家族になりたい◆家族になりたい(領主踊り子if)◆
キャラバンステージが最終公演の日、オレはようやく決心をつけた。
エイトの気持ちは、わからないけど。
一緒に…いれなくてもいい。
せめて、エイトを自由にしてあげられたら、それでいいと思った。
あの日以来、オレはエイトを避けたまま、キャラバン隊のメンバーからも情報を得ていった。
聞けば、キャラバン長は、幼いメンバーにも売春させ、メンバーへ日常の暴力は当たり前だという。
ただ、絶対的な商才があるため、今まで彼をどうにか出来る人間がいなかった。
内部は勿論、外部もその売春を買っているため、そこにメスが入ることは一度もなかったという。
やはり、あのキャラバン長が毒の元だ。
エイトが、このままキャラバン隊として過ごしたいと思っていても、あの長だけはどうにかしないといけない。
アイツがいなくなれば、きっとキャラバンは平和になる。
エイトは、きっと笑って過ごせるようになる。
あの、年相応の笑顔で…。
*
ドニの会場で、オレは深く外套を被り、極力姿を隠していた。
エイトはめざとい。
会場にオレの姿を見つけたら、きっと嫌な気持ちになるだろう。
エイトのステージは、極力邪魔したくなかった。
勝負は最終公演のステージの後だ。
公演が終わった後、楽屋でキャラバン長を追い詰める。
脳内でイメージをしていると、会場の音楽と共に、ワァ!と歓声が上がる。
オレはステージから離れた、会場を囲む特設の柱の近くに移動した。
前回と打って変わって、ステージはだいぶ遠い。
ステージ人が指先位のサイズ位だ。
それでも、エイトがステージに上がると、1発で目が彼を捉える。
今日は青い衣装のようだ。
流石に表情までは見えないが、会場全てを使った踊りは相変わらずすごい。
…あれが、エイトの仕事。
…あれが、エイトの生き方。
ステージを見る程、エイトが本気で踊りに打ち込んでいるのが分かる。
オレはここに来て、迷ってた。
オレの、エイトを好きだという、この気持ち。
エイトにとって…迷惑なんじゃないか?
オレの側にいてほしいなんて、あいつの足枷でしかないんじゃないか?
エイトを想うなら…あいつにとって本当の自由って…オレの気持ちを伝えない事なんじゃないか?
ああしてステージをしながら世界を回って、沢山の人に感動を与えて。
いつか、エイトの過去のルーツが見つかること…それがそもそもエイトの夢だったはず。
「…好きって、面倒くせーな。」
パノンに言われた言葉を頭で思い起こす。
…間違いなく、恋に本気になった事がないから、今ツケが回っている。
でも、自分の感情より、エイトの気持ちを優先したい。
それがきっと、エイトの幸せだから。
それが、エイトにとって一番だと思う。
そう考えているうちに、ステージが終わり、演者たちが会場に最後の挨拶をして回っていた。
外の会場なのに、拍手と歓声で耳が痛い。
ドニでの最終公演、大成功だったようだ。
オレは楽屋裏に足を進めた。
*
「エイト、最近領主の所に行ってないな?」
「…!」
公演が終わり、最後の『営業』に向かう前、キャラバン長がエイトに声をかける。
「今日が最後のチャンスだ。ちゃんとものにしてこい。あの領主、若いがその辺の奴らより金を持ってる。分かるだろ?」
「……はい。」
「お前一人で落とせそうにないなら、何人かつけるか。」
エイトはその言葉にピクリと身体を震わせた。
「あの、他の人じゃダメですか?領主様、男には興味ないみたいで。昨日まで通ってた、船着場の船長さんとか…。」
「バカいえ、そんな奴じゃ比べ物にならん。それに、この前食事した時、領主はお前に興味があると言っていた。年間営業も取れそうだった。お前だって、初日は領主から金を取ってきたんだろ?」
「…そう、ですが。」
キャラバン長の言葉に、エイトが渋る。
その様子にキャラバン長は目をピクリと動かした。
「…お前、もしかして失敗したのか。」
「!」
「領主をモノにできない、でも他のやつに手柄を渡したくない…。だから、その事をここまで黙っていたわけか!?」
「ち、違います!そうでは、なくて!」
「くそ…この役立たずが!!」
「ッ!」
バシ!と、大きく左頬を殴られ、エイトの身体が揺らぐ。
そのままどん!と腹を足蹴にされ、エイトが地に倒れ込む。
…周りのメンバーは、辛そうに目を背けていた。
「最終日だ、マイエラにいれるのも今日で終わりなんだぞ!今日であの領主をものにしろと、あれほど言っていただろう!?」
「…っ、申し訳…ありま、せん。」
「どうするんだ!今夜であの領主から金を取れるようにしなきゃならん!あぁ…流す魚が大きすぎる!…男がダメなら女か。おい、フィオナはどこだ!いや、この際二人つけるか…エレンも呼べ!」
「!…いやだ、長!待ってください!」
「お前はもういい!報告もしないで…最近毎晩どこに行っていたのか知らんが。俺はお前を信用し過ぎていたって訳だな!」
「……っ。」
「真面目に稼いできていたと思っていたのに!ちっ…油断した。お前はその船着場のオヤジの所にでも行ってこい。少しでも金を取ってくるんだな!」
「待って…待ってください…!彼の所には…!」
「うるさい!!くそ…むしゃくしゃする!!」
そう言い、キャラバン長がより大きく右手を振り上げた。
ばし!!
