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    kanamisaniwa

    pixivメインに二次創作(刀剣乱舞、ツイステ、グラブル、FGO等)やってます。超雑食でオリキャラ大好き病を患う腐女子です。ポイピクにはかきかけだったりネタだけの文章を投げたいです。

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    kanamisaniwa

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    デアアイと残された大砲のお話、友情出演は偽デアン(幽世の輩)

    #デアアイ
    deer-eye

    月の最上位の戦士達、ω3のうちファラとエルドは月で倒され、唯一デアンのみ空の世界で兵器ヤーマによって分解され倒された。
    組織、いや、組織の残存勢力をまとめたイルザ隊の最終報告書に乗っている事実はこの一文にまとめられる。
    それがどれほどの強敵であったか、それを知るのは実際に戦った者たちのみ……否、ごくわずか個人的なかかわりを持ったものも含まれるだろうが、ごく一握りだけだ。
    そして今、その極一握りの者たちが集結し、青い顔で突如おきた緊急事態にあたっていた。
    緊急招集をかけたイルザを中心に、元組織メンバーのゼタ、バザラガ、グウィン、騎空団を代表してジータとルリア、ビイ。そしてオブザーバーのアイザックだった。

    「そんな、信じられない……本当に、その拠点を襲ったのはデアンなのかい?」
    「間違いない。わずかに生き残った拠点の監視カメラの映像解析の結果がこれだ」

    終結した屈強な者たちの中で唯一風変わりな者、戦う戦士ではなくエンジニアであり、そして月の者たちと個人的なかかわりを持ったことがある唯一の空の民アイザックが青い顔で尋ねたそれにイルザが硬質な声でテーブルの上に写真を投げて答えた。
    そこには、バザラガと死闘を繰り広げぎりぎりまで使用を躊躇した”敵”の武器ヤーマによってかろうじて打ち取ったはずの月の戦士、デアンの姿があった。
    ますます顔を青くするアイザックが黙る中、一歩出たのはバザラガだった。

    「だが、ありえるのか?奴はヤーマによって分子レベルまで分解され、形すら残らなかった。俺がこの目で見た。」
    「鎧チキンの言う通りだ。この写真に写っているのが我々が戦ったデアンと同一とは思えん」
    「じゃあいったい何なんですこいつ…偽物にしたって似すぎてるし、それに拠点の破壊状況、こんなの単独でできるやつなんて……」

    バザラガに続いてグウィンが沈んだ声で続けた。本物のデアンと対峙しその力を目にしているグウィンの声には震えが含まれていた。

    「ああ、偽物にしてはその力があまりにもすぎる……だが、唯一説明を付けられる予測がある」
    「本当!?」
    「い、いったい誰なんだこいつ!」

    ルリアとビイがわっとイルザに問いかける。二人は直接デアンと対峙はしていないが、バザラガの見舞いには何度となく訪れていた。
    その時の怪我の様子をずっと心配していたのだ。その怪我の元凶が現れたとなれば冷静ではいられない。

    「断定はできないが……おそらくデアンの能力を取り込んだ幽世の者だ」
    「!!!」

    あっ!と誰かが小さく声を上げた。沈黙を守ったものもまったく同意だっただろう。報告書にもあった通り、月の戦士のうち唯一デアンのみ”空の世界で”兵器ヤーマによって分解され倒された。
    それはすなわち、幽世に取りこまれた可能性があるということなのだ。

