ギャルドラ時空拝啓 隆姉さんへ
助けてください。
超可愛い俺より。
『どぅあからぁっ!!!!今回はアタクシ達と遊ぶのォ!!!!』
『どぅあめだぁっ!!!!今回こそはイサミは私とデートするんだ!!!!』
左腕はブレイバーン、右腕をヴァニタスに引っ張られる構図がもはや南高放課後名物になったのはいつ頃だろうか。大変不名誉である即刻返却したい称号だ。
俺の友達であるクーヌス、スペルビア、クピリダス、ヴァニタス、ペシミズムと俺をひっくるめて何故かギャルドラと呼ばれていると知ったのもつい最近だ。
いやまぁ確かに格好やらアクセサリーやら大分侵食されてる気はしていたがまさかグループ内の1人にカウントされていたとは思わなかった。
ぐいぐいと左右から揺らされるように引っ張られてるせいでもはや眠気すら襲い掛かる始末。
いやー変にバランスよく支えられてるからすげー眠い。
『大体!!君たちと付き合い出してからイサミのスカートの丈が短くなってるしピアスしてるんだぞ!ピアス!!』
『マグネットピアスよ!!イヤリングよ!そんなのも知らないわけェ?!野蛮人!猿の方がまだマナー知ってるわよォ!!へっ!!』
『なんだとぉ?!大体イサミの魅力を引き出すならそう言うチャラついたアイテムは似合わんッ!!』
『似合うに決まってんでしょ!!似合ってるから告白されるのよ!!列できてんのよ!列!!アタクシ初めて作ったんだから最終尾はここですの札!!』
あーあったねそんなこと。
いつからか下駄箱に溢れんばかりのラブレターが入っており一人一人に個別返信がめんどくさいからと言って放送部から少し時間を借りて放送で俺にラブレター送ってきたやつはまとめて放課後、体育館に来てくれと行ったらとんでもない行列ができたやつな。
男女問わず並んだものだから解散まで2時間かかった。
すげぇ疲れたよ。ご飯当番じゃなくて良かった。
遠くの方でヴァニがでっけぇ声で最終尾ここでーすとか言ってて何かのイベントかなと勘違いしてしまったがイベントでも何でもなくただの俺の告白大会だ。イベントだったや。
するとさらに引っ張られる強さが上がり腕から肩が痛み出す。
「あだだっ」
『大体!!野蛮ヤバ不良のあんたがイサミんと付き合ってること自体が不満なのよォ!まーだルイスくんの方がわかるわッ!』
『なんでだ!言っとくが告白を受けてくれたのはイサミの判断だからなッ?!』
『脅されたらそりゃ誰だって頷くわよ!!』
『脅してたまるか!!!言っとくがルイスだって俺より野蛮だからなッ?!ピーマン入った料理出しただけでゴリラのように暴れ狂うんだぞあいつは!』
『ピーマン出したあんたが悪いッ!』
「お前はセロリ出したら暴れたもんな、ぁだだっ…いたた…取れる取れる」
『セロリも食えないわけッ?!味覚お子様なんだから!!お家に帰ってハンバーグに旗立ててドラミングしてなさいよッ!!』
「いやルイスのピーマン食えない方がお子様じゃないか?あたたたっそろそろ俺の腕か制服の袖パージするからはな、いだだだ!!!」
『イサミん痛がってんだから離しなさいっ!!!』
『君が離せば解決することだっ!!』
『嫌だって言ってんでしょうが!!』
『私こそ断るッ…!!』
『イサミん大丈夫そうか?』
「ペシミズムーみてるなら助けて欲しいかも」
『いや楽しそうだからつい』
「どこら辺が?!あだだだ、ちょ、クピ呼んできてまじこのままだと俺の腕が外れるか制服が終わる」
『クピりんお腹減ったとか言って先に行ってしまったのだ』
「キレていいかな?!観戦する気満々じゃねぇかッ!!」
俺クピの自分が混ざって楽しくなさそうなことについては徹底観戦するとこあんま好きじゃないかもしれない。
「クーヌスはどこぉ?!!!」
『クーヌスはブレイバーンが見えた瞬間あっちだ。悲しい…昔ゴリラ時代だったブレイバーンの暴れ倒す姿を見てトラウマになってしまったのだ…』
『誰がゴリラだッ!!』
『あ、バラすでないぞ!!ペシミズムッ!す、すまぬ、別に怖いとかではないのだっ!ただあのっ、ちょっと近付きたくないだけで…』
「お前まじで何してたんだよ…」
『ほら!!イサミんこんな野蛮人と一緒にいたら危ないから今日はアタクシ達と遊びましょ!!』
『危ないって何だ危ないって!!む、昔は確かにヤンチャしていたが今はそんな事してない!!大体君たちは毎日イサミに会えるだろう?!頻度が低い私に譲るべきだッ!!』
