煙(クク主)◆煙(クク主)◆
「…あ。」
「ん?」
聖地ゴルドで色々あった後、
僕は初めてククールが煙草を吸っている姿を見た。
お兄さんと闘って…あんな事があった後だ。
ククールは今夜はきっと…大人しく宿には居ないだろうなと思った。
その予想通り、彼は宿にチェックインするなり、即座に部屋を後にした。
今は独りになりたい時かな…と思い、僕は特に彼を探すことはしなかった。
そんな時、宿の最上階のこの場所で偶然、僕はククールを見つけてしまったのだ。
彼は立派な大人だから、
喫煙していても飲酒をしても、勿論全く問題ない。
問題はそこではなくて。
それなりに長い間、彼と一緒に旅をしてきたのに、僕は今日まで彼が喫煙者だと知らなかった。
まだまだ僕は彼の事を知らないんだな、と思った。
…それが、なんだかもやっとしたんだ。
思わず、身体の動きが止まってしまう程に。
この気持ちは一体なんだろう。
その感情が分からず、僕は自分の胸に無意識に手を当てる。
そんな時、彼がふはっと小さく笑った。
「あーぁ。バレちまった。」
「…え?」
「コレ、吸ってるの。せっかく隠してたのに。」
「あ、やっぱり隠してたんだ。」
比較的いつも通りの彼に、僕はこっそりと胸を撫で下ろした。
「まぁね。今は仮にも王族の従者なワケだし…カタチ上だけだけど?」
「…お酒もギャンブルも隠さないのに?」
「それはオフの時間だからいーの。でも煙草ってニオイもつくし、ちょっと気を遣うワケよ。」
「そっか…ククールはトロデ王の為に、今までそういうの気をつけてくれてたんだね。」
「そんな立派なもんじゃないさ。それに近頃は殆ど吸ってなかったんだ。」
「確かに、初めて君が吸ってるのを見た気がする。」
会話をしながら、僕はククールの隣に立つ。
ククールは、左手の煙草をすっと僕から遠ざけた。
「だろ?修道院にいた頃はガンガン吸ってたんだけどさ〜…おまえらと旅始めてからストレス減ったのかな?これ、結構久々な一服なワケ。」
「そうなんだ?僕達と旅を始めてストレスが減ったっていうのは、ちょっと嬉しいな。」
「まぁ修道院の外に出て、色んなものから解放されたからな。」
「えっ…待ってそっち?僕たちとの時間が楽しくて、とかじゃなくて?」
「ふはっ!さぁて、ど〜かな〜?」
そう言い、ククールが僕の頬を人差し指でツンと突く。
そのまま、僕のほっぺをつんつんと繰り返して遊んでいる。
今気が付いたけど、大分お酒も入っているようだ。
彼はアルコールが顔に出ないから分からなかった。
いつもは花のような甘い匂いがするのに、今の彼からはアルコールと煙草…酒場のおじさんみたいなにおいがする。
なんだか、いつもの彼じゃないみたいだ。
あぁ…そうか。
ククールは、いつもこうやって…色んな事を独りで乗り越えて来たんだ。
辛い事も、悲しい事も、こうやって独りで飲み込んで。
辛い時、僕にはトロデ王やミーティアが居てくれたけど、ククールは寄り添える人が居なかったのかも知れない。
きっと、彼はこうして強くなってきたんだ。
そして、こういう事の積み重ねが、今のククールの一部であるのだろう。
…そんな彼を、抱きしめたいと思ったのは、おかしな事だろうか。
「…っ!」
「……。」
次の瞬間、僕は横からククールを抱きしめた。
彼の方が身長が大きいので、はたから見ると僕は彼にしがみついているように見えていたかもしれない。
…それでもいい。
今は彼を離したくないと思った。
「…え、エイト?」
「……。」
「なんだよ…急に。オレ、火持ってるんだけど?危ないぜ〜?」
「……。」
「…もう、どーしたんだよ。」
「……。」
「男に抱きつかれても、嬉しくねーんだけど?」
「……。」
「もー…仕方ねーなー。」
そんな事を言い、ククールが僕の頭をポンポンと撫でる。
辛いのは君の方だろうに。
いつも、そうやって強くあろうとする、君が…。
「…い。」
「んー?なぁに?」
「…お酒くさいし、煙草くさい。」
「なんだとっこのやろ!」
「わぁ!?」
そう言い、ククールが僕の首に右腕を回す。
そのままほっぺたを強めにつんつんされる。
「ひゃ、ひゃ、やめっ…やめてよぉ!」
「おまえがオレの悪口言うから仕返しだ!」
「いひゃ、いひゃいよぉ!するならもっと優しくつんつんして!」
「おまえに、拒否権は、ない!」
そう言い合いながら、もちゃもちゃとしていると、ふとした瞬間にククールの顔が僕の目の前に重なる。
そのまま整った顔が近づいてくると、ふわりと柔らかい何かが口に当たった。
「…?」
「ふ…。」
「え、何?」
「ふふっ…。」
「今、なんかした?」
「ふ、ふふっ…ふはっはははっ!」
「えっ、怖い…ククール壊れた…?」
「あー…ははっ、はぁ〜エイト…可愛い。」
「え?可愛くないよ。」
「うん…可愛くない。」
「なんだよ…。」
笑いが落ち着くと、
ククールはそばにあった箱みたいなヤツで、その手の煙草をすり消した。
「さ〜てと、お部屋に帰ろうかな。」
「もういいの?久々の煙草なのに。」
「ん〜?いいのいいの。エイトにクサイって言われたから、早くお風呂入りたいし。」
「うわ、根に持ってる…。」
「そりゃあね。ほら、帰るぞ。」
「うん。」
そう言い、僕はククールの後を追う。
(あれ、さっきの…口…ついたのって、きす…?)
(…そんな、ククールに限って。お酒のノリだよ。)
そう心で思いながら、僕は唇を手でふと押さえた。
【完】
ほら、あの…ゴルド名シーンの後のイメージです。
話しかけんなって部屋出ていった感じで妄想しました。
なんだこれは。
クク主未満…。
でも、多分これククールはもうエイト君の事好きだな…。
エイト君はまだ気付き初め、な感じだな。。
両片思い!!
うまぁーー!
…色々リハビリ中なので。
ほんのり998でございました。
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
2023.06.21 黒羽