    「幽世の奴らは空の世界で死んだ人間の記憶や姿をコピーできる……!グレイス、みたいに」
    「そうだ。厄介なことに奴らは倒されるたびに確実に知恵をつけてこの空の世界に侵攻を繰り返している…だが、所詮はコピーだ。拠点を放棄する際、自爆コードを起動し爆破に巻き込んだところ、この偽デアンにダメージは入っていた。もっとも、即自己再生を開始し数時間の足止めにしかならなかったが」
    「封印武器とヤーマでなければ足止めすらできなかったオリジナルには及ばなない、か。だが、なら対処のしようもある」
    「オッケー、見えてきたわね。それで、この偽デアンの現在地は?」
    「今我々がいる島の東端から進行中。目的地は我々がいるこの拠点だ。幽世の奴らが狙ている月の情報と封印武器が揃っているからな。ただ、奴は戦闘能力こそ凄まじいが、移動が酷く遅い。かつて対峙した本物はそんな風にはみえなかったことを考えると、幽世の者が月の民をコピーした弊害か何かと考えられる。我々には唯一の僥倖だったが……それでも足止めらしい足止めはできず、交戦は一時間後だ」
    「「えっ!?!」」

    あまりにも急な事実に全員がぎょっとした。
    偽物とはいえあまりも強敵だったω3最強の月の戦士との戦いが、わずか一時間後に迫っているなど、あまりも急すぎる。今からどれだけ急いで戦力をかき集めてもまともにやりあえるかどうか。
    そこまで考えて、はっと気づいたのはジータだった。

    「ねえ、ユーステスは?どうしてここにいないの?」
    「ああ!そうよ!あのド固い月の奴、偽物でもそれに近い奴のどてっぱらに穴開けるならフラメクが必要でしょ?!」
    「……ユーステスは現在重症でICUで絶対安静だ。護衛にベアとカシウスをつけている。戦力には到底入らん」
    「は?!」

    イルザからもたらされたあまりにも予想外な、そして聞き捨てならない事態にゼタがひっくり返った声をあげた。
    さらにバザラガがずいっと一歩踏み出しイルザに叫ぶように問いかけた。

    「何があったイルザ。話せ!」
    「私もローナンから緊急連絡を受けて知った身だ。ローナンとの定期連絡を予定していた町で爆弾テロが起き、近距離で巻き込まれた。とっさに回避行動をとったのは流石だが、全身に裂傷を負い大量出血で一時は本当に危なかった。ローナンによれば、爆弾テロを起こしたのは”子犬を抱えたエルーンの少年”で、少年自身が溶けて爆発したように見えたそうだ。ユーステスはその間隣にいたと。ローナンが自身も火傷を負いながら燃えるその場に飛び込んでユーステスを担いで退避していなければおそらく死んでいただろう……それも私が偽デアンを幽世の者だと推測を得た要因の一つだ。」
    「子犬、に、エルーンの子供……」
    「なあ、おい。それって……」
    「ユーステスさんの、………」

    ジータが低く、ぶるぶる震える唇でなんとかそれだけをつぶやいたが、あとは言葉にならなかった。
    察したルリアとビイも言葉を無くす。
    悲痛な若者たちを隣に、内心怒りを沸騰させながらも年長者の矜持でバザラガが話を前に進めた。

    「……偽デアンに致命傷を負わせる可能性が最も高いフラメクの契約者であるユーステスを先に消し、満を持して偽デアンを目当てである月の情報が集まるこの拠点に送る、か。確かに知恵をつけてきているな。一刻の猶予もない、イルザ、お前は今すぐ横になれ」
    「なに?」
    「は?何言ってんのバザラガ」
    「お前、ユーステスの輸血ために大量に血を提供したな?顔が青白く唇は紫がかっている。典型的な貧血だ。化粧でごまかせると思ったのか?」
    「っぐ、」

    バザラガの発言に周囲がぎょっとして、イルザが否定しなかったことで大慌てした。

    「ええっ!?」
    「ちょ、教官!?」
    「あわわわ!!と、ともかくここに!!」
    「アイザックありがとう!えいっ!」
    「うわっ!?ええい、騒ぐなひよっこども!このくら、ぅ……」

    アイザックが引っ張ってきた二人掛けのソファに向けて、ジータがイルザに足払いをかけて転がす。
    イルザは抵抗していたが、いきなりソファーの上に倒されたことで貧血症状が悪化したらしく、口元を押さえて沈んでしまった。