さらに苛烈になる引っ張り合いに、周辺生徒達がどっちが勝つか賭け始めた。おいやめろ見せ物じゃねぇってだから。
ヒートアップする引っ張り合いにのんびりとクピが戻ってきた、両手には買ってきたであろうスイーツの数々を携えて。
『あらまだ終わってなかったんですね』
「クピぃいいっ!!!」
『待ってください、あったかいやつだけ食べさせて…』
「おまえー!!ちょ、あと誰かいないッあっ!スペルビアっー!!」
『スペりんはお迎えゆえ、もう帰ってしまった』
「っー!それなら仕方ないっ!!アタタタタッ!ダダダっ!!ちょ、まじで腕取れる!!!」
『何時間です?』
『かれこれ1時間くらいにはなるな。そろそろイサミンの門限でもある』
『破ったらどうでしたっけ?』
『悲しい…一週間ほどは遊べなかったはずだが』
「ー、それもう平気になっ、ぁだだだっ!!夕飯までに帰って来れるんならいいよって、いだだだ!!」
『じゃあ、飽きた事ですし助けますかね…』
クピがようやっと重い腰を上げてブレイバーンとヴァニタスの頭を引っ掴む。
『ほら2人とも辞めなさい。困ってるでしょうが』
「それ言うの1時間前にしてほしかったな…!!」
『今度スタバ奢りますから許してイサミん♡1番大きいやつ頼んでいいですから』
「言ったな…?くっそ…カスタムしまくってやる…!」
痛む腕を振りながら鞄を持つ。
クピは容赦なく2人の頭を持って上下に振ったりしていた。
『『ギャッー!!!!』』
『大丈夫か?イサミン、助けてやれなくてすまなんだ…ちょっとブレイバーンはな…相性が…』
『制服が破れる前でよかったぞ、ヴァニタスはペシミズムから叱っておく』
頭を抱えてとりあえずと思いルイスに連絡してブレイバーンを迎えに来てもらう。
いやもう今日これだけで疲れた…家帰って晩飯まで昼寝したい。
3分経たないうちにルイスが大変嬉しそうにきたが惨状を察してすぐにチベットスナギツネのような顔つきになる。
『スミスではないかぁ〜!!♡』
「うぉ?!クーヌス?!危ないだろ!」
『あら、お迎え来ていただいたんですね。コレいります?』
「いらない」
『まっ!!ルイスッ!!』
「この間ピーマン祭りにされたのまだ根に持ってた?」
「い、いやあれはすごい美味しかったよ!やっぱイサミはすごいよ、あんなに苦いピーマン美味しく作れるなんて!!いやほんとずっと作ってて欲しいくらい」
『ほー?なら私が代わりに作ってやろうじゃないか、ご丁寧に私が作ったやつ以外ペロリと平らげおってからにっ…!!』
『ブレイバーンも料理できるのォ…?』
「うん、美味しいよ」
『ペシミズムも気になるぞ。イサミが美味しいと言うのであれば、ペシミズムにも作るがいいブレイバーン』
『断る!私の手料理はっ!!イサミに捧げてるのだッ!!あとたまにルイスに慈悲でっ、いっでぇ?!』
「イサミ、バカ兄貴放って俺とデートっ…」
「しないもう疲れたから。ほらーみんな帰んぞー。ヴァニ達もまた明日な』
『あーん!イサミん!明日遊び行こうね!スタバの新作美味しいーんだってェ!』
「ヴァニタス…」
『ねっ?ねっ?!ついでにスタバで勉強すればいいじゃない!』
「お前最近太ったからスタバ封印するって言ってなかったか?」
『言ってましたねぇ』
『言ってたな』
『私も聞いたぞ、増えすぎたって』
『っだー!!いいでしょ!!明日だけよ!明日だけ!!』
「あぁダメな呪文詠唱始まった」
『あぁ、悲しい…ペシミズムには見えるぞ、失敗をかましてマックでドカ食いするヴァニタスの姿が見える…』
『誰がするか!!!!』
『ほらほら、もう行きましょうみんな』
『はぁん…♡ルイススミス…今日もかっこいいな。こないだ作ったチョコはどうだっただろうか…?』
「え?あれ?美味しかったよ、うん。飾り付けも綺麗だったし…あ、そうそうそれもあって来たかったんだ。市販品だけど良かったら貰ってくれ。ホワイトデーのお礼しちゃ遅いけど』
『キュッ…!!!♡♡♡♡』
「クピー、クーヌスノックアウトされたわ」
『良かったですねぇクーヌス。次は凝ったのつくれるように練習しましょうね〜よっこいせ』
あまりの嬉しさにぶっ倒れたクーヌスを抱っこし自分の荷物を乗せていくクピに笑い引っ張られて固まった肩をゴキゴキ鳴らしみんなと話しながら校門へ向かう。スミスとブレイバーンはケンカしながら付いてきた。あいつら一応部外者の自覚あるのか?
