と思ってくれたのが、何故かとても嬉しかった。
年が近いせいか、あの後本当に色んな話題に花が咲いた。
自分の身は自分で守る、なんて言いながら、話疲れて、気付いたら寝落ちしていたのが現実だ。
…さっきまで、ここ(隣)にはエイトがいた。
横向きに、オレの方を見て寄り添うようにこちらを見つめて微笑んでいた。
また、会いたい。
オレは、心のどこかでそう思っていた。
*
午前の仕事を片付け、オレは例のキャラバンに向かう。
昨日のイベントのお礼挨拶を兼ねて、キャラバンの長を訪問した。
「いやぁ!よくお越しになりましたな、ククール殿!」
「キャラバン長殿、昨晩は素晴らしい時間をありがとうございました。」
「お気に召したのならありがたい!それに、こちらも稼がせて頂きましたからなぁ!」
そう言い、ガハハと恰幅良く笑う。
…なるほど、確かに緩いようで隙がない。
だが、こういう奴の懐に入るのは得意だ。
オレは微笑んだ仮面の下で、どう懐柔してやろうと思考を練る。
たわいない雑談を終え、数日後の夜、キャラバン長との会食時間を持つことになった。
…ここで落とす。
そんな事を思っていると、キャラバンの中で一人の人物が目に留まる。
「…エイト?」
「!」
無意識に、彼の名前を呼んでいた。
呼んだ後、まずかったか?と思い口元を手で隠した。
しかし、意に反してエイトはパァと微笑むと、こちらに向かって駆けてくる。
「領主様、昨日はありがとうございました。」
「あー…うん、こちらこそ。…何してたの?」
「昨晩の片付けです。あと、小さな規模ですが、今夜からドニの空き地で、ショーをするんです。その準備をしていました。」
「へぇ!そうなのか。またエイトが踊るの?」
「はい。」
「そっか…頑張れよ。」
そう言うと、エイトがあっと声を上げる。
「…あの、もしよかったら、今夜のショーにお越しになりませんか?お席は僕でご用意しますので。勿論、お代も頂きません。」
「え、いいの?」
「はい。お時間あれば…是非。」
そう言い、エイトは嬉しそうに微笑んだ。
…可愛いな、と思った。
「…あーと。じゃあ、行く。」
「本当ですか!?良かった…。」
「でも、いいのか?パフォーマーからすれば、貴重な1席だろ?」
「いいんです。僕、昨日の言葉…とても嬉しかったので…だからもう一度、貴方にショーを見て頂きたいのです。」
「そっか。」
「あのっ…今夜、頑張って踊りますね。」
「うん。…楽しみにしてる。」
そう言い、オレはエイトから会場の場所を聞くと、真っ直ぐ屋敷へ戻った。
*
夜18:00頃。
あの後、仕事をバタバタと片付けたオレは、
外套を羽織りながら執事に声をかける。
「今から少し出てくる。帰りは遅いと思うから、寝てていいからな。」
「かしこまりました。ですが、この時間からどちらに?」
「私用。」
「おっと…これは野暮な事を伺いましたな。」
そう言い、執事が馬車を呼ぼうとするのを、オレは手で静止した。
「近くだから、馬はいらない。」
「いけません、ククール様。どなたかをお屋敷にお連れするのに、歩かせるような真似は紳士として如何かと。」
「だから…誰もお持ち帰りしないから!」
「おや、左様ですか?」
…と、今朝の続きのような会話を終え、オレは屋敷を後にした。
そのまま、徒歩で十数分の距離にある、ドニの酒場へと向かう。
到着すると、酒場の隣の空き地に、キャラバンの小さな会場が出来ていた。
確かに、規模としては昨日に比べて半分以下だ。
しかし、ステージと客席が近い分、臨場感溢れる良さがある。
(次は…もっと客席が近いステージもいいな。)
そんな事を考えていると、ド派手なピエロがこちらに向かってくる。
雰囲気的に、キャラバンのメンバーのようだ。
ピエロはオレの目の前に来ると、エイトのお客様ですね、とオレを席に案内した。
・
・
(…ど、ど真ん中じゃん。)
昨晩よりステージまでの距離が近い、おまけに会場のど真ん中の席だった。
座椅子はないので、そこにオレは胡座で座り込む。
そんな時だ。
「えっククール!?」
「…?おー、久しぶり。」
近くの席から、声をかけられた。
「きゃあ!ククール!いつきたの!?」
「ついさっきだよ。みんな変わんねーな。」
「当たり前だろ!そういうお前は、ちゃんと領主様やってんのか?」
「当たり前だろ。優秀すぎるくらいだぜ?」