    「さて、イルザにはぎりぎまで横になって回復に専念してもらう。隊の者たちの指揮はイルザにしかできんからな。俺達は俺達であの偽デアンをどうにかする対策を立てる」
    「ていっても、フラメクが使えないとなると…バザラガやあたしで足止めと牽制はできるけど、決定的なダメージを与えられるかどうか、よね。偽物がどこまで本物を模倣してるかわかんないけど少なくとも自己再生はコピーしてるのは確実……団長、なんかこう、再生も追いつかないくらいの一撃必殺系の武器とか、そういう情報、ない?」
    「ごめん、力を出すのは私も得意なんだけど、一撃必殺って難しい…」

    ゼタの問いかけにジータが悔しそうに答えた。実際、竜とすら互角に戦うジータや団の仲間たちの力は強い。だが、それは連携や共助によってもたらされる力が大きいのであって、単独それも一撃で敵を吹き飛ばすようなものは少ないのだ。
    沈黙が落ちる。
    その沈黙をやぶったのは、もっとも意外な人物だった。

    「あ、あのー、ごめん。戦闘じゃほとんどお荷物状態の僕が口を出すのは憚られるんだけど……」

    おずおずと挙手とともに口を開いたアイザックを、その場の全員が凝視した。


    *******


    「ねえ、兄さん。本当に大丈夫なの」
    「ああ、任せてくれ。僕は戦闘はからきしだけど、月と行き帰りしたダクトなエンジニアだからね。それに……これは、僕がやりたいんだ」

    アイザックはあらかじめ打ち合わせで決められたポイント、拠点から少しはなれた高台に抱えてきたにもつを下ろしながらグウィンに答えた。

    アイザックにとって、デアンはほかのω3ファナとエルドとは違う存在だった。
    月でのアイザックの監視役だったのだろうデアンとは月で最も長く話した存在であり、その会話は噛み合わないことの方が多かった。だが、アイザックは無意識のうちにそのかみ合わなさにほんの少し楽しみを見出していた。
    なによりデアンは色々限界だったアイザックを気遣っていた…それはデアンにとって対フォッシル用ストレス計算から導き出した最適行動でしかなかったとしても、アイザックにとっては優しくしてもらったことは本当だった。
    アイザックはあの月で、唯一デアンだけを特別に感じていた。
    それは機関をだましω3をだまし、カシウスを空の世界に返すために必死だったアイザックが究極のストレス状態に置かれていたゆえ、ストックホルム症候群に近いものだったのかもしれない。
    だが、それでも。
    もし、もっと長い時間を、ストレスのない環境で話が出来ていたら。
    デアンと友達に、なれたかもしれない。
    カシウスが時間をかけてベアやユーステスやほかの組織の者たちとかかわる中で変わっていったように……かけがえのない仲間になったように。
    もっとも、それを自覚できたのは全部終わった後だった。アイザックはが知るデアンが"敵"の武器で細胞レベルで分解されてしまった後、何も伝えることが出来なくなってしまってからだ。
    その時のさみしさを、アイザックは一生忘れないだろう。
    そしてその気持ちは誰にも理解されない。デアンは、空の民にとっては絶対的に強大な敵でしかない月の戦士ω3であるがゆえに。
    だが、だからこそ。
    この空の世界で唯一『敵』以外のデアンの一面を知る者であるがゆえに。
    その優しさを、そして月の戦士としての誇り高さを知るがゆえに。

    「僕がやる。あんな偽物を作る幽世の奴ら、絶対に許してはおかない」
    「うん…」

    普段とは全く違う鬼気迫る様子でアイザックは荷物を開封し組み立て始める。
    グウィンには何が何だかわからないうちに大小の部品たちが組みあがっていく。
    それは、あえて近いもので表現するなら、地面設置型の対物ライフルのようだった。
    だが、砲身や弾倉部分は極度に大きく、明らかに空の民それもヒューマンが扱うサイズのものではない。
    いや、そもそもそれは空の民が手にするはずもないものだった。