「…………?」
「…!あ…んた。」
衝撃に備えて、エイトは目を瞑った。
いつまでも痛みが来ない。
その違和感に、そっと瞳を開けていく。
「随分、乱暴な上司なんだな。」
「……!」
すぐ横に、ククールが立っていた。
見れば、ククールの手はキャラバン長の手をギリ、と掴んでいる。
思わず、エイトは目を丸くしてククールを見つめた。
…ククールは一切エイトを見ない。
ただ、その顔は静かに微笑んでいるようだ。
でも、目は笑っていなかった。
「…は、これは…ククール殿。まさか、こんな裏方までお越しになるとは…。」
「最終公演日くらい、ショー成功のお祝いにと思いまして。…ただ、少しタイミングが悪かった様ですね。」
そう言い、ククールはキャラバン長の手を離した。
強く握られていたようで、キャラバン長は掴まれた手首を片方の手でさする。
「はは…これは、大変お見苦しい場面をお見せしました。」
「お気になさらず。良くある事です。力で部下を屈服させ、裏で売春の金稼ぎ。正直、それを喜んで買っている人間がいるのも現実。」
「…おお、これは。この件も理解頂ける、そういう事ですな?」
「他の領の事ならば。しかし、問題はこのマイエラで商いをした事だ。」
「な、に?」
そう言い、ククールがパンと手を叩く。
すると、キャラバンのテント裏から、青い制服の男が7人入ってきた。
「な、な…!?」
「マイエラ修道院、そこに騎士団がある事はご存知ですか?昔、お恥ずかしながらこのエリアでも売春行為が多発しておりまして。色々と嫌気がさしたので…私の代から、このエリアでの売春は分かり次第禁固刑にしているのです。」
「…禁、固刑!?」
「裏稼業をしながら、ご存知なかった?まぁそうでしょうね…色んな奴らに『口止め』していますから。貴方の罪は、マイエラ領での売春斡旋ですが。領主である私に、直で営業してきましたものね。…さて、何年入ることになるのかな。」
そう、ククールは顎に手を添えて言い放つ。
「ちょ、待て!そんなの知らない!…そもそも、そこのエイトが勝手にやった可能性だってあるじゃないか!俺が斡旋したという証拠がない!」
「…!」
キャラバン長は座り込んでいるエイトを指差す。
その言葉に、エイトはビクンと身体を震わせた。
ククールはそれを涼やかに見つめる。
「それに…マイエラで初日公演の夜、エイトはあんたから金を取ってきた。あんただってこいつを抱いたんだろ!食事の時も乗り気だった!」
「…残念。私はエイト君の唇にも、その身体にも…まだ触れてすらいませんよ。『お金を持って帰らないといけない事情がある』、そう聞いたので渡しました。」
「…はぁ?バカな…そんな訳あるか!あの日、エイトは朝帰りだった。やったんだろ!」
「あの時間に屋敷にお越し頂いて、そのまま帰すなど、紳士のマナーに反しますので。でも証拠がないのはお互い様か…では他の人達はどうでしょう?」
ククールがそう言うと、後ろから青い制服の中で一番偉そうな男が書状をかざす。
「船着場の船長、マイエラ宿屋協会の副会長、他数名から、売春を買ったと証言が出ている。今回限り、領から追放の免除と罰則の軽減を理由に、本件を告発する事を選んだ。…全く、マイエラに来て1週間たらずでここまで幅をきかせるとは、見事なものだ。」
「でも、残念でしたね。この領地で今、一番の権力者は私。そしてマイエラ騎士団には絶対的権利を与えています。…彼らの調べに間違いはありません。何より、先程までのエイト君と貴方の会話。全て聞いていましたから。」
「…あ、…あぁ…!」
キャラバン長がガクガクと身体を震わせ、後ずさりする。
どん、と背中に当たった違和感で振り向くと、騎士団の隊員2人に両肩を拘束された。
「取調べ室に連れていけ。」
「は!」
騎士団員が声を上げ、キャラバン長をこの空間から連れ出す。
残りの団員は、騒ぎを聞きつけたギャラリーの対応をしていた。
ククールはふぅ、と息を吐いた。
