そんな所が(クク主)◆そんな所が◆
それなりに長い旅の後、
オレ達はドルマゲスの籠城した島に乗り込んだ。
これが奴との、最後の闘いになる。
ダンジョンの暗闇を進みながら、メンバー全員がそう思っていたと思う。
奥に進む程、皆どことなく口数が減り、表情が固くなっていた。
…そりゃそうだ。
全員がこの日の為に、色んな想いを抱えて旅をして来たのだから。
そういうオレも、流石に緊張して来た。
革手袋の中が、どことなく汗ばんでいる気がする。
挑む相手の強さは分かってる。
奴を倒す為、オレは力をつけてきたのだ。
『負け』はない。
これは、『勝たなければならない闘い』なんだ。
多くの命を手にかけ、こんなにも沢山の悲しみを生み出した奴だ。
…許せない。
そう思うと、腹にゾワリと力が入る。
今日ここで、アイツを倒して全てを終わらせるんだ。
例え…命懸けになったとしても。
「…えい。」
「っひ!」
突然、横からツンと横腹を突かれる。
同時に、ビクンと身体がしなり、らしくない変な声まで出た。
「〜ッ…エイト!!なんだよ!」
「いや、怖い顔してるから…。」
オレは瞬時に真横のエイトを睨む。
当の本人、エイトはヘラリと笑っていた。
「当たり前だろうが!これから最終決戦だぞ!?」
「そうだけど…そんな身体がこわばってたら、いつも通りの動き出来ないよ?」
「!」
エイトの淡々とした言葉に、オレは瞬時に頭が冷えた気がした。
流石は王宮兵士上がり…と言った所か。
どこか、オレとは戦い前の落ち着きが違うと感じる。
オレは少し深呼吸すると、頭をガシガシとかいた。
「…わり、なんか変な力入ってたわ。」
「そりゃそうなるよね…実は僕もちょっと怖いもん。」
「え?」
エイトの予想外の発言に、オレは隣を歩くエイトの顔を覗き込んだ。
エイトは視線に気付くと、今度は気まずそうにニヘラと笑った。
「僕、いつもはあんまり…こういう気持ちにならないんだけどね。今はなんだか、感情が落ち着かなくて。」
「それ、本当か?お前はいつも顔に出ないから分からないんだよな。」
「良く言われる。城にいた時もそう。緊張してるんですって先輩に言っても、誰も信じてくれないんだ。酷いよねぇ。」
「…ぷ!お前、本当に昔からこのまんまなんだな。」
「そうみたい。僕、この顔で大分損してると思う。」
そう言いながら、エイトがウーンと頬に手を当てる。
緊張していると言いながら、全く普段と変わらない空気だ。
…しかし、そんなエイトの言葉で、オレには自分を曝け出せる余裕が出来た。
実は、ずっとどこか不安だった。
それをポツリと言葉に出す事にした。
「今まで…オレは動じないタイプだと思っていたんだが…ドキドキして来たぜ…くそ。」
「うん…僕もだよ。」
そう言うと、隣のエイトがオレの手を握ってきた。
…突然の事だった。
今まで、こういう触れ合いはなかったから、少し驚いた。
そして、その力は思いの外強く、振り解く気にはならなかった。
ギュウ…と、オレはただ左手を強く握られている。
「でも、一緒だから頑張れる。」
「……。」
「ね!」
…さ、行こ!
そう言い、エイトの手がゆっくりとオレの手を解放する。
そのまま、少し足速に先を歩き始めるエイト。
その小さくなる背中を、オレはただ見つめた。
…胸が、じんわりと熱くなる。
「…かっこいーじゃん。」
ふ、と小さく呟いた。
このやり取りのおかげで、全身の力がいい具合に抜けた気がする。
…いつも通りだ。
いつもと同じように、オレはオレの戦いをして、勝つだけ。
仲間は誰も死なせない。
勿論、オレも死なない。
みんなで、いつも通り勝つんだ。
そのまま、オレは駆け足でエイトに続いた。
***
戦いが終わり、なんとか仇討ちを済ませたオレ達は、雪崩れるように宿のチェックインを済ませた。
旅の目標は達成した。
みんながボロボロの状態だったが、心は晴れやかだ。
こんな気持ち、久々だと思う。
じゃんけんの結果、オレはエイトと同室になった。
部屋に入ると、真っ先にトーポに餌をやるエイト。
その見慣れた光景も今日で最後だと思うと、なんだか名残惜しい。
そんな事を思っていると、ふとオレは戦う前の出来事を思い出した。
…余裕のできた今ならわかる。
あの時のエイトの行動に、オレは礼を言わないといけない。
「なぁ、エイト。」
「ん?何?」
「今日さ、ドルマゲスと戦う前に、オレに声掛けてくれたじゃん?あの時、お前が緊張してたってのってウソだろ?」
「え?」
オレの言葉に、トーポにチーズをあげていたエイトがこちらに視線を向けた。
「あれはさ、オレの緊張を解く為に声掛けて来たんだよな?」
「そんな事ないよ?僕もいつも通りじゃなかったもん。」
「まぁ…たしかに?いつも以上にがっついた戦い方してたもんなぁエイト君は。普段なら飛び込まない所飛び込んだりね?お陰でオレ様のベホマラーが大活躍だったけどな?」
「あ、その〜…ハイ、すみませんでした。」
「でもさ、あれのおかげで…正直助かった。ありがとな、我らがリーダー様。」
「…あ、うん。」
「さ、早く祝杯上げに行こーぜ?先に食堂行ってるぞ。エイトも早く来いよ。」
「う、うん。」
そう言い、オレはゼシカ達の待つ食堂へ向かった。
…パタン。
「…こうも急に素直に微笑まれると、ドキドキしちゃう。ねぇ、トーポ。」
そう言い、エイトは片手の指でトーポの頭を撫でる。
「彼の事、みんなの事、守れて良かった。」
そう言い、エイトはふわりと微笑んだ。
【完】
はい。
まだ何にも始まってない998。
何にも香ってこない公式998。
ここで旅が終わると2人とも思っているので、お互いに『いい奴』位にしか思ってない。
ここからがスタートですねぇ。
お読み頂きありがとうございました。
(実は2ヶ月前に書いてたけど、着地見失ってとりあえず年内に産み出したのは秘密。)
2023.12.26 黒羽