    「デアンなら非合理的だ非論理的だとかそういうこと言うんだろうな…勝手に改造して出力、は落ちてないけど、連射性は無いに等しいし、なにより持ち運びできない…まあ、こんなの担いで何発も撃てるのはデアンしかいないんだから仕方ないんだけど。ああ、聞こえてきた!グウィン見えるかい!?」
    「!イルザ隊が一斉射撃開始!弾幕の向こうに人影……!」
    「予定より少し早い!クソ、動作確認の暇すらないな!」

    グウィンが双眼鏡をのぞきながら報告する状況にアイザックは苦い顔をしながら手元の作業を加速させる。
    組みあがった設置型対物ライフル…それは、本物のデアンがバザラガやイルザ隊と戦った際に用いた大砲を、アイザックが改造したものだった。
    デアンがヤーマによって分子レベルで分解され倒されたのちも、ヤーマ発動前にデアンが投げ捨てていたその大砲はヤーマの影響を受けずに残っていた。それをイルザ隊が回収し、その扱いに苦慮したイルザから連絡を受けたアイザックが引き取ったのだ。
    勿論、ただではない。やがて来るだろう月の再侵攻にそなえ、大砲に使われている月の技術を解析、空の世界のそれに転用する研究が条件だった。
    だが、バラバラにして部品ごとに転用するよりも仕組みを徹底的に解析後、大砲もしくはそれに準じた武器に改造するほうが有用だとアイザックは進言し、なんとか理解を得ていた代物だった。

    「だって、武器じゃなきゃ駄目だろ?彼は最期まで誇り高い月の戦士だった。正々堂々戦士として戦った。その彼のものだったんだ、武器以外に転用なんかできるものか」
    「兄さん?さっきから何言って…っ!来た、本当にあいつの偽物…!狙撃ポイントまで5メートル!」
    「ああ、こっちのスコープでも見えた。カウントダウン頼むよ!」

    がちゃ、と音を立ててライフルが装填状態になる。もちろんそれは例えだ。デアンの大砲をもとにしたそれは、空の世界の技術では未だ到達できないエネルギー充填式の対物ライフルなのだ。
    エネルギー充填状況を示すメモリを確認しつつ、アイザックはわざと距離を開けていたグウィンに叫ぶように言った。

    「それから、グウィン、僕が撃ち終わるまでそこから絶対に動かないでくれよ!撃ったと同時に反動で後ろに吹き飛ぶから!たぶん、いや絶対危ないからね!」
    「はあ!?ちょっときいてな」
    「カウントダウン!」
    「ああもう!残り4メートル…3メートル…」

    グウィンはアイザックの急な白状にぎょっとしながらも、しかしスポッターとしての役割に徹する。
    グウィンのカウントダウンを聞きながら、アイザックはスコープの先に見えた姿にぎりっと唇をかみしめた。
    なるほど、確かにデアンの似姿だった。空の世界では背が高い方に入るアイザックをして見上げる長身、たくましい四肢、イルザ隊の一斉射撃をうけてなお傷一つ追わず前に進む姿は、まさに月の戦士だった。
    だが、アイザックは知っている。あれは偽物、それどころか戦士として気高く最期を迎えたはずの彼を再利用した憎むべき存在だ。

    「カウント開始!5、4、」

    沸々と煮えたぎる怒りのあまりグウィンの声が遠い。それでも耳は聞き逃さない。
    アイザックに与えられたチャンスはただ一度なのだから。
    それでも、叫ばずにはいられなかった。