「生意気なのは変わんねーなぁ!」
ははは!と、周りの人間が笑う。
領主になる前はドニに入り浸っていたので、この辺は馴染みの顔が多い。
会場のど真ん中に座ったオレに気付くと、周りから次々と話しかけてくる。
(あぁ…なんか、この感じ…久々だな。)
こんなにも楽しい時間があったのに、オレはこの感覚を忘れていた。
なんだか、久しぶりに心が息をしたような気がした。
少しして、会場の音楽が盛り上がり、ステージが始まった。
昨日とは異なり、先程のピエロが前座のパフォーマンスを行う。
客席が笑いで和むと、そのまま音楽が激しくなり、最高潮のタイミングで踊り子がステージに飛び込んで来た。
(エイトだ。)
そう思い、オレは彼を目で追う。
昨日とは演目が異なるようで、ラテン調の激しいテンポの踊りになっていた。
衣装も、赤が基調のアラビアンなものに変わっている。
耳には大きな赤い花が付いていた。
何より、低い太鼓の音と、激しいダンスがとても合っている。
昨日の、誘う様な…色っぽい踊りとは打って変わって、カッコいいテンションが上がる様なダンスだ。
途中、エイトはオレに気付くと、ダンスの導線を外れ、オレの目の前まで近づいて来た。
あまりに自然な動きだったので、オレはなんの反応も出来ず、ただエイトを見つめていた。
そのまま、エイトは自分の耳につけていた大きな赤い花を外し、オレに差し出した。
…来てくれて、嬉しい。
そう、口元が動いたのを、オレは見逃さなかった。
そのまま、エイトは自然にショーに戻ると、会場全体に素晴らしいダンスを披露した。
拍手喝采。
まさしく大成功だったと思う。
オレはショーの後、キャラバンの舞台裏に顔を出した。
タダで席を用意してもらったんだ。
挨拶くらいするのが筋だろう。
…後、ちょっとした物を持って来たので、エイトに渡したい。
そう思い、キャラバンの楽屋裏のカーテンを恐る恐る開けた。
「あっ…領主様!」
「エイト、お疲れ様。」
オレに気付くと、エイトがこちらに駆けてくる。
「本当に来て下さったんですね…嬉しいです。」
「約束したからな。ってゆうか、あんな特等席で驚いたよ。ありがとな。」
「とんでもありません。今夜のショーは如何でしたか?」
「最高だったよ。昨晩とは趣向が違くて魅了された。…あ、そうだこれ。急だったからちょっと即席だけど。」
そう言い、オレはエイトに小さな花束を渡す。
「わぁ…花束。」
「男相手に花ってのも考えたけど。ショーの成功のお祝いは花束でいいのかな?」
「はい!とっても…とっても嬉しいです。」
「そ、そう?」
そう言い、エイトは花束を優しく抱きしめた。
本当に喜んでいるようで、オレは少し安心した。
「なぁ、このステージ、いつまでやるんだ?」
「明日はお休みして、明後日からマイエラ滞在中は毎日開催します。」
「そうなのか。結構ハードだな。」
「でも連日観に来て下さる方もいるので…貴方のように。」
「あー…でも、ごめん。明日からは、オレはもう観に来れないと思う。個人的には来たいんだけどさ。」
「あっ…こちらこそごめんなさい。そういう意味で言ったんじゃないんです。でも、せっかく知り合えたのに…少し残念です。」
そう言い、エイトが少しシュンとする。
……そんな顔見たら、手放せないじゃないか。
「…えーと。あのさ…?良かったら…また今夜…ウチくる?」
「え…?」
「お泊まり。」
「おと、まり…。」
オレの言葉をおうむ返しに呟くエイト。
言ってから、急に恥ずかしくなり、オレはハッと我に帰った。
「いや!悪い!そんな訳にはいかないよな!?エイトだってほら、片付けとか…次の準備とか!色々あるんだし!?」
「…行って、いいんですか?」
「……え?」
「お泊まり…行って、いいんですか?」
「………ウン。いーよ。」
「…!あの、行きたいです…お泊まり。」
「えっと…あー……マジ?」
「…えっ?あ、冗談、でしたか?ご、ごめんなさいっ!僕間に受けて…!」
「あーー違う違う!来ていーよ!ただ…その。」
「?」
「…歩き、なんだよね。」
「?」
「帰り道。今日…馬車でこなかったから。」
…しん。
「……。」
「……。」
「ぷっ…あはっ!あはははっ!」
「え!?」
「な、なにを…ふふっ…心配してるのかなって思ったら…ふふ…!」
「おい、笑うなよ!」
「だって、そんなのっ…全然なんともないのに…!」