「…流石はお兄様。見事な采配だ。」
「おい、これは貸しだぞ。来月の予算、分かってるだろうな。」
「ちょ、何でそーなるの!ふつーにこれは騎士団のお仕事でしょ。」
「9割お前の私情が入った、な。この短期間で随分と無理難題言ってくれたものだ。」
「……う、分かったよ。ちょっとだけな。」
ククールがそう言うと、騎士団長はフンと咳払いし、その場を後にした。
・
・
「…大丈夫か?」
「……。」
そう言い、ククールは膝を折ると、座り込んだままのエイトに視線を合わせる。
エイトはただポカンとしていた。
「ごめん…エイトが最初に殴られた時から外にいたんだけど。証拠が欲しくて黙ってた。…最低だよな。」
そう言い、ククールは腫れたエイトの左頬にそっと手をかざす。
そのまま、小さく呪文を唱えると、淡い光と共にエイトの頬から痛みが消えた。
「…あの、その…なんていうか、さ。」
「……。」
「大切な、エイトの居場所を壊すことになって、本当にごめん。でも、キャラバンは無くならないよ、オレが守るから。だから、これからもちゃんと旅は続けられる。」
「……。」
「踊り子としてのエイトの夢も、旅をして生まれ故郷を探す目標も、何も変わらない。ただ、あいつが居なくなるだけ。エイトだけじゃない。お金に困る事は多分無くなるから、キャラバン全員が…今日から夜は何もしなくてよくなる。」
「……。」
エイトは大きな瞳でただククールを見つめる。
未だに状況についていけてないようだ。
何も言わず、ずっとククールの言葉に耳を傾けていた。
ククールは、コホンと小さく咳払いをして続けた。
「えーと…この前、エイトの事傷つけてごめん。オレさ…エイトの仕事を汚いとか思った事ないから。あの時さ………嫉妬したんだ。他の男に。」
「…しっ…と…?」
「エイトが他の男と…そういう事するのが許せなくて。」
「……。」
「…ごめん。自分からお前の事を『友達』って言ったくせにな。オレ…気付いたらお前をそういう目で見てたんだ。」
「………どういう、意味?」
「え?」
黙っていたエイトが、ようやく言葉を放つ。
「それ…は、どういう意味?」
「あ、いや…。」
「友達じゃない僕…。君にとって、僕って何…?」
「……。」
「そういう目って…身体だけの事?」
「違う!…ばか、ちげーよ。そうじゃない…。」
「……分かんないんだ。僕、友達も……好きな人も…君が…初めてだから。」
「えっ…。」
エイトの言葉に、ククールは目を開いた。
エイトは俯いて呟く。
「あの日…君から嫌悪感があるって言われたと思って…すごくショックで。やっぱり、僕のこの生き方じゃ、君の隣には立てないって思ったら…すごく悲しくて。…分からなかったんだ、この気持ちがなんなのか。」
「…エイト。」
「さっきね、キャラバン長が僕の代わりに、女の人を君に向かわせるって言ったんだ。その時、全身がざわついた。いやだって…思ったんだ。」
「……。」
「君が、他の誰かと…そういう事するの、絶対いやだって思ったんだ。その手で、他の人に触らないでほしい…優しい言葉をかけないで欲しい。」
「…エイト。」
「僕以外にあんな風に笑わないで…布団で添い寝もしちゃ嫌だ…。」
「エイト…それって。」
「……君の事が、好きです。」
そう言い、俯いたままエイトが涙を流す。
ポツポツと、足元に黒いシミが出来る。
「…ッ!!」
「ぁッ…。」
ククールはエイトの身体を力強く抱きしめた。
その形を確認するかのように、何度も、何度も腕を回し、エイトを腕の中に包み込む。
「っ好きだ。」
「…!」
「エイト、好きだ。好きなんだ。お前の事が好き。これからも…ずっと一緒にいたい。」
「く、く…。」
「もっと沢山、色んな話がしたい。一緒に色んな所に行きたい。喧嘩も沢山して…そしたら、オレは男だけど、エイトがいいって言ってくれるなら…家族になりたい。」
「家族…。」
「ごめん、やっぱり手放すの…無理かも。どこにも行かないで…オレの側にいて。他の誰にも渡したくない。オレのエイトでいて欲しい…。」