    「僕の前で、デアンを騙るなあああああああ!!!!」

    0のカウントと同時にアイザックは引き金を引く。
    途方もないエネルギーが弾倉で収縮、砲身を走って発射される。
    エネルギー弾は狙い通り真っすぐに飛んでいく。質量がある弾丸などと違い、物理的に弾道が曲がるとはないので、言葉通り一直線に。
    だが、その先をアイザックは見ることはかなわなかった。
    それだけのエネルギー弾を発射する代償、反動を吸収しきれず地面に設置していた台ごと砲身とともにアイザックは後ろに吹き飛ぶ。吹き飛んだ先に生えていた木に背中からぶち当たったことで止まることこそできたが、アイザックは打ち付けた背中から頭さらには抱えていた砲身が胸に食い込むその衝撃に気を失った。
    意識が途切れる直前、走り寄ってくるグウィンの姿を捕えつつ、一矢報いたことをただ祈った。


    *******


    アイザックが目を覚ました時、すべては終わっていた。
    勿論、空の民の、皆の勝利だった。

    「ていっても、あたしたち殆どなんにもしてないけどね。最後に正体現した幽世の奴タコ殴りにしただけ」
    「ああ、お前の一撃は見事だったぞアイザック。エネルギー弾は偽デアンの右胸を貫通し、衝撃派で背中側の血肉大半を吹き飛ばした。自己修復も追いつかず化けの皮がはがれて幽世の輩が姿を現した時の慌てぶりをお前に見せてやりたいくらいだ」

    お見舞いに来たゼタとバザラガ、アイザックの奥の手であるエネルギーライフル射撃が効かなかった場合に控えていた二人は暴れたりないぐらいだといって笑った。

    「それはよかった…僕もあばらその他諸々折った甲斐があったよ。あいててて…!」
    「甲斐があったじゃないでしょ兄さん!反動で吹き飛ぶくらい危ない武器だって黙ってたくせに!ああもう起きない寝ててよ!」
    「いや、計算上吹き飛ぶまではいかないはずだったんだけど……支える僕が非力すぎたんだふぐっ!」
    「言い訳はきかない!イルザ教官にもベッドに括り付けとけって指令受けてるからね!容赦しないから!!」

    アイザックの顔に容赦なく枕を投げながらグウィンが言い放つ。だが、射撃の反動で吹き飛び背中から気にぶつかった末気を失ったアイザックを目の前でみるはめになったグウィンは、ジータ達が救助に駆けつけた時アイザックに縋って泣き叫んでいる有様だったのだ。心配するなという方が無理という話。

    「あはは、ほんとグウィンに頭上がんなくなったわねアイザック。そうそう、一つ朗報伝えとく。偽デアンの中にいた幽世の奴ぶっ殺した時にこぼれ聞いたんだけど、あいつらの力を使っても月の民、それもω3の肉体をコピーするのは骨が折れるみたい。そう簡単には次の偽物作ってくることはないはずよ」
    「ただでさえ高いコストに今回の敗北を鑑みれば、幽世側は早々同じ手をうってくることはないだろう。なにせ今回の作戦で死者は出ていない、つまり幽世の勢力は敗北した理由を知ることはできない。より慎重になるはずだ」
    「ふぎゅ、……そ、それはよかった。もう、あんなの見たくないからね……」

    かぶせられた枕から顔を出しつつ、アイザックはふにゃりと笑った。
    それは月の戦士という強敵を見たくない、という意味なのか、それともデアンの偽物だからこそ見たくないという意味なのか。
    その場の誰もが測りかねたが、そんな野暮を口にする者もまたいなかった。

    「じゃ、あたしたちこれからユーステスの方の見舞いに行かなきゃだから」
    「養生しろアイザック」
    「ああ。お見舞いありがとう」
    「あ! 見送ります!」

    怪我人の病室に長居はよくない、とゼタとバザラガは腰を上げ、グウィンが見送りにとついて病室を出て行く。
    そんな彼らをベッドの上で見送ったアイザックは、ふう、と呼吸のたびにいたむ息を吐いて改めて横になった。
    その胸にはスコープで覗いた先にいた偽デアン、いや幽世の者に一矢報いたという達成感と、どこかさみしい気持ちが入り混じっていた。