「そうか?いい大人の領主様が、踊り子連れて家まで徒歩で帰った、なんて聞いたらみんな笑うぜ?」
「ふふっ…僕にはそんな気遣いはいらないですよ。それに、道中沢山お話しできますね。」
「……うん。」
着替えて来ます、とエイトは嬉しそうに身を翻した。
オレはその後ろ姿を、ただぼーっと見送った。
なんていうか…
エイトの気を張らない所、すごく安心する。
なんともないのに、なんて…さらっと言えるのが凄いと思う。
周りには身分肩書きを気にする人種ばかりだったから…肩の重荷がスッと落ちたようだった。
何より…。
(……超可愛い。)
ハァ、と大きなため息をつき、オレはエイトが戻るのを待つ事にした。
*
「お帰りなさいませ、ククール様。」
「…ただいま。」
宣言通り、エイトと歩いてウチに戻ると、執事がにっこりとオレ達2人を出迎えた。
(暗に寝ていろと言ったのに…こいつワザと起きてやがったな。)
オレは気まずそうに咳払いをする。
とりあえず、エイトに執事を紹介する事にした。
「あー…エイト、こちらウチの執事長だ。」
「エイト様、パノンでございます。どうぞお見知り置きを。」
「エイトです。昨日はお世話になりました。」
そう言い、エイトは少し腰を落とし、胸に手を当てると、丁寧に頭を下げた。
さらっとこんな挨拶が出来るのは職業柄というか、なんというか。
サマになっているのがカッコよかった。
「なぁ、客間一つ空いてるよな?使えるか?」
「はい、勿論。」
「今夜エイトが使うから。」
「かしこまりました。お部屋に何かお持ちしますか?」
「軽食と紅茶を。持って来たら今夜は休んでくれ。」
「承知しました。」
そう言い、オレはエイトを客間に案内した。
・
・
…ガチャ。
「ここにあるもの、なんでも使っていいから。」
そう言い、オレはエイトの外套を受け取るとクローゼットにかけた。
エイトは部屋中を、口を開けて見回している。
「ここ…で、お泊まりですか?」
「そう。お気に召さないか?」
「ち、違います!こんな立派なお部屋…初めてで。その…今夜はここで…セックスするのですか?」
「へ?…ち、違うから!お泊まりって、そういう事じゃないからな!?」
「え、じゃあ…どうして?」
「おまえと…もっと話がしたかったから。」
「はな、し…?」
エイトがポカンとこちらを見ている。
ここまで勘違いさせたままできたのか、とオレは急に恥ずかしくなった。
「その…昨日さ、すげー楽しかったんだ、オレ。今までは、年が近い友達も居なくてさ。」
「……。」
「あんなに腹割って話せたの初めてで…またエイトと過ごしたいって思ったんだ。」
「…本当、ですか?」
「うん。…あ、でも金は払うよ?おまえの時間貰ってる訳だし。」
「…っいり、ません。」
「え?」
「お金、いりません!僕も…もっと、貴方と話したかった…です。」
「本当に?」
「はい。ごめんなさい…僕、とても失礼な勘違いをしていました。」
そう言い、エイトは片手で顔を隠した。
明らかに落ち込むエイトに、オレは焦って声を掛ける。
「いや!お泊まり、だなんて言ったら…そりゃそう思うよな?!」
「言い訳のようで、情けないのですが…。今まで、僕に近づいてくる方は…ほとんどが夜迦目当ての方だったので。でも、昨日の事で…領主様はそんな方じゃないって分かっていたのに…僕…。」
「いや、おまえの立場だったら、そう思って当然だ。気にすんなって。」
「…でも。」
譲らないエイトに、オレはうーんと考える。
そして、1つの提案をする事にした。
「じゃあさ、オレとおまえ、これからは友達って事にしない?」
「…え?」
「友達だから、エイトは敬語禁止。あと、オレの事、名前で呼んで。」
「えっ…えっ!?」
「名前、昨日教えたろ?もう忘れた?」
「…く、くーる……………様。」
「様はいらない。」
「……ククール。」
「うん。これで対等。な?」
「……。」
エイトは少し呆けている。
その時、扉がノックされた。
執事が頼んだものを持ってきたのだろう。
オレが扉を開けると、執事は部屋のテーブルにサンドイッチと紅茶を配置していく。
「エイト様のお好みを存じ上げず…もし苦手な物が有ればおっしゃって下さいませ。新しい物をお持ちします。」
「だそうだ。」
「あ、あの…大丈夫です!突然の訪問ですのに、十分過ぎるご配慮、申し訳ありません。」