「ククール…。」
腕の中のエイトが、そっとククールの背中に両手をまわす。
力弱く回されるその腕が、何より愛おしい。
「エイト。」
「…ぁ。」
そう言い、ククールはエイトのこめかみ、耳元、瞳にキスを落としていく。
そのまま至近距離で視線が絡むと、どちらからともなく、そっと唇を重ねた。
一度、二度と重ねては離れる。
まだ触れるだけのキスだ。
「……っ…ごめん。」
「…?」
「また…勢いで、オレ…。」
「うん…??」
「本当はさ、好きだってオレから言いたかったし…。いや待て…そもそも、好きって言わないことにしてたはずなのに。」
「え、なんで…?」
「エイトは、ずっと旅をしていたいんだろうなって思ったから。故郷探しの事もあるし。だから、エイトをオレに縛るのは、エイトの幸せの邪魔になるって思って。あー…ステージ観てる時までは、気持ちしっかり固めてたんだけど。」
「…それ、柱のとこに居た時?」
「え!ちょ、待って、なんで分かってんの!?」
「…わかるよ。ずっと僕のことだけ観てくれてるんだもん。」
「マジ?うわ…カナリ恥ずかしい。」
そう言い、ククールはエイトの肩におでこを当てる。
ほんのりと、耳が赤い。
「お忍びみたいだったから…きっと最後にこっそり観に来てくれたんだって思って。」
「…まぁ、その、な。」
「そしたら、こんな事が起こるなんて思わなかった。」
「……いや本当、相談もしないで、ごめんなさい。」
「ううん……助けてくれて、ありがとう。」
「あと、そうだ。オレ、どこにも行かないでって言ったけど、エイトの夢を応援したいのも、どっちも本音なんだ。とにかく、キャラバンのメンバーには、明日の出発を数日延期にするように言っておく。仲間のみんなと色々話もあるだろうし、数日考えて…これからの事答え出して欲しい。」
「うん、色々…本当にありがとう。」
そう言い、エイトはククールの胸にそっと頭を擦り付ける。
その、甘えてくれているような仕草に、ククールの中で愛しさが込み上げる。
「あー…その、今日はこのままオレの屋敷に連れて帰ってもいいか?」
「…うん。『お泊まり』?」
「うん。……下心のある『お泊まり』。」
「……うん。行きたい、です。」
そう言い、エイトは恥ずかしそうに微笑む。
ククールは、その顔を見て目を細めると、その頬にそっとキスをした。
「………あ、今日は馬車だから。」
「…え?あはは!」
そう言い、ククールはエイトを抱き上げた。
*
馬車で屋敷に戻ると、入口でパノンが待っていた。
エイトに対し、「お湯の用意が出来ていますよ」などと、まるで全てを見ていた様な対応をとる。
…おそらく、マルチェロからある程度の話は伝わっているのだろう。
オレは、本当に兄と執事には頭が上がらないと思う。
エイトが風呂から上がり客室に戻る頃、一緒に部屋で軽食を取る事にした。
エイトを湯場に送ると、オレもダイニングで一息つく事にした。
「ちゃんと伝えられたのですか?」
「…あぁ。」
パノンが紅茶を出してくる。
「エイト様、お腹にもアザがおありでしたね。」
「そうだな。酷いもんだったよ。…いやな事、思い出した。」
「……。」
幼い頃、修道院に数年修行に出された時、自分も身体を使って金を握らせられた事がある。
あの頃の記憶が嫌で、オレは領主に就いてから売春を禁じる案を追加で作った。
まだまだ水面化では消えない事案だが、それが今回エイトを救う手段になった。
「エイト様がどこを選んでも、気持ちが通じていればまた会えます。」
「…ん。そうだな。」
「勿論、お部屋の用意もしておりますけどもね。」
「選ぶのは、エイトだからな。」
エイトの為を思うなら、元の生活環境に戻してやるのが一番だ。
人の生き方なんて、そうそう変えられない。
どこで生きるか、選択は自由だ。
でも、エイトにはキャラバンの仲間もいる。
胸を張れる仕事もある。