    「デアン、月にいた頃の君が今の僕をみたらなんて言うのかな。きっと理解できないって顔するんだろうな…僕だってわかってないんだから。偽デアンが憎くて絶対許さないって思ったのは事実だよ。でも、…もう一度、君の姿を見てしまって、酷く、……悲しいんだよ」

    今更、あふれてくる涙を枕を顔に押し付けることで隠しながら、アイザックは誰にも聞こえない声で呟いた。

    「デアン……もう一度君に会いたいよ」







    ーーーーーーーーーーーーーーー同時刻、月にて。

    「送信完了。機関(セントラルアクシズ)の受信確認ーーーー条件付きでω3デアンの即再構築の承認が下りた」
    「こういう事態では承認が早いな。まあ、我々には願ったりかなったりだが」
    「月の戦士の中でもω3は特別。その情報が空の世界に流出しコピーまで作ったとなれば大事」
    「正確には幽世の奴らだがな。まあ、機関からみればどちらも変わらない。あせりもするか。条件はなんだ」
    「再構成体の移動にはポット射出式を採用。流出情報の破壊後の、月への帰還は考えられてない使い捨て。つまり片道切符」
    「ははは!条件どころか、願ったりかなったりだな」
    「アラン、楽しそう」
    「楽しいとも。相棒への恩返しがやっとできるというものだ。彼がいなければこうしてヤチマと二人月に来ることはできなかった。私達の悲願は彼なしにはなしえなかった」
    「うん。それに、アランが楽しいと、ヤチマも嬉しい」
    「さあ、忙しくなるぞ。ヤチマ、再構築されるデアンの記憶だけは注意を払ってくれ。機関にいじられんようにな」
    「わかってる。でも、きっと大丈夫。あの記憶の付箋は絶対剝がせないから……ヤチマがアランの事を絶対忘れないのとおんなじ」
    「おや、誰かさんは私と出会った時の事を忘れていたんじゃなかったか?」
    「さあ、ヤチマは知らない」
    「まったく、すっとぼけるなんて事を教えたのは誰なんだか」
    「誰だろうね」

    月の一画で小さな笑い声が響く。笑うなどという機能はエネルギーの無駄使いで不要だと切り捨てた月の世界ではありえないそれは、やがて空虚な月の空気に溶けて消えていった。


    END
    or
    to be continued


    *************
    デアアイ600年後√書いた後、やっぱり600年待てるかああああ!!いますぐ!!幸せになれよおおおおお!!
    と涙を濡らしたのち、なんとかデアンの再構築を急げないかとこねくり回した結果書き散らしました!!
    後悔はしてない(`・ω・´)
    ステイムーンで公式になった、幽世の奴らが空の世界で死んだ人間の記憶や姿をコピーできる設定=デアンもコピーできるんじゃね!?という処から、ω3のデータ流出&コピー作成を月が見逃さないねよっしゃ!!という勢いだけ…ヤチマとアランはどうしても出したかったですハイ。
    あと、ユーステスにだけは謝らねばならぬ……フラメク使われたら流石に偽デアンひとたまりもなくてアイザックの見せ場なくなるから先に重症になってもらいました(土下座)
    ちなみにローナンもめっちゃ気にってるキャラです。ユーステスとのやり取りみてお父さんじゃん!!!!!!!と叫びましたはい……イケオジ大好きだ(性癖)
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    kanamisaniwa