途中の分かれ道でみんなと別れ方向が一緒のブレイバーンとスミスが付いてきた。
『あの青色が特徴的なチョコクーヌスからだったのか』
「めっちゃ綺麗だったよなあれ。クーヌス作るよりああいう飾りつける方がいいのかも。ラッピングもクーヌスだぜ」
「そうなのか?!写真撮っててよかったー…ほら、めっちゃ綺麗だろ?青にも色々あるんだなって思ったわ」
『本当だ、中のクッション材もさることながら…凄いじゃないか。まぁ私のチョコに比べたら霞んでしまうがな!』
「ちなみにお前のラッピングもクーヌスだぞ」
『なにっ?!』
「怖いやつだけど、喜んで欲しいからって言ってたな。…お前が何したか聞いたつもりだったが…余罪まだまだありそうだな?んー?どうなんだよ2人とも」
『「いやぁ…隠してることなんて何も無いぞ?」』
「ハモってるし…ほんとそういうところそっくりだな」
そうこうしてたら俺の家が見えてきた。
いい匂いもしてるので隆姉さんもう帰ってるみたいだ。
「食ってく」
『いや、急だし申し訳ないから大丈夫だ』
「ありがとうイサミ、また今度寄らせてもらう」
「ん、わかった。じゃまたな2人とも」
『ああ、また連絡するよ』
「イサミ、今度は俺ともデートしてくれよな」
「ん?隣のゴリラが許したらな」
『んなっ?!そんな、イサミそんなッ?!』
一緒に吹き出してひとしきり笑ったあと改めて別れる。
なんだかんだで仲良いよなやっぱり。
男兄弟だとやっぱああ言う感じなのかな?
今度隆姉さんに聞いてみようと思い玄関を開けただいまーと家へ入った。
────……
『そういえば、お前クーヌスとはどうなんだ』
「ぶふっ?!」
帰り道、とんでもないことを聞いてきた兄貴を睨む。
『真面目な話、ちゃんと話しておかないとダメだと思うが?不誠実だ』
「わっーてるよ…けど」
『真っ直ぐに好意を伝えられるのは苦手か?』
「…、うっせ」
『相変わらずだな、でも別に嫌ってないんだろ?チョコも受け取ってたし…お返し用のお菓子だって、買うのにどれだけ時間掛かっていたんだ?』
兄貴の言うことは最もだ、だがどうにもあの真っ直ぐで眩しい好意を断れる勇気も受け取れる自信もなくって誤魔化してしまっている。
最低とは分かってもいるつもりだ。
兄貴はスマホをいじりながら話を続ける。
『クーヌスは良い子だと思うぞ、あまり話したことはないが…イサミの話を聞いてるとそう感じる。一回くらいは出掛けてやってもいいんじゃないか?』
「い、やでもな…」
『大丈夫さ、お試しで良いと思うぞお互いに。見えてなかった部分も見えるだろうしな』
「ん…?っ?!」
するととんでもないことをイサミに送っていた。
[ルイスとクーヌスのデートのセッティングをして欲しい]
こ、この兄貴悪魔か???
イサミもイサミだ、速攻でOKのスタンプを貼らないで欲しいのだが?!
『まぁまぁ、大丈夫さ。お見合いみたいなもんだ』
「何が大丈夫なんだよそれ」
『いいじゃないか、1回デートしてみて決めたっていいだろう?もしかしたらクーヌスだってこんなもんかとなるかもしれないんだし』
「兄貴それでイサミと付き合わなかったか…?」
『あぁ、私からデート後に告白したらOK貰ってしばらくずっとその話してたな』
「俺もそうなるかもよ」
『イサミ諦めて無いくせ』
「先取られただけだ…別に」
『…お前のそれは憧れだと思ってる、…元は俺もだが。諦めさせようなんてことじゃ無いが…ただ、ん…上手く言えないな…』
家の前についてしばらく考え込むようにする兄貴を無視して玄関を開けてひと足先に入ろうとしたら
『今自分に向かってる光を見ないふりして遮っても意味はないぞ、必ず漏れるモノだからな。好意も似たようなモノだ、無理してイサミの好きなままでいなくて良いんだぞ。お前のそばにはもう灯ってるものがあるだろう?』
その言葉が衝撃すぎて振り向くと夕陽の赤が眩しすぎて目を逸らしてしまう。
バタンと玄関が閉まって眩しさはすぐ消えたが、玄関の磨りガラスから見える夕日は白っぽく見える。
俺を邪魔だと軽く押し退けて靴を雑に脱ぎ腹減ったーと呑気に言う兄貴に俺は何も言えずにイサミと一緒にチョコを渡しにきてくれたクーヌスのことを思い出していた。
『おいルイス、何している?飯作るぞ?』
「えっ、あ、あぁ…今行く」
鍵を閉めて靴を脱ぎ並べる。
いつもなら手作りの菓子は断ってたのに何で受け取ったんだろ。
イサミと一緒に作ってたから?ラッピングが綺麗だったから?
その答えはいつまでも出ないまま、ぼやけた頭で兄貴の手伝いをするのだった。