色々悩むけど、やはりオレにだけ縛っておくわけにはいかないと思う。
「エイト様をお救い出来て、よろしかったですね。」
「ん…。色々ありがとな。」
そう言い、オレは自室に戻った。
・
・
・
…コンコン。
「はい。」
「おまたせ。飯食えそう?」
「うん。ありがとう。」
オレはエイトの部屋に軽食を持って入る。
風呂上がりのエイトは、全身がほこほこしていて可愛い。
…好きな相手と気持ちが通じたんだ。
そういう目で見るのはおかしい事じゃないよな。
そう、邪な感情を腹の奥に押し込み、室内に入る。
「ご飯、ククールが持ってきてくれたの?」
「まぁな。パノンが持ってけって。ひどくない?主人に対してこの扱い。」
「ふふっ…本当は?」
「…風呂上がりのエイト、他の男に見せたくないから…オレが持ってくって言った。」
「そっかぁ…。」
そう言うと、エイトが恥ずかしそうに耳に髪をかけた。
そのまま、一緒に食事を摂る。
たわいない雑談ばかりで、核心の話はお互いにしなかった。
食事を終えた頃、オレはある事を思い出した。
「そうだ、エイト。ちょっと腹見せてみ。」
「?…あ、もうえっちする?」
「ち、違くて!いや、したいけど!…いや、とりあえず、腹だけ見せて。」
「うん。」
そう言い、エイトは立ち上がると、ガウンの前を開けて見せる。
横腹に大きな紫色のアザが残っていた。
そこにオレは手をかざすと、そっと回復呪文をかける。
次の瞬間、ふわりとアザが消えていた。
「もういいよ。」
「ありがとう…ククールは回復呪文が使えるんだ。テントで僕のほっぺも治してくれたよね。見事な腕だ。」
「ま、少しだけな。実はオレ、修道院にいた事があってさ。」
「そうなんだ?売春の事…マイエラ領のルールも、何も知らなかったんだけど…もしかしてそこで何かあったから?」
「まぁな…さすが、カンがいいな。」
「違うよ…僕、ククールのこと大好きだけど、君の事…何にも知らないなって思って。」
そう、エイトがガウンを開けたまま寂しげに呟く。
「言っても、まだ出会って数日だろ。」
「うん。でも…君の事もっと教えて欲しい。」
「オレの事、知りたい?」
「うん。」
「エイトにはなんでも教えてあげる。特別にな。」
「本当?じゃあ…どんなえっちが好き?」
「ん?」
「…せめて君の事、満足させたい。」
そう言い、エイトがオレの足元に膝を折る。
そして、オレの太ももに両手を置いてこちらを見あげてくる。
…さすがの技術だ。
「ばか…こんな事、しなくていーよ。」
「え?」
「逆に、オレでエイトの事満足させられるかなぁ。」
「えっ…そ、それは…。」
「物足りないって思われない様に、オレ頑張るね。」
「えっ…えっ!?」
そう言い、オレはエイトの手を取り立ち上がらせ、そのまま横抱きにしてベッドに連れて行く。
「ま、待って!ちょっと…そのっ違くて!」
「ん?今のえっちのお誘いじゃないの?」
「そ、そうなんだけど…なんていうか、ちょっと待って!急に恥ずかしくなってきちゃった…。」
「エイト、仕事じゃないえっちはした事ないの?」
「……ないよ。これが、初めてだよ。」
「まじで?…やばいじゃん。」
そう言い、オレはベッドでエイトを押し倒す。
そのままエイトの前髪をサラリと上げると、そのおでこにキスをする。
「こんなに早くお誘い貰えると思わなかったぜ。…オレもさっき風呂入っておいて良かった。」
「あ、その!…僕…はしたないよね。」
「そんな事ない、嬉しいよ。…エイトの可愛い顔、オレに沢山見せて。」
「…ぁ、あ!」
そのまま、オレはエイトの脇腹から手を添えていく。
エイトの身体がピクピクと反応する。
オレはエイトの片手に手を重ねるとそっと握る。
「エイト、好きだよ。」
「…僕も、ククール、大好き。」
そう言い、オレはエイトの唇にキスをした。
*
その後5日間、エイトはオレの屋敷で過ごした。
キャラバンの仲間と会話をしたり、何故かパノンの仕事を手伝ったり、オレの仕事が休みの日には町に気晴らしに買い物に行ったり。