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    三ヶ月後。
    アズール先輩からの提案で参加を申請したアジーム家雇用希望者の選抜試験当日、私はジャミル先輩、エリムさん、そして面白がってついてきたフロイド先輩(本当は諸々ド素人の私を心配してついてきてくれたのをちゃんと知ってる)と一緒に熱砂の国にあるアジーム家所有の別荘の隣に設置された試験会場控えにいた。
    エリムさん曰く、アジーム家所有の不動産の中では中規模ながら市街から遠くて使い勝手が悪く最低限の手入れしかしていなかった別荘で、確かに選抜試験をするには丁度良い物件だとか。なんなら爆発させても大丈夫ですよ、と言ったエリムさんの顔はわりとまじだった。
    そしてその別荘の隣に建てられた仮設の集合場所兼待機場所で簡単な説明を受けた。といっても事前にアズール先輩が収集してくれていた情報と内容はほぼ同じで、あえて追記するなら試験会場である別荘のあちこちにライブカメラもとい監視カメラが設置されていて、その映像はリアルタイム公開されるので別荘内の様子はもとより他の参加者の様子を逐次確認できること、そして本当に魔法でもなんでも使用可、建物への損害も免責するから全力で目標を破壊してみろ、という言葉が説明担当からあったことくらい。
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    DONE最終章後生存√デアアイ。デアンはアラヤチとともに月で復興作業なうなお話です。友情出演は鮫←「えっ?なに、ヤチマなんだって??」
    『バケだ。デアンはバケに行く』
    「聞き返しても同じだった!色々突っ込みたいんだけどちょっと待って!」

    アイザックは耳元にあてた通信機から聞こえるヤチマに叫ぶように返事をしながらアウギュステの砂浜をジグザグに走っていた。
    アウギュステの砂浜を走ると行っても可愛い彼女と「ほーら捕まえてごらんなさい♪」みたいな楽しいことをしているわけでは決してない。
    骨の髄までエンジニアであるアイザックには物心ついてこの方彼女らしき女性が出来たことはなく、あわせて夏のアウギュステなんて高級リゾートに縁はなかった。
    だが、アイザックは今年は散々世話になったグランサイファーの団員達に誘われてここアウギュステに来ており、ンニだのンナギだのといった海の恵みに舌鼓をうっていたのだが。
    いたのだが。

    『アイザック、なにか忙しい?』
    「忙しいというよりなにかがおかしいかな?!」
    『落ち着けアイザック。状況を冷静に報告しろ』
    「やぁ相棒久しぶり!状況はアウギュステで空から鮫が降ってきているよ!!」
    『は?』
    「だから!!空から鮫が!!降ってる!!」

    シャァァァクなる鳴き声を上げな 2173

    kanamisaniwa

    DONEデアアイ600年後√(子孫と再構築)、友情出演ヤチマ月の侵攻は、600年前よりも苛烈だった。
    月側は600年前のディアスポラ撃破をインシデントとし、少数精鋭での各島毎の殲滅に舵を切った。
    そのため、月の侵攻を空の民が認識したと同時に小さいが島が一つ落ち、翌日にはそのとなりの中規模の島に先行部隊のω3が侵攻。あっという間に空の民達を駆逐していった。
    だが、月側にもトラブルがないわけではなかった。

    (侵攻は計画より47%遅延。不確定要素を計算にいれても遅れすぎている。先代ω3ヤチマの離反だけでは理由として不十分だ)

    ω3の中でも戦闘に特化した最強の戦士であるデアンは、そんなことを思考しながら目の前に躍り出てきた空の民を一なぎにする。
    骨が砕ける音、悲鳴、逃げ惑う声、破壊音。
    そのどれもがデアンの興味をひくものではない。ただアドレナリン消費の足しになるだけだ。
    やがてあらかた砕きつくし周囲が静まり返ったときだった。
    かたり、とわずかに聞こえた物音、ω3のなかでも戦闘特化であるがゆえに拾えた音をデアンはたどった。
    慌てていたのか乱雑に隠された地下室への扉を蹴り破る。短い階段を降りたさきにいたのは、ひょろりと細い男だった。

    「まだ居たか」
    6291