「とんでもございません。エイト様は、主の大切なお客様ですので、どうぞお気遣いなく。」
「…パノン。」
オレがじとり、と彼を睨むと、執事はさらりと微笑んで部屋を後にした。
「ったく、一言余計なんだよな。」
「ふふ。でも、パノンさんはククール…の事、大切に思ってると……思う。」
「お、いいね。友達っぽい。」
「うぅ…恥ずかしい。」
「そのうち慣れるさ。さ、腹減ったろ。食べよ。」
「…うん。頂きます。」
そう言い、オレ達は友達として初めての食事をした。
食事中は色んなことを話した。
好きな茶菓子に始まり、気付けばお互いの出自の事にまで及んだ。
そこで知ったが、エイトには幼い頃の記憶がない。
小さい頃に拾われた、このキャラバンに育てられ、踊りで生計を立てている。
こうして世界を回るうちに、きっと自分のルーツがわかる日がくる。
そう信じているという。
…仕事柄、きっと辛い事の方が、多かったろうに。
彼は楽しかった事や、今の仕事を誇りに思っている事など、明るい話を選んで口に出していた。
会話するほど、彼の強さを感じる。
オレはエイトという人物に、どんどん惹かれていった。
その時、0時を知らせる時計の鐘がポーンと鳴った。
「あ、やばい。もうこんな時間だ。」
「本当だ。ごめん、僕…話に夢中になってて気付かなかった。」
「オレもだ。エイトは公演の後で疲れたろ。ここ、部屋風呂ついてるから。さっぱりしたら休みな。」
「うん…でも、本当にいいの?」
「なにが?」
「こんな好待遇して貰ってるのに…僕、何も返せてない。」
「なんで?素晴らしいショーを、特等席で観せて貰ったよ。しかもタダ。その御礼だと思えば?」
「…もう、君は人の気も知らないで。」
そう言い、2人で笑い合う。
「明日、公演は休みだっけ?」
「うん。」
「じゃあ、朝ごはん食べてく?」
「せっかくのお誘いだけど、朝早くにお暇するよ。ショーの片付けとか投げ出して来ちゃったし。君はゆっくり起きて。」
「そっか…じゃあ、また夜に遊びに来いよ。エイトに時間がある時でいい。あ、勿論毎日来てもいいぜ。」
「え?…で、でも。」
「オレが、エイトに会いたいんだ。」
「…っ!」
そう言うと、エイトの大きな目がさらに大きく開かれる。
「…君って、本当に人たらしだね。」
「誰にでもって訳じゃない。最初の警戒心、知ってんだろ?裸にされたの、忘れた?」
「…覚えてるけど。」
「おまえだから誘ってるんだ。キャラバンがここにいる間、会える時は会いたいって思ってる。」
「……。」
「勿論、エイトが嫌だったら、無理にとは言わないけど。」
「嫌じゃ、ないよ。…友達って、僕も初めてだから。少し…距離感に戸惑ってるだけ。」
「そっか。」
そう言い、オレはステージ中にエイトから貰った赤い花を、手でクルクルと回した。
「本当はショー、毎日観に行きたい。でも、一応領主様だからそう言う訳にもいかなくてさ。」
「……。」
「だから、マイエラにいる間は、エイトの時間を少しだけオレに頂戴?」
「……そんな、勿体ないよ。」
「…?」
「僕、こんな事言われた事ない。こんなに人として…エイトとして…見てもらったことない。」
「…エイト。」
「いいの?…こんな僕で、本当に君の友達になれる?」
「?当たり前だろ。もう友達じゃん。」
「うん…ありがとう。また遊びに来るね。」
「ん、待ってる。来なかったら、夜中オレから会いに行っちゃうかもよ。」
「…徒歩で?」
「へぇ〜…言うねぇエイト君?」
そう言い、オレはエイトの頭をガシガシと撫でた。
エイトが、あははっと少年のように笑った。
「じゃ、おやすみ。明日、気をつけて帰れよ。」
「うん。ありがとう。おやすみなさい。」
そう言い、オレはその日、エイトの部屋を後にした。
【続】
お友達になれたよぉ。
どうしてもウチのクク主は、
ククがエイト君の事大好きすぎて我慢出来ないようで…。
お互いに初めての友達。
初めてできた、大切な存在。
そんな所です。
執事長の名前が出てきましたが、脳内イメージ、4のパノンのイメージ(パノンを少し強かにした感じ。11のセザールさんみたいな。)でしたので、お名前そのまま拝借致しました。
オリキャラだけど、意外と好き。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
2023.03.22 黒羽