束の間の時間だったが、エイトがずっと隣にいる。
オレにとっては夢のような時間だった。
6日目の朝、エイトに話があると呼び出された。
きっと、気持ちを固めたのだろう。
「ククール、僕決めた。」
「うん。」
「あのね…色々考えたんだけど。正直、僕には踊りしかない。他にはなんのスキルもない。」
「うん。」
「だから、僕がこのマイエラに残ると、君に沢山迷惑かけると思うんだ。」
「…そんな事はないけど。」
…でも、そうだよな。
やっぱり、今までと同じキャラバンの生活が良いよな。
オレは心臓がキュと鳴るのを感じた。
「だけどね、それでも良ければ…僕、君と一緒に…君のそばにいたいよ。」
「だよな、うん。………ん?」
「キャラバンのみんなと話したんだ。規模が大きなステージの時は踊りの仕事も手伝うって約束で。基本はマイエラで仕事見つけて、君のそばで生きていく。」
「…え。」
「だから明日からも、一緒に…いて良い?」
「……。」
…これは?
勘違いでは、ないだろうか。
「エイト、ここに残ってくれるの?」
「うん…。」
「一緒に?明日も?ずっと?」
「うん…。あ、ちゃんと仕事探すから。家賃としてお金もちゃんと入れるし!」
「金はいらない…。」
「それはダメ。僕が嫌だ。」
そう言い、エイトが片手を前に出して静止する。
…でました、頑固エイト。
でも。
「マジか〜〜!!」
オレは両手で顔を隠し、天を仰いだ。
「ククール…?」
「やばい…嬉しい。泣きそう。」
「っあはは!大袈裟だなぁ…。でも、僕こそドキドキした…やっぱりダメって言われないかなって思ったら、怖くて。」
「お前ね…どの流れで断ると思う?こんなにそばにいてって言ってんのにさぁ〜!」
「だって、わかんないじゃん。人の気持ちなんて変わるものだから。」
「それはお互い様じゃん。オレ、これからもエイトに飽きられないように、頑張ります。」
「僕も、頑張ります。」
「やばい…ちゅーしたい。」
「ふふ、どうぞ。」
「…エイト、大好きだ!」
そう言い、オレはエイトにキスをして、強く抱きしめた。
〜おまけ〜
「え!あのキャラバン、ククールが買ったの!?」
「うん。オーナーみたいな感じかな?運営はメンバーから3人見つけて、役職与えて。多分生活はそんなに変わらないでやってけるんじゃないか?元々稼ぎのデカいキャラバンだからな。」
「…いつのまに。」
「だから、エイトがキャラバンと一緒に行っちゃっても、オーナーとして堂々と会いに行くつもりだった。ま、結果オーライだな。」
「そっかぁ。」
「あ、でも、今からやっぱりキャラバンと行く〜とかナシな。勿論オーナーはするけど、寂しくて死ぬ。」
「言わないよ…。でも、ありがとう。僕の大切なものを守ってくれて。」
「ん。どういたしまして。…惚れ直した?」
「…うん//」
「超可愛い。」
【終】
はい。
ハッピーエンドの申し子(?)黒羽です。
大団円。
この後、踊り子エイト君はたまにキャラバンに出張とか行ったりして、ククールが寂しがって仕事進まず、パノンさんにお尻叩かれたりします。
マルチェロ兄さんとの関係も良くなって行き、こんな世界線があってもよくない?という妄想パラレルでした。
竜神王
マイエラ
踊り子
とifシリーズ続きますが、一番大人しくなった踊り子エイト君。
ククールはやはり領主なので、一番型にはまった紳士のイメージで書きました。
(一応遊び尽くして領主になったテイなので、所々表現だしてますが。。)
初めてのえっちは暗転させちゃいましたが、
ククールが予想以上にえっち巧くて、「!???///」ってなってるエイト君が見たいです。
男相手は経験値少ないからさ〜。気持ち良かったならよかったよ、などと言われ、顔真っ赤にしてるエイト君を、毎日寝る前に妄想してます。
(普通に寝て。)
本当に、ここまでお読み頂きありがとうございました。
2023.04.10 黒羽